
物価高や先行き不透明感が続くなか、消費は「必要だから買う」だけでは説明しきれなくなっています。何を選ぶかの背景には、その時々の気分や価値観、そしてまだ言葉になりきらない欲望があります。DENTSU DESIRE DESIGN(以下DDD)は、消費と欲望の関係を研究するために「心が動く消費」を対象に5年にわたって調査を続けてきました。
本ブログでは、2026年7月8日に電通と電通マクロミルインサイトが共催したセミナー「心が動く消費から見る 消費と欲望の5年変化」の内容を採録。5年間の調査から見えてきた消費と欲望の変化の一部をご紹介します。
※DENTSU DESIRE DESIGN(DDD)は消費者の欲望に着目し、独自のメソッドで、様々なマーケティングやコミュニケーションの戦略立案を行っているチームです。
→ “欲望”基点のマーケティング支援サービス「DENTSU DESIRE DESIGN(デンツウ・デザイア・デザイン)」
INDEX
PROFILE
DDDとは何か、なぜ「欲望」に注目するのか
まず第一章では、DDDがなぜ「欲望」を起点に消費を見ようとしているのかを整理し、「心が動く消費調査」から見えた変化について、電通マクロミルインサイト工藤陽子氏が解説しました。
工藤:DDDは2020年11月に発足した、電通と電通マクロミルインサイトによる消費研究組織です。私たちは、顕在化したニーズを後追いするだけではなく、その手前にある本当の「欲しい/したい」という気持ちに注目して、マーケティングにつなげる手法を開発してきました。人々の根底にある欲望を軸に、心が動く消費をつくることが私たちのミッションです。
<心が動く消費とは?>
お金を払って買った/した体験で、心が満たされたり、テンションがあがったり、
感動・刺激を受けたなど、「良い気分・気持ち」を得ることができる買い物や消費行動

欲望は、もともと人間が持つ根源的な欲求と、社会や環境、時代によって変わる価値観が掛け合わさって生まれるものだと私たちは考えています。たとえば欲求といえば「マズローの自己実現欲求」が有名ですが、自己実現欲求も、ある時代には「成功したい」、別の時代では「自分らしさを出したい」と、欲望のあらわれ方は時代や社会によって変わります。だからこそ、その時々に表出されるニーズだけではなく、その背景にある欲望からきちんと捉えることが重要と考えています。
消費と欲望の関係を研究するために、私たちは2021年から「心が動く消費調査」を実施しています。

「心が動く消費調査」で見えた、5年間の消費変化
ここからは、調査で見えてきた5年間の変化です。2021年のコロナ禍から、その後の行動制限の緩和、物価高へと生活環境が大きく変化するなか、「心が動く消費」がどう動いたのかを見ていきます。
調査では、心が動いた買い物・体験・コンテンツをそれぞれ聞いて、それを足し上げて「心が動く消費」がどれくらいあったかを見ています。

心が動く消費のボリュームは、コロナ禍から回復し、物価高の波で下がりながらも、最近はまた少しずつ上がってきています。つまり、物価高が強くなるたびに落ち込むものの、消費者の中では再び持ち直す動きが見える、ということです。
心が動く消費の内容は何かと見ていくと、最新の第12回調査(26年5月実施)の心が動いた消費の上位は「外食、映画、レジャー、旅行」ですが、具体的な内容は分散しています。

消費の背景にあるニーズは、どう変わったのか
では、その消費の背景にはどのようなニーズがあるのでしょうか。時系列で「心が動いた消費で満たしたい欲求」の特徴をみるとこうです。
結論からいいますと、5年間の流れを大きく捉えると、消費者のニーズ(消費で満たしたい欲求)は、コロナ禍の「環境の充実」から、コロナ明け以降の「心の防衛」、そして現在の「体感的充足」へと、重心が移ってきたと考えられます。

