
技術には自信があり、研究成果も蓄積されている。それでも、新たな事業や事業成長につながらない――。研究開発に取り組む企業では、こうした課題が生じることがあります。
その原因は、必ずしも技術や研究成果そのものにあるとは限りません。技術が持つ価値をどう捉えるか、その可能性をどのような用途や市場へ広げるか、部門を越えてどう事業機会を検討するか、そして事業化に向けた意思決定へどうつなげるか。「技術」と「事業」をつなぐ過程のどこかに、事業化を阻む「詰まり」が生じている可能性があります。
この記事では、技術や研究成果が事業化につながらないときに確認したいポイントを4つに整理します。すでに市場調査や事業化の検討を進めている場合も含め、自社ではどこで技術と事業の接続が途切れているのかを考えていきます。
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技術や研究成果の事業化で、まず確認したい4つのポイント
技術や研究成果が事業化につながらない場合、研究開発そのものに問題があるとは限りません。
技術価値の捉え方、用途や市場の探索、部門を越えた事業機会の検討、事業化に向けた意思決定など、どの段階で前進しにくくなっているのかを切り分けることが重要です。
| チェックポイント | 確認する視点 | |
|---|---|---|
| 1 | 技術価値の捉え方 | 機能や性能だけでなく、開発背景や蓄積した知見にも目を向け、その技術だからこそ生み出せる価値を捉えられているか |
| 2 | 用途・市場の探索 | 既存用途や市場にとらわれず、顧客・生活者の課題や社会の変化を起点に、幅広く探索できているか |
| 3 | 部門を越えた事業機会の検討 | R&D・事業部門が技術と市場の情報を持ち寄り、誰にどんな価値を提供するかという事業仮説までつくれているか |
| 4 | 事業化に向けた意思決定 | 次の意思決定に何が必要かを明確にし、「何を判断するために、何を検証するか」まで設計できているか |
1. その技術ならではの価値を、十分に捉えられているか
技術の性能や機能、新規性は、その技術を理解するうえで重要です。一方、事業化を考えるには、「何ができる技術なのか」に加えて、「その技術だからこそ生み出せる価値は何か」まで捉える必要があります。
技術には自信があるのに事業化の糸口が見つからない場合は、技術の優劣を改めて評価するのではなく、その技術が持つ価値を十分に引き出せているかを見直してみます。
その際、性能や機能だけでなく、なぜその技術を開発してきたのか、開発過程でどのような知見やノウハウが蓄積されたのか、他の技術では代替しにくい特徴は何かなど、技術を取り巻く要素まで目を向けます。
現在の用途から一度離れ、「この技術だからこそ実現できることは何か」と捉え直すことで、特定の製品や用途に縛られず、技術の可能性を広く考えやすくなります。
2. 技術の用途や市場を、最初から狭く決めていないか
研究開発の段階から想定していた用途や、自社がよく知る既存市場を起点に事業化を考えることは自然です。しかし、「この技術はこの用途」「顧客はこの業界」といった前提が強すぎると、別の可能性を見落としてしまうことがあります。
市場探索が行き詰まったときは、候補となる業界を増やすだけでなく、いったん技術から視点を離れ、顧客・生活者が抱える課題や社会の変化から事業機会を探索することも一つの方法です。世の中で生まれている課題やニーズを起点に考えることで、従来の用途や自社がよく知る業界とは異なる領域にも、自社の技術を生かせる可能性が見えてくることがあります。
一方、自社にとって馴染みの薄い市場ほど、「可能性はありそうだが、本当に自社が進むべき市場なのか」を判断しにくくなります。その場合は候補市場を増やすこと自体を目的にせず、技術が提供できる価値との適合性、自社の強みを生かせる可能性、事業として取り組む意味など、複数の観点から検討することが重要です。
3. R&D部門と事業部門が、事業機会を一緒に検討できているか
R&D部門から技術情報を共有し、事業部門から市場情報を返す。それだけでは、具体的な事業構想に進まないことがあります。重要なのは、双方の知見を持ち寄り、「この技術からどのような事業機会をつくれるか」まで一緒に検討できているかです。
例えば、「誰の、どのような課題に応えるのか」「その技術だから提供できる価値は何か」「自社が取り組む意味はどこにあるか」といった問いについて、それぞれの知見を持ち寄って仮説をつくります。
ここで目指すのは、その場で正解を決めることではありません。技術と市場について別々に持っていた情報を、一つの「事業仮説」として言語化することです。仮説ができれば、市場についてさらに確認すべきこと、技術面で検証すべきことも具体化しやすくなり、次の検討や意思決定へ進む材料になります。
もちろん、部門間の連携が進まない背景には、組織体制や役割分担など、より構造的な課題がある場合もあります。会議や情報共有の有無だけではなく、部門間の対話が実際の事業検討につながっているかを確認することが重要です。
