新規事業は企業の競争力を高め、持続的な成長を実現する観点で非常に重要です。しかし、その重要性が故に担当者には大きな責任が伴い、成功への道は容易ではありません。このブログでは新規事業のプロセスや成功へのポイント、具体的な成功事例を分かりやすく解説します。
この記事でわかること
● 企業における新規事業の役割がわかる
● 新規事業を進める上でプロセスが明確化できる
● 新規事業を立ち上げる際の重要なポイントが理解できる
INDEX
企業にとっての新規事業とは?
「新規事業のアイデアが思いつかない」
「事業に取り組む理由がはっきりしない」
「そもそもどうやって進めるのかがわからない…」
新規事業を始めようとする多くの企業や担当者は、様々な悩みに直面します。
実はこの悩み、そもそも自社が新規事業に取り組む意味を担当者が「腹オチ」していないことに起因することが少なくありません。なぜ新規事業に取り組むのか、その意義は何なのか、どのような形態で進めるべきなのか。これらの疑問に答えるために新規事業の3つの重要な側面を理解することが不可欠です。
● 新規事業の意義
● 新規事業の役割
● 新規事業の形態
新規事業の意義
自社の新規事業の意義は何でしょうか?企業における新規事業の意義は、自社の競争力の維持/向上です。どのような事業でも時代背景やトレンドによる大きな影響を受けます。永続的に同じ事業を続けることはリスクとなる場合もあります。新規事業は新しい時代に企業が適応し、競争力を維持/向上させていく上で大切な意義を持っています。
新規事業の役割
新規事業が自社の事業で果たす役割は何でしょうか?新規事業の役割は、新たなビジネスチャンスを創出することです。多くの場合、新規事業は、「新しいビジネスモデルの探求」、「既存事業の進化と拡大」、「新たな市場や顧客を開拓」などの役割を果たします。自社の事業戦略上で何が求められているのかしっかり確認することが大切です。
新規事業の形態
「新規事業」と聞くと、個人での起業や挑戦という印象も強いのではないでしょうか。個人で事業を立ち上げる場合は意思決定に自由度を持つことができる点などでメリットがあります。しかし、資金調達面や管理面では企業内での新規事業にメリットが多いことが分かります。
近年話題となっている社内ベンチャーは企業内での新規事業です。企業内での新規事業では様々な既存リソースを活用できるため、個人で立ち上げる新規事業より低いコストで進めることができます。
本記事では企業内での新規事業について解説していきます。
新規事業を成功させる8つのプロセス
1. アイデアの発想
2. 市場調査
3. ビジネスプラン作成
4. 資金調達
5. 事業の設立
6. 製品やサービスの開発
7. マーケティングと販売
8. 評価と改善
ここでは新規事業の基本的な進め方を8つのプロセスに分けて解説します。
1. アイデアの発想
新規事業は独創的なアイデアの着想から始まります。市場のトレンドや自社のアセット・専門性といった情報をインプットした上で、ユニークなアイデアをリストアップしていきましょう。アイデアの発想をサポートするフレームワークの活用も大切です。なお、具体的なフレームワークはこの後の「新規事業を成功させるフレームワーク」で紹介していきます。
2. 市場調査
有力なアイデアが出た場合、その実現性を計るために市場調査を開始します。市場調査はアイデアが市場でどれだけの価値を持つかを明らかにするプロセスです。競合分析、顧客の声を収集するインタビューやフォーカスグループ、そして広範囲なデータを取得するオンライン調査など、様々な調査手法を使ってアイデアの実現性を検証しましょう。
3. ビジネスプラン作成
市場調査の結果をもとにビジネスプランを作成していきます。ビジネスプランには明確な事業の目標(KGIやKPI)、達成のための戦略、必要な資金や予想収益を示す財務計画、そしてマーケティング計画が含まれます。
事業ドメインの明確化やターゲット顧客の特定は、ビジネスプランの核心になります。業界動向やトレンドなどもしっかりと反映させ、適時性も追求していきましょう。
4. 資金調達
ビジネスプランで計画した当初の事業資金を調達していきます。企業内での新規事業の場合、自己資本からの資金調達となります。事業部や財務部の他、法務部や人事部にも事前に調整をかけましょう(※)。
