変化の激しい市場で新たな成長機会を掴むため、多くの企業が新規事業の立ち上げに挑戦しています。Do!Solutionsでは新規事業に取り組む際のヒントや視点をお伝えすべく、2025年4月11日にウェビナー『新規事業を成功に導く、ビジョンドリブン型の事業開発とは ~5年で150億円を売り上げた実践知もご紹介~』を開催しました。
ゲストにパナソニックや損害保険ジャパンで数々の新規事業に取り組んできた中村愼一氏をお迎えし、電通からは未来事業創研ファウンダーの吉田健太郎が登壇。ファシリテーターは未来事業創研メンバーでもある電通デジタルの高橋朱美が務め、トークセッションを繰り広げました。
このブログでは、示唆に富んだ本ウェビナーの内容をダイジェストでお届けします。新規事業担当の方、新しいことに挑戦したいと考えている方、仕事をもっと面白くしたい方……。このウェビナーを参考に、明日からの働き方が変わるかもしれない「ビジョンドリブン」思考をぜひ実践してみてください!
PROFILE
INDEX
【中村氏講演】5年で150億円を売り上げた新規事業開発の流儀
託されたのは「新規事業で利益100億」というミッション
中村愼一氏は1985年に松下電器産業(現パナソニック)に入社。営業職を経てグループ子会社の株式会社ハイホーへ異動し、ポータルコンテンツの立ち上げ等に従事しました。その後、株式会社ハイホー・シーアンドエーを設立しグループ最年少で代表取締役に就任。会員プラットフォーム「CLUB Panasonic」を立ち上げ、会員数1,000万人・月間2億PVを誇る国内最大規模のプラットフォームへと成長させました。
その手腕を見込まれ、2017年に損害保険ジャパン日本興亜株式会社(以下、損保ジャパン)の執行役員に就任。その際社長から告げられたのは「利益100億円の新規事業をつくってほしい」というものでした。
このハードルの高いミッションに、中村氏はどう応えたのか。講演では、中村氏独自の鋭い着眼点を余すことなく伝えていただきました。
新規事業でスピーディーに利益を上げる4つのポイント
中村氏は、新規事業で利益を生み出すためのポイントを端的に4つにまとめています。
「短期間で利益を生むには、競合の多いレッドオーシャン市場に飛び込むのは難しい。まずは、これから伸びていくメガトレンドの市場をターゲットにします。そして、ユーザーファーストのお困りごと解決、つまり社会課題の解決につながる事業を考えます。特に大企業であるなら、既存の資産(アセット・人材)をフル活用することでベンチャー企業と大きく差をつけることができます。しかし、すべてゼロから立ち上げると時間がかかるので、スピードを高めるために他社とのアライアンスも非常に重要になります」(中村氏)
つまり、「①メガトレンド × ②社会課題 ×③自社の既存資産 ×④他社とのアライアンス」が不可欠だ、ということです。
中村氏の着眼点と、実際に立ち上げた事業とは
実際に損保ジャパンでの新規事業検討に際し、中村氏はまずモビリティ市場に絞り込みました。2018年に参加したCES(※世界最大級のテクノロジー見本市Consumer Electronics Show)で「自動運転化」への兆しをキャッチし、国内モビリティの市場規模に大きな可能性を感じたためです。こうしたモノの変化に加え、「所有から利用へ」という消費スタイルの変化にも着目しました。
そして中村氏は、モビリティ市場における単なるサービスや機能の優位性ではなく、「社会にどんな価値をもたらせるか」という点まで視座を高めて新規事業を考えていきました。
たとえば、将来の経済的不安に起因する“若年層のクルマ離れ”という社会課題に対して、同社の強みである2000万件もの顧客データや代理店アライアンスを活かし、個人間カーシェアの「Anyca」への参画や定額マイカーリース「SOMPOで乗ーる」の開発を推進。ユーザーの保有車データを把握している保険代理店からユーザーにサービスをおすすめしていただくことで、瞬く間に利用者数が拡大しました。