R&Dと事業部門の接続や、事業化に向けた意思決定についてさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もご覧ください。 AI時代にR&Dを事業成長へつなぐには? 電通が語る「3つの壁」とコアコンピタンス起点の突破法
4. 事業化に向けた判断材料を揃え、意思決定につなげられているか
有望な用途や市場が見え、事業アイデアが具体化しても、「本当に進めるべきか」という判断材料が不足していれば、検討やPoC(概念実証)を重ねるだけになりかねません。
この段階では、まず「次の意思決定に、何が分かっている必要があるか」を明確にします。そのうえで、市場・顧客に受け入れられる可能性、自社の強みを生かして実現できるか、事業として成立する可能性など、事業機会に応じて検証すべき論点を定めます。
大切なのは、「何を検証できるか」から考えるのではなく、「何を判断するために、何を検証するのか」から逆算することです。検証の目的と、その結果によって行う意思決定をあらかじめ結びつけることで、検証そのものが目的になることを避け、次の事業判断へ進みやすくなります。
技術や研究成果が事業化につながらないときは、「技術が足りない」「市場性がない」と早い段階で結論づけるのではなく、ここまでの4つの観点から、技術から事業化へ向かうプロセスのどこで前進しにくくなっているのかを見極めることが重要です。
技術アセットを事業成長につなげる「R&D For Growth」

電通では、技術起点の事業成長を支援するプログラム「R&D For Growth」を提供しています。
「R&D For Growth」では、保有する技術アセットを棚卸しし、その技術ならではの価値を捉える「技術価値リ・フレーミング」、技術の価値を起点に新たな市場や事業機会を探索する「市場オポチュニティ・モデリング」などを通じて、技術と市場・事業との接続を支援します。
特に、「技術には自信があるが、事業化への突破口が見つからない」「これまで市場や用途を検討してきたものの、新たな可能性を見いだせずにいる」といった場合には、現在の用途や既存市場の延長だけで考え続けるのではなく、技術が持つ価値の捉え方や、市場機会との組み合わせを改めて検討することが一つのアプローチになります。
技術や研究成果をどのように事業成長につなげるかお悩みの場合は、「R&D For Growth」の詳細をご覧ください。

【よくいただくご質問】~技術・研究成果の事業化に関して~
Q1.新しい事業機会が見つからないとき、どのように考えればよいですか?
新しい用途を考えるとき、候補となる市場や業界を増やすだけでは、発想が現在の用途の延長にとどまってしまうことがあります。
そこで一つの方法になるのが、技術の捉え方の抽象度を一段上げ、現在の用途からいったん視点を離すことです。「何ができる技術なのか」だけでなく、「その技術だからこそ、どのような価値を実現できるのか」と捉えてみます。
さらに、市場探索では、自社技術の価値から発想を広げるだけでなく、いったん技術から視点を離れ、顧客・生活者が抱える課題や社会の変化を起点に事業機会を探ることも一つの方法です。そうすることで、現在の製品や用途の延長では見えにくかった新たな事業機会も、検討対象として見えてくることがあります。
Q2.自社にとって馴染みのない市場が候補になった場合、どう判断すればよいですか?
馴染みのない市場では、自社内に経験や判断基準が十分にないため、市場規模や成長性だけを見ても参入すべきか判断しにくいことがあります。
その場合には、技術が提供できる価値と顧客の課題がどの程度合っているか、自社の技術や資産がその市場で優位性になり得るか、事業として参入するうえでどのような障壁があるかなど、自社なりの判断軸を置いて比較することが重要です。
「知らない市場だから避ける」のでも、「成長市場だから進む」のでもなく、自社の技術価値との関係から評価する必要があります。
Q3.R&D部門と事業部門で意見が一致しない場合、どう進めればよいですか?
最初から結論を一致させることを目指す必要はありません。
まず、「誰にどのような価値を提供する事業なのか」という共通の事業仮説を置き、そのうえで、どこについて意見が分かれているのか、何がまだ分かっていないのかを明確にします。
例えば、市場の受容性について見方が違うのであれば顧客検証へ、技術的な実現性について判断が分かれるのであれば技術検証へ、と論点を検証可能な形に変えることができます。
意見の違いそのものを問題にするのではなく、「次に何を確かめれば判断できるか」へ変換することが、事業化を前へ進める一つの方法です。
Q4.研究成果の事業化では、どの段階で外部パートナーを活用するとよいですか?
特定の段階で必ず必要になるものではありません。
例えば、自社内だけでは技術の新たな価値を見つけにくいとき、これまで経験のない市場を探索するとき、複数の事業機会から進む方向を判断するための視点が不足しているときなどは、外部の知見を取り入れる意味が大きくなります。
外部パートナーを活用する目的も、調査や作業の代行だけではありません。自社内では前提になっている技術の見方や市場の捉え方に、別の視点や判断軸を持ち込むことにも価値があります。



