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    ウェルビーイングな社会のために、企業が今できることとは? ~石川善樹氏と未来事業創研が考える~

    最終更新日:2024年04月24日

    ウェルビーイングな社会のために、企業が今できることとは? ~石川善樹氏と未来事業創研が考える~

    電通の未来事業創研が提供する「Future Craft Process」は、企業の皆様と一緒に「あるべき未来」のビジョンを描き、そこからバックキャストして事業を考える事業創出支援プログラムです。この「あるべき未来」を考える上で重要となるのが、ポストSDGsの価値観として社会的に注目される「ウェルビーイング」。本ブログでは、これからの事業創出に欠かせない「ウェルビーイング」とは何か、そしてウェルビーイングな暮らしの実現に向けて企業ができることは何かを考えていきたいと思います。

    お迎えしたのは、ウェルビーイング研究の第一線で活躍される予防医学研究者の石川善樹氏。未来事業創研ファウンダーの吉田健太郎が、ウェルビーイングと企業活動の気になる関係をじっくり伺います!

    PROFILE

     
     

    INDEX

    客観と主観、二つの指標で捉えるウェルビーイングとは

    吉田:今日は「ウェルビーイング」をテーマにいろいろとお話をお聞きしていきたいのですが、最初に自己紹介も兼ね、少し私の話をさせてください。

    私は電通でグループ横断型組織「未来事業創研」を立ち上げ、企業の新規事業創出などをさまざまなかたちで支援しています。そのきっかけは、息子から言われた「僕も昭和に生まれたかったな」という一言でした。私が子どもの頃は、未来は勝手に良くなるものだと信じてワクワクしていましたが、課題の多い現代を生きる子どもたちはそうではないんですね。この社会を作ってしまった大人の責任として、クライアント企業の皆さんと一緒に未来をより良くしていけないかと思い未来事業創研を立ち上げたのです。

    未来事業創研では「あるべき未来」を描く“ビジョンドリブン”の発想を大事にしています。これは、ローンチから急速な成長を遂げた画期的な新規事業の成功を目の前で見てきたことや、企業の新サービスの立ち上げに参画し、世の中が反応したことを体験したことなどから、今とは違う評価軸で未来を考えないといけないと痛感したからです。その「あるべき未来」を考える際、ウェルビーイングは外せない観点であり、ぜひ石川さんとお話したいと思ったわけです。

    石川:ご丁寧な紹介をありがとうございます。今のお話はとても共感できて、なぜこれまで吉田さんと接点がなかったか不思議なくらいですね。

    吉田:本当ですね(笑)。ではここから本題に入りたいと思いますが、読者の皆さんに向けて「ウェルビーイングとは何か」を簡単にご説明いただけますか。

    石川:はい。ウェルビーイングは「よい状態(Positive State)」と、非常に曖昧な定義がされております。具体的にみていこうと思うと、実際にウェルビーイングがどのように測定されるのかをみるとわかりやすいです。いまのところ国際的なコンセンサスとして、「客観的ウェルビーイング」と「主観的ウェルビーイング」に分けて測定されます。まずはこれらを分けて理解すると、ウェルビーイングが何かという輪郭が見えてくると思います。

    客観的ウェルビーイングの初期的な定義は「人間開発指数(HDI)」という国際指標を用いることができ、これは「健康」・「教育」・「収入」という3つの分野から成っています。心身が健康で、教育を受けていて、経済的にも安定している。これが初期的な客観的ウェルビーイングの測定法です。

    一方で、近年注目されているのはどちらかと言うともう一つの方、主観的ウェルビーイングです。これを測定するには、「今の生活が10点満点中何点か」「5年後の生活は10点満点中何点だと思うか」を自己評価してもらいます。つまり「今、幸せですか?」という曖昧な聞き方ではなく、「自身の生活を、自分なりの基準で自己評価する」という極めて民主的な測定法です。

    吉田:なるほど。ウェルビーイングは一言では定義できないものだと分かっていましたが、客観的・主観的と分けて考えるとぐっとイメージしやすくなりますね。

    個人がウェルビーイングを追求することに、社会は不寛容??

    吉田:石川さんにぜひお聞きしたいのですが、私がウェルビーイングを考えるときに少しもやもやすることがあって、それは「個人がウェルビーイングを追求することに対し、社会は寛容だろうか?」ということです。

    SNSで個々の価値観や意見が可視化されやすくなった現代社会では、フィルターバブル(※1)やエコーチェンバー(※2)の中で自分の価値観や幸せが肯定される反面、自分以外の価値観や嗜好に対しては否定的・排他的になる意見が多いように感じます。多様性への社会的理解が進みつつも、それを受け入れられない人も顕在化している過渡期と言うか……。これが日本の問題なのかテクノロジーの問題なのかはわかりませんが、そのあたりを石川さんはどう捉えていらっしゃいますか?

