企業の採用活動において、売り手市場で人財獲得競争が厳しさを増す中、企業には就活生の価値観やキャリア志向について理解を深めることが求められています。
第1回のブログでは、採用広報の課題と解決策を、第2回では、「採用ブランディング」の進め方を、そして第3回では、Z世代の採用ポイントをご紹介してきましたが、過熱する人財獲得競争を勝ち抜いていくためには、さらに自社として狙っていきたいターゲット就活生に的を絞った上で、就活生たちの価値観や志向をより深く理解することが重要です。
そこで、今回(第4回)と次回(第5回)の2回にわたり、理系就活生、高校生、経験者採用といった、企業が採りたい特定のターゲットに焦点を当てて、採用ブランディングのポイントを紹介していきます。
第4回となる本ブログでは、学生時代の研究活動などに裏打ちされた論理的思考力や思考の持久力に企業が注目する「理系就活生」の獲得に向けた採用ブランディングのコツについて紹介します。
採用に特化した電通の専門チーム「採用ブランディングエキスパート」が就活生の実態を探った調査「Z世代就活生 まるわかり調査2024」の結果をもとに「理系就活生と文系就活生の違い」に着目しながら、チームメンバーの増田がポイントを解説します。
PROFILE
INDEX
「採用ブランディングエキスパート」とは?
人財採用におけるブランディングを支援するコンサルティングチーム
私たち「採用ブランディングエキスパート」は、電通によるZ世代の採用を対象としたコンサルティングチームです。マーケティングメソッドを活用した電通オリジナルの考え方である「就活ジャーニーマップ」や、自社の強み・競合との差別化・就活生への寄り添いを同時に達成する「3C分析」など、独自メソッドによって企業の採用ブランディングを支援しています。
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「就活生まるわかり調査2024」に見る、就活生の今
調査概要
私たちは、2024年2月に、Z世代の就活に関する意識や本音を把握・分析して企業の採用活動に貢献することを目的として、2024年卒または2025年卒業予定の全国の大学生・大学院生818人を対象に、就職活動に関する意識調査「Z世代就活生 まるわかり調査2024」(以下、本調査)を実施しました。
この調査では、日本全国の大学生に対して「働き方への考え方」、「就活導線上における企業とのタッチポイント」、「入社先の決め手」、「SNS利用状況」など幅広い項目を聴取しており、今回はその一部を紹介させていただきます。
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全体動向・ポイント ~「対面」、「オヤカク」は重要
最初に、文系理系を問わず見えてきたトピックスをご紹介します。
まず挙げられるのが、働き方や育成制度への考え方の特徴です。就活生の多く(66.3%)は「出社中心」の働き方を希望しています。
コロナ禍をきっかけにリモートワークが広く浸透しましたが、多くの就活生が新入社員時代は対面での指導を望んでいます。これは、育成制度のあり方にも通じており、就活生の約8割が「ある程度拘束されても、手取り足取り教えてほしい」と回答していました。
昨今、若手社員が、自分の能力や仕事への期待値に比べて、仕事の負荷が小さすぎる、フィードバックが少ないなどと感じ、自らの成長速度に焦りを覚える「ゆるい職場問題」が話題となっていますが、調査結果はまさにそうした若者の不安や、若者自身の「しっかり学び、速く成長したい」という思いを表していると言えるでしょう。
また、就職活動において、“企業を認知してから入社先を決定するまでの行動と、そこで影響を受けたもの・こと”を整理した「就活ジャーニー」にも現代の就活事情が垣間見えました。
入社先を決定する際に影響を受けたものとして、トップに挙がったのが「親・家族・親戚」(30.9%)でした。近年、企業側が内定を出した学生の親御さんに対して自社を紹介したり、内定同意の確認を取る「オヤカク」が広がっていますが、本調査結果はまさにその重要性を示すものとなっています。
また、エントリー企業選定時に最も重視されていたのは、「自分の夢ややりたいことに近い業界」(16.3%)で、業績や給料などの待遇面よりも重視されていることが分かりました。
第3回のブログでもお伝えした通り、Z世代就活生は、夢ややりたいことを企業に入ってから見つけるのではなく、入る前から見つけているように感じます。
一方、入社先を選んだ決め手としては、1位が「給料が良い」(44.3%)、2位が「業績が安定している」(37.4%)、3位が「知名度が高い」 (30.9%)という結果となっており、個性発揮が望まれ価値観が多様化する社会においても、入社先決定時においては待遇や業績が最優先に考えられていることが分かりました。
自己実現ができそうなことを前提にエントリーする企業を選び、選考が進む中で待遇面もしっかりと気にしている様子が伺えます。
理系人財の特徴とは?
