デジタルの進化に伴い、データを活用した行動ターゲティングがマーケティングの主流となっている現代。その裏側で、消費の根源ともいえる私たちの「欲望」が、実は見落とされがちになっています。そんな今だからこそ、欲望を改めて考えることは次のマーケティング戦略を生み出す大きなヒントになるかもしれません。
今注目したい現代の「欲望」とは? それをマーケティングにどう活用するか?
「現代の消費者像を捉えなおす」ことをテーマに消費者研究・マーケティングソリューション開発をしているプロジェクトチーム DENTSU DESIRE DESIGN(デンツー・デザイア・デザイン、以下DDD)の千葉 貴志がご紹介します。
※編集部注:2024年3月に「11の欲望」の内容が更新されました。それに伴い、記事の一部を最新版に変更しています。
INDEX
「低欲望社会」は本当だろうか
低欲望社会と言われる昨今。「若者は消費に興味がない」「今どきの人は衝動買いをしない」「〇〇離れ」……これらは、マーケティングの世界では頻繁に耳にするセリフです。加えて、決して上向きとは言えない日本の経済状況と、減少傾向にある家計のゆとり。「消費意識はますます後ろ向きになっているだろう」と、これをお読みの皆さんも予想しているのではないでしょうか。
若者ほどまだまだ消費を楽しんでいる
しかしここで、注目していただきたいデータがあります。下記のグラフは、電通が2022年5月に行った「心が動く消費調査」から抜粋したもの。これを見ると、厳しい消費環境の中でも「買い物は楽しい」と回答している人が8割に達しています。
電通「心が動く消費調査」
調査目的:生活者の欲求の実態や消費に関わる意識や実態を把握する定点観測調査
調査方法:WEBアンケート調査
調査対象:全国20―74歳男女3000ss 地域と世代で人口構成比によって割り付け
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さらに、「この1か月間に、心が満たされたり、テンションがあがったり、感動・刺激を受けた等、良い気分・気持ちが得られた買物・商品はありましたか」という質問に対しては、8割以上の人がYESと回答。年代別にみると、20代の若者が最も「たくさんあった」「多少あった」と答えているのです。
この結果を見る限り、これからの消費を担う若者世代を中心とした人々はまだ消費に期待を持っており、「心が満たされる体験・消費」を望んでいると考えられます。裏返せばつまり、消費者は満たされるべき「欲望」を抱えているとも言えます。
今だからこそ、欲望を掴むマーケティングが効く!
この欲望をより深く紐解けば、これからのマーケティングの新たなヒントが見つかるのではないか――。そう考えた私たちDENTSU DESIRE DESIGNは、現代の欲望をより深く具体的に分析し、マーケティングに有効な欲望の再定義を試みました。今回の記事でご紹介したいのは、その具体的な欲望の中身と、マーケティングへの活かし方についてです。
欲望は、消費欲だけではない
欲望の再定義に際しての重要な前提は、「欲望とは、単に消費欲に限らない」ということです。例えば「好きなものに囲まれ平穏に暮らしたい」というのも欲望ですし、「悪目立ちせず、周囲からはみださないようにしたい」というのも欲望。「これが欲しい/したい」と思うに至った背景にある願望や、「目立ちたくない」「はみだしたくない」といった一見後ろ向きな意識や価値観などもまた、マーケティングを考える際に決して無視できない欲望です。
デジタルマーケティングだけでは見えない真実がある
実は「欲望」を起点としたマーケティングは、まったく新しい発想というわけではありません。それを我々が今、改めて注目したいと考えるのには理由があります。
今、時代はデジタルマーケティング全盛期。技術の発達によってマーケティングは進化し、我々マーケターはお客様の行動を以前よりはるかに具体的に捉えられるようになりました。しかし、現状のデジタルマーケティングでは「欲しいものに対してどのような行動をとったのか」は分かっても、「なぜそれを欲しいと思ったのか」までは分かりません。デジタルマーケティングが全盛の今だからこそ、いつの間にか光が当てられなくなっていた「欲望」に改めて着目すること、そして欲望そのものを捉えなおすことは、マーケティングの大きな突破口になるはずです。
ちなみにここまでの話は、「顧客の「本当の欲しい気持ち」を捉える「欲望インサイト」とは」でより詳しくお話しています。もっと突っ込んで知りたい! という方は、ぜひそちらもお読みください。
今の時代の欲望を再定義。注目すべき「11の欲望」はこれ!
さて、すっかり前置きが長くなってしまいましたが、ここからいよいよ、我々が再定義した今の時代の欲望をご紹介します!
