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    地域活性化のカギは「地域らしさ」の再発見。事例とともに解説

    最終更新日:2024年01月11日

    地域活性化のカギは「地域らしさ」の再発見。事例とともに解説

    INDEX

    「大規模な土地開発をすることになったが、みんなに末永く愛される開発のありかたはないか」
    「地域にめぼしい産業がなく、人口減少の煽りを受けてどんどん過疎化が進んでしまっている」

    こうした課題は地方自治体だけの課題ではなく、民間企業をはじめ多くの人たちにとって重要な課題です。しかし、大規模な土地開発や地域活性化が必要だとわかっていても、人々に受け入れられ、末永く愛される場所にすることは容易ではありません。

    そこで、日本における様々な地域課題に対して「ブランディング」の知見を活用し、課題解決を実践してきた電通のプロジェクトチーム「電通abic project(area branding incubation)」が、地域活性化の事業に取り組む上で必要な考え方、作業プロセス、そして実際の事例も交えた具体的な解説を、3回シリーズでお届けします。

    第1回目は、地域活性化の事業に取り組む上で、ベースとして大事な考え方と、「下北沢」を例として地域活性化で目指すべきあり方について解説します。

    この記事でわかること
    地域活性化事業に取り組む際に必要な、根本的な考え方
    地域活性化事業に取り組む際に目指すべきありかた
    地域活性化事業に取り組む際、最初にすべきこと

    バズ・ランキングの落とし穴。「地名の認知度だけ」が目的化する消耗戦に

    一時的な結果に終わらない「地域活性化」とは

    地域活性化を目的とした事業に関わったことがある方の中には、「単純に地名の認知度を上げるためのバズ狙いのプロモーションやイベントを行っても、一時的なものに終わってしまう。もっと地域が永続的に活性化する方法はないだろうか」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。仮にその土地ならではの名産品や名勝地などが広く知られたとしても、もともと興味のない人にとっては名称以上の意味を感じず、地域を好きになる理由にはなり難いかもしれません。一時的なバズや、○○ランキングの上位になることだけでは、地域に行ってみたい/住みたい/関わりたいと思う人を増やしていくことには直結しづらく、必ずしも活性化につながるとは言えないでしょう。

    ではどのようなところから活性化策を考えればよいのでしょう。まずは土台となる地域や場所を「単なる地図上の物理的な空間」のみと考えず、「人々にとって“意味のある”空間」だととらえなおす必要があります。その場所に人が集まる意味・人々が魅力を感じる要素とは何かを考え、地元や外部の人々が進んでその地域に関わりたいと思ってもらえるような「地域らしさ」をしっかりと打ち出す必要があります。

    地域活性化のカギ「センス・オブ・プレイス」

    その「地域らしさ」を考える際に、私たちが注目する概念が「センス・オブ・プレイス」です。センス・オブ・プレイスとは、人間主義地理学という学問分野で1970年代から議論されている「場所論」において、「人間一人ひとりが持つ場所の感覚」と定義されている概念です。場所論における場所の主役は「人」であり、場所そのものや地域の産品以上に地域に関わる人々の感覚を重視するという立場を取っています。

    私たちも同様に、地理的な場所の定義やそこで生み出される産品だけではなく、「その場所に感じる想いや感覚(センス・オブ・プレイス)」まで含めて「場所らしさ」としてとらえています。そしてそれを地域の内外の人と共有できるものに一つにまとめていく。これを私たちは「地域の意味づけ」と呼んでいます。「地域らしさ」を起点として、関係人口が増え経済が活性化するなどの「経済的価値」だけでなく、場所との関わりを通じてそこに住む・関わることの喜びといった「精神的な価値」も生まれる地域・場所を作り出すことができると考えています。

    下北沢はなぜ多くの人が惹きつけられ、愛着を抱く場所となったのか

    「若者の街」「演劇の街」となった下北沢

    東京の下北沢を例にとって説明します。
    「下北沢」は、東京都世田谷区に位置し、渋谷・新宿という東京の2大繁華街から10分程度でアクセスできるという利便性だけではなく、“シモキタ”という愛称や、「若者の街」「音楽の街」「演劇の街」といったイメージで独自の賑わいを持ち、多くの人々から愛されています。下北沢という行政上の区分けはなく、小田急線と京王井の頭線が通る下北沢駅周辺、北沢1~3丁目、代沢2、5丁目、代田5、6丁目あたりが下北沢区域だといわれています。下北沢にはなぜこうしたイメージが定着し、人々が愛する場所になったのか。その過程と変遷に、地域活性化を成功に導くヒントがあります。

    下北沢は1927年に小田急線、1933年に京王井の頭線が開通し、住宅地として栄えました。近隣に大学が複数存在したこの地域は、学生向けの下宿屋が多数存在したため全国から若者が集まるようになります。高度成長期の1960年代になっても、比較的家賃が安い地域であることは変わらず、この頃から「若者の街」というイメージが定着していきました。

