
新規事業の必要性は共有されていても、議論を重ねるほど既存事業の延長線上に戻ってしまう。新しい市場や技術を探索しても、自社ならではの強い事業構想まで高めきれない。こうした課題を感じる新規事業開発の担当者は少なくないのではないでしょうか。
その理由の一つは、現在の市場や課題を起点に未来を考えるだけでは、非連続な社会変化や、まだ顕在化していない生活者ニーズを捉えにくいことです。
そこで有効なのが、未来の社会や生活者の姿を描き、そこから現在にさかのぼって事業機会を考える「バックキャスト」の視点です。
本記事では、フォアキャストとの違いを整理したうえで、2040年の暮らしを題材に、未来から新たな事業機会を考える方法を解説します。さらに、未来の可能性を探索し、自社として実現したい未来を選び、事業アイデアの創出や検証へつなげていくプロセスも紹介します。
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新規事業開発を「未来」から考える
新規事業を考える際、現在の市場や顧客ニーズ、自社の技術・資産などを出発点にするのは自然なことです。一方、それだけでは、発想が既存事業や現在の市場の延長線上に収まりやすくなります。
ならば、現在から未来を見るのではなく、未来から現在を見てみましょう。
中長期的な社会変化を捉え、その先で生活者がどのように暮らし、何を求めるようになるのかを具体的に想像する。その未来から現在を振り返ることで、「今ある課題をどう解決するか」だけでは見つけにくかった事業機会を探索できます。
ここで重要なのは、未来を正確に「当てる」ことではありません。複数の未来の可能性を材料に生活者の暮らしを具体化し、「そのなかで、自社はどのような未来をつくりたいのか」まで考えることです。
フォアキャストとバックキャストの違い
フォアキャストとは|現在から未来を見通すアプローチ
フォアキャストとは、過去から現在までのデータや市場環境、技術動向などをもとに、今後起こり得る未来を考えるアプローチです。
足元の変化を捉えながら将来を検討するうえで有効ですが、現在を出発点とするため、既存の市場や事業の延長線上にはない変化を発想しにくい場合があります。
バックキャストとは|未来から現在を逆算するアプローチ
一方、バックキャストは、将来の社会や生活者の姿を描き、そこから現在に視点を戻して、「その未来にどのようなニーズが生まれるのか」「どのような価値が必要になるのか」「今から何に取り組むべきか」を考えるアプローチです。
ただし、新規事業開発にバックキャストを活用するうえでは、未来を描くだけでは十分ではありません。複数の未来の可能性を捉えたうえで、「自分たちはどのような未来をつくりたいのか」という意思を持つことが重要です。
フォアキャストは現在の変化から未来を考えるのに対し、バックキャストは未来を起点に現在を捉え直します。本記事では、既存事業の延長線上にとらわれず新たな事業機会を考えるため、特にバックキャストの視点に焦点を当てます。
新規事業開発におけるフォアキャストとバックキャストの違い
新規事業を考える際の、フォアキャストとバックキャストの違いを、4つの観点から整理してみましょう。
| 比較項目 | フォアキャスト | バックキャスト |
|---|---|---|
| 出発点 | 現在の市場・技術・事業環境 | 将来の社会像・実現したい未来 |
| 考え方 | 現在の変化から将来を見通す | 未来から逆算して現在を考える |
| 中心となる問い | 今の市場や技術はどう変化するか | 望む未来を実現するには何が必要か |
| 新規事業への活用 | 既存市場の変化や成長機会を捉える | 現在の事業領域にとらわれない機会を探索する |
2040年の暮らしから事業機会を考えてみる
では、未来を起点に考えると、新規事業の発想はどのように変わるのでしょうか。
ここでは2040年を一つの時間軸として、人口減少、AIの進化、気候変動という3つの社会変化から考えてみます。
ここで扱う2040年は、確定的な未来予測ではなく、事業機会を考えるための一つの未来仮説です。現在とは異なる社会を具体的に想像し、そこで暮らす生活者の視点に立つことで、現在の課題から考えるだけでは出てこない問いをつくってみましょう。
なお、人口減少による市場構造の変化と企業の成長戦略については、関連記事「『8がけ社会』の企業戦略とは?」でも詳しく解説しています。
視点①: 人が減る社会。暮らしの仕組みをどう変えるか?
