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      法改正元年|男性育休という、可能性の宝庫 #3 男性育休。組織は、取得率より先に従業員の幸福を考えよう

      男性育休。組織は、取得率より先に従業員の幸福を考えよう

      こんにちは、電通の「パパラボ」です。さまざまな専門スキルを持つメンバーたちが、「父親の視点」から社会や組織の課題解決に向き合う活動をしています。
      2022年は、改正された育児・介護休業法が施行される年。本連載では、組織が男性の育休取得を推進するにあたっておさえておきたいトピックを、4つの視点(パート)に分けて紹介します。

      前々回前回の記事では、男性の育休取得を推進することが、「組織にとって」どうプラスに作用するのか、をお伝えしました。

      今回は、4つの視点の図における右上のパート。つまり、「従業員個人にとって」育休にはどんな意義・価値があるのかについてお話ししたいと思います。

      と、こう書くと、取得「させる」側である人事・労務担当のみなさんに向けた連載の主旨から逸脱していると感じる方もいるかもしれません。しかし次のように考えてみてください。

      「従業員の人生にとっての意義」こそが育休制度の本質でもあり目的でもある。人材をマネジメントする側が、これを正しく知ることに意味があるのだと。
      ここへの理解がなければ、どんなマネージャーや経営陣も、心から育児休業を推進することなどできず、本質的とは言い難い表面的な「数字(取得率)稼ぎ」に終わってしまいます。

      さて、「人生にとっての意義」とひとことで言っても、家庭人として、職業人として、社会人として、それぞれに異なる価値を見出せると思います。順に見ていきましょう。

      INDEX

      育休を、夫婦のためと考える/家庭・夫婦における価値

      重症を負った人が家にいて、あなたは放置するだろうか?

      男性従業員にとっての意義を語るとき、最初に考えたいのは、パートナーの心身の健康です。出産は、どんな出産も「命がけ」。子どもを産んだ直後の女性は、「重傷を負った怪我人」にたとえられることも多いですが、かくも大きなダメージを身体に負った状態のまま、子育てがスタートすることになるわけです。

      重傷を負った妻が家にいたとして、パートナーたる夫は、彼女ひとりに育児の大半を任せようと考えるでしょうか? 0歳児の命を、24時間体制で守る。そんな重労働を、重症なのに一人で負うことの過酷さを想像してみてください。

      負担は身体的なものにとどまりません。たとえば下図は夫の育休の取得状況にかかわらない一般的なデータですが、0歳の子を持つ女性の7割近くは、育児中に「孤独を感じる」と答えています。

      ※出典:fotowa家族フォト総研「コロナ禍のママの出産・育児と孤独に関する調査」(2021)

      これがエスカレートした先に、「産後うつ」も起こり得ます。産後2週間から数カ月の間は特に、心身が追い込まれやすい時期です。2018年の世界的な統計によれば、新しく母親になった女性のうち、約17パーセントもの人が産後うつを経験しているとも言われます(※)
      ※“Economic and Health Predictors of National Postpartum Depression Prevalence: A Systuatic Review, Meta-analysis, and Meta-Regression of 291 Studies from 56 Countries”(Jennifer Hahn-Holbrook, Taylor Cornwell-Hinrichs, Itzel Anaya 2018)による

      そんな時期に、「24時間体制で寄り添える」夫がいるかどうか、は大きな分かれ目になると思いませんか。 夫の育休はまず、ここで決定的に機能するのです。

      ※出典:K.Takehara, Y.Tachibana, K.Yoshisa, R.Mori, N Kakee, T.Kubo“Prevalence trends of pre-and postnatal depression in Japanese women: A population-based longitudinal study”(Journal of Affective Disoreders,2017)

      育児の「単調さ」を知ることにこそ意味がある

      ところで筆者自身は子どもが生まれる前、育児はさぞかし劇的なものだろうと想像していました。しかし実際には、赤ちゃんのケアは、単調といってもいいルーティンワークが24時間、毎日繰り返される。育休を通して思い知ったのは、むしろ「育児のドラマチックではない側面」でした。

      男性が育休を取らずに、育児を妻任せにした場合、赤ちゃんを見るのは朝や夜の限られたタイミングだけ。すると、育児のこの「単調」さに気づきにくいかもしれません。アサガオを1日に1回観察するだけの人は、どんどん伸びていくさまを単純に喜ぶだけで終わります。

      しかしアサガオの前にずっと居続け、終日観察するとなるとどうでしょうか。その変化のなさに飽き飽きすることはどうしても多くなる。
      母親だけがその「単調さ」を背負い、父親が劇的な成長だけを見るならば、そこに大きなズレが生じてしまうのは自然なことでしょう。

      もちろん、キラキラと眩しい驚きや喜びが育児にはある。しかし同時に、語弊を承知であえて言えば、この長時間の(朝と夜のあいだにある)退屈さこそ、夫婦で共有する意味があるものです。「病めるときも健やかなるときも共に敬う」ためにも。

      夫への愛情は必ず減る(問題はその先!)

