新卒・第二新卒採用において優秀な人財の獲得競争は年々激しくなっています。その中で、自社の魅力を若者に伝えきれていないと感じながら採用活動に取り組んでいる企業や採用担当者は少なくありません。
第1回の記事「採用広報とは〜メリット、手法、進め方、4つの成功ポイント」では、「自社の採用活動」と「採用ターゲットのインサイト」のズレを解消するためには「採用ブランディング」の視点を持つことが大切だとお話ししました。
第2回の記事「採用ブランディングとは~「若者基点」で取り組む意味、メリット、進め方を解説」では、電通がご提供する『採用ブランディング by HR for Growth』をご紹介しながら、課題解決のカギになる「若者基点」の考え方や取り組み方について解説しました。
第3回となる今回は「若者の心をとらえ、動かす採用ブランディング」に取り組むにあたり把握しておく必要のあるZ世代(若者)インサイトの最新動向について、人財採用のコンサルティングを行っている電通のチーム「採用ブランディングエキスパート」の岩邊駿に、編集部がインタビュー取材しました。
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コロナ禍で大きく変わった若者の就活意識
岩邊さんは以前、人事部署で採用担当をされていたとのことですが、以前と今で採用活動の違いを感じますか。
コロナ禍を境に、就活に対する若者の意識や取り組み方が明らかに変わったと感じています。例えば、企業情報の入手源。私が電通の採用担当をしていた2016年頃の就活生は、就職情報サイトを見て企業情報を入手していました。そこで企業の事業内容や求人要件などを確認します。しかし今はこれに加えて、社員や元社員が自社評価する口コミサイトを見て、働く環境に関するリアルな情報を知ろうとする若者が増えています。
企業自らが発信する情報は就活生から見るとポジティブな情報に偏りがちです。一方、今の若者はポジティブな情報もネガティブな情報もひっくるめて企業のリアルを知りたがっています。なので、社員の生の声に耳を傾けた上で応募する企業を判断しているようです。
※出典:電通報「就職人気企業ランキングはもう古い!?今の就活生インサイトとは」
さらに今の若者は、企業の発信が事実に基づいているのかを重視する傾向があります。情報があふれる環境で育ったからこそ、表面的なイメージだけでは惹かれづらい。ですから、採用コミュニケーションではイメージ訴求よりもファクト訴求の方が効果的です。
今の若者は企業の「リアル」や「ファクト」を知りたがっているのですね。エントリーを決める時はどのようなことを重視しているのでしょうか。
先日行った調査「Z世代就活生 まるわかり調査2024」では就職活動でエントリーする企業選びで最も重視した(する)ことについて以下のような結果が出ています。
この結果から、企業の「業績」「給料」「知名度」「将来性」をおさえて「自分の夢ややりたいことに近い」かどうかで企業を選んでいる若者が多数いるという実態が見えてきました。今の若者は、夢ややりたいことを企業に入ってから見つけるのではなく、入る前から見つけているのでしょうね。
「あなたは入社後の配属先を確約してほしいと思いますか?」と聞くと、理系も文系も80%以上の若者が「確約してほしい」と思っているようです。
ですから「あなたの夢が見つかる会社ですよ」よりは「あなたのやりたいことを実現できる会社である」
と若者に声をかけた方が選ばれやすい企業メッセージになるのかも知れません。若者の「就活意識」を把握できているかどうかで、採用活動における企業メッセージ内容は大きく変わってきます。
若者像の今を把握するために必要な2つの視点
若者の心をとらえ、動かすためには、どのような視点が必要なのでしょうか。
若者の「就活意識・仕事観」だけでなく、「生活スタイル」にも目を配ることが必要です。
例えば、ファッションの話。学生に「最近、どんな服を買っているの?」と聞いてみると、
「欲しい服の画像を保存して買った気分になっている」
「服を買う時はフリマサイトで流通している金額を確認する」
といった話が出てきます。私からするとびっくりするような周到さであり、新しい価値観です。
若者の「生活スタイル」を現しているこの一例からだけでも、採用活動における情報発信は一筋縄では行かないと感じていただけたかもしれません。若者の心をとらえ動かすためには「生活スタイルや人生観」まで広げた若者像を、様々な角度から把握・理解していく取り組みや調査を行うことで今まで担当者が認識していた若者の価値観との違いやずれを認識する必要があると私は考えています。
若者の就活意識や生活スタイルを把握するために、どんな調査を行っているのでしょうか。
電通では2つのチームが連携して、日々若者の意識や価値観を研究しています。
1つは私の所属している、電通「採用ブランディングエキスパート」。Z世代の就活に関する意識や取り組みを中心に研究を行っています。先程ご紹介した「Z世代就活生 まるわかり調査」のような電通独自のZ世代への大規模調査の実施や、個別の学生インタビューなどを通して人財採用のトレンドを把握しています。
もう1つは電通若者研究部「ワカモン」。Z世代の生活スタイルや行動動態を中心に研究しています。取り組みの1つに、現役の若者と企業をまぜこぜにしたプラットフォームβutterflyというものがあり、大学生を対象に、未来の価値観を予測するワークショップを始めとして様々な取り組みを行なっています。
就活に関する情報は、就職情報サイトなど他の調査機関でも調査を行なっており、企業の人事採用担当者が接触するZ世代から直接得られる情報も貴重です。しかしいずれも、Z世代の生活スタイルを含めた幅広いインサイトまでは追い切れていないと思います。電通はZ世代をターゲットにした商品・サービスのマーケティング支援を行なっているので、その知見も活かし、就活から生活スタイルまでより深くZ世代を理解しています。
