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    B2Bマーケティングの組織の課題と解決策とは?[前編]

    最終更新日:2023年06月19日

    INDEX

    マーケティング後進国と言われる日本。特にB2Bにおいては、既存顧客からの売上が大きく安定しているので営業部が強く、マーケティング活動がおろそかになりがちでした。最近は、MA(Marketing Automation)などデジタルマーケティング技術の発展に伴い、B2Bマーケティングの役割が注目されるようになったものの、まだまだ根付いているとは言い難い状況です。現在のB2Bマーケティングの課題と、その貢献を最大化するためのソリューションについて、株式会社 Nexal 上島 千鶴氏に、株式会社電通 梅木 俊成がうかがいました。

    PROFILE

     
     

    B2B事業支援のコンサルティング会社Nexalとは

    梅木:最初にNexalの事業内容、主なクライアント層について教えて下さい。

    上島:Nexalでは、ファシリテーション型の課題解決コンサルティングを提供しています。具体的にはマーケティングを起点に次の5つの支援を行っています。

    1.事業戦略策定、実行計画
    2.マーケティング戦略策定、実行・改善支援
    3.KPI 設計・分析・予測モデル、シナリオ設計、マーケアセスメント、ベンチマーク調査
    4.組織構築支援
    5.プラットフォーム環境構築支援

    今期は13期目となり、設立当初は耐久消費財B2C企業からの依頼が多かったですが、最近は9割がエンタープライズ系B2B企業です。特に海外比率が高い製造系が増えてきています。

    梅木:B2Bマーケティングは、ツールの導入などの話になりがちですが、Nexalでは経営戦略や事業戦略の目線で企業改革、マーケティング改革をされていますよね。

    上島:そうですね。会社によって「マーケティング」の認識や定義が異なるので、まずは事業戦略に沿ってマーケティングの役割や範囲、方向性を定義して、足並みを揃えることから始めています。その前提がないと、新しい役員に変わった途端に方針が180度変わってしまい、プロジェクトが発散することがありました。

    マーケティング部門、CMOの設置は業績に影響するのか?

    梅木:日本はマーケティングが遅れていると言われています。上島さんの立場から見ていかがでしょうか。

    上島:国内と海外だと、マーケティングの進化論が違うので一概に比較はできませんが、欧米型のマーケティングを取り入れている日本企業は大手でも半数で、中堅に至ってはこれからという印象を受けます。Nexalでは2016年−2018年に公開されている人事情報から、国内企業のマーケティング組織設置率を調査してみましたが、その結果、上場企業でもマーケティング部門があるのは11%(※)にとどまり、独立した組織として根付いていないことが明らかになっています。
    ※出典:「国内企業のマーケティング部署設置率(2018年5月)

    国内企業のマーケティング組織設置率

    国内の上場企業のうち、マーケティング部門があるのは11%のみ

    別の調査でCMO(Chief Marketing Officer、最高マーケティング責任者)がいる企業を調べたところ、役員クラスのCMOがいる企業は8%、部長クラスでは11.3%となりました。このデータを元に、企業の業績を調査し分析した論文では、CMOがいる企業は平均すると4.7%の増収効果がある(※)と結論付けています。
    ※出典:「日本型CMOの現状と展望:― CMOは業績にどの程度貢献しているか」

    もちろんマーケティング部がある、CMOがいる、というだけで売上が上がるわけではありませんが、組織としての成熟度が垣間見えると思います。

    梅木:B2B企業の場合、「良いものを作れば売れる」という考え方や、すでに取引先が決まっているから、新規開拓する必要がないという考えもあって、マーケティングが浸透しないという背景もあるのではないでしょうか。

    ここで、B2Cビジネス、B2Bビジネスの違いを整理したいのですが、上島さんはどのようにとらえていますか?

    上島:一般的に次の表のように整理できます。
    (出典:EC化率は経済産業省「平成29年度電子商取引に関する市場調査」)

    産業財と消費財の違い

    B2CとB2Bの違いの整理

    B2Cの代表として消費財を例にしていますが、購入する対象者は個人なので、購入単価が低い、検討期間が短い、購買プロセスがシンプルという特徴があります。一方でB2Bの代表として産業財を例にすると、ターゲットは法人であり、新規購買にあたっては複数人の意思決定のプロセスを経るため、衝動買いは発生しません。購入金額や案件単価が高ければ、意思決定が複数の組織にまたがることも多々ありますし、組織のキーパーソンの承認を得られないと契約まで至りません。金額も高い分、購入の検討期間も長くなります。

    導入の検討をする現場担当者には、営業からの直接コミュニケーションは有効ですが、経営層など上位の決裁権者になるほど、企業ブランド力が有効になる傾向も見られます。現場層は比較や実績などで緻密に選定しますが、決裁者は取引相手の信頼性や将来性、与信や取引関係含めて選ぶことがあります。よってB2Bの場合は経営者同士の対面の信頼関係を重視していて、ゴルフ、接待研修などトップセールスと呼ばれるような付き合いが影響します。現場担当者が「時間かけて比較検討したのに、上層部の社内政治で決まってしまった」と言われる多くが、キーパーソンの影響力が高い結果になります。

