お好み焼をつくった経験のある人なら、一度は使ったことがあるであろうお多福さんマークの「お好みソース」。製造するオタフクソース株式会社は、お好み焼文化を通じて世界中にたくさんの“福”を届ける“Borderless Happiness”を使命に掲げ、ソースや材料の製造販売からお好み焼の普及活動、お好み焼店の出店支援など幅広い取り組みを展開しています。
そんなオタフクソースが近年取り組んでいるのが、「お好み焼の新たな価値創造」です。お好み焼づくりという行為がもたらす心の動きを、電通サイエンスジャムの「感性アナライザ®」を用いて数値化し、多角的に効果や魅力を探るという斬新なプロジェクト。その詳細を、オタフクソース株式会社 研究室の主任研究員・斉藤裕子氏と、株式会社電通サイエンスジャムの主席研究員・青木駿介に聞きました。
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お好み焼ならではの幸福感、なんとか可視化して伝えたい!
まずはオタフクソースさまが日ごろ取り組んでいらっしゃる研究テーマについて教えてください。
斉藤:私たちの研究室では、目の前の課題を科学的に捉えて解決に導くだけではなく、未来の価値創造につながるような“種”を見つけて、育てていくことを重視して日々研究に取り組んでいます。味や食感などの定性的な情報を可視化するだけでなく、食の未来を見据えた素材の探索や処方設計、保存性の評価、製造の効率化や品質安定、環境負荷の低減、さらに最近では持続可能な食資源の探求などにも挑戦しています。
ただソースのおいしさを究めるだけでなく、幅広い視点で研究をされているんですね。今回は“お好み焼づくりにおける感性の数値化”に挑戦されたとのことですが、そもそもどういった経緯で始まったのですか?
斉藤:目的は大きく二つありました。一つは、お好み焼の新たな価値を発見し、関東圏などお好み焼文化があまり浸透していない地域の方々にアプローチしていくこと。もう一つは、お好み焼の調理体験がもたらすポジティブな感情変化を科学的に示すことで、お好み焼の普及活動と食育をつなぐエビデンスを築くことです。
私たち広島県民にとって、お好み焼はソウルフード。家族の団らんとも非常に深い結びつきがあるメニューで、一緒につくる・一緒に食べるという体験から生まれる特別な幸福感を、なんとか可視化して人々に伝えたいという思いがずっとありました。
確かに自分の子どもの頃を思い返しても、家でつくって食べるお好み焼って、ちょっと特別な楽しい記憶として残っています。
斉藤:そうですよね。弊社のお好み焼教室などにお越し下さる方々も、皆さま本当に楽しそうにされているんです。この楽しさや高揚感を脳波として計測したら絶対に面白い結果が表れるだろうという確信がありました。
それで食と脳波に関する研究をいろいろと調べていくうちに、電通サイエンスジャムさまが慶應義塾大学の満倉靖恵教授と共同開発した「感性アナライザ®」を知りました。実は7年ほど前、ある学会で満倉教授の「脳波と食の嗜好反応に関する研究発表」を拝聴して衝撃を受けて以来、ずっと一緒に研究したいと願い続けていたんです。電通さまとは弊社の周年キャンペーンなどでもお付き合いがありましたし、そうした偶然から今回の共同検証にお声がけさせていただきました。
オタフクソースさまからご依頼を受け、青木さまはどういった感触を持たれましたか?