2040年に向けて、日本では人口減少と高齢化がさらに進みます。団塊ジュニア世代も65歳以上となり、働き手の減少や地域による人口構成の違いは、さまざまな生活サービスに影響を及ぼすと考えられます。
人口の将来推計については、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」で確認できます。
国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)」
現在から考えれば、「人手不足をどう補うか」という問いがまず浮かぶでしょう。省人化や自動化も、その解決策の一つです。
しかし、2040年の暮らしから逆算すると、問いそのものを変えることができます。
例えば、店舗、医療、行政などのサービスは、今と同じように「人が特定の場所へ出向いて利用する」ことを前提にする必要があるのでしょうか。
人が減る未来を「制約」として受け入れるだけでなく、その未来でも実現したい暮らしは何か。そのために、自社だからこそつくれる仕組みは何か。 そこまで問いを進めることで、省人化の先にある新たな事業の構想が始まります。
視点➁: AIが多くのことを担う社会。人は何を自分で選びたいか?
生成AIをはじめとするテクノロジーがさらに生活へ浸透すれば、情報収集や比較、選択、判断など、現在は人が行っている多くのことをAIが支援するようになる可能性があります。
現在から考えると、「AIを使って何を効率化できるか」という発想になりがちです。では、AIが多くのことを担う2040年の暮らしから考えるとどうでしょうか。
例えば、AIが自分に合う商品を探し、比較し、候補まで絞り込んでくれるようになったとき、人は買い物の何を楽しみたいのでしょうか。最適な商品をすぐに見つけることなのか、思いがけない商品と出会うことなのか、それとも自分で迷いながら選ぶこと自体なのか。
AIに任せられる領域が広がるほど、逆に「人に残したいもの」「人だからこそ担いたいもの」も見えてきます。自社の技術やサービスは、その未来で人にどんな価値を残せるのか。 それを考えることが、単なるAI活用とは異なる事業構想の出発点になります。
視点③: 気候に合わせて暮らしを変える社会。何が新しい日常になるか?
気候変動を考えるとき、企業にとっては脱炭素や省エネルギーなどの取り組みがまず思い浮かびます。
一方、2040年の生活者の視点に立てば、気候の変化に合わせて、暮らしそのものが変わっている可能性があります。
例えば、厳しい暑さを避けるために、働く時間、買い物をする時間、移動する時間、屋外で活動する時間が今とは異なっていたらどうでしょうか。生活時間が変われば、店舗の営業時間や物流、移動サービス、都市空間の使われ方などにも、新たなニーズが生まれるかもしれません。
日本における気候変動の観測結果や将来予測については、文部科学省・気象庁「日本の気候変動2025」にまとめられています。
気象庁「日本の気候変動2025」
変化する気候に「対応する」だけでなく、その環境のなかで、どんな暮らしを実現したいのかを企業の側から提案する。 そう考えれば、気候変動は守りの環境対策だけではなく、新しい暮らしや市場をつくる事業テーマにもなります。
| 社会変化 | 現在の課題から考えると | 2040年の暮らしから考えると |
|---|---|---|
| 人口減少 | 人手不足をどう補うか | 人が減っても望む暮らしを実現するには、どんなサービスの仕組みが必要か |
| AIの進化 | AIで何を効率化できるか | AIが普及した社会で、人が自ら選び、楽しむ価値をどうつくるか |
| 気候変動 | 脱炭素や省エネをどう進めるのか | 気候に適応した新しい暮らしを、企業としてどう提案するか |
3つの例に共通するのは、未来の変化そのものだけでなく、「その社会で生活者は何を望むのか」「自社はどのような未来をつくりたいのか」まで考えることです。
では、こうして描いた未来を、どのように具体的な事業へつなげていけばよいのでしょうか。
未来から新規事業をつくる3ステップ
未来の社会や生活者の姿を描くだけでは、新規事業の具体化にはつながりません。重要なのは、そこから事業の可能性を広げ、自社として取り組む未来を選び、具体的な事業へ落とし込んでいくことです。
ここでは、未来起点で新規事業を考える流れを3つのステップに整理して紹介します。
