
「事業変革のためのブランディング」について、企業の取り組み実態や課題感、必要な視点についてお伝えしている当ブログシリーズ。第1・2回を通じて、これからの企業成長に向けては「事業戦略とブランド戦略を両輪で回す」ことが不可欠であり、その実現には「顧客や社員の行動の習慣化」が鍵となることを明らかにしました。
今回のブログでは、実際に事業戦略×ブランディングの両輪戦略を実行するにあたり、多くの企業が直面する典型的なバリアと、そのバリアを乗り越えるポイントをご紹介いたします。語り手は、企業のビジネス変革支援に取り組む電通ビジネス・トランスフォーメーション局(BX局)のグロース・ブランディング部長の伊神と、電通コンサルティング執行役員・パートナーの田中が務めます。
→ 第1回ブログ|事業変革にブランディングの力を!~調査から見えた実態と課題を解説~
→ 第2回ブログ|事業変革にブランディングの力を!② ~事業とブランドを両輪で回そう~
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INDEX
事業変革にブランディングが求められる背景
ブランディングの悩みには、経営課題が隠されている
私たちが実際にクライアント企業様からご相談をお受けする中で、「ブランディングの課題としてお聞きした内容が、本質的には経営課題そのものだった」というケースが多々見られます。以下に、いくつかその例をご紹介します。

ブランディングの解決策は、事業の基盤構築や体制整備にまでつながる
このように、企業がブランディングの課題だと捉えていることが、実は経営課題であるというケースが増えています。ブランディングの課題は、コミュニケーション上の課題としてだけではなく、経営課題として捉えるべきものになっているのです。そのため、こうした悩みをご相談いただいた際には、例えば次のような解決策をご提案し、解決に向けて伴走させていただくことが増えています。

いずれのケースでも、変革を推進するための基盤構築に取り組み、体制を整備し、ブランド戦略のための各種プランを検討・推進するという、経営判断が求められる施策が必要となっていきます。
「いま」求められるブランディング 取り組みのポイント
「事業変革のためのブランディング」を実践していくにあたり、最初にお伝えしたいのは「従来のブランディングと今求められているブランディングでは、その役割が大きく変化している」ということです。そのポイントは3つあります。
ポイント① 企業に本質が求められる時代、組織/事業面でのファクトが必要に
従来のブランディングは、広報や広告部門によるマーケティングコミュニケーションとしての戦略が主でした。しかし、不確実性が高く変化の目まぐるしい現代(VUCAの時代)において、消費者は社会的価値を持つ企業に高い関心を示し、本質を判断するようになっています。そのため、表層的な行動だけでは信頼されず、ブランディングにおいて、従来のコミュニケーション活動だけでなく、ブランドを体現する組織/事業面での“ファクト”を伴うことが必須になっています。

ポイント② 広報/広告部門主体のコミュニケーション戦略から、「全社戦略的ブランディング」へ
そのため、解決策も必然的に、コミュニケーションに留まらない事業構造設計や組織施策などのアクションに結び付けて考えていく必要があります。つまり、経営層と全社員が一体となって、コミュニケーションに加えて、事業/組織面におけるファクトづくりを目指す「全社戦略的なブランディング」が不可欠になっているのです。

ポイント③ 人への寄り添いが大切になる時代、全社戦略としてマルチステークホルダーに働きかける
さらにコロナ以降、カオスな世界で生きる人間の感情の高まり(「BANIの時代」と呼ばれています)の中で、人への共感や寄り添いがより大切になっています。企業には、変化への柔軟対応に加えて人への共感・寄り添いが求められる傾向にあります。全社戦略として、ブランディングの対象を顧客だけでなく社員、株主、取引先、学生、地域、社会全体などマルチステークホルダーに拡大し、働きかけていくことが重要になっています。