青木:これまで「感性アナライザ®」でご支援してきたプロジェクトの多くは味や食感に関する脳波解析でしたが、調理体験そのものを対象にするのは今回が初めてでした。特にお好み焼づくりは、生地をひっくり返したり、焼き上がる様子を誰かと共有できたりと、エンタメ性が高い体験です。ですから、一般的な調理よりもさらに興味深い脳波が取れるだろうと直感しました。
また、オタフクソースさまは「食育」にも関心があるとのことだったので、「お好み焼調理が子どもたちの心理に大きな影響を与えるのは、一体どういうシーンなんだろう?」というところから細かく仮説を探っていき、子どもの成長や記憶、心理状態によい影響を及ぼすというエビデンスをつくっていくのがよいのではと提案させていただきました。
お好み焼づくりは、子どもの挑戦意欲とワクワクをかき立てる
そうして始まった当プロジェクト、これまでに「感性アナライザ®」を用いた2回の実証実験を行われていますね。
▶第1回詳細➡ お好み焼をつくる楽しさや幸せ感を可視化 お好み焼づくりはワクワクだ! 調理中の子どもたちの豊かに動く感性に着目
▶第2回詳細➡ “褒められる”ことによる感性変動をお好み焼づくりで検証 「ありがとう」でお好み焼はもっと楽しくなる 一緒につくって、一緒に食べる。お好み焼時間は食育時間
斉藤:第1回では、お好み焼を一緒につくって一緒に食べることで得られる楽しさや幸福感の可視化を目的にしました。先ほど青木さまもおっしゃったように、お好み焼=エンタメ料理として捉えたときに見えてくる新たな価値を発見したいという狙いからです。具体的な研究手法についてはサイエンスジャムさまからご提案していただき、満倉教授からもアドバイスをいただきました。
青木:「感性アナライザ®」について少し説明しておくと、対象者の頭部に小型脳波計を装着して脳波を計測し、そのデータを独自のアルゴリズムを用いて指標(興味、好き、ストレス、集中、沈静など)に置き換え、「感性値」としてシンプルに数値化します。今回は調理プロセスにおける感性の数値化だったので、まずはお好み焼調理のプロセスをどう分解するか、どのプロセスでどんな数値が出るかの仮説を立てて実験計画を作成し、被験者はオタフクソースさまのコミュニティ「オタフククラブ」の会員さまの中から条件に合った親子の方にご参加いただきました。
詳細はオタフクソースさまのリリースに詳しくまとめられているのでここでは割愛しますが、お二人が特に興味深く感じた結果について教えていただけますか?
斉藤:リリースのタイトルに「お好み焼づくりはワクワクだ!」とある通り、第1回の実証実験ではお好み焼の調理体験が子どもにとって大きな楽しみをもたらすことが明らかになりました。特に面白かった点が二つあって、一つは生地を混ぜる工程でもっともワクワク度が上昇したこと。もう一つは、2回ある「ひっくり返す」工程のうち、2回目のほうがワクワク度が高かったことです。「ひっくり返す」という難しいプロセスではストレスが高まるだろうと予想していたのですが、一度クリアした達成感から「またやりたい!」という気持ちが芽生え、2回目はもっとワクワクする。この気持ちの高まりが可視化されたことはとても有意義でした。


青木:「ひっくり返し」1回目に感じたストレスが、2回目にはもう挑戦意欲に変わっている。子どものその成長スピードには私も驚かされましたね。あと、1回目の実験でとても興味深い気づきがあって。脳波データを見ていたら、調理は上手くできているのにストレス度が異常に高く出ているお子さまがいたんです。気になって当日の動画を見返してみたら、その子は幼い弟と一緒に参加しており、親御さまが弟のほうにつきっきりであまりその子にかまってあげられていなかったんです。調理以外のそんな要素も脳波に影響するのかと、とても大きな発見になりました。
「ありがとう」が最高のスパイス!? 子どもの脳波は驚きだらけ
そんな発見もあって、第2回の実証実験のテーマが「“褒められる”ことによる感性変動」になったのですね。
斉藤:それも一つの理由ですし、1回目の実証実験で親に褒められた後にはワクワク度・興味度が上昇する傾向が見られたんです。そこで2回目の実証実験では「お好み焼づくり体験中に褒めることは、子どもにとってポジティブな効果を与えるのではないか」と仮説を立て、お好み焼をつくる工程で親がそばにいて褒めてくれる(褒めあり)場合と、親は横にいて見守るが褒めてくれない(褒めなし)場合とにグループを分け、ワクワク度などの感情変化の違いを検証しました。
青木:実験当日、褒めありグループの親御さまたちには事前に「こういうタイミングで褒めるような声かけをしてあげてください」と簡単なガイダンスだけして、お子さまが調理する様子をそれぞれ見守ってもらいました。お子さまたちに変なバイアスがかからないよう、あまり詳細は伝えないようにして、自然なコミュニケーションを取ってもらうよう工夫しましたね。
こちらも詳細はオタフクソースさまのリリースにまとめられていますが、第2回ではどういった発見がありましたか?
