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    『情報メディア白書』が解き明かす新しいメディア潮流[後編] ~分析力と中立的視点でシンクタンクの役割を担う~

    最終更新日:2023年06月19日

    INDEX

    テレビ・新聞・出版など13分野に及ぶ情報メディア産業の最新状況を、圧倒的なデータ量と分析力によってレポートするデータブック『情報メディア白書』。恒例となっている巻頭特集では、その時々の新しいメディア潮流を鮮やかに描き出しています。

    後編では、前編で紹介した「カジュアル動画視聴」のような新しい潮流が、どのように解き明かされるのかに焦点を当てます。キーワードは「独自の分析力」「中立的なスタンス」にありました。

    前編はこちら

    PROFILE

     

    4つのナレッジを横断しながら価値を提供

    『情報メディア白書』を制作する電通メディアイノベーションラボとは、どんなセクションですか。

    美和:電通メディアイノベーションラボは、メディアや広告に関する研究調査とその発信を行っている部署で、シンクタンクの位置づけで活動しています。活動内容としては、主に4つの柱があります。

    1つめが、日本の総広告費と媒体・業種別の広告費を推定した日本の広告費」の調査分析。これは1947年より続く事業です。

    2つめが、今回取り上げた『情報メディア白書』です。こちらは年に1回の発行で、1994年から四半世紀以上も刊行が続いている、弊社としては大きな出版物になります。同書に関連するセミナーを行ったり、関連記事をメディアに寄稿したりもしています。

    3つめは、メディアビジネスの環境を分析・展望するCOMPASS(コンパス)というプロジェクトです。こちらはメディアビジネスに関する知見を開発し、媒体社向け提案に活用したり、総務省の有識者会議などの場で提言を行ったりしています。

    そして4つめが、オーディエンスインサイト開発という領域です。こちらはメディアの受け手であるオーディエンスの動向を、行動と意識の両面から踏み込んで把握し、開発したソリューションによるクライアント提案など様々な場面で役立てるプロジェクトです。

    ただし4つの区分けは便宜上のもので、それぞれの知見をシンクタンクとしてどこにでもご提供しますし、4つを横断的にミックスして展開することが多いのが実情です。

    約5千人・15分毎・一週間分の生活行動記録をまるごと分析

    『情報メディア白書』は、特にどんなところからのニーズが高いですか。

    美和:同書のコンテンツの解説を中心としたセミナーを年1回開いていまして、そこには日本を代表する企業の幹部クラスの方々によくお越しいただいています。あとは媒体社の方々も多いです。特にセミナーに来られる放送局の方々は、実際に本書の読者になってくださるケースも多いです。

    あとは、意外と投資関係者からのニーズも多いです。投資に活かすべく、メディア業界の成り立ちや商流、市場動向を俯瞰したデータをつかみたいというご要望を多くいただきます。

    『情報メディア白書』をはじめとして、電通メディアイノベーションラボの調査・分析の手法にはどんな特徴がありますか。

    美和:たとえば、これはCOMPASSのプロジェクトの一部なのですが、2018年にビデオリサーチと共同で現代人の「メディアライフスタイル」を明らかにする調査・分析を行いました。ビデオリサーチには4971人の方々に「この時間に何をしていたか」という行動記録を、15分単位で1週間分つけてもらったデータベースがあります。行動記録は、あらかじめ設けた自宅内・屋外それぞれおよそ50項目ずつから選択してもらう形式で行われたものです。15分単位というのは、かなり細かな記録ですよね。

    行動記録調査が終わった後、各人の生活パターンをグループ分けするために、ソーシャル・シークエンス分析というものにかけました。その結果「テレビ中心族」「月~金外出族」「外泊・徹夜族」など、7スタイル・計30型に統計分類することができました。(詳細はこちらへ:メディア行動データ × ソーシャル・シークエンス分析|電通報

    ソーシャル・シークエンス分析とは、DNA配列の分析に使われるシークエンス分析の手法を応用したものです。シークエンス分析をこうしたメディア接触行動を含む統計データに用いた例は、当時、国内外ともに見当たりませんでした。

    中立的な視点から「全体図」を把握

    こうした手の込んだ調査・分析に基づいて、新しい時代のメディアサービスのイメージをきちんとリアリティをもってシミュレーションするというのが、私たちが大切にしているスタイルです。このケースに関しては、テレビ放送を新たにインターネットで同時配信するとした場合、この曜日のこの時間帯のこのジャンルのコンテンツであればどんな人がどのくらい配信を利用するだろうというシミュレーションを、確固たるデータに基づいて提言することができました。