    ※1:フィルターバブル:検索サイトが提供するアルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断した結果、まるで「泡」の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなること。
    ※2:エコーチェンバー:SNSにおいて、価値観の似た者同士で交流し共感し合うことにより、自分の意見が増幅・強化される状況を、閉じた小部屋で音が反響する物理現象に例えたもの。

    石川:まず「ウェルビーイングを追求するとはなんぞや」ということですが、基礎となるのは、健康・教育・収入です。何よりもまず健康で、しっかりと教育を受け、十分な収入があることが前提です。ただ、それだけで完結するものではなく、主観的なウェルビーイング(生活満足度)も大事です。そのためには、多様なコミュニティに属することが重要といわれています。いろんなところに居場所があると、そこにはいろんな人がいて多様な解釈に触れるようになるので、結果的に自分の価値観にも自信が持てるようになり、また他者に対しても寛容になります。

    吉田:客観的ウェルビーイングがまずあり、その上でつながりを充実させていくと、社会は必然的に寛容なものになっていく、ということですね。

    石川:さらに言えば、自分の生活をより良くしようとする人の行動には、利他的な行動が高い確率で取られるようになります。「誰かの為になりたい」という欲求はみんなが持っているので、それを発揮する機会や頻度を増やしていくことが、社会としてウェルビーイングを目指す一つの方向になると思います。

    吉田:確かに「自分が幸せな人ほど、他人の幸せを受け入れやすい」ということもあると思いますし、非常に納得できる話です。

    ソリューション志向だけでは、ウェルビーイングは実現できない

    吉田:ここからは企業とウェルビーイングの関係についてお聞きしていきたいのですが、企業としてウェルビーイングを目指していくとき、もしかしたらそこにはジレンマがあるかもしれません。ウェルビーイングの追求が長期的にはポジティブな結果につながると理解していても、企業は「目先のマイナス課題をまずなんとかする」というソリューション志向を優先する傾向があるため、新しい未来に向けた事業にはなかなか着手できない、といったようなことです。

    石川:私はこう思うのですが、ウェルビーイングはキーワードとしては新しいだけで、本質的にこれまで大事にしてきたことと違う訳ではありません。ビジネスにも非常につながりやすい話で、たとえば、客観的ウェルビーイングのほうは目指すものが「健康・教育・収入の向上」と明確なので、先ほど吉田さんがおっしゃったソリューション志向でも十分目指すことができます

    ただし主観的ウェルビーイングについては、そう単純ではないかもしれませんね。昔なら「3種の神器」「夢のマイホーム」「いつかはクラウン」など共通のビジョンでみんなを引っ張れましたが、今は求める幸せの形が多様化しています。ソリューション志向だけでは実現しきれないでしょう。

    吉田:本当にその通りですね。これからは「私たちの企業/ブランドは、未来をこんなふうにつくります」というビジョンをしっかり描き、共感を導いていかないと、企業と生活者の関係性自体が始まらないのではないかと思います。ビジョンドリブンを大切にする私たち未来事業創研が企業をご支援する意義も、まさにそこにあるのだと考えています。

    企業が意識すべきは「選択肢」と「自己決定」

    吉田:企業がウェルビーイングに寄与する事業を具体的に考えていく際、石川さんはどんな視点が大切だと思いますか?

    石川:ウェルビーイング研究の視点からアドバイスできることがあるとするなら……例えば最近の研究では「選択肢」と「自己決定」がウェルビーイングの大きな影響要因であると報告されています。事業を考えるうえでもこの二つを意識し、「提供する商品やサービスが生活者にとって新しい選択肢になるか」を考えてみるとよいのではないでしょうか

    『むかしむかし あるところにウェルビーイングがありました 日本文化から読み解く幸せのカタチ』(石川 善樹 ・吉田 尚記 共著/KADOKAWA)

    選択肢を提示するとはどういうことか。いくつか具体例を挙げると、例えば近年のクラフトビールメーカー各社の参入は、大手メーカーが長年リードしてきたビール市場に、新たな選択肢を提示しました。給湯機メーカーであるリンナイは、最近「ウルトラファインバブル(※すぐれた洗浄効果を発揮する直径1マイクロメートル未満の微細な泡)」を生み出す給湯機を発売しましたが、これは人々が今まで意識していなかった“お湯の質”に新たな選択肢をもたらす商品です。NTTドコモのモバイル料金プラン「ahamo」もそうですね。携帯のプランが複雑化しすぎて自己決定できなくなっているところに、新たな選択肢になり得るシンプルな価値基準を提示した。だから生活者から選ばれたのだと思います

    吉田:「ahamo」はまさにその通りで、携帯電話の料金プランに限らず、情報が多すぎて生活者が選択を放棄しているケースが世の中にはとても多くあります。生活者視点での価値をわかりやすく提示し、生活者が「これいいね」と主体的に選べ、自己決定できる状態へと導いていくことを、企業と生活者、社会と生活者のコミュニケーションにおいて考えておかなくてはならないと思いました。