また、“高齢者の免許返納に伴う空き駐車場の増加”という課題にもアプローチし、個人所有の駐車場を一時的に貸し出す駐車場シェアサービスを展開する「akippa」を関連会社化。課題解決と自社の資産活用が共存するビジネスモデルを展開し、3事業合計で150億まで成長させたのです。
ユーザーを動かすのは、共感できる“ストーリー”
講演の中で中村氏が繰り返し語っていたのが、「ユーザーが動く“リアルなシナリオ”を描けるかどうか」という点です。
「若者はクルマを使いたいけど、将来の経済的不安から買うことができないのではないか。それならシェアリングとサブスクを掛け合わせることで、実質2万円で新車に乗れるようにする。こうしたライフスタイルを定着させることで、実質的にお金を使わなくても豊かな生活が送れる……。そんな世界を実現するために、これまで新規事業を考えてきました」(中村氏)
どんなに立派なサービスを設計しても、人が使ってみようと思えるベネフィットがなければ選ばれません。心と行動を動かす具体的な暮らしのイメージを、構想段階でクリアに描くことができるかどうか。ユーザーファーストでストーリーを構築することの大切さに改めて気づかされる、中村氏の講演でした。
【吉田講演】なぜ今“ビジョンドリブン”が必要なのか?
“あるべき未来像”を最初に描く、バックキャスト型のアプローチ
続いて登壇したのは、電通 未来事業創研ファウンダーの吉田健太郎です。大手通信キャリアを経て電通に入社した吉田は、通信・モバイル関連企業の事業支援などを経て2021年に未来事業創研を創設。企業とともに“未来のくらし”を構想し、そこから新規事業やブランド開発を支援する取り組みを続けています。
未来事業創研が大切にするのは、未来の兆しをヒントに“あるべき未来像”を具体的に描き、そこから逆算して戦略や事業を設計する「バックキャスティング型」の思考。これは、ユーザーファーストのストーリーを最初に描く重要性を説いた中村氏と共通する考え方です。
プラスの価値を生み出さないのは、もったいない!
「価値を生み出すことが目的になっていないのは、もったいないんじゃないですか」と、吉田は目の前のマイナス課題だけを解決する事業の在り方に疑問を投げかけます。
「課題を解決すれば現状のマイナス10がマイナス2になるかもしれないけど、プラスの価値は生まれない。マイナスを減らすことは確かに大切ですが、プラスの価値を生み出さないと対価を得にくいと思うんです。だから私たち未来事業創研では、どんな価値を生み出していくのかを先に描いて、そのためにはどんな課題を解決しなきゃいけないかっていうバックキャストのアプローチで支援させていただいています」(吉田)
課題解決だけでは不十分。少し厳しい指摘ではありますが、こうしたプラスの価値を重視する背景には、「企業がわくわくする事業を生み出すことで、世の中がわくわくできるようになる」という吉田の信念があります。
「『企業の取り組みが、世の中を変えていく』という企業と世の中のあり方は、これまでもずっと続いてきたことだと思うんです。実際に、私たち未来事業創研の仕事では、100年続く企業様と向き合うことも多いのですが、彼らに事業の成り立ちをお聞きすると、そうした企業が新しい世の中に必要とされるものをつくってくれたからこそ、今があると実感します。そしてその背景には必ず、現在のマイナスを減らしたいという思いを超えた『こういう未来をつくりたい』という“強い意思”がある。私はその意思を重視しています」(吉田)
モンスト、メルカリ……大ヒット事業に共通するものとは
講演の中で吉田は、実際のプロジェクト事例に触れながらビジョンドリブンの事業創出を具体的に紹介しました。
例えば吉田が過去に戦略プランナーとして参加したゲームアプリ「モンスターストライク」では、今振り返ると「スマホ時代のファミコン」がビジョンになっていたのではないか、と言います。
