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      日経新聞アワード受賞企業に聞く!|コロナ禍にデータ×テクノロジーから生まれたB2B企業による「売らないマーケティング」[前編]

      INDEX

      一般的にマーケティング活動は、より広く、多くの人に何かを売るために行われます。しかしアスクル株式会社は、買う人をしぼり込み、それ以外の人には買いにくくする、いわば「売らないマーケティング」を実施しました。その取り組みが高く評価され、2020年「NIKKEI BtoBデジタルマーケティングアワード(※)」にて、「大賞・ブランディング賞」を受賞。そのような施策を採るのにいたった背景、そして具体的な取り組みについて、同社に話をうかがいました。
      ※日本経済新聞社が創設。「NIKKEI BtoBデジタルマーケティングアワード」では、新たな時代のマーケティング活動における創造性や新規性、経営へのインパクトなどを基準に審査し、様々な取り組みを表彰している。詳細はこちら

      PROFILE

       
       

      新型コロナの影響で需給バランス崩壊、顧客を選ぶべきか全員に売るべきか

      日本経済新聞社主催の第1回NIKKEI BtoBデジタルマーケティングアワードで、大賞とブランディング賞を同時受賞されました。おめでとうございます。

      宮澤:ありがとうございます。BtoB事業であるASKUL事業本部が取り組んだ「売らないマーケティング」が評価され、大変嬉しく思っております。

      カタログやWebサイトから注文すると当日・翌日に商品が届くという事業所向け通販サービスであるBtoB事業では、文具や事務用品にとどまらず、仕事場で必要なものをできるかぎり網羅してきました。その中には生活用品や衛生用品も含まれています。また、2004年には医療・介護施設や薬局向け通販サービス、2005年には医療専門材料を取り扱う通販サービスをスタートしています。医療専門材料の販売においては、販売先が医療機関であることの確認を徹底したうえで、医療材料や医療用事務用品をお届けしてきました。こうした背景があったからこそ、今回の「売らないマーケティング」に真摯に取り組むことができたのだと思います。

      「売らないマーケティング」に取り組んだきっかけを教えてください。新型コロナウイルス感染症が拡大し始めた頃、ECの現場ではどのようなことが起きていたのでしょうか?

      宮澤:国内で新型コロナウイルス感染症が初めて確認されたのは、2020年1月でした。2月の後半くらいから一般の方に知られるようになり、小売りの現場に大きな変化が起きました。まず、保存期間の長い食品が売れていき、続いてトイレットペーパー、ペーパータオル、ハンドソープが店頭から一気に姿を消しました。これらの商品はASKULでも飛ぶように売れて、一時的に在庫確保が難しい状況にまでなりました。

      その後に起きたのが、マスクや消毒液などの感染予防に必要な衛生用品の受注拡大です。あっという間に在庫がなくなり、仕入れもままならない状況に陥ったのです。それまで販売されていたマスクのほとんどが、中国を中心とした輸入品だったのですが、新型コロナウイルス感染症が世界中に広がったことで、商品をグローバルで奪い合うことになりました。仕入れが困難になり、買い付けできたとしても日本に届くまでに時間がかかっていました。消毒液の方は多くが国産だったのですが、容器の材料を輸入に頼っていたため、こちらもグローバルで奪い合いになり、容器の材料が足りずに生産量が落ちていました。

      需給バランスの崩壊、と言えると思います。ASKULでも衛生関連用品を入荷しても瞬時に売れてしまい、「本当に必要な人」が買えない状態となりました。メディカル事業には力を入れてきましたし、小規模な医院や介護施設のお客様に支えられてきたこともあり、これは放置できない問題だと考えました。しかし根本要因は世界規模での在庫の奪い合いであり、需給バランスが短期間に改善するとは考えられません。これは長期戦になると予感し、対策を考えなければならないと感じ始めました。

      その結果が、「本当に必要な人」にとどけるための、売らないマーケティングです。

      しかし買える顧客と買えない顧客を決めるということに、社内から反発はなかったのでしょうか?

      宮澤:社内の意見は2極化しました。日頃お買い上げいただいているすべてのお客様にサービスを提供したいと考える人たちと、もの自体がないのだからなんらかの限定が必要だと考える人たちです。幸いアスクルには、DNAやミッションステートメントに照らして議論ができるカルチャーがありました。

      メディカル事業に長く携わっていた経験も活かされました。災害時に地域の医療体制が崩壊すると、その地域の生活が崩壊するということを、私は何度も見てきました。同じことを全国規模で起こすわけにはいきません。メディカルに特化した仕組みも持っていますが、介護施設や教育機関などの、衛生用品を必要とする施設を幅広くカバーする必要があります。

      こうしたことにもとづいて社内で議論を重ねた結果、医療施設や介護施設、教育機関への供給責任を果たすべきという結論にたどり着きました。つまり、本当に必要な人に優先して届けるべきだ、ということです。

      「データ×テクノロジー」で本当に必要な顧客を見つけ出し適正に商品を割り当て

      必要な人に必要なものを届けるというのは、考え方としてはわかりやすいのですが、実現がとても難しそうです。どのような体制で取り組んだのでしょうか?