    デジタル接点が増えたことで、B2Bマーケティングが変わった

    梅木:B2Bの場合、ターゲットが狭いのでアプローチとして、展示会、DM、コールドコール(リストの総当りによる電話営業)などが効率的と考えられてきました。

    ところが、2014年ごろからMAが注目されたことで、デジタルの接点でターゲットにアプローチすることができるようになり、状況が変わりました。MAが加わったことで、長い購入検討期間中に他社製品・サービスに浮気されないようにするための継続的なコミュニケーションが可能になりましたね。

    上島:そうですね。接点があったリードに対してだけでなく、潜在的な顧客層に対してもターゲティング精度が上がってきました。ただ、デジタルマーケティングには、2つの段階があると思います。

    一つは少し前のWebマーケティングの延長線で各ツールベンダーや制作会社のノウハウなど、手段としての話が中心になります。企業名や属性毎にターゲティング広告を出す、外部データとCRMを紐づけて自社サイトに類似潜在層を誘導する、デジタルファーストの検討キーワードから、LP(ランディングページ)でリードを獲得するなどのお話です。

    もう一方は視点が一つ上がり、Webサイト接点や新規顧客のリード獲得だけではなく、既存顧客との全接点の全体を最適化するという方針や戦略の話になり、今はここの改革に取り組む企業が増えてきています。

    営業が対応している最中でも、並行してデジタル接点でのコミュニケーションを継続するような全体最適の施策ができるようになります。

    梅木:見込客、既存顧客のデジタル接点が可視化されて、マーケティング側からタイミングよく営業をフォローするようなコミュニケーションをすることができるようになりましたよね。

    上島:はい。一方で国内のB2Bの営業に足りていないのは、データ分析です。私が支援した会社では、営業部長が「うちはこの業種が強い」というので、「データを見せてほしい」とお願いしたら「ない。経験則でわかる」という返事でした。

    日本のB2Bの場合、直販よりも販売店などパートナー経由の取引額が多いので、販売パートナーごとにどのような業種の取引先があるのか、過去の取引データを整理して見せたら「こんな分析データは初めて見た!」と驚かれることも少なくありません。今までどうやって受注計画を立てていたのか不思議なくらいですが、それだけ営業の属人的な経験則に頼ってきた、ということなんだと思います。

    梅木:営業担当は、自分や部署の経験の範囲で把握していることが多いですよね。

    上島:今持っているリードを業種などの企業属性ごとに分析するだけでも、新しいターゲットリードを獲得しないといけないのか、既に接点あるリードとの関係醸成に力を入れるべきか、予算の使い道の判断ができます。優先順位を決めないで、場当たり的に施策をやると再現性がありません。仮にAさんが成果を出せてもAさんが異動になった途端、他の担当者では成果が出なくなることもあります。マーケティング組織として成長するには、個々の知見を共有して、継続的に再現・評価・改善する仕組みを作るほかありません。

    組織のマーケティングの成熟度「マーケティング組織5世代モデル©」

    梅木:上島さんと仕事をしていると再現性というキーワードがよく出てきますよね。再現性は、言い換えれば、ベストプラクティスが生まれた時に、そのプロセスがどのように実現できたのかを検証できて再度同じように実行できる、ということですよね。B2Bマーケティングにおいては、「顧客データをどのようにマネジメントできているか」は再現性に大きく影響すると考えています。

    とある大手化学系製造業の事例ですが、A部門の顧客が実はB部門がなかなか接触できてない見込客であったとか、C部門は一次請けで取引しているけれど、D部門は同じ顧客なのに孫請けになっていた、というようなことが実際にありました。大手であればあるほど社内での横の情報連携がないことが多いですが、顧客データを一元管理していれば解決できることがあります。

    そうした状況の中、企業全体で顧客データを分析するには、複数の部門に散在する顧客情報を一元管理するOne ID化がますます重要になっていると感じます。現状の日本企業を見ると、One ID化まで進んでいる組織もあれば、お話にあったようにそもそもマーケティング部門がない会社まであり、状況は様々だと思います。上島さんは、そんな組織のマーケティング段階を、モデル化していますよね?

