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    「求職者ファースト」時代のリクルーティング|元リクナビNEXT編集長に聞くポストコロナ時代の採用のあり方とは?[前編]

    最終更新日:2023年06月19日

    INDEX

    ポストコロナ時代の採用はどのように行うべきか。
    電通でB2B企業のリクルーティング案件を手掛ける、梅木 俊成(うめき・としなり)が、「リクナビNEXT」の元編集長で、現在はルーセントドアーズ株式会社代表取締役の黒田真行氏に、採用市場の現状、ポストコロナ時代の採用について伺いました。
    前編は、大きく変化する雇用について、そして採用の流れで主流となっているジョブディスクリプションについて解説していただきました。

    PROFILE

     
     

    欲しい人材と出会う機会を生み出すために欠かせない採用の手法が、今、大きく変化しています。検索最適化を目指すオウンドメディアリクルーティングやジョブディスクリプションが、ポストコロナの社会でどう変化しているのかを見ていきたいと思います。

    ジョブ型雇用はどこまで広がるのか

    2020年7月31日の日本経済新聞に、雇用の激震を告げる記事が掲載されました。KDDIが約1万3000人の正社員に、職務内容を明確にして成果で処遇する「ジョブ型雇用」を導入するというニュースです。日本を代表する情報通信企業における革新的な変化を象徴する内容でした。

    具体的には、ジョブディスクリプション(職務要件定義書)で社員の職務を明示し、年功にとらわれない評価で賃金に反映させ、有能な人材を柔軟に活用していこうというもの。一律20万円台だった新卒の初任給も、大学での研究分野をもとに、最大で2倍以上とするケースも想定するという斬新なプランとなっています。

    この決断の背景には、技術革新による事業環境の劇的な変化があると見られています。つまり、あらゆる日本の大手企業も同じ道を歩む可能性が高いことを示唆しています。

    リモートワークが急速な広がりを見せている中で、このニュースに代表される「ジョブ型雇用」は、具体的にはどのような雇用の形を指すのでしょうか。従来の日本型「メンバーシップ型雇用」と何が違うのでしょうか。

    メンバーシップ型雇用とは一般的に、新卒一括採用で総合的なスキルを求められる総合職採用を指します。それとは逆に、ジョブ型雇用は仕事の範囲を明確にすることで「より専門性を高める」採用を指しています。

    人材の柔軟な流動を促すと言われているのがジョブ型雇用の特徴で、重視されるのは「仕事内容に必要なスキルがあるかどうか」。学歴や年齢、社内文化とのマッチ度と言った抽象的なモノサシではなく、実務に即した基準で雇用が成立する合理的な形態と言えるかもしれません。

    また、会社単位での教育研修に依存するのではなく、自立して学習していくことが求められる点やセルフマネジメントがベースになるということから考えると、ジョブ型雇用はリモートワーク向きと言えます。

    メンバーシップ型雇用の限界

    日本で主流となってきたメンバーシップ型雇用は、「新卒一括採用」「年功序列」といった雇用慣行とセットで定着してきました。新卒一括採用型は職種を限定せずに総合職として採用する場合も多く、職種や仕事内容をローテーションさせて幹部候補人材を見極め、会社を長く支えていく人材を育てていく方針です。

    日本の企業は「年功序列型人事制度」を取ることで終身雇用をめざしていたため、会社へのロイヤルティの向上などのメリットがありました。その一方で、「専門職の人材が育ちにくい」といったデメリットもあるため、IT化の進む現代にそぐわないとされてきました。

    しかし、経団連会長の中西宏明氏がメンバーシップ型の雇用を見直すべき、と提言したことは時代の転換点となりました。その狙いは、「日本企業の国際競争力を上げるため」という一点にあると言えるでしょう。

    新卒一括採用型では専門職が育ちにくい、というデメリット。総合職として人事異動に振り回されていては専門分野を極めることも難しい。また、ダイバーシティの浸透も進んでいます。「子育てと両立しながらの勤務」「介護をしながら在宅勤務」「外国人労働者の受け入れ」など、大きな課題も控えています。

    日本社会が働き方の多様性を受け入れていくためにも、ジョブ型雇用が注目されています。

    企業がリクルーティングの主導権を持つ時代へ

    では、ジョブ型雇用の広がりは、採用のあり方をどう変えていくのでしょうか?

    中途採用マーケットは、長い間、求人広告や人材紹介などの有料サービスと、リファラル(縁故)やハローワークなどの無料経路が採用手法の主役でした。特に有料の採用支援サービスについては、戦後1940年代以降は、高度成長期からバブル期を含めて新聞や求人情報誌などの紙メディアを中心に発展してきました。

    しかし、2000年頃を境に、インターネット求人サイトへの転換、また、規制緩和を背景にした人材紹介サービスの急速な広がりを受け、外部の力をうまく活用して自社の採用戦略を実践していく流れが徐々に広がってきました。

    結果的に、採用業務の外部委託の依存度が高まり、リーマンショックの影響が2009年に底を打って以来、長期間右肩上がりを描いてきた景気回復期には採用コストの膨張と、それでも採用予定人数が充足しない採用難が続き、多くの企業の中で課題感が大きくなってきていました。

    2010年代に入ると、SNSの登場、スマホの普及、クチコミサイトの一般化など、ソフトとハード両面で人と企業の情報の非対称性が小さくなり始めます。企業が、従来型の求人サイトや人材紹介に頼らず、自社の公式SNSやウェブサイトを用いた発信で採用を実現していくことも可能になりました。これにより、採用の自前化、採用業務のイニシアティブの復活が一気に進み始めたのです。