具体的に見ていきます。
時系列で、心が動く消費で満たしたい欲求、つまりニーズの上位においては、コロナ禍では「快適に過ごしたい」が上位。コロナ禍での消費は身の回りの環境を整え、日々を快適にする『環境の充実』が望まれていました。その後、コロナ禍が明けて物価高が進むと、「リラックスしたい・のんびりしたい」が相対的に強まります。

さらに、「心の健康を大事にしたい」「安心して平穏に過ごしたい」も上昇し、2023年ごろにピークを迎えました。環境そのものの快適さから、不安や負担から心を守り、穏やかな状態を保ちたいという『心の防衛』がより強くあらわれるようになったのではないかと考えられます。ただ、物価高が続くなかで、こうした『心の防衛』欲求も徐々に減少していきます。

物価高が恒常化する中上昇したのが「おいしいものを食べたい・飲みたい」「はまりたい・没頭したい」です。特に「はまりたい・没頭したい」はじわじわと上昇し、直近が最も高くなっています。心を穏やかに保つことから、今この瞬間を実感できる楽しさや充足へ。消費に求めるものが、より『体感的充足』へと変化しつつあることがうかがえます。

こうして5年間を振り返ると、消費者のニーズは、『環境の充実』や『心の防衛』から、より『体感的充足』や没頭へと移っているのではないでしょうか。
この後ウェビナーの第1章では、そのニーズの変化の解釈として、根源的欲求と価値観の変化、ニーズの背景にある欲望の変化を読み解きました。
続いては、消費者調査だけでなく消費トレンドも含めて「欲望の潮流」を見ていきます。
5年の変化から見えてきた、欲望の潮流
第二章では、第一章で見てきた5年間の調査結果だけではなく、消費トレンドも含めて消費者の欲望の変化を捉えます。ここからは、3〜5年ほどの単位で変化する「欲望の潮流」を、電通の千葉貴志が解説します。
千葉:DDDでは、2022年から毎年、消費分析と欲望トレンド予測を続けてきました。今回は調査結果や社会変化、AIの浸透も踏まえ、3つの「潮流」をご紹介します。

潮流1:「らしさ」の相互生成
かつては、ブランドが提示する理想に自分を近づけることが、消費の一つのあり方でした。その後、ブランドを自分なりに選び、組み合わせ、編集して使う動きが広がり、現在はさらに、消費者とブランドが互いに影響し合いながら、それぞれの「らしさ」を更新していく関係へと変化しています。

こうした変化は、近年のレトロブームや推し活、カスタマイズ、界隈といった動きにも表れています。消費者の間で生まれた楽しみ方や解釈を、ブランド側も復刻版やコラボ、商品開発、コミュニケーションなどに取り込み、それをまた消費者が自分なりに使いこなしていく。こうした相互関係によって、「らしさ」がスパイラル状に更新されています。
レトロブームや推し活、界隈など、近年の消費トレンドについては、こちらのブログでも詳しくご紹介しています。
日経トレンディとDDDが欲望視点で紐解く2024年のヒット商品とは?
たとえば「空港ファッション(※)」では、スポーツ・フィットネスブランドの服を空港でリラックスして過ごすためのおしゃれな装いとして消費者が再解釈し、その文脈を受けてブランド側も商品開発やコミュニケーションを行う動きが見られます。ブランドが一方的に意味を与えるのではなく、消費者との往復によって意味が更新されていくことが、この潮流の特徴です。消費者をターゲットではなく創作者として捉えることが、この潮流における重要なマーケティングの視点です。

※空港ファッション:芸能人やモデルなどが飛行機に乗る時に見せる、ラフでおしゃれな私服ファッション
だからこそ、ブランドには意味を完成させて渡すのではなく、消費者が解釈を足せる余白をつくり、その反応を次の商品やコミュニケーションへ返していく姿勢が求められます。

潮流2:素材化する「メジャー」
かつて、メジャーなものは多くの人が同じように楽しみ、共通の話題とすること自体に価値がありました。人々は同じものを見て盛り上がることで、社会との接点を得ていたともいえます。