斉藤:1回目の検証結果があったので、おそらく褒めた方が良い結果が出るだろうと予測していました。実際に褒めなしグループのお子さまのほうが調理中のストレスは高めでしたが、一方で難しいプロセス(ひっくり返す)では興味度がぐんと上昇したことは意外でした。
また、調理後には褒めなしグループのお子さまからも「親のサポートを感じた」とか「信じてくれていると感じた」というポジティブな回答が多く得られ、褒められなくてもそばで見守られるだけで安心感や自信が生まれることも分かりました。


さらに、調理中、調理後にかける言葉の内容やタイミングによって感性の反応が異なっていたことも、非常に興味深い発見でした。励ましや共感など声かけの種類別に反応を見てみると、「ありがとう」と言われたときにもっとも感性が動いています。感謝を伝えられることで子どもの心が大きく動くことが示唆されたので、このあたりは今後も引き続き研究を深めていきたいと思っています。
ちなみに、声かけの種類ごとに分析することは当初予定していなかったのですが、青木さまが「面白いデータが取れるかも」と気づいてくださって、当日の動画を見返しながら一つひとつデータを分析し直してくれたんです。とても大変な作業だったと思いますが……ありがとうございます。
青木:いえ(笑)。でも本当に、毎回子どもたちの脳波の反応には驚かされることばかりでした。まだまだいろんな可能性が潜んでいるなと感じているので、お好み焼を基点にして、食育や子どもの成長に広くつなげていく研究になればと強く感じました。
感性を可視化したら、届けたかった価値がクリアに見えてきた
冒頭で斉藤さまが、研究室のミッションは「未来の価値創造につながるような“種”を見つけ育てていくこと」と話されましたが、感性アナライザ®によってまさにその“種”がたくさん見つかったと思います。今後、それをどのように育てていきたいか、何か計画やイメージはありますか?
斉藤:今回のプロジェクトは当初から2~3か年計画で考えていて、一過性の調査ではなく長期的な価値探索のプロジェクトとしてじっくり取り組んでいます。次の具体的な展開はこれから考えていく段階ですが、研究をより一層深めて商品開発やマーケティングにも活用し、お好み焼のさらなる普及や食育への貢献につなげていきたいと思っています。
それから、サイエンスジャムさまがいろんなメーカーさまと脳波の研究をされているので、研究室長とは「他社さまとコラボレーションをしてみたいね」とも話しています。
青木:サイエンスジャムとしても、いただいた課題に対して「実証してレポート提出して終わり」ではなく、クライアントさまが本質的に抱えている課題の解決や、理想とする未来の実現をお手伝いしたいと思っています。
今回、以前オタフクソースさまの周年キャンペーンを株式会社電通西日本がご支援させていただいた経緯があったので、私たちもオタフクソースさまの理念やビジョンをしっかり理解したうえでプロジェクトに臨むことができました。私以外の担当者たちも、今回の結果に食育や社会貢献につながる大きな可能性を感じています。次の展開をしっかりサポートできるチームが揃っているので、私たちも単に調査を実施するだけでなく、もっと幅広い可能性を一緒に模索していけるパートナーとして、今後もぜひ力になれたらと思います。
最後に、今回のプロジェクトを通じて感じた“感性を可視化する意義”について、ご意見があればお聞かせください。
斉藤:今までブラックボックスとされていた「人の感情」を可視化できたことで、どちらかと言えば(非感情の)論理的なアプローチが求められていた研究室が、今後は「感情×論理」の両面からより説得力のあるアプローチができるようになったと感じています。
何より、肌感覚として感じていたことが数値で可視化されたことで、思った以上に多くの気づきが生まれました。「私たちはこういう価値を届けたかったんだ!」とモヤモヤが晴れた感じがして、それは本当に大きな収穫になりました。
青木:感性を数値化することに対して、一部には抵抗感を覚える方がいるかもしれません。でもいま斉藤さまがおっしゃられたように、言語化されていないモヤモヤとした無意識の声を拾うきっかけとしては、「感性アナライザ®」はとても有効なツールになります。数値化されたものが絶対的な正解というわけではないですし、他の知見と掛け合わせながら上手くプラスの方向に活用していただけたらな、と。さまざまな分野の企業さまに、ぜひ気軽にご相談いただきたいですね。
<満倉教授のコメント>
本研究では、親子でのお好み焼調理体験が子どもの情緒や親子関係に与える影響を検証しました。脳波計測と主観評価の結果、親が「感謝」を伝えることが子どものモチベーションや安心感、達成感を高めると判明。「褒めあり」では声かけが安心感を促進し、「褒めなし」でも、感謝の言葉には自己効力感や信頼感を育む効果があることが明らかになりました。親の見守りと適切な感謝が、子どものモチベーションを高め親子の絆を深める鍵であると考えられます。感謝の気持ちを込めた調理体験を通じて、大切な人との時間をより良いものとしてください。
■「感性アナライザ®」の詳細はeBookをご覧ください
感性アナライザ®の詳細については、導入ステップや機能、活用事例などを紹介したeBookをご覧ください。