※資金調達窓口は企業によって異なります。新規事業の認可をする上級管理職が窓口となる場合もあります。
5. 事業の設立
新規事業の分野や内容によっては事業設立に法的な手続き、もしくはライセンスが必要となる場合があります。また、新たに子会社や関連会社を設立する際も法人としての登録を進める必要があります。
6. 製品やサービスの開発
実際に製品やサービスを開発していきます。製品の量産化やサービスを提供する前に、プロトタイプの制作やテストをしっかり行うことが大切です。製品開発では最小実行可能製品(MVP:Minimum Viable Product)を作成し、市場の反応を評価します。サービス開発では店舗のモックアップを利用した仮想接客などが有効です。
7. マーケティングと販売
製品とサービスを実際に市場に売り込み、販売/契約を進めていきます。市場調査段階でターゲティングした顧客層にアプローチし、効果的に販路を広げていきます。製品とサービスが実際に提供される前からプロモーションを進め、市場における認知度を向上させることが大切です。
8. 評価と改善
定期的に事業実績を検証し、その結果をもとにビジネスプランを改善していきます。提供する製品やサービスの質を向上させる取り組みです。具体的には顧客のフィードバック収集、マーケティング評価、競合企業との比較などを実施し、新規事業を最適化していきます。財務パフォーマンスの健全性を確認することも大切です。
新規事業の戦略タイプ
新規事業には企業が目指すビジネス・ゴールに合わせて、 新しい市場に取り組む戦略、新製品/サービス開発に取り組む戦略、既存ビジネスの転換を目指す戦略など、様々な方向性があります。それぞれの戦略の特徴を解説します。
新規市場開拓戦略
未進出の市場で既存製品/サービスを売り出す戦略です。単に未進出の地域や市場への展開だけでなく、製品やサービスの提供方法そのものも最適化していきます。
サービスをインターネットを経由したクラウド型で提供する「XaaS(X as a service)」化や、EC事業展開による販路拡大も新市場開拓戦略のひとつです。
新製品/サービス開発戦略
既存市場で新たな製品やサービスを開発する戦略です。既存製品のアップデートやサービスの多様化などを図ります。主なターゲット層は既存顧客ですが、競合他社の顧客層を取り込む狙いもあります。
新製品/サービス自体の魅力やユーザビリティも大切ですが、戦略の成否にはプロモーションが大きな影響を及ぼします。キャンペーンやイベントなどで顧客への認知度を向上させます。
多角化戦略
既存事業を維持しつつ、新市場で新たな製品やサービスを展開する戦略です。業界を超えた事業展開を目指します。業界や時代のトレンドに合わせて新規事業を計画します。既存事業とは全く異なる分野に進出する場合もあります。
新規事業は企業内で創出させる以外にも、M&Aによって外部事業を買収する形で始める場合もあります。M&Aでは買収コストがかかりますが、事業は確立されているため比較的早期に新規事業を開始させることができます。
事業転換戦略
既存事業を縮小/廃止する計画のもと、新たな市場で新製品/サービスを開発する戦略です。多角化戦略に似ていますが、本来の事業を縮小していくという特性があります。
新規事業を成功させるフレームワーク
● アイデア発想のためのフレームワーク
● 市場調査のためのフレームワーク
● 事業モデル構築のためのフレームワーク
● マーケティングのためのフレームワーク
● 事業評価と改善のためのフレームワーク
新規事業を成功させるために、業務を効率化させるフレームワークを解説します。新規事業を進める各プロセスやシーンに合わせて適切に活用していきましょう。
アイデア発想のためのフレームワーク
新規事業を成功させるためのアイデア発想には、フォアキャスト型とバックキャスト型の2つの主要なアプローチがあります。フォアキャスト型は過去の実績や現在の情報を基に未来を予測して、アイデアを発想する方法です。対して、バックキャスト型は実現したい未来のビジョンを先に描き、そのゴールに向かうためのアイデアを発想する方法です。
フォアキャスト型は堅実な発想がしやすい、バックキャスト型は革新的な発想がしやすいなどの特徴がありますが、それぞれの発想法に優劣はないため、特徴を理解し、目的に合わせて使い分けることが大切です。
市場調査のためのフレームワーク