    こうした若者文化と、1950年代から盛んになったジャズや1966年のビートルズ来日の影響によるロックの浸透などの音楽文化が融合し、下北沢は若者の街に加えて「音楽の街」という意味も持つようになります。そして音楽を起点に、多種多様な人が下北沢へ集まるようになった結果、新しい文化を受け入れる土壌が育ちました。こうした土壌もあって、音楽の次は演劇も受け入れられ「演劇の街」としても認識されるようになります。

    地域独自の魅力を感覚レベルまで掘り下げる

    ただ、下北沢は単純に「音楽の街」「若者の街」とくくれるものではありません。下北沢は「細い通りが複雑に交わる街」であり、そのことによって「そこにいること自体が心地よく、新しい出会いや文化が生まれていく」、これが「下北沢らしさ」を作ってきました。
    下北沢は2003年に「補助54号線」を中心とした道路計画を巡って、住民と行政が争ったこともあります。
    「大きな道路ができ、高層ビルが建ち並ぶのではないか」
    住民たちがこの「下北沢らしさ」を共通の意識として持っていたからこそ、それを守ろうとして開発計画に反対する運動が起きたのだと思います。

    下北沢を例として取り上げましたが、その地域独特の魅力を一人ひとりが持つ場所の感覚(センス・オブ・プレイス)までもう一度整理して意味づけを行い「住みたい/住み続けたい」「行きたい」「関わっていきたい」と多くの人に思ってもらうことが、地に足のついた地域活性化の取り組みだと私たちは考えます。

    場所に意味を持たせるため、まずは「地域らしさ」の再発見を

    「センス・オブ・プレイス」を探索する

    地域を活性化し、末永く愛される場所へと変えるにはその地域に意味を持たせることが大事であると述べてきました。その最初の一歩となるアクションは、「地域らしさの再発見」です。下北沢の「細い通りが複雑に交わる」ことから生まれる「住み心地良さ、新しく生まれる出会い」のようなものが何なのか。下北沢では自然と醸成されていた下北沢らしさですが、他の地域でも関わる人が抱く「地域らしさ」を再発見していくことができると考えます。

    地域の特徴を改めて確認するために、最初に調査が行われることが多くあります。
    従来型の調査では、定量調査が中心に行われ、定型的な文章を提示し回答してもらうことで、地域の特徴を数値により把握することになります。しかし、こうした調査だけでは、例えば「自然が豊かである」といった一般的な文章が設定されてしまうことも多く、より具体的かつ独自の地域らしさを把握することは難しくなります。

    センス・オブ・プレイスを調べる方法は?

    そこで従来の定量的な調査に加えて、以下のような定性的な調査も行うことをおすすめします。これは前述したセンス・オブ・プレイス(人間一人ひとりが持つ場所の感覚)を探索する際に有用とされている手法です。

    具体例として、探索方法の一つである「テキストマイニング」を活用した事例をご紹介します。テキストマイニングは調査結果やネット上のテキストデータを活用して、単語や語句の関連性を図にしてわかりやすくし、生活者の意識や意味構造を把握する手法です。まずは文章を単語ごとに分解、そして関連性の強い単語同士を線でつなぎマップ化し、できたマップから対象となる場所の意味構造を紐解いていきます。

    実際に「横浜」をテキストマイニングでマッピングした例を見てみましょう。

    2020年実施調査(首都圏居住者20~60代1600名)を電通自然言語解析システムDE-FACTOで分析)
    2020年実施調査(首都圏居住者20~60代1600名)を電通自然言語解析システムDE-FACTOで分析)

    ・「中華町」や「みなとみらい」がある町として、観光地としても魅力的
    ・「住みやすい」「町」といったワードから、住みやすさも評価される都市である
    ・こうした中核ワードをハブとして、「赤レンガ倉庫」「ランドマークタワー」など横浜固有のワードが存在する
    ・「おしゃれ」「華やか」などの形容詞・形容動詞も多数ある

    こうした要素から、横浜は「異国情緒と都会的なイメージで支えられた華やかで住みやすい街」であると分析できます。テキストマイニングは、その地域を俯瞰して見ることができるため、地域らしさを発見する際に有効な方法です。

    ブランディングの観点で地域を活性化する

    地域や場所の意味を旗印に掲げ、魅力的な地域として様々な発信を通じて人を惹きつけ続けること。これは地域ブランディングに取り組むことに他なりません。地域の特産品や建物といった物理的なものだけにこだわるのではなく、そこに対する思いまでを整理して共有できるよう、場所そのものをブランディングすることが大事です。私たちはこれを「プレイス・ブランディング」として体系化し、地域活性化に取り組んでいます。

    私たちはプレイス・ブランディングを「区画、通り、街、沿線、都市、地方など柔軟に単位を設定し、民間企業、行政、市民などに属する多様なアクターたちがセンス・オブ・プレイスを共有・継承し、新たな所の意味をともに作り出していく活動プロセス」と定義しています。

    次回は、実際に私たちがお手伝いさせていただいたプレイス・ブランディングの具体的な事例を紹介しつつ、「地域らしさ」や「地域の新たな意味付け」をどのように進めるのかをお伝えします。

    人の心を動かす地域ブランディングとは?地域らしさを紐解く方法

    ※参考書籍:場所のブランド論 プレイス・ブランディングのプロセスと実践手法

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