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    『情報メディア白書』が解き明かす新しいメディア潮流[前編] ~その先に見えた「カジュアル動画視聴」の眺望より~

    最終更新日:2023年06月19日

    INDEX

    テレビ・新聞・出版など13分野に及ぶ情報メディア産業の最新状況を、圧倒的なデータ量と分析力によってレポートするデータブック『情報メディア白書』。恒例となっている巻頭特集では、その時々の新しいメディア潮流を鮮やかに描き出しています。

    その最新版『情報メディア白書2020』では、若者のメディア接触行動における新しい動きを具体的に紹介しています。『情報メディア白書』を手掛ける電通メディアイノベーションラボの美和晃さんに、書籍では言い尽くせなかった動向にも踏み込んで聞きました。

    PROFILE

     

    ラジオが10代にとって「頼れるメディア」に

    『情報メディア白書2020』では、「人々のメディアへの向き合い方は、40代が分水嶺になっている」と考察しています。これはどのように導き出されましたか。

    美和:これはメディアを74の分野に分け、それぞれについて「あなたにとってどれくらい頼りになっているか」を聞いた調査がもとになっています。回答は「かなり頼りになっている」「まあまあ頼りになっている」「どちらでもない」の3段階から選んでもらい、12のカテゴリカル因子を抽出しました。統計的な処理により、12の共通要素へ分類したのです。

    頼りになっているメディアや情報源

    すると、やはり中高年層ほどテレビ・新聞・雑誌などのいわゆる従来型メディアを頼りにしていることがわかりました。これに対して若年層はSNS、ネタ・まとめサイトといったネット系メディアを頼りにしている度合いが高い。そして、両者の狭間に位置する40代は、まさに新旧メディアの両方をまんべんなく頼りにしていることがわかったのです。つまり40代を境にして、そこから下の世代ほどデジタル系のメディアにシフトしている。

    ただ、その中には驚くべき因子が1つありました。

    驚くべき因子とは?

    美和:「ラジオ・ライブ動画配信」というメディア因子があったことです。ラジオといえば、もともとはアンテナのある専用受信機や車載機で聞く従来型のメディアです。それと新しいメディアの代表であるライブ動画配信が、なぜか一つのメディア因子としてくくられてきたのです。統計的な処理によって類似の回答パターンが自動的にくくられるので、主観は全く入っていません。さらに驚かされたのが、頼りにされている度合いを示すスコアでした。

    カギは10年前の「デジタル化」だった

    美和:ラジオのスコアは60代・50代では高く、40代・30・20代と世代が下がるほどマイナスに振れていきました。そこは納得できますよね。平均すれば、年配世代ほどラジオを頼りにしている、と。ところが15~19歳の層に限っては、スコアが「頼りにしている」方へ大きく振れていたのです。10代の人たちからラジオが頼りにされているというのは、いったいどういうことでしょうか?

    そこで、あっと気付いたのです。15~19歳の人にとってのラジオというのは、アンテナを立てて聴くものではなく、スマホでネットを介してストリーミングで聴く音声メディアなんだなと。つまり彼らの間では、ラジオが従来の位置付けとはぜんぜん違うネット配信メディアに変わってしまっていると解釈できるのです。

    思えば今年でradiko(ラジコ)が始まって、ちょうど10年になります。デジタル化の取り組みを10年続けると、新しいメディアとして従来とは全く違う層のユーザーを開拓できる可能性があることを、この調査結果は示唆していると思います。

    また『情報メディア白書2020』では、テレビ・新聞・雑誌などの従来型メディアの影響力は下がっているものの、いまなお大きな役割を果たしているとも考察しています。

    美和:はい。2019年の秋に、先ほどの「分水嶺」以下の世代、つまり15歳から49歳までの若い世代のメディア接触について改めて調査しました。3つのことが順番に分かってきました。

    まず、多くの人が興味を持つ領域では、一人ひとりのレベルでも日ごろから関心を向けやすい、ということです。たとえば近年盛り上がりを見せている<スポーツ>や毎日の<買い物>や<天気>など、関心を持つ人の層が“広い”ほどその興味関心を向ける頻度レベルも“高い”ということが分かりました。

    その通りというか、むしろ当たり前という感じもしますが?

    ところが、次に、興味関心層の<広がり>をもたらしているのは、その領域をいつも気にかけている高い興味関心レベルの人々ではなく、「情報を見聞きすると興味関心を呼び覚まされる」という、いわば“待ち受け”型の興味関心状態にある 人々だということが分かりました。いつも気にかけるほどでもない“ほどほど”レベルの興味関心層の<広がり>がまずないと、興味関心レベルの<高まり>にもつながらない、というダイナミックな関係があったのです。

    3つめに、若い世代は、メディアのおかげでこの“ほどほど”レベルの関心状態をキープできることについて数多くのメリットを感じていることが分かりました。メディア接触と特に強く結びつくメリットとしては、「自分でも試したい、やってみたい」と思える刺激を得たり、「社会の動きを正しく理解」したり、「物事を考えるきっかけや助け」としたり、「買い物やサービス利用の参考に」できる、といったものがありました。

    『情報メディア白書2020』では、この調査を通じて、若い世代にとっても、これらのメリットは主に従来型メディアが大きな役割を果たすことによって感じられていることも明らかにしました。