「SWOT分析」や「PEST分析」は市場調査の段階において、新規事業の方向性を決める際に役立ちます。
SWOT分析は自社の強み(Strength)・弱み(Weakness)や市場の機会(Opportunity)・脅威(Threat)を明確にし、事業戦略の構想をサポートします。
PEST分析は外部環境である政治(Politics)、経済(Economy)、社会(Society)、技術(Technology)の動向/トレンドを捉え、新規事業計画に適時性を与えてくれます。
事業モデル構築のためのフレームワーク
事業モデルの構築には「ビジネスモデルキャンバス」が役立ちます。新規事業の全体像を視覚化し、組織内での認識の共有を支援します。
ビジネスモデルキャンバスは事業のキーポイントをまとめたシートです。キーポイントは顧客セグメント(CS)/価値提案(VP)/チャネル(CH)/顧客との関係(CR)/収益の流れ(RS)/リソース(KR)/主要活動(KA)/パートナー(KP)/コスト構造(CS)の9つです。事業モデルを一目で確認でき、問題点を見極める際にも有効です。
マーケティングのためのフレームワーク
「4P分析」は商品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販促(Promotion)の4要素を市場ニーズに合わせて最適化し、製品やサービスの売上向上につなげます。「STP戦略」はセグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3ステップで顧客層を明確にし、効果的なマーケティングをサポートします。
その他にも、マーケティングのフレームワークやツールは数多く存在します。自社の戦略と合致した、もしくは自社の戦略を補うフレームワークやツールを採用しましょう。
事業評価と改善のためのフレームワーク
「KPI(Key Performance Indicator)」は事業の目標達成度を数値で表したものです。事業評価/改善においては、進捗状況を明らかにしてくれます。
「BSC(Balanced Score Card)」は財務数値に表される業績だけではなく、財務以外の経営状況や経営品質から経営を評価し、バランスのとれた業績の評価を行うための手法です。財務、顧客、内部プロセス、学習と成長の4つの視点からバランスよく事業を評価します。
事業評価と改善に役立つフレームワークを利用することで、事業の弱点や改善点を的確に捉え、効果的な対策を実施することができます。
新規事業を円滑に進めるポイント
新規事業を円滑に進めるためには、いくつかの重要なポイントがあります。自社リソースの活用はもちろん、必要に応じて外部の専門家から意見を取り入れることも大切です。資金調達においては行政などからの支援が期待できる場合もあるので、国や自治体からの情報収集も進めましょう。
リソースの調達方法を見極める
新規事業開発のリソース調達には、自社リソースと外部リソースの2つの方法があります。
自社リソースの場合、自社の人材や技術・ノウハウ等を活用することで新規事業の初期コストを抑えることができます。計画段階から各部署と調整し、設備や技術スタッフを充実させていきます。さらに、既存ビジネスで培った人脈(ネットワーク)を有効活用することも大切です。
一方で、専門技術を持った人材が社内にいない場合はアウトソーシングを選択した方が逆にコストを抑えられ、新規事業の成功確率が上がることがあります。特に人材育成の時間が無い場合には、外部の専門家を積極的に活用していくことも一考に値します。
先端情報や未来情報のインプット
バックキャスト型で新規事業のアイデアを発想する際は、先端情報や未来情報をしっかりとインプットすることが重要です。
デジタル、バイオといった最新のテクノロジー情報や、社会・生活者マインドの未来予測情報をインプットすることで、自分が実現したい「未来」を解像度高く描くことが可能となります。
行政/他業種との連携
新規事業において、行政や他業種との連携は戦略的な価値を持ちます。行政との連携により、地域のニーズや政策の動向を把握することができます。また、行政と協働することで企業の信頼性やブランドイメージの向上も期待できます。