    上島:はい、「マーケティング組織5世代モデル©」で、次の図のように組織を5世代に分けています。一つずつ世代があがるとは限りませんが、組織の成熟度として見て頂ければと思います。

    BtoBマーケティング組織5世代モデル

    マーケティング組織は五世代に分類できる

    第一世代は、部門ごとにマーケティング機能が分散している状態です。必要なデータも社内に分散していて、たとえば展示会ごとにExcelでリード(リスト)を管理している方法になります。

    第二世代は、横串のマーケティング組織を設置している企業に多く見られます。担当者は、広報宣伝、Web担当者、販推やプロモーションなどの業務経験者が集められることが多いですね。ただ、自ら戦略をもって動くというよりも、各事業部から依頼された業務を請け負う、社内サービス部門であることがほとんどです。自分たちの活動が事業や売上に貢献できたのか、パイプライン管理(受注までのプロセス管理)までは進んでいない傾向があります。

    第三世代になると、MAツールの導入などにより、マーケティング活動が一連のプロセスとして繋がり、ファネル管理ができるようになります。マーケティング予算でどれくらいMQL(Marketing Qualified Leads:営業に引き渡せる案件見込みリード)を創出できたか、受注額に換算するといくらになるのか、部門を越えても指標がつながって評価できるようになっている企業です。

    この次の第四世代は、新規リード・新規案件に注力するのではなく、どちらかと言えば既存顧客のためにデジタル接点を活用する段階です。第三世代から第四世代に進むケースもありますが、第一世代からいきなり第四世代を実現する場合もあります。

    B2Bは、ニッチな商材であるほど顧客層は限定されていきます。よって、デジタルデータを併用して既存顧客との関係醸成や維持拡大ができている企業は、第四世代に分類しています。また、デジタル接点を活用して、既存取引顧客から新規商談をどう作るかという考え方は、ABM(アカウントベースドマーケティング)の取り組みになりますので、ここでつまずく企業は多いと思われます。

    部門を越えて連携するには、顧客データのOne ID化が必要

    梅木:第一世代から第四世代に行く場合は、もともとABMで取引をしていて、そこにデジタル接点が加わるようなイメージですよね。

    上島:そうです。仮に重要顧客との取引額を倍に計画しても、トップセールスだけでは接点が足りず、フォロー不足に陥ります。どんなに経営層同士の関係が強くても、実務を行う担当者や各拠点の営業所、あるいは販売系列会社まで、経営層同士の関係性が浸透しているとは限りませんから。顧客をデジタルの接点でフォローして、そこからボトムアップで新規案件につなげるようなやり方です。

    ただしABMの課題として、MAを駆使しながら既存顧客から新しい見込案件を発掘できたとしても、社内のERP(Enterprise Resource Planning、社内基幹システム)などの基幹システムやCRM(Customer Relationship Management、顧客管理)にある顧客データと紐付けられないことがあります。例えば、社内システム上に存在するアカウント担当営業、過去の取引実績などとMAデータを連携できれば、よりよいタイミングでコミュニケーションができますが、各データが社内に散在している企業がほとんどです。データ参照でも統合でも、ER図( Entity Relationship Diagram、実体関連モデル、データベースや情報システムでデータ編成するときの設計図)を用意して、データベースが相互連携するように設計しなおす必要があります。

    しかし基幹システムを入れ替えるのは莫大な投資額になるので、現実的な解としては統合データベースや連携するための中間的なデータベースを用意するなどが考えられます。それでも、マーケティングや営業部単体で取り組むのは難しく、会社全体のIT投資となるため、経営層の合意形成が必要になります。必ず情報システム部門が関与しないと、このシステムレイヤーとの連携は実現不可能でしょう。また、経営層を動かすためには、情報環境の変化をもっとも感じているミドル層が率先して説得に当たる必要もありますね。

    第五世代は顧客中心主義をすべての部門で

    梅木:第五世代の場合はどうでしょうか。

    上島:第五世代は、会社全体で顧客を中心にしたデータが全て可視化・連携できている状態です。イメージしやすいプリンタのIoTデータを例にすると、顧客が購入したプリンタの稼働状況から、消耗品の残量、サポート期限切れ、あるいは故障予測まで含めて検知可能です。顧客から修理サポート依頼が来る前に、事前にお声掛けできる仕組みが実現できます。

    同様にマーケティング部門では、顧客データから導入設置している機種や製造番号・年月日から、入れ替え予測モデルが作れますので、新しい商品を提案するようなコミュニケーションもできます。しかし、ここでもいろいろなデータベースをOne IDで管理できていることが大前提となります。顧客を中心に、マーケティング、営業、生産、サポートなどの組織ごとの接点、顧客とのデジタル接点・リアル接点・IoTや取引商材など、それぞれのデータがつながっている状況をどう作り上げるのか、ビジョンや全体俯瞰図がなければ実現できません。

    重要な既存取引企業との関係を継続的に維持・発展させるために、OneID化への取り組みは必須となることは間違いありませんので、現在このプロジェクトにDXとして関わっている方は、悩んでいる真っ最中かなと思います。

    梅木:日本では、まだ第一世代、第二世代が多いですよね。第三世代でようやくファネルの管理ができるようになりますが、営業とマーケティング部門の壁があります。後半では、この問題に対して触れ、また組織としてマーケティングを根付かせるために辿り着いたひとつの解決策についてもうかがっていきます。

    ※当記事は2020年7月15日時点の情報を元に記事を執筆しております。

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