    「カジュアル動画視聴」という新しい文化

    美和:にも関わらず、若い世代はなぜ従来型メディアに向かわず、SNSに向かうのか。そこにこそ、いま従来型メディアが抱える課題があると考えます。まず言えることは、そうした従来型メディアに由来するコンテンツが、まだインターネット上に充分に提供されていないため、若年層にしっかりリーチできていないということです。だからこそ「新しい情報はSNSで知り合いや有名人から知ればいいや」となっているのではないかと。

    ただし、若年層へリーチするためには、これまでも行われてきたような、従来型メディアの番組や紙・誌面をそのままデジタルで配信するといったアプローチを加速させるだけでは、充分ではありません。

    では、どうすれば若い世代に真にリーチし、これからの令和の荒波を乗り越えていけるのか。『情報メディア白書2020』を刊行したいま、私たちチームに見えてきた新しい眺望を「カジュアル動画視聴」というキーワードでご紹介したいと思います。『情報メディア白書2020』をお読みいただく上で、きっと大きなヒントになると思います。

    カジュアル動画視聴とは、どんなものですか。

    美和:ここから先は、『情報メディア白書2020』には含まれていませんが関連が深いお話しをします。2019年に行われた電通オリジナル調査で、15歳から29歳の若者にYouTubeでどんなジャンルを視聴しているかをフリーワードで回答してもらい分析したところ、129のジャンルに分類することができました。

    それを見てみると、たとえば美容・メイク・ファッションという大カテゴリーの中に「プチプラメイク」(可愛いけれど値段も安い化粧品やそれを利用したメイク術)というジャンルがあったり、音楽・アーティストという大カテゴリーの中に「作業用BGM」というジャンルが存在したりと、従来のテレビ番組のジャンルにはない、新しいジャンル分け=インデックスが成り立っていることがわかりました。

    動画はジャンルよりもフォーマットで選ぶ

    美和:そして、それを共起分析というものにかけ、どんなジャンル同士が同じ人に観られているのかを調べたのがこちらです。

    YouTune視聴へのさまざまな入り口

    特に興味深かったのが、ドラマや映画の「名場面・まとめ動画」を観ている人たちと、テレビ番組や映画の本編を観ている人は、実はあまり重なっていなかったことです。同じドラマや映画なのに、おかしいですよね。

    そこで、さらにカテゴリカル因子分析を行い、あらためて10のカテゴリーに分けてみたところ、やはり「映画や番組の名場面・メイキング・まとめ」と「番組・映画の本編動画」は、それぞれ独立したカテゴリーに分かれました。動画を選ぶ際には、映画・音楽・スポーツといったジャンルで選ぶのが普通だろうと思われがちですが、YouTubeでは、“本編”や“名場面・メイキング・まとめ系”といった「フォーマット」志向で選ぶ若者が多いことがわかりました。そういう人は、同一フォーマットの中でいくつものジャンルを横断して観ているわけです。これが非常に面白い発見でした。

    他に「学習・資格・ノウハウ動画」が独立したフォーマットとして抽出されたことからも、同じことがいえます。英語、法律といったジャンルで分けるのではなく、“ノウハウ動画”というくくりのイメージで複数ジャンルを横断して視聴する人たちが多く存在する。こうした若者の間で見られる動画視聴の新しいスタイルを「カジュアル動画視聴」と呼ぶことにしました。

    カジュアル動画視聴という動向をふまえると、今後テレビなどの従来型メディアにはどんな施策が適切だと考えますか。

    美和:従来のテレビ放送型の視聴スタイルとカジュアル動画視聴の両方に重心を置いた施策がポイントになってくると思います。以前であればテレビ放送の完成度の高いコンテンツを中心とした映像文化が圧倒的に強く、一つの正円の形が成立していたものが、カジュアル動画視聴というもう一つの重心が加わることで、楕円形になるイメージです。そこで、それを「楕円型映像文化」と呼んでみました。今後、このような映像文化を見据えた取り組みが重要になると考えます。

    楕円型映像文化を見据えた取り組み

    放送文化の60年の資産を活かせる設えを

    楕円型映像文化を見据えた取り組みとは、具体的にどんなものですか。

    美和:たとえばテレビ放送用に制作したものをそのまま流用するのではなく、“名場面・メイキング・まとめ系”をはじめとするダイジェスト的なフォーマットにしてネット配信する、などが挙げられると思います。それを提供するプラットフォーム自体を、若者がカジュアルに観られるようなものにするという方法も考えられます。

    後者の方法であれば、テレビ業界には局の境を超え、視聴者の間に放送という大きな一つの文化を60年間にわたり作ってきた蓄積があります。そこで、たとえば民放テレビ局共通のテレビポータルであるTVer(ティーバー)のように、各局共通のプラットフォームをカジュアル動画視聴向けに作るのも一つのやり方ではないでしょうか。あるいはTVerのような既存の共通メディアの中に、別働隊として新たにカジュアル動画視聴用のプラットフォームを設けるのも一手でしょう。

    現状の動画プラットフォームの中に各局が単独で入っていくだけではなく、各局が協調路線をとり、放送文化が積み上げてきた資産を活かしながら勝負できるプラットフォームをしつらえる。そこを基点に、カジュアル動画視聴に慣れ親しんだ層にフィットする仕様の動画をどんどん発信していく。今後はそんな戦略が、一つの重要なカギになるのかなと思っています。

    後編では、カジュアル動画視聴のような新しい潮流が、どのような着想から解き明かされるのかに焦点を当てます。そこには驚きの手法と、独自のスタンスがありました。

    ※当記事は2020年6月1日時点の情報を元に記事を執筆しております。

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