「1つの画面を見ながらみんなで遊んでいたファミコンの時代に対して、スマホが普及したことで、一人ひとりが自分のスマホの画面を見ながら遊んでいる状況でした。そのような中で、それぞれ自分のスマホ画面を見ているのですが、リアルの友達と同じ場所で同じゲームを楽しむことができたら、むちゃくちゃ楽しいはず、と確信したのだと思います。その時に『スマホ時代のファミコン』という言葉が掲げられていたわけではありませんが、誰でも楽しめるモンストのゲーム性も含めて、そういうビジョンを描かれていたのではないかと感じました」(吉田)
また吉田は、フリマアプリ「メルカリ」を、ビジョンの違いによって提供する価値が大きく違ってくる例として取り上げました。メルカリは「“なめらかな社会”の実現」をビジョンに生まれたサービスですが、一見オークションサイトと同じようなサービスに見えてもそこには全く違う価値があると指摘します。それは、売り手と買い手の立場関係。売り手側が強いオークションに対し、メルカリは双方がフラットな立場で交渉できる“フリーマーケット”。つまり、つくろうとしている世界をどう描くかによって、サービスのスペックは似ていても、価値に大きな違いが生まれるのです。
「これらの事例の共通点は、ビジョンドリブンであること。そして、そのビジョンが(数値達成や課題解決ではなく)“状態の目標”として明確に描かれていることです。理想の状態をつくるためにどんな課題があるのかを逆算的に考えることが重要であり、課題を解決すればビジョンができるわけではない。それが本日お伝えしたいポイントです。未来って、実はビジネスツールなんです。だから、今もし事業で悩まれている方がいたら、『未来を使ってちょっと考えてみる』ことにトライしていただけるといいかな、と思っています」(吉田)
【トークセッション】なぜ今“ビジョンドリブン”が必要なのか?
テーマ① 今後、どのような市場が伸びていくと予想しているか?
ウェビナーの後半は、3つのテーマからビジョンドリブン型の事業構想のコツやヒントを具体的に探るトークセッションが行われました。中村氏、吉田が議論した一つ目のテーマは、「今後、どのような市場が伸びていくと予想しているか?」。まずは吉田が、市場探索に役立つツールを紹介しました。
「自社の事業と全然違う領域を広く見ていく“領域探索”が重要だと思っていて、その棚卸しのために我々は『未来ファインダー100』というツールを用意しています。キーワードが100個並んでいて、例えば『孤独』を取ってみると、『おひとりさま市場』のデータとあわせてそこから生まれる新たな機会がまとめられている。それをヒントに『孤独ってどういうことだろう?』『孤独社会のつながりって何だろう?』と考えていくと、事業アイデアの可能性が広がる。さらにそこに『AI』や『ロボティクス』を掛け合わせていくと、本当にいくつも可能性を見出すことができます」(吉田)
「『孤独』と『AI』は非常にあり得る掛け合わせですね! 今でもコミュニケーション型ロボットがありますけど、これが進化して人間同士のように会話できれば、孤独は多少なりとも解消されるでしょう。それから、AIの翻訳にも非常に期待をしています。世界に進出したいけど、言語の壁でできていない人にとって、世界が本当に広がると思うので」(中村氏)
「今おっしゃられた“翻訳”という観点は、これからもっと広げていきたいですね。想像ですが孤独な人には、コミュニケーションが苦手で友達をつくりにくいケースがあるかもしれません。もし、AIが上手く気持ちを翻訳して表現してくれたら、もっといろんな人とコミュニケーションすることができて、世界が広がっていくかもしれません」(吉田)
『未来ファインダー100』のキーワードをきっかけに、セッション中にもすぐにアイデアが広がりました。このようにキーワードを掛け合わせながら世の中を広く棚卸しすることで、メガトレンドとなり得る市場が見えてくる。みなさんもぜひ、さまざまな領域の掛け合わせをお試しください!
テーマ② 新市場の可能性を見極めるときの「コツ」は?
