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    人の心を動かす地域ブランディングとは?地域らしさを紐解く方法

    最終更新日:2024年02月29日

    人の心を動かす地域ブランディングとは?地域らしさを紐解く方法

    INDEX

    日本における様々な地域課題に対して「ブランディング」の知見を活用し、課題解決を実践してきた電通のプロジェクトチーム「電通abic project(area branding incubation)」が3回にわたってお届けする本シリーズ。地域活性化の事業に取り組む上で必要な考え方、作業プロセス、そして実際の事例も交えた具体的な内容を解説しています。
    第1回の記事では、地域活性化に必要な根本的な観点や考え方についてご紹介しました。
    地域が人にとってどのような場所なのかをとらえ、場所の意味を旗印に掲げ、複数の人と共有しながらアクションを通じて人を惹きつけ続けること。これら一連の活動をプレイス・ブランディングとしてご紹介しました。

    第2回の今回は具体的な事例を交え、「地域らしさ」を起点とした、地域や場所に「新しい意味づけを行う」方法と進め方をご紹介します。

    この記事でわかること
    「地域・場所の意味づけ」という概念
    「地域・場所の意味づけ」の具体的な実例
    地域らしさを地域ブランディングに落とし込むための方法とプロセス

    地域の魅力がより多くの人に届くように意味を付加する“プレイス・ディレクション”

    地域を意味づけるとは

    第1回の記事でご紹介した下北沢。この街は、細い通りが複雑に交わる土地の特徴と、そこに住む・訪れる人達の性質が交わることで、多くの人々にとって特別な意味を持つ場所になりました。

    一個人の感じる「下北沢らしさ」が、徐々に人々に共通な感覚へと広がることで、「下北沢」は単なる地図上の物理的な空間という認識を超えて地域外の人達からも「住みたい」「行きたい」「関わっていきたい」と思ってもらえるような魅力的な意味を持つ場所になったのです。

    もし、こうした流れを戦略的に作り出すことかできれば、さまざまな地域で地域らしさをとらえ地に足のついた活性化の取り組みが生まれてくるのではないでしょうか。そのために重要となるのが「地域の意味づけ」です。地域の意味づけとは、「地域らしさを、より多くの人に共有できるように定義すること」です。私たちはこうした地域に意味づけを行うためのアプローチを「プレイス・ディレクション」と呼んでいます。

    プレイス・ディレクションで地域らしさを多くの人に届ける

    プレイス・ディレクションの概念図
    プレイス・ディレクションの概念図

    「プレイス・ディレクション」とは、一人ひとりが抱く場所の感覚(センス・オブ・プレイス)を、多くの人々が共有できるように、言葉とビジュアルによって「新たな意味の世界」を描いていく作業のことです。具体的には上図のように、その地域についての意識的な感覚である「シンボル」「イメージ」や、無意識的感覚である「常景(日常的な景観)・常食(日常的な食事)」「価値観」をとらえた上でセンス・オブ・プレイスを可視化し、ブランドコピーなどの言葉やブランドロゴやキービジュアルとして開発していきます。

    プレイス・ディレクションを行う際のポイントは、ゼロから新たな価値を作るのではなく、既にその場所が持っている魅力や文化を見出し、人の心に届く意味づけを行うことで価値へと昇華させていくことです。従って、現地フィールド調査や関係者(住民や地元企業、地域に関わる活動をする人、雑誌の編集者や学識経験者など)へのヒアリングから、その場所に眠るポテンシャルを丁寧に紐解いていくことが重要になります。

    プレイス・ディレクションの具体例

    では、実際にどのようにしてプレイス・ディレクションを行うのか。
    私たちが手がけてきた事例をもとに解説します。

    事例1: 東急池上線「生活名所」

    東京の五反田から蒲田を結び、池上本門寺や洗足池などの名所旧跡への足としても利用される東急池上線。東急電鉄の中でも長い歴史を持つものの、人気の路線である東急東横線などと比べて存在感が薄く、周辺の人口も緩やかに減少傾向となり手を打つ必要がありました。そこでプレイス・ディレクションの手法を取り入れたプロジェクトが立ち上がりました。

    プロジェクトではまず、池上線に対して、人々がどのような感覚を持ち合わせているのか把握するため、現地フィールド調査、ヒアリング、住民や地元の情報誌を発刊している編集者へのインタビューなど幅広い調査を実施。問題意識から良い印象まで広く明らかにし、東急池上線が持っている場所の意味を紐解いていきました。

    上の図はアンケートを言語分析したものですが、池上線には「住みやすい」「住宅地」といったキーワードが中心にあり、そこに「閑静」「落ち着く」といった連想が結びついていることが分かりました。さらに住民達へのインタビューからは「良い意味で下町っぽい」「都心に近いのにローカルの良さがある」という認識を持っていることがわかり、「住んでみないと、この良さはわからない」という意見にも強い共感が示されました。

    こうして生まれたのが「生活名所、池上線」というコピーです。池上線には観光名所よりも、この地ならではの暮らしやすいスポットが多数あることが見えてきたために生まれた言葉です。
    また、キービジュアルは住民が沿線に対する認識が希薄なことから沿線という単位を強調し、池上線の車両が緑色ということからグリーンをキーカラーとしました。