ブランディングは「経営アジェンダ」へ
ブランディングを活用して事業を変革し、成長を遂げる
3つのポイントは何を示しているのでしょうか。それは、経営層主導の下に、ブランディングを活用して事業を変革し、成長を成し遂げることの重要性です。
自社ならではの価値を明確にした上で、
● その価値の実現に向けてファクトをつくり、
● 全社戦略として事業戦略とブランド戦略を両輪で捉え、
● ステークホルダーに全社が働きかけて事業成長や事業変革の成果につなげていくこと。
これはすなわち、ブランディングを「経営アジェンダ」として捉えなければならないことを意味しています。
「経営アジェンダ」としてのブランディング
今求められている「経営アジェンダ」としてのブランディングとは、自社ならではの本質的な価値と新しい価値を明確にし、その価値の実現に向けて事業変革・成長を実現するために、ブランディングの力を活用して、顧客や社員の行動の習慣化にまでつなげていくことです。それに取り組むことが、事業変革や事業成長の鍵になっているのです。

※なお、第1回、第2回のブログでは、企業調査の結果から、事業成長を遂げている企業ほどブランディングに取り組み、特に経営層ほど事業を進める上でブランディングの必要性を感じているといった、「経営アジェンダ」としてのブランディングのありようをデータでご紹介しています。ご興味のある方はぜひご覧ください。
→ 第1回ブログ|事業変革にブランディングの力を!~調査から見えた実態と課題を解説~
→ 第2回ブログ|事業変革にブランディングの力を!② ~事業とブランドを両輪で回そう~
「事業変革のためのブランディング」を阻止する4つのバリアとは?
しかし、いざ経営アジェンダとして「事業変革に向けたブランディング」に取り組もうとしても、スムーズに進捗できるケースは稀です。私たちの経験を振り返ると、企業が直面しやすい典型的な課題として、「4つのバリア」が存在します。ここから、その一つひとつをご説明します。
バリア① 変革すべき事業のありたい未来像が描けない
今手掛けている事業は好調なものの、その持続可能性に対し確信が持てず、どのようにブランドを考えたらよいか分からないという企業や、逆に、業界自体が縮小トレンドでブランドが向かう将来の方向性が見えず、成長の予感が感じられないという不安を持つ企業が直面しがちなのが、このバリアです。
多くの企業は、これまで培ってきたレガシーや力強い事業をお持ちです。それは非常に貴重な財産であると同時に、その引力の強さゆえに、斬新なアイデアや新機軸を見出しづらくなることがあります。また、さまざまな情報が簡単に入手できる現代では、各企業が同じようなトレンド情報をもとに未来の戦略を構想します。インプットが同じであるため、アウトプットが同質化してしまう、という課題も起こりがちです。
これを打破するには、市場や業界の外部の変化や、社員や組織など社内の変化を正しく捉えること、自社の持つ強みや自社が獲得できる機会や、大切に守るべき想いを正しく抽出すること、そして、未来視点で生活者、市場や業界、社員や組織が抱く期待を描くことが求められます。そのためには、自社の価値を正しく把握し、非連続な成長を成し遂げる成長ビジョンを描くための適切な方法論やプロセスを取り入れると共に、外部からの客観的な評価視点を取り入れていく必要があります。
バリア② 未来像に向かって、何をどう変えていいのか分からない
仮に進みたい未来が見つかったとしても、実行するための具体的な道筋が分からないというお声もよくお聞きします。近年、パーパスやMVVなど、企業が目指すべき中核概念を規定されている企業は多いですが、それらをどのように施策に落とし込んでいけばよいのか、お悩みの方も多いのではないでしょうか。
こうした悩みは進め方のプロセスを知ることで解決する場合もありますが、それ以前に、描いた未来の解像度が実はまだまだ足りていない・パーパスやMVVと事業がどのような関係性にあるのかが分かりにくい・既存事業と新規事業とがどう接続されるのかが明確化されていない、といったことが原因となっていることもあります。
このような場合、将来事業がどうあるべきか、その解像度を上げ、具体性を高め、関わる人々が自分ゴト化できるようにすることが大切です。成功したケースでは、ステークホルダーが将来像を深く理解し合意できるよう具現化(言語化、ビジュアル化)することが突破口になっています。将来提供すべき価値が明確にされ、進むべき方向性やすべきことがよりクリアに言語化・ビジュアル化された設計図は、変革を自分ゴト化させる強力なツールになります。