      宮澤:ASKUL事業本部にはエクスペリエンスデザイン、データサイエンス、eコマースデザイン、カタログプランニング、エージェントイノベーションの5つのディビジョンがあります。売らないマーケティングを進めるに当たって中心的役割を担ったのは、データサイエンスディビジョンです。エクスペリエンスデザインディビジョンとeコマースデザインディビジョンがそれを支えました。またASKUL事業では顧客とエージェント(担当販売店)が紐付いているので、エージェントイノベーションディビジョンからも協力を得ています。

      具体的には、どのようなアプローチで臨んだのでしょうか?

      宮澤:商品情報と業種情報、それに行動データを掛け合わせて解析して、新型コロナウイルス感染症の流行以前から衛生用品を定期的に購入していたお客様を割り出しました。これらは、普段から衛生用品を必要としているお客様だと考えられます。この解析結果に基づいて、仕入れ可能な商品数量を割り当てたのです。こうすることで、事業に本当に衛生用品が必要なお客様に対して、事業規模に応じた数量を割り当てることが可能となりました。

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      お客様ごとの割り当て数量が決まったら、購入可能な商品と数量をメールで案内します。メールを受け取ったお客様は、通常通りにASKULのWebサイトから当該商品を割当数量の範囲で購入できます。一方でメールを受け取っていないお客様は、購入できない仕組みにしました。このように商品を購入可能なお客様をあえて絞り込むことで、医療機関や介護施設、教育機関などの、事業継続に欠かせない事業者の方々に衛生用品をお届けできるようになりました。

      ビジネス継続性の視点をもって社会課題解決にも貢献

      「売らないマーケティング」が医療機関や介護施設を支えている間に、衛生用品の生産体制もやがて整いました。この取り組みの経験はその後、どのようなところで活きているのでしょうか?

      宮澤:おかげさまで、データ×テクノロジーで本当に必要なお客様を見つけ出す取り組みは成功し、医療機関、介護施設、学校や保育園への衛生用品の安定供給を実現しました。この成果が注目され、政府の消毒液優先供給スキームに使えないかという案件に発展したのです。

      最初は、自宅で医療ケアを受ける児童へ衛生用品を安定供給したいという相談を、厚生労働省と経済産業省からいただきました。政府からの依頼を受けて、各メーカーはマスクや消毒薬の増産態勢を整えていきました。しかしそれらが市中に流れれば奪い合いになるのは必至です。なんとか衛生用品供給を安定させる足がかりとして、アスクルの協力を得られないかとおっしゃっていただきました。

      厚生労働省の委託を受けて、衛生用品の安定供給スキームを作ったということでしょうか?

      宮澤:そうではありません。政府から受注するのではなく、アスクルのビジネスとして成り立つ形を模索して、参画しました。政府からの補助金や委託費用を前提に仕組みを作ると、恒久的に続けることはできないからです。

      毎日定時のミーティングを重ねた結果、マスクを1丁目1番地、消毒液を1丁目2番地として、衛生用品の安定供給を担うスキームを検討しました。この仕組みは、新型コロナウイルス感染症の脅威が去るまで継続できる仕組みでなければなりません。しかし政府からの補助金や委託費といった一時的な収入を前提にした仕組みでは、継続性を見通せません。ですから、ビジネスとして成り立つ仕組みでなければならないと考えたのです。

      厚生労働省と連携しつつも、ビジネス継続性を維持できる仕組みを実現したのですね。

      宮澤:その通りです。ミーティングを重ねる中で、厚生労働省だけでできないことは民間の力を活用すべきだという提案もさせていただきました。たとえば厚生労働省が必要な情報を収集して分析するには1ヵ月かかるとおっしゃっていましたが、アスクルならこれまで蓄積されたデータと内製のエンジニアを使って瞬時に必要な情報を提供できます。そういった点も評価されて、アスクルを活用していただけたのだと思います。

      後編では、同社のデータサイエンス、システム、エクスペリエンスデザインが一体となって進めるマーケティングの在り方を紹介します。

      ※マスク着用にて取材を行いました。写真撮影時のみ、外しております。

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