
「最近、これまでのやり方では成果が出にくい」
「施策を増やしても、思うように成果が積み上がらない」
そう感じる場面は増えていないでしょうか。
こうした違和感は、単なる一時的な不調ではありません。
背景にあるのは、朝日新聞(※1)でも提起されている、2040年に向けて労働人口・消費人口が約8割に縮小していく「8がけ社会」という、避けられない社会構造の変化です。この見通しは、公的な将来推計においても示されており(※2)、企業活動の前提そのものが変わりつつあることを意味しています。
この変化は、「市場が小さくなる」という量の問題にとどまりません。働く人が減り、担い手が減り、消費の意思決定が分散・個別化していくことで、企業の成長の前提そのものが変わりつつあります。
※1朝日新聞「8がけ社会」連載
※2 国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口」/総務省統計局「労働力調査」などに基づく推計
こうした環境では、従来の延長線上の施策だけでは成果を出し続けることが難しくなっていきます。単に需要が減っているのではなく、市場の構造そのものが変化している今、企業にはこれまでとは異なる前提で新たに成長戦略を捉え直すことが求められています。
本記事では、「8がけ社会」という視点から、いま起きている市場の変化を構造的に捉え直し、これからの時代に企業がどのように成長していくべきかを整理します。
第1回となる今回は、「選ばれ続ける企業になるための条件」と、その実践としてのブランドを軸とした変革について解説します。
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8がけ社会の到来─現場で始まる構造変化
人口減少の影響は、もはや未来の話ではありません。売上の停滞や人材不足など、現場で感じる違和感は、社会全体の構造変化の兆しです。まず、「8がけ社会」の意味と、その影響を整理します。
8がけ社会は「努力では戻らない」構造問題
8がけ社会とは、単に市場が縮小するという話ではありません。
2040年に向けて現役世代が物理的に約8割に縮小していく、人口学的に不可逆な構造変化を指しています。これは、景気や施策によって回復できるような変動ではなく、「人数そのものが減る」という、いわば「前提の変化」です。消費者の人数、つまり消費の総量が減少することに加え、労働の担い手も減少するため、企業活動を支えてきた土台そのものが揺らぎ始めています。つまり、これまでのように「一定の市場規模やリソースがある前提」で戦略を組み立てること自体が難しくなりつつあります。
8がけ社会は、企業にとって“努力で解決できる課題”ではなく、前提として受け入れざるを得ない構造問題なのです。
「10割に戻す発想」という誤解
こうした変化に対し、しばしば「能力の向上」で対応しよう、という見解が聞かれます。
つまり、日本社会や企業が本来持っている力を最大限発揮すれば、これまでと同じように成長できるのではないか、という発想です。この考え方は一見前向きに見えますが、8がけ社会の本質とは異なります。
なぜなら、ここで起きているのは「パフォーマンスの低下」ではなく、「前提となるリソースの減少」だからです。効率化や改善を重ねることで一時的に成果を高めることはできても、人口そのものが減少する中で、これまでと同じ規模や成長を維持し続けることは難しくなります。つまり、成果だけを「10割の状態に戻す」という発想のままでは、変化に対応するどころか、ズレが広がっていく可能性すらあります。
「8割で成立させる」戦い方への転換
だからこそ求められるのは、「元に戻す」ことではなく、“8割でどう成立させるか”という前提で、戦い方そのものを再設計することです。顧客が減り、リソースが限られる中で、どの市場に向き合い、どの価値を届け、どのように関係性を築くのか。こうした問いに対して、従来とは異なる前提で答えを出していく必要があります。
8がけ社会においては、改善や効率化の延長線ではなく、事業のあり方そのものを見直すことが求められます。この見直しは、単なる戦略の見直しではなく、企業の戦い方そのものを問い直す経営課題です。
これまでの前提に立ち続けるのか、それとも新しい前提で再設計するのか。
その選択が、これからの成長を大きく分けることになるでしょう。
「縮小」と「分散」が重なる時代
市場変化の本質
今起こっている市場環境変化の本質は、単なる需要の減少だけではなく、「縮小」と「分散」の同時進行にあります。人口減少や可処分所得の変化により、全体としての市場規模は縮小しつつあります。その一方で、生活者の価値観や行動は多様化し、従来のように同じ商品・サービスを一律に届けることが難しくなっています。こうした構造的変化が、将来の話ではなくすでに現場レベルで起きており、かつ同時に進んでいる。それが、いま起きている市場変化の本質です。
市場は「減った」だけではなく「分かれた」
市場は縮小しているだけでなく、均一ではなくなっています。かつて一つのマスとして捉えられていた顧客は、価値観やライフスタイルごとに細かく分かれ、それぞれ異なる意思決定の文脈を持つようになりました。
その結果、「広く届ければ一定数に刺さる」という前提は崩れつつあります。需要は減っているだけではなく、分散し、見えにくくなっています。
こうした市場では、従来の延長線上の施策では成果を上げにくくなり、企業には新しい前提で戦略を設計する視点が求められています。
企業はどう戦うべきか─新しい成長戦略の設計
8がけ社会では、「これまで通りに広く届け、量を伸ばす」という前提が成り立ちにくくなります。市場が縮小し、顧客が分散する中で、企業は成長のあり方そのものを見直す必要があります。重要なのは、「どの戦略が正しいか」を選ぶことではなく、どの前提で成長を設計するかです。ここでは、8がけ社会において企業が成長するための代表的な戦略の方向性を整理します。
「量」から「質」へ転換する