バリア③ 取り組んでみたが、ありたい未来像に向かって社内外の現状を打破できない
社内外の慣習やバイアスというのは、当事者が思う以上に強く作用するものです。そのため事業変革を目指してブランディングを進めてみたものの、結局従来と同じ競合を相手に、従来と変わらぬポジションに収まってしまう。そんなケースも少なくありません。また、担当者には強い変革への意思があっても、他の社員や投資家から理解が得られないといった、コミュニケーションに起因する課題も見られます。
これを打破するには、エクストリームユーザー(企業が想定していた以上の頻度や方法で利用するユーザー)やロイヤルカスタマーの声に耳を傾け、潜在的な視点を掘り下げて本質的な視点を深掘ること、あるいは、他の市場や業界の常識をあてはめ視点の広がりをもたせ、視点を多様に広げる取り組みが重要になります。
新たな体験価値の創出によって生まれる顧客との新たなつながり方や、従来のカテゴリからどのように拡張するのかを示す戦略が明確になれば、単にイメージだけでなく、事業成長につながることをゴールに設定した、社員が意識と行動を変えることを促す内容にまで落とし込むことかでき、市場や業界、社内のバイアスを打ち破ることにつながります。
バリア④ アクションが定着化せず、ビジネスの成果につながらない
多くの場合、ブランドを推進する新たなアクションが社員や組織に浸透せず長続きしないことが大きな問題になります。せっかくの変革の取り組みが、全社一丸となった新しい習慣に至らないという結果になりがちです。また、顧客や市場に対しても、企業の新たなアクションが定着せず、その結果、ビジネス成果につながらないという問題が乗じます。
それを打破するには、顧客と社員の意識と行動を変え定着させる「習慣化」の取り組みが大切です。このブログシリーズの第2回でもお伝えしたように(第2回はコチラ)、新たな戦略で成果を上げるためには、ステークホルダーの意識を変えてアクションを習慣化させることが不可欠です。成果を上げるための最後のバリアが、この「習慣化」だといってよいでしょう。
このバリアを打破するためには、新たな習慣化を実現するマーケティング戦略を実行することや、積極的なコミュニケーションと行動変化を定着させる仕組みをつくること、そして社員のモチベーションを高め、マーケティング戦略と一貫性を持つ行動を定着させる取り組みを実行することが必要です。
ブランディング×事業変革戦略を実現するために
必要な3つの戦略プロセス
こうしたいくつものバリアを乗り越え、確かなビジネス成果につなげるためには、一体どのような取り組みが必要なのでしょうか。電通では、以下の3つのプロセスを統合的に実行することが戦略推進の軸になると考えています。
1.事業変革が目指す姿の確定 ~ブランドアーキテクチャー構築~
2.事業変革を牽引する新たな事業の構造設計 ~事業価値デザイン~
3.事業変革を実現する習慣づくり ~習慣化するアクティベーション~
ブランドが目指す未来に向かって、まずは力強く明確な事業コンセプトとストーリーを構築する。そして、マルチステークホルダーと的確なコミュニケーションをとることで理解と合意を形成し、事業としての“ファクト”をつくり上げていく———この一連のアクションを習慣化させていくことで、持続的な成果へとつながるブランディングが実現されます。

電通独自のソリューション「Branding For Growth」とは
こうした3つの戦略プロセスを支援するために、電通では、「Branding For Growth」という新たなブランディングプログラムをご提供しています。
このソリューションでは、ブランドアーキテクチャーから習慣アクティベーションまでの活動を分断せず、一貫したアプローチによって着実な成果へとつなげていきます。コンセプト策定の支援を行うコンサルティングサービスは他社でもいろいろと提供されていますが、事業化や浸透施策も一本化してご支援できることが、このソリューションの大きな特徴になっています。

コンサルティングとクリエイティブが融合した多彩な視点からのご支援が、電通ならではの強みです。発想力、コンセプト構築力、ビジネス構築力、体験設計力、実装力、コミュニケーションデザイン力……それぞれのエキスパートが伴走しながら、事業変革の成果へとつながるブランディングの実現をご支援します。

これから事業変革を目指される企業様はもちろん、今まさにバリアに直面してお困りの企業様がいらっしゃいましたら、ぜひ我々のソリューションをご活用いただければと思います。「まずは課題感を聞いてほしい」「ソリューションの詳細を知りたい」という方も、下記のフォームよりお気軽にお問い合わせください。