      いまここに、男性にとってはすこしショッキングなデータがあります。その名も、「愛情曲線」。女性の、パートナーへの愛情は、結婚直後までは上昇していくのですが、それらは出産を機に、(子に対する愛情に取って代わられ)劇的に下落してしまうというのです。これは夫が育児に参加するしないにかかわらず、生物的に仕方ないこととも言われます。

      ※出典:夫婦の愛情曲線の変遷(東レ経営研究所)

      ただし、この下がった愛情をふたたび取り戻せるのか、あるいはどん底をめがけてさらに下降していくのか、は夫婦によって違う。というか、その命運を分かつのが、出産から乳幼児の時期にかけての夫の寄り添い方でもあるのです。
      前項で述べたように、妻が心身に深いダメージを負うとき、そこに夫がいるかどうか、が大きくものを言う。

      裏を返せば、夫が集中的に育児をすることで、夫婦・家族の未来を幸せなものにすることができる。育休は、その大きなチャンスです

      もちろん、育休は幸せのための手段にすぎません。それぞれの家庭にとって、取るだけでOKというものではないし、取らないからだめというものでもない。大事なのは「夫婦双方が納得している」ことです。そして手段にすぎないからこそ、それを望めばかんたんに選択できる職場でなければならない、というのが私たちの考えです。

      育児は仕事に活きるのか?/職場における価値

      育児は仕事の役に立つというけれど

      次に、育休が個人の仕事に与える好影響について考えてみたいと思います。

      まず、前回前々回の記事で語られている、組織にとってのプラス面。これらを従業員個人の側から見てみるとこう言えるでしょう。
      自分(や誰か)の育休取得が、働きやすい職場・柔軟な職場を育てていくための糧になるのだと。

      また、育休を通して集中的に育児に向き合うことで、結果的に、仕事におけるリーダーシップまでもが鍛えられるという側面もあるでしょう。育児と仕事を、相似形としてとらえることができるからです。育児はひとつの大きなプロジェクトであり、家庭はそれを動かすチームである、というように。

      ※出典:育児経験とリーダーシップ発達(『人材開発大全』中原淳 編、東京大学出版会、2017)

      「自分ならではの仕事」をあえて手放す意味

      しかし一方で、そんなに都合よく仕事にプラスになるものだろうか、という疑いの声もあるのではないかと思います。

      たとえば、仕事を属人主義から職務(ジョブ)主義へと変化させるきっかけに育休がなる、と前回の記事でも書かれている。でも個人の視点で見たとき、「自分の仕事は、そんなにきれいに職務主義に移行できるものではない」と感じる人は多いのではないでしょうか。
      実をいえば、コピーライターである筆者も職業柄そう感じることがあります。「ジョブ化できないからこその専門技術じゃないのか」「この仕事は自分以外の誰かがやると、成立しないだろう」と。しかしそんな思いを、筆者は次のように昇華しています。

      ① どこまで行っても属人性から切り離せない仕事(筆者の場合は、自分ならではのコピーや企画アイデア)は、確かにある。自分がやらなければそれは生まれない。

      ② しかし、自分と同じ職種(筆者の場合は、コピーライター)の人間は自分だけではない。

      ③ それならば、まったく同様の理屈で、自分ではない誰かにしか生み出せないものも、またある。それは彼や彼女にバトンタッチされてはじめて、為される仕事である。

      要するに、自分にしかできない仕事を手放すことが、誰かにしかできない仕事を創出する機会になるという考え方です。これは、「自分ならではの仕事」を行うことと同程度に意味があることだと思いませんか。

      時間感覚が変わると、仕事が変わる

      もうひとつ。育休を経たことで仕事にもたらされた良い変化は、仕事の「時間」を前よりも大事に扱うようになった、ということです。

      育休で集中的に育児を経験すると、復職してからも育児に割く時間を多く確保したくなる。多くの人は、いちど乗った船から自分だけが飛び降りる、とはなりにくいものです。
      そうして育児の優先順位が上がると、従来通りのすべてをこなしている時間などないため、本当にやるべき仕事と、そうでもない仕事を見極めるようになります。
      また、ここから先、この部分は人に任せよう、ちゃんと頼ろう、というメンタリティが芽生えます。チームが信頼関係で成り立つ以上、これは互いにとって良いことでしょう。

      ふだんの仕事の延長線上で働き方をがらりと変えるのはなかなか困難ですが、育休を経ることで生活観、価値観が劇的に変わり、ワークスタイルを見直したという話をよく聞きます。その意味で育休は、貴重なカルチャーショックの機会なのだと言えます。