欲望を形成するのは「根源的欲求」×「時代の価値観」
まず欲望を再定義する方法についてですが、こちらは少し専門的かつ複雑な話になるので、このブログでは概要だけ簡単にご説明いたします。
消費のドライバーになる欲望は、「人間の根源的欲求」と「環境によって形成・強化される価値観基盤」が絡み合ってできています。「欲求」と「欲望」という似た言葉を使っていますが、「欲求」は人間が肉体的・精神的に求める普遍的かつ不変的な“求め”であり、それに時代や個々人の価値観が加わることで生まれるのが「欲望」である、というのが我々の定義です。その考えに基づき、
①まず「根源的欲求」と「価値観」を具体的な項目に落とし込み、消費者の反応を確認する調査を実施
②「根源的欲求」を因子分析にかけて、11の欲求因子を抽出
③各11欲求因子が「価値観」にどれだけ影響を与えているかの強弱を重回帰分析により判定
④DDDメンバーで読み解きと考察を実施し、「11の欲望」としてネーミングを付与
というステップで欲望の可視化を進めました。
この可視化プロセスをより詳しく知りたい方は、ぜひこちらの記事(ウェブ電通報「『欲望』はいかにして生まれるか?モデル化への挑戦と現代の欲望理論」)をご参照ください。
DDDが再定義した<11の欲望(Desire)>
以上のステップを経てDDDが分析と検討を重ねた結果、現代社会の代表的な欲望を11のタイプに分類することができました。下記に一覧にてご紹介します。
※編集部注:「心が動く消費調査」の最新結果をもとに、2024年3月に「11の欲望」の内容が更新されました。以下でご紹介するのはその最新版です。
キーワードを見るだけでも、「自分にも確かにこんな欲望がある!」「最近こういう人、多い気がする」など気づくことが多いのではないでしょうか。あるいは、消費行動との結びつきがピンとこないものもある……かもしれません。
そこで次に、一つの欲望を例に取りながら、実際の商品購買とどう結びついているのかを見ていきましょう。
これらの欲望からヒット商品を読み解くと…
例えば「2.無理のない自由への欲望」の場合
「11の欲望(Desire)」の「2.無理のない自由への欲望」は、出世よりも自分らしく働くことに価値を感じたり、生きづらい現代の中で自分の世界を守ろうとしたりする現代人らしい、高望みをしない等身大の自由を求める気持ちを指しています。DDDが行った欲望再定義のプロセスにおいて、この欲望には以下のような欲求が影響していることが分かりました。
● 自由でいたい・縛られたくない
● 自分だけの時間を大事にしたい、邪魔されないようにしたい
● リラックスしたい・のんびりしたい
● 快適に過ごしたい
● 自分らしく生きたい・自分らしさを発揮したい
これらの欲求が表れている消費事例を、具体的なヒット商品を例に見てみましょう。以下は、DDDが行った調査のフリーアンサーから抽出した、ヒット商品の購入理由に関するコメントです。
これらは、商品だけ見ると共通項のないバラバラの消費のように思える例ですが、その購入理由を見てみると、どちらも「無理のない自由への欲望」を解消するために行われていたことが分かります。では、それが分かるとマーケティングはどう変わるのでしょうか?
欲望を考慮すると、マーケティングの一手が見えてくる
例えば低アルコールチューハイの場合、購入理由コメントに「酔っていろいろ忘れたい」とありながらも、ストロング系ではなく低アルコールのチューハイに心が動いたことに着目してみてください。これは、日常の疲れやストレスを強いお酒で一気に忘れたいというより、自然なかたちで緩やかに解消したいという気持ちの表れだと考えられます。体に負荷をかけず、リラックスすることで自由を手に入れたい、そんな気持ちに訴えかけるコミュニケーションの手法が、マーケティングの有効打になるかもしれません。
有料映像コンテンツサブスクを利用している女性にとって、おそらく「他人の目を気にせず家の中でコンテンツを視聴すること」は絶対に守りたい領域です。その領域の中で自由になれること、例えば宅配食サービスや“ダメになる系ソファ”などを併せて提案すると、さらに心が動いて次の消費につながる可能性があります。
このように、消費の背景にある「欲望」を起点に消費行動を見ていくと、購買したモノ起点では見えなかった消費の真実が見えてきます。そしてそれは、マーケティングの“次の一手”を考える際に大きな気づきを与えてくれるのです。
「11の欲望」をもっと詳しく知りたい方へ
DDDでは、欲望起点のマーケティングに興味をお持ちの企業の皆さまに向け、「11の欲望(Desire)」を詳しくご紹介する「欲望勉強会」を個別開催しています。
この記事では紹介しきれなかったその他の欲望について、勉強会にて詳しく解説。昨今のヒット商品やコンテンツを欲望視点で分析した、独自のリサーチ結果もご紹介します。さらに、ご指定の商品カテゴリに着目した定量分析やフリーアンサー分析、独自の事例分析も対応可能です。まずはお話だけでも大歓迎。ぜひ我々DENTSU DESIRE DESIGNまで、お気軽にご相談ください。
→ まずはeBook「消費を刺激する「11の欲望(Desire)」~電通「心が動く消費調査」の結果から~」のダウンロードから
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