    結果的にジョブ型雇用時代のリクルーティングは、外部への丸投げから、社内で主導権を持ってやり切るオウンドメディアリクルーティング時代の幕開けともなっています。その新たな採用の流れの中で、中心となっているのが、ジョブディスクリプションです。

    ジョブディスクリプションとは何か

    ジョブディスクリプションとは、日本語で言うと「職務記述書」と訳されるものです。従来の一般的な「募集要項」は、簡単な仕事内容や給料などの記載にとどまっていました。一方、ジョブディスクリプションはさらに詳細な情報を記述します。項目には下記のようなものがあります。

    ●職務に関するもの
    ・職務の内容
    ・職務の目的

    ●仕事の役割
    ・目標
    ・責任
    ・権限の範囲
    ・関わりを持つ社内外の関係性

    ●必要な能力
    ・技術・知識
    ・資格
    ・経験
    ・学歴

    上記の情報を詳細に記述することで「仕事の役割」と「必要な能力」の見える化を図り、求める人材が仕事を探す際の検索キーワードとしっかり合致させていきます。それは求職者とのミスマッチをなくすだけでなく、彼らの検索行動に対応して、適正な出会いの機会を増やすことにつながります。

    ペルソナ設定を軸にしたジョブディスクリプションの作り方

    では、実際にジョブディスクリプションはどのように制作していけばいいのでしょうか。

    求職者の仕事探しの検索行動は日々進化しています。かつては、金融、商社、メーカー……といった既存の業種や、営業や開発などの職種のカテゴリーから求人を絞りこんでいましたが、今は働き方やスキルなど個々の関心にそったワードをかけ合わせて検索し、合致する求人のジョブディスクリプションを閲覧するようになっています。

    その結果、自社で設定した求める人材像のペルソナが、検索窓にどんなキーワードを入れていくかを分析し、それを逆算してジョブディスクリプションを書く必要が高まっているのです。まさに、販促の世界では当たり前となっている、ユーザーの検索行動を意識したwebマーケティング技術と同じです。

    たとえば、メガバンクで法人向け営業をしている30代の男性を想定してみましょう。自分の勤める銀行で40代以上の希望退職募集があり、「明日は我が身」と将来不安を感じて転職を考えています。まったく畑違いの会社で働くのも不安なので、自身のスキルを活かしたキャリアを考えています。

    このようなペルソナが、どのようなキーワードで検索するかを想定します。考えられる検索キーワードは、下記のようなものです。

    ・30歳
    ・メガバンク
    ・金融
    ・営業
    ・法人向け
    ・東京
    ・卒業大学名
    ・M&A

    金融以外にどこで市場価値が発揮できるかがわからないため、同じ大学の卒業者がどんな企業で求められているか探るために「卒業大学名」などで検索する可能性もあります。あるいは自分が興味を持っている「M&A」などのテーマワードで検索することもあるかもしれません。

    このように、採用しようとしている人材像の心象風景について細かく考えることが必要になります。採用ペルソナに近しい人が社内にいれば、どんなキーワードで検索するかを聞いてみるのもいいでしょう。

    キーワードに即しつつ、ジョブディスクリプションの記載を充実させていく際は、下記のような軸にそって書くとよいと思います。

    ●採用企業に関する一般情報
    ・会社名
    ・職種名
    ・勤務地
    ・採用プロセス
    ・評価制度

    ●雇用条件
    ・給与
    ・雇用形態
    ・各種手当
    ・勤務時間
    ・休日・休暇
    ・福利厚生
    ・働く環境

    ●企業カルチャー
    ・企業ミッション
    ・部署・チームについて
    ・社員インタビュー

    ●職務情報
    ・仕事の目的・意義
    ・仕事概要
    ・仕事詳細
    ・プロジェクト例
    ・クライアント例
    ・募集職務の興味付け

    ●求められる能力
    ・必須経験・スキル
    ・歓迎経験・スキル
    ・求める人材像

    ここまで詳しく記述することを推奨しているのは、理由があります。
    簡易的な職種名が書かれているだけの求人要項では、実際に入社して仕事が始まった場合、そこに書かれていない仕事が発生するケースが少なくないのです。契約社会の欧米においては、当初の契約に書かれていない仕事をするためには、新たに契約を結び直さなければなりません。「総合職」採用時代の募集要項のように業務の範囲を曖昧にするのではなく、詳細なジョブディスクリプションによってしっかり定義することをめざしてほしいと思います。

    「求職者ファースト」で敬意と信頼を表す

    ジョブディスクリプションを記述する際のポイントは、採用する側の目線で考えるのではなく、「Job Seeker First(求職者ファースト)」で考えることです。

    もともと求人広告の募集要項は、求める企業側にとっての都合が優先される傾向があります。採用する側のほうが強い立場である「買い手市場」の歴史が長かったためです。

    企業側が求める人材の条件を一方的に羅列する、まさに「企業が求める人材の必要要件」を記述しただけのものです。しかし、これからの時代は、情報の非対称性が壊れ、企業自身が「自社が求めている人材」からいかに選ばれるか?という構造に変化していきます。つまり「企業が求める人材が希望する企業」であるかどうかをプレゼンテーションする必要があるのです。ジョブディスクリプションは、単なる人材要件や募集要項を伝達するだけではなく、求職者が仕事を通じて求める価値が手に入るかどうか判断するための情報でもあります。

    また、応募者への態度は、入社後の従業員への態度につながっています。ジョブディスクリプションは、企業が応募者に対して敬意と信頼をもって接していることを表す“会社の顔”でもあるのです。

    後編では、経営戦略と人事戦略のつながりのなかでジョブディスクリプションについて考えていきます。

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