続いてのテーマは、メガトレンドになる市場を見極める際の「コツ」について。この質問に、中村氏からは次のようなアドバイスがありました。
「『なぜ』を考える癖を持つことが非常に重要だと考えています。ニュースをただ見るだけでなく、『なぜそうなったのか?』を常に問いかける癖をつける。さらに、『それで自分は楽しいのか?』を想像することも大切ですね。例えば自動運転の兆しが見えたとき、『クルマでゴルフに行って、プレーして疲れた後、運転せずに帰ってこられるなんて最高だな』と。単純なことですが、自分にとって楽しいかを問うことは重要じゃないかと思いますね」(中村氏)
「今のお話と共通すると思うんですが、僕は『絶対価値』で考えることが重要だと思っています。すでに市場があって、競合がいて、そこよりもいいものをっていう相対価値ではなく、まったく新しい市場に対して、どういう価値を投下すれば人が集まってくるのか、そのような状態を具体的にイメージする。そこで『いける!』と思えるかが、(成功するかどうかの)分かれ目なのかもしれません」(吉田)
相対評価で戦うことも大切ですが、新規事業創出においては「自分たちがやる意義があるのか?」「その未来を自分自身は楽しめるのか?」という視点を持つことのほうが、より成功を左右するのかもしれません。
テーマ③ 社内上申を突破し、事業開発推進力を上げるヒントは?
最後のテーマは、悩んでいる人も多いであろう「社内上申のコツ」について。これに関しては根回しもある程度必要だとしつつ、中村氏は次のように指摘します。
「新規事業を進めるうえでは、やはりトップの思いが一番重要なんです。『これは中村くんの新規事業でなく、わが社の新規事業なんだ』と社長に熱い思いを抱いてもらえるか。その説得のためには、プロジェクトリーダーの熱意だけでなく、データやロジックも必要です。自分たちで調べることはもちろんですが、電通さんのような、企業にコンサルティングを行っている会社の力を借りて、客観的なデータを提示してもらうのも有効だと思いますね」(中村氏)
「今中村さんのおっしゃった『思い』というのが、まさに今日ずっと私がお話ししてきたビジョンなんですよね。プロジェクトリーダーの方のビジョンと、トップのビジョンがちゃんとシンクロしているか。我々が支援するプロジェクトでも、そのあたりを本当に解像度高く描くことによって、『この未来、自分もつくりたい!』としっかり確信していただけたらと思っています」(吉田)
【最後に】未来は自分がつくるもの。だから面白いし、成長できる!
新規事業担当者は不運? それともチャンス?
鋭いアドバイスと豊富な事例が満載だった本ウェビナー。締めくくりに、中村氏と吉田から新規事業に取り組む方々へ向けたメッセージが語られました。
「特に大企業においては、新規事業を担当するのは本当に大変なこと。担当になったことを不運だと考える方もいらっしゃると思います。先輩方の敷いてくれた既存レールの上を走るほうがずっと楽ですから。でも、ゼロから自分の足で情報を集め、事業をつくって成長させていく経験はなかなかできませんし、何より自分の成長につながります。だから部下に任せっきりにせず、自分でやるんだという強い気持ちでがんばっていただきたいと思います」(中村氏)
「課題はたくさんある時代ですが、『こういう未来ができたらワクワクするよね』という世界を描くことは、とても楽しい営みです。形にするのはめちゃくちゃ大変ですが、その先には今よりもっと豊かな日々がきっとあるはず。『こんな未来をつくりたい』という気持ちを、ぜひモチベーションに変えていただけたら嬉しいです」(吉田)
電通 未来事業創研にぜひご相談ください
電通 未来事業創研が提供している「Future Craft Process」では、企業のビジョン構想・新規事業開発・商品開発を一貫して支援するプログラムを提供しています。ウェビナーの中でご紹介した「未来ファインダー100」をはじめ、独自のツールを使ったアイディエーションから実際の事業化まで、吉田をはじめとする経験豊富なメンバーがご支援します。ビジョンドリブンの新規事業開発に興味を持たれた方は、ぜひ以下のリンクからeBookと関連ブログをご覧ください。
● eBook
「未来を可視化し、未来の事業をつくるプログラム Future Craft Process by 未来事業創研」
● 関連ブログ
新規事業立ち上げは「つくりたい未来」の可視化から始まる!
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※競合他社様にはご提供しておりませんので、ご了承ください。