理系人財の就活ジャーニーの特徴 ~日頃の研究活動と就活が密接につながる
前章では、文系理系を問わない全体傾向を紹介しましたが、こと理系就活生についてはどのような特徴が見られるのでしょうか。本章では、理系就活生にフォーカスして、調査結果を再集計し、特徴を洗い出しています。
まずは、企業を認知してから入社先を決定するまでに影響を受けたもの・ことについて整理した「就活ジャーニー」の特徴です。
理系就活生は、企業認知から入社先決定に至るまで、全てのフェーズで「ゼミ・研究室の先輩・同期」がトップにきます。つまり、日頃の研究活動と就活が密接につながっているのです。理系の学生生活は研究室と家の往復がメインとなる傾向にあり、企業はその点に考慮しながらアプローチしていく必要がありそうです。
入社先の決め手の特徴 ~将来性が担保された環境でスキルが発揮できるか
次に、入社先の決め手に関しても理系就活生の特徴が見られました。
上表は理系・文系就活生それぞれの入社先の決め手に関するランキング表です。
文系理系を問わず給与面・業績安定性・知名度が重視されているのですが、理系就活生では「その会社や業界・業態に将来性を感じる」という項目が高いことが特徴的でした。
理系就活生には研究開発や技術/設計の職種希望者が多いので(※)、将来性が担保された環境で働くことを希望している人が多いと考えられます。
※理系就活生の希望職種:1位「研究開発(20.6%)」、2位「技術/設計(16.7%)」(出典:Z世代就活生 まるわかり調査2024)
また、理系・文系就活生のスコアの差分に着目すると、さらに細かく理系就活生の特徴が見えてきました。下表は、それぞれの入社先の決め手について、スコアの差分をランキング形式で整理し、上位5つを示しています。
差分が大きい項目を見ると、理系就活生はインターンシップでの好印象、給与面、能力・専門性の発揮といった「自身の実力発揮への期待感」が決め手として浮き彫りになっています。
つまり、理系就活生の企業選びの傾向として「将来性が担保された環境で、自身のスキル発揮を望んでいる」ということが挙げられます。
文系職種を志望する理系就活生も要注目 ~理系の4人に1人が文系職種に転向
営業職やマーケティング職などを総じて「文系職種」、研究開発職やシステムエンジニア職を総じて「理系職種」と称することがありますが、就活生の中には就職を機に領域を変える学生も一定数存在します。下表は、理系就活生の就職予定職種の内訳を示したものです。
上図を見ると、理系出身者の27.4%が文系職種に就職していることが分かります。つまり、理系就活生の4人に1人が学生活動のかたわら将来のキャリアを考え、転向を決めているのです。理系就活生の強みである、研究やゼミを通じて鍛え上げた論理的思考力や課題設定力などは、様々な職種において発揮できるスキルなので、どのような職種であっても理系就活生の特徴を押さえておくことは重要です。
そんな理系出身ながら文系職種に就く就活生の特徴は、「入社先の決め手」に見てとれました。下図は、理系出身ながら文系職種に就職した就活生の入社先の決め手上位5つです。
理系出身ながら文系職種に就く学生は、給与面もさることながら「社内の風通しがいい」「社員から刺激を受けられるかどうか」「社会貢献への意識」が高く、「意見できる職場か」「挑戦できる職場か」「社会的インパクトを与える仕事か」といった点を気にしているようにうかがえます。
理系職種以外の職種で理系人財を求めている場合は、これらの点をいかに訴求していくかがポイントになるかと思います。
理系人財採用 攻略のポイント
ではどうしたら良い理系人財を採用できるのでしょうか。ここでは理系就活生の特徴を踏まえて彼らに具体的にアプローチした事例を交えて、攻略ポイントを紹介します。