他業種との連携は新しい視点や技術の導入、リソースの共有が期待できます。異なる業種が持つ独自のノウハウやインフラを組み合わせることで、新たな価値の創出が可能になります。特に、地域や社会の活性化や、XaaS化を目指す新規事業を開発する場合、こうした行政や他企業を事業パートナーにして連携していく取り組みが、新規事業の成否のカギとなる場合があります。
補助金の活用
新規事業において、資金調達は大きな課題といえます。「補助金の活用」は事業を円滑に進める上で重要なポイントです。
補助金は国や地方自治体、公的機関が、特定の目的や政策を推進するために提供する資金支援です。補助金の最大のメリットは返済の必要がない点です。事業のキャッシュフローに余裕が生まれ、事業リスクを低減することができます。
テクノロジーの活用
最新のテクノロジーは事業を効率化させます。データ解析ツールやAI技術を活用することで、市場動向や顧客ニーズをリアルタイムに把握することができます。クラウドサービスやMA(マーケティングオートメーション)ツールは業務プロセスをスリム化し、コスト削減や生産性向上を実現させます。
一方で、テクノロジーを活用するためには専門知識やスキルが求められます。そのため、継続的な社内トレーニングや外部の専門家との連携が必要になってきます。
マーケティング
マーケティングは事業の価値を顧客に伝え、市場での競争力を高めるための取り組みです。効果的なプロモーションを通じてブランドの認知度を向上させ、新規顧客の獲得を図ります。
特に新規事業の場合、ブランドを広く知ってもらうことが大切です。マーケティングが新規事業で果たす役割は非常に大きいものといえます。
新規事業の事例
海外の企業が進める新規事業の事例を紹介します。企業の成長戦略の一環として様々な新規事業を成功させています(※)。
※開発フェーズの事例も含まれます。
GE(米国)
米国のGE(General Electric)は、もともとは電機メーカーとしてスタートしていますが、その後に航空機部品の製造や管理、電力事業、金融にまでビジネスを広げています。まさに多角化戦略で新規事業を進めた事例といえます。
GEの多角化戦略は、単なる製品の多様化というアプローチではありません。時代を見極めた投資ポートフォリオの形成という側面から捉える必要があります。
GEはデジタル化の未来を予見し、一早く航空部品のIoT化を実現させています。製品のIoT化で世界中の航空部品の管理を効率化しました。また、近年ではグリーンエネルギー産業にも投資を増加させています。風力発電や太陽光発電など持続可能エネルギーに関わる事業を進めています。
SpaceX(米国)
イーロン・マスク氏が率いるスペースX事業はバックキャスト型の新規事業として注目されています。事業を主導するマスク氏は、「人類が複数の惑星に住む」ことを将来のビジョンとして掲げ、その実現のために惑星間の移動事業を進めています。
マスク氏のビジョンは現在の技術や環境からは想像もつかないような未来を描いたものかもしれません。しかし、マスク氏はそのビジョンを具体的な目標として掲げ、目指すべき具体的目標を設定し、現在から未来へと繋げる戦略を展開しています。
Foxconn (台湾)
Foxconnは電子機器の生産を請け負う電子機器受託生産 (EMS) の世界最大の企業グループです。Appleの主要サプライヤーで「iPhone」などの製品を生産する企業としても有名ですが、外部リソースを活用して新規事業を推進しています。
Foxconnは2020年10月、事業の多角化とEV市場への参入を目指すと発表しました。2021年末に米EVメーカーLordstown Motorsの製造工場を買収し、2022年半ばには、同じく米EVメーカーFiskerの電動SUV「PEAR」の製造でも提携し、自社が生産できるEVのプロトタイプを拡大しています。
専門性のあるEVメーカーの力でEV事業を拡大する、外部リソースを活用した事例と言えます。
まとめ
新規事業の立ち上げに必要なことは適切な戦略とフレームワークの活用、行政や他業種との協力、そして柔軟な発想と実行力です。新規事業は企業の成長、多様性の拡大、競争力の維持/向上を実現させます。
本記事では新規事業のプロセスや成功のポイント、具体的な成功事例を分かりやすく解説しました。新規事業を計画中の方々、新規事業を進めている方々に向けてお役に立つ情報となれば幸いです。
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