      家庭進出も、ひとつの社会進出だ/「社会」観の変化

      会社ではみえない社会をみる機会

      育休の価値について、もうひとつ加えるものがあるとすれば、それは「社会との関係が強まる」ことです。

      ここで、あえてこう言ってしまいたいと思います。
      家庭進出だって、ひとつの社会進出である
      育休は、男性にとって新たな社会進出のためのチャンスである、と。
      仕事を休むことが社会進出?でも、そうなのです。

      たとえば筆者は、育休中に地域のコミュニティスペースに何度も足を運んだ結果、地元のNPO法人の方々や区の職員に、心強い味方ができました。これらは今でもつづく大切な関係です。育休後も、保育園の送り迎えを毎日するなかで仲良くなった保護者仲間がいる。人だけでなく、小児科、病後児保育施設、毎日通うようになったスーパー、などが、自分の日常を構成するようになる。最近では、地域のプロボノ活動(※)も行っています。
      会社よりもずっと広い「社会」が、自分の住む街にもある。育児を通して、ようやくそこに参加できた感覚が筆者には ありました。こんな手ごたえもきっと、会社をきちんと休んだからこそ得られたものです。
      ※「プロボノ」(pro bono)とは、ボランティア活動の一種。なんらかの職業的専門性を持つ個々人が、それぞれの知識・スキルを活かして社会貢献を行うものを特にこう呼ぶ。

      「保活」だってきっかけになる

      これはすこし副次的な話になりますが、共働き夫婦の場合、子どもを保育園へ入園させるためのあれこれ、いわゆる「保活」が必要となるケースも多いでしょう。そんなとき、時間とエネルギーを保活に投入するためにも、育休は有効です。

      保育施設のさまざまな情報を収集・整理したり、保活の作戦を練ったり、園見学に足しげく通ったり、といったデスクワークとフィールドワークはまるで仕事のようですが、これを夫婦ふたりのチームで集中的に行えるのは心強いし、悔いが残りにくい。
      保活を通して自治体の仕組みを知ること、奮闘の末に入園した保育園のスタッフたちと信頼関係を築くこと。これらも結局、(地域)社会とのかかわりを密にしてくれると言えそうです。

      育休は、未来をあたためる

      家族には、あらたな共通言語が必要だ

      さて、ここまで述べてきた育休の価値はどれも個人の幸福につながるものですが、なかでもやはり、家族・夫婦間のための投資という側面は特に大きいと考えます。生活の基盤である家庭のなかに安心と信頼関係があってこその、仕事であり、社会活動であるからです。

      子どもが生まれ、家族の形が劇的にリニューアルされる。そのとき、夫婦・家族の共通言語をアップデートしていくことで、家族がひとつになっていく。共通言語というのは言葉にかぎらず、夫婦間ですぐに通じるニュアンスであり、同じ温度感であり、共通の記憶でもあるでしょう。みずからの家庭について、互いに「ハイコンテクスト」になれることに大きな価値がある。どんな形の家族であれ、家族を家族たらしめるものは、「どれだけ一緒に同じ景色を見たか」ではないでしょうか。それを共にすることができるのが、育休なのです。

      育休は、育休期間だけにとどまらず、従業員の人生にその何十年も先までインパクトを及ぼすものだと言えるでしょう。

      育休は終わるが、育休効果は終わらない

      筆者は自著『男コピーライター、育休をとる。』(※)のなかでこう書きました。「育休こそは最強の出産祝いである、と。彼とその家族を、それは一生あたためる。」
      経営層やマネジメント職の方にこそ、このことを是非知っていただきたい。今回の記事の主旨もそこにあります。

      仮に従業員が1日だけでも育休を取れば、それは組織の育休取得率としてカウントされるでしょう。しかし当人にとっては、それでは本質的とは言い難い。
      量より質、なのはもちろんですが、とはいえ意味のある質を確保するためにも、取得「率」だけでなく、それぞれの取得期間をじゅうぶんなものにすることが欠かせません。できれば1ヶ月以上。その育休が育児の良き「入門」となり、門をくぐったあとに続く長い道を豊かにするはずです。

      そしてこの制度は、能力や実績に関係なく、父親なら誰でも等しく享受できるものである点も重要です。言うまでもなく幸せを追求する権利が全員にあり、企業は従業員のそれをフェアに守る義務がある、と言えるからです。

      とはいえ、従業員が育休を取るためにはまだまだ壁があるというのも事実。
      次回の記事では、冒頭で示した4つの視点の図における右下の領域、つまり従業員個人が障壁を乗り越えるためのヒントを紹介します。

      『男コピーライター、育休をとる。』(2018 大和書房)は、魚返洋平の著書。会社員である筆者による約半年間の育児休業体験記で、2019年に出版された。2021年夏には、WOWOWにて瀬戸康史主演で連続ドラマ化された。

      『男コピーライター、育休をとる。』(2018 大和書房)

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