理系就活生独特の就活ジャーニーに沿ったタッチポイント設計を
1つ目のポイントは、理系就活生独特の就活ジャーニーにもとづいたタッチポイント設計です。研究室と家の行き来が多くなる理系就活生に対しては、学校周辺や研究室を活用することが得策です。OB・OGによるリクルーティングやパンフレットの配置はもちろんなのですが、大学の最寄り駅でのOOH(屋外広告)展開や、身近なタッチポイント、例えば食堂のおぼん(学食トレイ)広告、学内サンプリングなどの細やかな工夫も有効な打ち手となりえます。
実際に私たちが総合部品メーカーの採用活動をお手伝いした事例では、もともと学生の認知率がほぼないという課題に対して、狙っていく大学を絞り込み、その最寄り駅で各大学の文化や風土になぞらえたOOHを展開し、学内サンプリングを実施しました。その結果、タッチポイントの細やかな工夫が認知率向上につながり、このメーカーの学生認知率を大きく引き上げることに成功しました。
自社の強み・競合優位性・理系就活生インサイトを包含したメッセージ発信
2つ目のポイントは、自社視点・競合視点・理系就活生のインサイト視点を包含したメッセージの発信です。自社の強みで、かつ競合が発信していないこと、そしてそこに理系就活生インサイトを掛け合わせたメッセージを立てることで、より鋭いメッセージ発信が可能になります。
例えば、「入社先の決め手の特徴」で紹介した「将来性が担保された環境で、自身のスキル発揮を望んでいる」という理系就活生インサイトなどは、メッセージを開発する際のヒントになるのではないでしょうか。
私たちが関わった事例では、自動車部品メーカーのソフトウェアエンジニア採用において、「モビリティ業界への期待感」と「理系就活生自身のスキル発揮の可能性」を合わせて訴求できるメッセージを策定し、その発信をサポートしたケースなどが挙げられます。
ちなみに「採用ブランディングエキスパート」では、ブランドメッセージ策定の際に「3C分析(※)」をケースに合わせてチューニングし、理系就活生向けメッセージを発信しています。
※詳細は、第3回の記事「Z世代の心をとらえ、動かす「採用ブランディング」とは?」
社員の雰囲気、社員の姿勢の訴求も大切に
社員や職場の雰囲気は就活生全般が気にすることですが、「文系職種を志望する理系就活生も要注目」で述べた通り、特に文系職種で理系人財獲得を検討している場合は、社員の雰囲気も重要な訴求ポイントの1つになります。
特に、現代はSNSや口コミサイトを通じて断片的に社員の働き方や待遇の実情を知ることができるので、企業のメッセージ発信においては「社員一人ひとりの姿勢」などを丁寧に訴求していく必要があります。
私たちが関わった事例では、総合電機メーカーの採用ブランディングにおいて、製品ではなく「社員の熱量」に焦点を当てたメッセージを策定するサポートを行いました。
「採用ブランディング by HR for Growth」
私たち「採用ブランディングエキスパート」には、多くの理系人財獲得に向けた採用ブランディングの実績があります。今回ご紹介した調査の詳細にご関心がある方は、お気軽にお問い合わせください。
また、採用にお悩みの企業の皆様に向けて、「採用ブランディング by HR for Growth」サービスをご提供しておりますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせいただけると幸いです。詳しい資料を無料進呈しておりますので、ご関心のある方、ご希望の方は、eBookをぜひダウンロードしてみてください。
事業変革に必要な人財を獲得する「採用ブランディング by HR for Growth」
次回のブログでは、ターゲット「高校生採用」「経験者採用」に焦点を当てて、その実態と採用活動のポイントをお伝えします。