若者のトレンドは移ろいやすいといった話をよく聞きます。一方で採用活動は長期的な施策です。若者の就活意識や生活スタイルの「今」だけでなく「未来」についても把握するにはどうしたら良いのでしょうか。
未来の若者像はつかみづらいと思うので、むしろ、今の若者の価値観をリアルタイムにとらえ続けることが重要だと考えています。電通の強みは、企業のコミュニケーションと若者の価値観のズレに敏感に気づけることです。
そもそも、「未来に一番近いのが若者である」と私たちは定義しています。若者の価値観を常にウォッチし、その価値観に合わせてコミュニケーションをチューニングしていくことが大切だと考えています。
若者の心をとらえ、動かす「若者基点の採用ブランディング」
若者の就活意識だけでなく、生活スタイルにまで理解を深めることが重要なのですね。一方、この理解をどのようにして採用ブランディングの施策に落とし込んでいくのでしょうか。
我々は「就活ジャーニーマップ」の活用を提唱しています。これをもとに、就職活動における企業の認知から内定後の入社までの各フェーズにおける採用ターゲットへの訴求ポイントやターゲットとのコンタクトポイントを体系化します。就活ジャーニーマップを活用すると、若者の心理フェーズに合わせたコミュニケーション施策の目的を明確化でき、最適な設計を行いやすくなるわけです。
また、就活ジャーニーマップがあることで、人事担当者同士、人事と広報、人事と経営といった採用に関わる社内のメンバー同士の目線を揃えやすくなります。どのタイミングでどんな施策を打つのかをマップ上で可視化することで、訴求すべきメッセージや打ち手についてディスカッションが広がり、意思決定がスムーズになります。
就活ジャーニーマップを始めとした様々なマーケティング手法を取り入れることで「若者基点の採用ブランディング」に取り組んでいるのですね。実際、どういう流れで進めるのでしょうか。
まずクライアントの課題を把握するところから始めます。量の確保、質の向上、歩留まりの改善など、何に着手すべきかはこの課題によって変わります。例えば、量の確保が優先なら、デジタル広告やテレビCMなど認知度向上施策が有効かもしれません。一方、質の向上なら訴求メッセージの見直し、歩留まり改善ならエントリー窓口となるWEBサイトの改修などが考えられます。
次にブランドメッセージの策定を行います。3C分析の考え方に基づき、競合他社にはない、若者に寄り添った自社の価値を見出すことが重要です。
就活ジャーニーマップを活用し、各コンタクトポイントに適した施策でブランドメッセージを発信します。そして施策の効果検証と改善を行いながら、次年度にも機能するガイドラインを作成します。
こうした一連のプロセスは6ヶ月くらいで進めることが多いのですが、クライアントの状況に合わせて、課題整理やメッセージ策定までの一部のフェーズに絞ってご支援させていただくこともあります。
『採用ブランディング by HR for Growth』に取り組むクライアントからはどのような声をいただいていますか。
戦略構築から、施策の設計と実行、効果検証、次年度に向けたご提案まで、採用ブランド構築を一貫して並走して取り組んでいることを評価いただいております。
また、従業員を巻き込んだ採用活動の実現も、パートナーとして期待されている役割だと感じています。採用活動を通じて従業員と未来の会社の姿を語り合うことで、従業員が会社の未来を考えるきっかけを作ることもでき、弊社が間に入ることで、採用活動をインナーブランディングの強化にもつなげられます。これは私たちにしかできない価値提供だと考えています。
一歩先の「採用ブランディング」
期待の声が寄せられているようで何よりです!最後に、ソリューションが目指す今後の展望について聞かせてください。
より多くの企業に、採用課題を経営課題としてとらえてもらえるよう働きかけていきたいですね。採用部門のオペレーション改善や人財獲得ももちろん大切ですが、採用への取り組みが経営の一部として当然視されるようになることを目指します。採用活動によって企業そのものを変えていくことが、私と採用ブランディングエキスパートのミッションだと考えています。
採用ブランディングは経営層の自社理解の言語化にも貢献しますし、会社の未来を伝えることで、従業員の自社への想いを深めるインナーブランディングにもつながり、エンゲージメント向上にも関わってきます。
また、通年採用や中途採用に力をいれる企業が増えている影響で、採用コミュニケーションは就活生だけを対象とせず、大学生全体から転職希望者まで広がっています。コミュニケーションの範囲が広がるため、採用ブランディングの取り組みがコーポレートブランディングにも展開しやすくなっています。
さらに、人的資本開示の文脈では、IRとの連携も欠かせません。採用でまとめた情報を開示に役立て、開示情報を採用に活用する。一方、IRや経営企画が集約した人的資本開示にまつわる情報を求職者に向けて採用コミュニケーションに活用する。そんな相互の関係性も生まれてくると思います。
『採用ブランディング by HR for Growth』が取り組むミッションや領域はますます広がっていきます。人を基点に据えたマーケティングの強みを活かし、より大きな役割を担っていけたらと考えています。
「採用活動によって企業そのものを変えていく」岩邊さんのお話を聞くとワクワクしてきます。今後の『採用ブランディング by HR for Growth』の活躍を期待しています。今日は、ありがとうございました。
『採用ブランディング by HR for Growth』は、インサイトの把握から戦略の構築・実行まで、ワンストップでサポートできます。ソリューションについて、より詳しい資料が必要な方は、是非eBookをダウンロードしてください。