    池上線沿線のセンス・オブ・プレイス
    池上線沿線のセンス・オブ・プレイス

    ポスター
    ポスター

    事例2: 糸魚川市「石のまち糸魚川」

    新潟県糸魚川市は、日本で初めて世界ジオパーク(*)に認定された場所のひとつです。「糸魚川-静岡構造線」で有名なフォッサマグナ(大きな溝)が地表に表れており、古事記にも登場する奴奈川姫伝説の神話が残るなど、古くから人がその土地に意味を見出してきた歴史ある街です。また、国石のヒスイ産出や日本海の海産物、雪解け水を生かした酒造りなど資源に恵まれた地域でもあります。

    認定されて以来、糸魚川市は「世界ジオパークのまち」を旗印にしていましたが、2015年に北陸新幹線が開通した頃から、周辺の市と観光客の取り合いが激化し、徐々に存在感が薄くなってしまいます。また、アピールできる資源が多いがゆえに「あれもこれも」という印象で、いまひとつ魅力が伝えきれないというジレンマも抱えていました。

    こうした状況から脱却するために、糸魚川市のプロジェクトチームはまず、豊富にある地域資源を見直すことにしました。調査を行った結果、見えてきたのが国石ヒスイをはじめ、日本一豊富な種類が見られる「石」を中心とした文脈でした。改めて石にフォーカスして地域を捉え直してみると、石を通して磨かれた水や、急激に深くなる海谷がもたらす豊富な海の幸などは、いずれもフォッサマグナに起因する地質がもたらす恩恵であり、この地域の特徴的な地質を象徴していました。プロジェクトチームは、「石」によって地域の意味がまとまり、ストーリーが生み出されることに気づいたのです。こうして地域資源を改めて問い直し、プレイス・ディレクションを行うことで生まれたのが「石のまち糸魚川」という「意味付け」でした。

    *ユネスコの国際地質科学ジオパーク計画(IGGP)の一事業。国際的に価値のある地質遺産を保護し、自然と人間との共生及び持続可能な開発を実現することを目的とする。(参考:文部科学省)

    糸魚川市が地域の意味付けにもとづいたブランドステートメントを発表したのは2019年。その翌年、予想外のコロナ禍に見舞われ観光客の呼び込みができないという状況に陥ります。しかし糸魚川市はこのような厳しい状況にありながらも、「石のかおをつくろうワークショップ」というワークショップを地元で小規模に開催しつつ、SNSなどを活用して徐々に全国へと活動を展開しました。地域の意味づけがしっかりとできたことで、コロナ禍という予想外の事態にも負けず、「糸魚川市=石のまち」というブランディングに成功したのです。

    事例3: 宮崎市「宮崎食堂」

    日本の南国リゾートとして知られる宮崎県宮崎市。温暖な気候からプロスポーツ選手のキャンプ地としても人気の地域ですが、沖縄や離島などの国内リゾート地との競争が激しくなり、県外からの集客が課題となっていたため、2016年から新たな市のブランディングの検討が始まりました。

    調査では、宮崎市にはマンゴーを中心とした食と暖かい南国リゾートのイメージが広がっていることがわかりました。また、多くの人が旅行に「癒やし」や「リラックス」を求めていて、スポーツよりも「食」を起点にした癒やしなどの体験価値でお客様を呼び込むことに勝算があると見込まれました。そのことを踏まえた上で、プロジェクトチームは宮崎らしさを考えるために現地のフィールド調査や地元で食や環境に携わる関係者へのヒアリングを実施しました。

    その結果、宮崎市には地元の素材を活かした豊かな食文化や、宮崎牛やマンゴーの影に隠れていた知る人ぞ知る「新鮮な地鶏や野菜」、そして地元で愛される食堂の存在など、独自性があり質の高いローカルフードの環境があることが見えてきました。そこで「個々の名産品に焦点を当てるよりも、宮崎に根付いている食文化そのもので地域を意味づけしよう」という方針のもと、新たに生まれたのが「宮崎食堂」というコピーです。キービジュアルには「食堂」をイメージさせるのれんが、南国宮崎の青い空にはためいている気持ちのよいデザインが採用されました。

    宮崎食堂 ブランド・ステートメント
    宮崎食堂 ブランド・ステートメント

    「宮崎食堂」キービジュアル(宮崎市提供)
    「宮崎食堂」キービジュアル(宮崎市提供) 

    この事例は、宮崎市という地域に根付いていた無意識の感覚=「ローカルな食文化」に着目し、宮崎市自体を「宮崎食堂」という大きな食堂に見立てて意味付けを行い、地域らしさを具現化したケースと言えます。

    プレイス・ディレクションをもとに、持続的に発展させる活動にできるか?が活性化の成否を決める

    地域活性化のためには地域らしさを探索し、地域独自の意味をより多くの人に共有できるように定義する作業(=プレイス・ディレクション)が大切です。しかし、その後の活動が継続できなければ地域・場所の意味は蓄積されず、本質的な地域ブランディングができたとは言えません

    地域・場所の意味づけだけでは、様々な人が集まりうる「舞台」をつくったということにすぎません。舞台をより魅力的なものにしていくには、その舞台の役者となる地域住民や地元企業など様々なプレイヤー達との協業が必要です。彼ら彼女らとともに、コンテンツの共創や情報発信を行う「共創型ブランディング」が必要不可欠になります。

    次回、3回目の記事では、電通の考える地域活性化のプロセスの全体像をお伝えするとともに、活性化を永続させるために必要な「共創型ブランディング」についてもご紹介します。

    地域活性化を一過性に終わらせない方法~共創と協働のプロセス~

    ※参考書籍:場所のブランド論 プレイス・ブランディングのプロセスと実践手法

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