    ここでいうリアリティとは、どんなものでしょうか。

    美和:時代の流れをとらえて「これからはモバイルファーストだ」「動画配信の時代だ」とか、今であれば「DXだ」と打ち出すのは、時代を先駆ける事業者の使命としては当然のことといえます。ただ、そんな中でも私たちはあくまでもオーディエンスやサービス受容の視点に立ち、全体的・俯瞰的なスタンスを維持したいと考えています。そうして大局をとらえながら、その中で変わるものと変わらないものを選り分けていくことで、正確な分析や提言ができると考えているのです。

    今は世の中が “言ったもの勝ち”になっていて、誰か有力者が打ち出したコンセプトに、全員がなびくような風潮があります。でも生活者というものは、もっとトータルな存在だと思います。若者がテレビを観なくなったといっても、今でもテレビをよく観る若者もいるわけです。常にスマホに接しているといっても、1日の中にはメディアと全く接していない時間も少なくない。

    もっとトータルな生活行動サイクルというものがあって、その中の一部としてメディア行動が埋め込まれているという状況があるわけです。

    そして結局は、全体を正しくとらえるというのは、細かいものを積み重ねた結果でしかないのかなと気づきました。そうして細かいものを<虫の眼>で全て見たうえで全体を<鳥の眼>で俯瞰しようという時に、前述のソーシャル・シークエンス分析のような手法が有効なアプローチになってくるわけです。

    テレビで地上波を第一選択肢としないクラスターが出現

    他にはどんな分析手法を用いていますか。

    美和:たとえば、近年、スマートテレビが普及し家庭のテレビをネットに接続している方も増えています。テレビ受像機に向かってテレビ放送とネット経由の動画をどういう優先順位で選択するのか人によって異なる、という状況があるわけです。そこでは順番のついた不揃いのデータのクラスター分析という少し手の込んだ手法も必要になります。

    これについては『情報メディア白書』をいったん離れますが、2019年にインターネットに繋がったテレビを持つ方々に、観たいコンテンツが決まるまでにどんな順番でサービスを探していくのかを調査しました。先ほどの「リアリティ」の話とも関連しますが、まず確認できたこととして、テレビをネットに繋げた後でも、地上波を第一の選択肢としている人が圧倒的に多いことがわかりました。

    ところがこの選択順序のパターンを特殊なクラスター分析にかけたところ、第一選択肢に地上波を入れない人たちがいることもわかったのです。その割合は、若い世代を中心に、調査回答者の10%以上に及んでいました。つまり、テレビ画面に向かい映像をさがす際の第一選択肢が地上波ではなく、ネット動画などになっている人たちが一定数出現している、というわけです。

    ▼選択順序において地上波以外から選び始めるクラスターの出現(クラスター3)

    ※出典:電通メディアイノベーションラボ「テレビ受像機におけるネット動画サービス利用に関する調査」(2019年9月)

    こんなふうに、メディア動向の「現在地」がどうなっているかを客観的に可視化する作業を、地味ながらも私たちはやり続けています。そして、その現在地を提供して業界全体の共通知識としていただくことで、放送局さんやクライアント企業の方々にも、未来に向けた検討をスタートするための共通基盤を多少なりともご提供できる。同時に、私たちが恣意的にメディア動向を誘導しようとしているわけではないことをわかっていただけると思います。

    そういう全体俯瞰的な視点から抽出したオピニオンの発信が私たちのチームには期待されているし、そうした取り組みが、結局は電通の業務にも返ってくると考えています。

    ニューノーマルとは何かを鮮やかに描き出したい

    そうした独自の分析と全体的・俯瞰的スタンスで生み出される統計・分析によって、今後社会にどんな価値を提供していきたいですか。

    美和:新型コロナウイルス感染症の流行が長期化する中、メディア接触行動に一層大きな変化が起きています。ニューノーマルという言葉に象徴されるように、この流れは決して元に戻らないともいわれています。そうなった時に、どう元に戻らないかというのをきちんとトレースし、現在地を提示する責任が私たちにはあるだろうと考えています。

    前述のソーシャル・シークエンス分析をはじめ、私たちはそれを浮き彫りにする“道具箱”の中身を増やしています。だからこそ、ニューノーマルの状況で何がどう変わっていくのかを、鮮やかに描き出すことにその道具を使っていかなければと感じています。

    もちろんテレビとネットを含むメディア環境のパワーバランスがどうなるかといった話や、メディア構造が激変する中で広告主さんが今後どのようなメディア動向に注目する必要があるかといったビジネス的な提言・取り組みにも、注力していきたいと思っています。

    いずれにしても私たちのコアバリューとなるのは、メディアに接する生活者の全体像を中立的・客観的に、今、世の中で起きていることの中でとらえることです。それを使命としながら、今度も活動を展開していきたいと思っています。

    ※当記事は2020年6月1日時点の情報を元に記事を執筆しております。

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