    生活者の視点から、暮らし全般を見渡す視野を

    石川:今のお話にあった「生活者視点」と言うキーワードは本当に大切ですよね。さらに付け加えるなら「生活全般を見る」という視野の広さも必要だと思います。事業領域だとか、業界区分だとかは企業側の話なので、生活者にとっては関係のない話。当たり前すぎる話ですが、暮らし全般を見ないと、生活者にとって何が価値ある選択肢になるかは見えてきません。

    その点を顕著に変えていこうとしているのが、例えば生命保険分野です。今までは万が一の時に備えた保険でしたが、最近は生活全般を支えるサービスを開発しようとシフトしています。鉄道会社も人を運ぶだけでなくコミュニティづくりなどを始めていますし、こうしたWX(ウェルビーイング・トランスフォーメーション)が今一斉に各種業界で始まっていると感じています

    吉田:ここまでのお話をまとめると、「暮らしの新たな選択肢として、生活者が主体的に選ぶことのできる事業やブランドを目指していく。そのためにはニーズに応えるようなマーケティング視点だけでなく、選択肢になかった生活者が欲する体験、暮らしを提案するアプローチが必要で、その提案力がブランドアイデンティティにつながっていく」。つまりウェルビーイングに寄与する事業をつくることが、企業のブランディングにも直結していくということですね。

    顧客はもちろん、社員のウェルビーイングも肯定される社会へ

    吉田:最後にもう一つお話ししたいテーマがあって、それは従業員のウェルビーイングについてです。商品の価格を下げ、社員の給料を削ることが「企業努力」と言われ、世の中に求められているような空気がありますが、その流れで自社やブランドの価値を下げてしまっているケースを見ると非常に残念に思います。もちろん競争環境などの背景は理解していますが、社員の給与が上がっていないことはこの30年の先進国との比較も踏まえ指摘されていることです。

    先ほどウェルビーイングには「収入」も大きな要素であると指摘されました。円安や原材料の高騰で利益率が低くなっている今だからこそ、改めてブランド価値を活用し、適正な利益を得て、社員の給料にも反映していく方向に転換できると良いと思っています。そういう企業の在り方が世の中でもっと肯定されるようになってほしいですし、そうなるためにウェルビーイングが大きなきっかけになっていくのではと感じています。

    石川:今のお話を経済面から考えると、成長と分配の好循環を目指していく、ということが必要なのかと思います。つまり、企業の業績を上げるのと、収入を上げていくのを同時に目指していくサイクルですね。これまでの成長経済では、とにかく売上や利益が上がれば、みなウェルビーイングになれました。しかし成熟経済では、どうしても分配可能な原資が増えていかないので、その分配に偏りが出てしまいがちです。過去30年間の日本企業が生みだした付加価値の分配状況のデータなどを見ると、それがよくわかります。しかし、ようやくここにきて今の政府も、成熟経済における「新しい資本主義」の方向性として、成長と分配の好循環を目指そうとシフトしているので、これから徐々に変化していくのではないでしょうか。

    吉田:社会の変化という点では、教育が果たす役割も大きいと思います。教育は客観的ウェルビーイングの一要素でもありましたが、こちらについても何か石川さんのお考えがあればお聞かせください。

    石川:とかく教育は、誰に何を学ぶかといった「質」が議論されがちです。それは個人の観点ではそうなのですが、マクロに社会全体でみると、教育において本質的に大事なのは、教育を受けた年数、つまり「量」です。日本はまだまだ教育の「量」が足りていなくて、特に大学進学率を都道府県別・男女別にみると、あまりに格差がありすぎます。これからいかに日本人の平均教育年数を増やし、かつ格差を減らしていけるかも、ウェルビーイングの実現に関わっていくかと思います。たとえば千葉市では放課後子ども教室というアフタースクールの推進事業がありますが、これは子どもたちの教育量の増加に貢献する取り組みとして注目されています。

    吉田:今の話を企業活動に置き換えて考えると、社会人になったら教育は受けないとか、学校教育以外に目を向けないとかではなく、リスキリングなど多様な学べる環境を提供していくことも、従業員のウェルビーイングを追求するうえで重要になりそうですね。また、教育の定義の拡張をすることで「学び」との向き合い方を変えていくことも、新しい市場創造につながりそうだと思いました。

    今日、石川さんとお話ししていく中で、ウェルビーイングな社会のために企業ができることの解像度が上がりました。個人的には「選択肢を提示すること」「生活者が自分で判断できること」「教育の量」の3点が特に共感した部分です。これらの視点を踏まえつつ、私たち未来事業創研としても、企業の皆様と一緒に「ウェルビーイングな未来」を実現する事業を創造していきたいと思います。改めまして、本日はありがとうございました!

    Do! Solutionsでは、吉田がファウンダーを務める未来事業創研の、未来事業開発ソリューション「Future Craft Process」について、各種コンテンツでご紹介しております。また、詳細説明会やお悩み相談会も随時開催しておりますので、是非お気軽にご相談ください。
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