ステップ①:未来の可能性を探索し、「つくりたい未来」を描く
最初から「自社に何ができるか」だけを考えると、発想はどうしても現在の事業領域や保有技術に引っ張られます。
まずは人口動態や技術、気候などの社会変化を幅広く捉え、未来の可能性を探索します。ここで大切なのは、社会変化を「これから起こる問題点」としてだけ捉えないことです。人口が減る、AIが普及する、気候が変わる。そのとき何が困るのか、どう対処するのかだけではなく、その変化が当たり前になった社会で、人は何を求め、何を楽しみ、どんな暮らしを望むようになるのか。そこまで想像することで、現在の課題解決の延長では見えにくい、新たな事業機会を探索します。
そのうえで、さまざまな可能性のなかから、「自分たちはどの未来に関わり、何を実現したいのか」を考えます。ここで初めて、自社が大切にしてきた価値や強み、これから果たしたい役割などとも照らし合わせながら、企業として「つくりたい未来」を描いていきます。
大切なのは、もっとも起こりそうな未来を一つ選ぶことではありません。企業の意思として、どの未来を目指すのかを定めることです。
電通および電通グループの横断組織「未来事業創研」では、「電通未来曼荼羅」や「未来ファインダー100®」といった独自ツールを活用し、社会のファクトと生活者の欲求を掛け合わせて「未来ライフピース」を描き出しています。未来を抽象的な予測で終わらせず、生活者の暮らしとして可視化することで、次の事業アイデア創出につなげます。
ステップ➁:「つくりたい未来」から事業アイデアを生み出す
つくりたい未来が見えてきたら、そこから現在へ視点を戻します。
「その未来を実現するためには、どのような商品やサービス、仕組みが必要になるか」「そのなかで、自社だからこそ担えることは何か」。こうした問いから、事業アイデアを広げていきます。
ここで重要なのは、最初から実現しやすい案だけに絞らないことです。既存事業との距離が近いアイデアだけを残してしまえば、せっかく未来から考えても、結局は現在の延長線上に戻ってしまいます。
自社内だけでなく、異なる専門性や業界の視点も取り入れながら可能性を広げ、その後に、つくりたい未来との整合性や自社が取り組む意味などから評価していきます。
未来事業創研では、外部有識者のネットワークを活用し、つくりたい未来を実現するための500以上のアイデアを網羅的に発想する「Expert Idea 500」などの手法も活用しています。
ステップ③:事業として成立する条件を確かめる
魅力的なアイデアが生まれても、それだけで事業として成立するとは限りません。
生活者に本当に求められるのか。実現するために必要な技術や知見、体制、パートナーシップを構築できるのか。 継続可能な事業として成立するのか。アイデアごとに、事業として成立するために確かめるべき条件を明確にします。
そして、生活者の受容性調査や実証などを通じて仮説を検証し、事業としての解像度を高めていきます。
重要なのは、漠然と「うまくいくか」を確かめるのではなく、事業として成立するために何を満たす必要があるのかを明確にし、その条件を一つずつ検証していくことです。
新規事業を実現するために越えるべき2つの壁
未来起点で事業アイデアを描き、検証を進めた先には、構想を実際の事業へ育てていくフェーズがあります。
ここでは、単に「行き詰まりを避ける」という観点ではなく、強い事業構想を企業として実現していくために意識したい2つの壁を取り上げます。
壁①:検証を重ねても、次の意思決定に進めない
試作品をつくり、PoCを実施し、調査を重ねる。それでも「もう少し検証しよう」が続き、なかなか次の判断に進めないことがあります。
原因の一つは、検証を始める前に「何が分かれば、次の判断ができるのか」が定まっていないことです。
どのような結果なら事業化へ進むのか、構想を修正するのか、あるいは見送るのか。検証項目だけでなく、その結果をどう意思決定につなげるかまで、あらかじめ設計しておく必要があります。PoCの目的は成功を証明することではなく、次の判断に必要な材料を得ることです。
壁②:事業構想が、組織の意思にならない
有望な事業構想ができても、担当チームの中にとどまり、組織としての意思決定につながらないことがあります。
新規事業では、他部門との連携や新たな投資など、担当組織だけでは完結しない判断が必要です。事業案の完成度だけでなく、「なぜ自社が取り組むのか」「どのような未来を実現したいのか」まで共有されていることが重要になります。