現在も、広く支持されるコンテンツや人物がなくなったわけではありません。ただ、その受け取られ方が変化しています。消費者はメジャーなものをそのまま受け入れるのではなく、自分なりの意味や接点を見つけ、自分自身のための資源として取り込むようになっています。
例えば、大谷翔平選手に前向きな力や成功のエネルギーを感じる人。万博の公式キャラクター「ミャクミャク」のように、SNSなどで周囲の熱量やさまざまな解釈に触れるうちに気づけば好きになっている、という現象もあります。『鬼滅の刃』のような超ヒット作品でも、好きなキャラクターや共感する文脈、楽しみ方は人によって異なります。
消費者は、自分なりの解釈や推し、共感できるポイントを起点に対象との関係を築き、ときには意味づけや盛り上がりの形成にも参加しています。つまり、メジャーなものは、誰もが同じように楽しむ「共通体験」から、一人ひとりが異なる接続を持てる「共通素材」へと変わってきているのです。
だからこそ、マーケティングでは、メジャーなものや定番ブランドを「もう新しいことができない存在」と捉えないことが重要です。消費者は、それをただ追いかけるのではなく、「自分に何をもたらしてくれるのか」という視点から、自分を変化・更新するための資源として取り込んでいます。ロングセラーブランドや定番ブランドも、新たな意味や接点を生み出す起点になり得る。長く蓄積してきた資産があるからこそ、新たなチャレンジができる時代だと考えられます。

潮流4:直感消費
2000年代初頭は、インターネットの普及によって、情報を集め、自分で比べて選べること自体が消費者にとって大きな価値でした。そういった「比較検討」は消費者の購買プロセスにすっかり定着しましたが、その一般化と積み重ねによって「失敗したくない」という心理も当たり前のものになりました。現在はAIに相談して選択肢を絞ることも増えていますが、情報があふれ、正しいものや信頼できるものを見極める心理的・時間的な負担は、過去と比べて大きくなっています。
こうした中で見えてきているのが、すべてを比較して「ベスト」を選ぶのではなく、「そこそこの正解ならキープする」、あるいは「違うと感じたらすぐに候補から外す」という選び方です。だからこそ、少ない情報からパッと見て、自分の直感で判断する「目利き力」が重要になっています。
マーケティングでは、まず直感的に「なんだか違う」と弾かれないブランドイメージや誠実さを保ち、そのうえで商品やブランドを「自分向けだ」と感じられる魅力をつくることが重要です。AIがさらに進化していく過程において、という条件付きではありますが、当面はこの二つを丁寧に両立する視点が求められます。

※本記事でご紹介した3つ以外の欲望の潮流『レトロと最新のミックストレンド化』
『「パ」のイノベーション』『等身大化するAI』についても、詳しい解説をご希望の方はお気軽にお問い合わせください。
まとめ
今回のウェビナーでは、消費者が「何を買うか」だけでなく、「なぜ今それを選ぶのか」という背景に、欲望の変化が表れていることを見てきました。物価高や先行き不透明感が続くなかで、消費者の関心は、環境の快適さや心の安定から、今この瞬間に感じられる楽しさや充足へと重心を移しています。さらに、ブランドとの関係も一方通行ではなく、消費者が意味を加え、ブランドがそれに応答することで更新される時代になっています。
DDDでは、こうした変化を捉えるために、人の行動の背景にある「欲望」を体系化し、実際のマーケティングにも活用しています。たとえば、欲望を起点とした商品開発、消費者データをもとにしたAIペルソナによる定性調査、行動データと欲望を掛け合わせた顧客分析など、さまざまなソリューションを展開しています。「何が売れるか」だけでなく、「どんな気持ちが人を動かしているのか」から考えることで、商品開発やコミュニケーションの新たな切り口を見つけることができます。
自社の商品・サービスや顧客理解を、欲望という視点から捉え直したい方は、DENTSU DESIRE DESIGNのソリューションもぜひご活用ください。