市場が縮小する中では、これまでのように量を追う成長は成立しにくくなります。重要になるのは、どれだけ多く届けるかではなく、どれだけ強く選ばれるかです。そのためには、顧客一人ひとりに対して提供する価値の質を高め、「なぜこの企業なのか」「なぜこの商品なのか」という理由を明確にする必要があります。広く浅くではなく、狭くても深く選ばれる状態をつくることが、これからの成長の前提となります。
市場の定義を見直し、「どこで戦うか」を再設計する
顧客や需要が分散する中では、従来の市場定義のままでは適切に戦うことが難しくなります。重要なのは、「自社の提供価値が最も意味を持つ領域」を見極めることです。
すべての市場を取りにいくのではなく、選ばれる理由が成立する市場に集中すること。そのために、市場自体の捉え方を見直し、自社にとっての戦うべき領域を再定義することが求められます。
限られた人材を最大化する組織へ
労働人口が減少する中で、人材の確保そのものが難しくなっています。こうした環境では、働き手の人数の多さではなく、一人ひとりの生み出す価値の大きさが競争力を左右します。
そのためには、個人のスキルや経験に依存するのではなく、組織として一貫した価値を生み出せる状態をつくることが重要です。誰が関わっても同じ価値が提供される仕組みを整えることで、「選ばれる理由」を安定的に生み出すことが可能になります。
縮む市場ではなく「伸びる領域」に集中する
市場全体が縮小する中でも、すべての領域が一様に縮むわけではありません。価値観の変化や新たなニーズの出現によって、伸びている領域も確実に存在しています。
重要なのは、縮小する市場に固執するのではなく、自社の提供価値がより強く求められる領域にシフトすることです。選ばれる理由がより明確に機能する場所に資源を集中させることで、限られた環境の中でも成長の機会を見出すことができます。
これらの戦略は、それぞれ有効な方向性です。
しかし、いずれの選択肢をとるにしても共通して問われるのは、「市場の中で、まず選ばれる存在になれるか」という点です。
市場が縮小し、顧客の価値観が分散する中では、単に商品やサービスを提供するだけでは不十分です。顧客にとって意味のある価値を明確にし、「なぜこの企業なのか」「なぜこの商品なのか」という理由を持たなければ、選択肢に入ることすら難しくなります。
そのうえで重要になるのが、選ばれる理由を一時的なものにせず、継続的に機能させる条件を捉え直すことです。
選ばれ続ける企業になるための条件

量から質への転換を進め、自社が戦うべき市場を見極め、顧客にとって意味のある価値を明確にしていくこと。つまり、企業には「なぜこの企業なのか」「なぜこの商品なのか」という理由を、より深く設計することが求められています。
では、そうした“選ばれ続ける状態”は、どのように生まれるのでしょうか。
自社の「提供価値」が明確であること
市場が分散するほど、企業は「誰に、どのような価値を提供する存在なのか」を明確にする必要があります。価値が曖昧なままでは、顧客の意思決定の文脈に入り込むことができません。機能や価格といった表層的な差異ではなく、顧客にとってどのような意味を持つのかという観点で、自社の提供価値を定義することが求められます。
顧客接点で「一貫した体験」を提供できていること
定義した価値は、商品やサービスだけでなく、あらゆる顧客接点を通じて一貫して伝わる必要があります。コミュニケーション、顧客体験、サービス設計が分断されていては、企業の価値は十分に伝わりません。接点ごとに異なるメッセージが発信されるのではなく、すべてが一つの意味として統合されていることが、選ばれ続けるための前提となります。
顧客との「関係性」を継続的に築けていること
市場が分散する中で、単発の接点だけで選ばれ続けることは難しくなっています。重要なのは、顧客との関係性を継続的に築き、その中で価値を更新し続けることです。
顧客との対話やフィードバックを通じて関係を深めていくことで、企業は単なる提供者ではなく、顧客にとって意味のある存在へと変わっていきます。
ブランドを軸にした変革の実践
選ばれ続ける企業になるためには、提供価値の明確化、一貫した体験の提供、そして顧客との関係性の構築が不可欠です。これらを個別最適の施策としてではなく、企業全体で一体的に実現するためには、全社を貫く意思決定の軸が求められます。
それを実現する有力な戦略オプションのひとつが「ブランド」です。
ここでいうブランドとは、コミュニケーションの指針にとどまらず、企業がどの市場で、誰に対して、どのような価値を提供し続ける存在なのかという“意味の体系”です。この定義を起点に、事業戦略、顧客体験設計、組織の意思決定までを一貫させることで、企業は「選ばれる理由」を継続的に生み出せるようになります。
つまり、ブランドを軸にした変革とは、見せ方の刷新ではなく、企業の価値定義から実行までを貫く統合的な取り組みです。
こうした変革を実現するためには、構想にとどまらず、戦略設計から実行までを一体で進めることが重要です。電通がご提供するソリューション「Branding For Growth」では、事業戦略とブランド戦略を両輪で回し、企業の持続的な成長を支援しています。
まとめ─8がけ社会で企業が成長し続けるために
8がけ社会において企業に求められるのは、これまでの前提を維持したまま成果を高めることではなく、「8割でも成立する戦い方」へと転換することです。
市場が縮小し、顧客や需要が分散する中では、「なぜ選ばれるのか」を明確にし、それを事業・顧客体験・組織に一貫して実装していく必要があります。個別の施策を積み重ねるだけではなく、企業全体として選ばれる理由を機能させる構造をつくれるかどうかが、これからの成長を左右します。
その中核となるのが、ブランドです。
そして、そのブランドを起点に事業・顧客体験・組織のあり方を統合し、戦略から実行までを一貫させていく取り組みが、これからのブランディングに求められる役割です。
電通の「Branding For Growth」では、こうしたブランディングを、戦略設計から実行まで一体で支援しています。
8がけ社会においても成長し続けるために、自社の「選ばれる理由」を改めて見つめ直し、ブランドを軸とした変革に取り組んでみてはいかがでしょうか。