組織を動かすためには、構想段階から巻き込む

事業構想を組織の意思へ育てるには、完成した案への賛同を後から得るだけでなく、構想する段階から「どのような未来を実現したいのか」を関係者と共有することが重要です。
特にバックキャスト型の事業開発では、目の前の課題への対応ではなく、まだ現実には起こっていない未来を起点に構想します。だからこそ、関係者が同じ未来像を見ながら議論することが、部門を越えた協力や投資判断につながる土台になります。
バックキャストで描く未来は、アイデアを生み出すためだけの材料ではありません。「自分たちは、なぜこの事業をつくるのか」を共有し、構想を組織の意思へ育てていくための起点にもなります。
Future Craft Processでも、「つくりたい未来」の可視化・共有や、組織の壁を越えた強い意思の構築が、プログラムの導入メリットとして位置づけられています。
まとめ:未来から考え、企業の意思で事業をつくる
新規事業開発でバックキャストを取り入れることで、現在の市場や課題からいったん離れ、既存事業の延長線上だけでは見つけにくい事業機会を探索できます。
重要なのは、未来に起こり得る変化を捉えるだけでなく、「自分たちはどの未来に関わり、何を実現したいのか」を選び、そこから事業アイデアを発想し、検証と意思決定を重ねて具体化していくことです。
電通「未来事業創研」が提供するFuture Craft Processは、未来の可視化からアイデア創出、検証、事業計画策定までを一貫して支援します。新規事業の構想段階からお気軽にご相談ください。
よくある質問(FAQ)
バックキャストで描く未来は、どのくらい先に設定すればよいですか?
一律に「何年先がよい」と決まっているわけではありません。重要なのは、現在の事業や市場の延長だけでは考えにくい変化を想像できるだけの距離を置くことです。
一方、遠すぎると事業との接続が難しくなります。今回の記事では2040年を例にしましたが、検討するテーマや業界の変化の速さ、自社の事業計画などに応じて時間軸を設定することが重要です。
未来には不確実性があるのに、それを起点に事業を考えてよいのでしょうか?
重要なのは、一つの未来予測を「正解」として事業計画の前提にすることではありません。複数の未来の可能性を見ながら、どの変化が起きても重要になりそうな生活者の欲求は何か、自社としてどの未来に関わりたいのかを考えることです。
また、事業構想をつくった後も、前提となる社会変化や生活者ニーズを確認しながら仮説を更新していきます。
未来の不確実性をなくしてから事業を始めるのではなく、不確実性があることを前提に、検証と意思決定を重ねられる構想にしておく。 それが中長期の未来を起点に事業を考える際の重要なポイントです。
「つくりたい未来」がなかなか決まらない場合は、どうすればよいですか?
いきなり一つの未来像を決めようとする必要はありません。まず社会や生活者に起こり得る変化を幅広く探索し、複数の未来の可能性を考えます。
そのうえで、「その未来で生活者にどのような価値を提供したいか」「自社だからこそ取り組む意味があるか」といった観点から議論することで、未来予測を眺めるだけではなく、企業としての意思を具体化しやすくなります。
バックキャストは既存事業の新商品・サービス開発にも使えますか?
新規事業だけに限定される考え方ではありません。既存事業でも、現在の顧客ニーズや競合商品だけを起点にすると、改善型の発想に寄りやすくなります。
将来の生活者の暮らしや価値観から現在の事業を捉え直すことで、既存の商品・サービスが将来も同じ役割を担うのか、別の価値提供が必要になるのかを考えるきっかけになります。
Future Craft Processはどのような企業に向いていますか?
特に、中長期の未来を見据えた事業開発の必要性をすでに認識しており、そこから自社ならではの強い事業構想をつくりたい企業に適しています。
例えば、既存事業の延長だけではない次の成長領域を構想したい、未来起点で事業の方向性を示して社内を巻き込みたい、といったケースです。
Future Craft Processは、ゼロから「未来について考える」ためだけのプログラムではありません。未来の社会や生活者の変化を広く捉えながら、「自社はこの未来をつくる」という意思のある事業構想へ高めていくことを支援します。




