
企業がパーパスを掲げることは、珍しいことではなくなりました。しかし、パーパスを掲げた企業のすべてが、事業成果を上げているわけではありません。 むしろ、「パーパスをつくったものの、現場が動かない」「成果につながらない」「疲弊感が残る」という声は後を絶たないようです。
なぜ、パーパスは成果につながらないのか。 その理由は、パーパスが“理念”としてだけで扱われ、事業や商品・サービス、日々の業務に落とし込まれていないことにあります。パーパスを成果につなげるためには、 パーパスを起点にしつつ、事業変革とブランディングを両輪で回すよう、戦略を組み立て直すことが必要です。
この記事は、すでにパーパス課題に取り組んで3周目あたりに差し掛かり、成果にお悩みの企業の担当者の方に向けて、パーパスウォッシュ等のリスクを避けながら、パーパスを成果に結びつけるための本質的なアプローチを解説します。
INDEX
PROFILE
「パーパスへの批判にどう対応すべきか」問題
パーパスへの取り組みが批判されるケースが生じている
パーパス策定に取り組んできた企業が今、直面しがちな課題が、「パーパスウォッシュ(Purpose-wash)」と呼ばれる批判です。企業がパーパスを掲げること自体は一般化しましたが、その一方で実態が伴わない、あるいは行動が矛盾していると見なされる状態に対して批判される局面が生じています。
批判されるケースでは、次のような落とし穴が見られます。
● パーパスと事業行動が一致していない
例:環境配慮を掲げながら、実際のサプライチェーンは環境負荷が高いまま
● パーパスがコミュニケーションに偏り、実務に落ちていない
例:広告では美しいメッセージを語るが、現場の働き方や顧客対応は従来のまま
● 短期的なイメージ向上のためにパーパスを利用しているように見える
例:社会課題を語るが、事業構造は変えず、CSR的な施策だけを強調する
パーパスは、足元を確認するタイミングにある
このような局面では、批判が顕在化していなくても、組織や社会との間にズレが生じていないか、すでに問題が潜んでいないかどうかを確認することが大切になってきます。
① パーパスと事業行動の整合性を徹底的に担保できているか
パーパスを「行動の基準」と捉えて、事業の意思決定、投資判断、組織運営、商品開発など、企業活動のあらゆる領域で矛盾がないかを点検します。もし課題を発見した場合、必要に応じて事業そのものを変える覚悟があるかを問います。
② パーパスを“外向きのメッセージ”以上に、“内向きの変革”として扱えているか
パーパスウォッシュは、外向きの発信ばかりが先行したときに起こりやすくなります。 社内の行動変容、業務プロセスの見直し、組織文化の変革など、内側の変化を点検し、その後に改めて外部への発信を行うという、手順の変更が重要になります。
③ パーパスの実行状況を透明性高く開示できているか
パーパスの実現度合いを定期的に測定し、成功も課題も含めてステークホルダーに開示します。「できていないことを正直に語る」姿勢も、企業の誠実さを伝えることにつながります。
このタイミングで重要なことは、 パーパスウォッシュという事象を、批判回避の課題にとどめず、事業活動・顧客体験・組織行動に対する「経営リスク」として認識することです。そして、パーパスと矛盾したときに起こる“事業不整合リスク”を、自らの戦略方針を点検する契機として捉えることが大切です。

これからどのような戦略を採るべきか
パーパスを成果に変えている企業から見えるヒント
では、パーパスの持つ経営リスク面を認識しながら、それを解消し企業の成果につなげていくために、留意すべきことは何でしょうか。その参考としてパーパスや存在意義を事業成果に変えている企業に学んでみると、3つのヒントが見えてきます。
① パーパスを“理念”にとどめず“事業の意思”として扱う
例えば、パタゴニア(Patagonia)は “We’re in business to save our home planet.” というパーパスを掲げ、素材選定・事業構造・投資判断まで、 すべてを「地球を守る」という基準で再設計しています。
同様に、ダノン(Danone)は “One Planet. One Health.” を掲げ、 商品ポートフォリオ、サプライチェーン、投資判断を 「地球と人の健康」という軸で統合しています。
② ブランディングを“伝える技術”ではなく“事業変革の技術”として扱う
例えば、 スターバックス(Starbucks) は「人々の心を豊かにし元気づけるサードプレイス」という存在意義を、 店舗デザイン、接客スタイル、商品開発 など、事業全体の再設計に活かしています。国内では、 無印良品(良品計画) が「感じ良い暮らしと社会をつくる」という存在意義を軸に、 商品企画、店舗体験、サプライチェーン、広告表現 すべてを再構築し、ブランド価値を飛躍的に高めました。
③ 行動の習慣化までやり切る仕組みをつくる
マイクロソフトは“To empower every person and every organization to achieve more”(地球上のすべての個人とすべての組織が、より多くのことを達成できるようにする)というパーパスを、Growth Mindset(成長マインドセット)という行動基準に翻訳し、評価制度や会議の進め方、マネジメント研修、プロダクト開発の意思決定といった日常業務の仕組みにまで組み込んでいます。
あるいは、 ヤッホーブルーイング は「ビールに味を!人生に幸せを!」というスローガンを、 行動指針、評価制度、会議の進め方、新商品開発の基準 にまで落とし込み、社員全員が基準を“使って働く”状態をつくっています。
パーパスを、「事業を変えるもの」として捉える
この3つのヒントには共通点があります。それは、パーパスを「社内に浸透させるもの」としてだけでなく、「事業を変えるもの」として扱っていることです。
実際に成果を出している企業は、パーパスを起点にして、
● どんな事業に注力するのか
● どんな商品・サービスを提供するのか
● 顧客にどんな体験を届けるのか
● どんな基準で意思決定を行うのか
といった、事業そのもののあり方を見直しています。
パーパスを成果に変えるために
パーパスに関する取り組みがもし期待通りに機能しなかったとしても、それはパーパスそのものに原因があるとは限りません。多くの場合、パーパスを「事業を変えるもの」として扱えていないことにその原因があります。パーパスを成果につなげるとは、「パーパスを社内外に浸透させること」ではなく、「パーパスを事業の意思決定や行動の基準として機能させること」なのです。
パーパスを事業成果につなげていく4つのステージ
では、そのためには何から考えればよいのでしょうか。
私たちは、パーパスを成果につなげるためには、次の4つのステージで整理すると分かりやすいと考えています。
● STAGE1 パーパスの事業的解釈
● STAGE2 事業再定義
● STAGE3 価値提供のリデザイン
● STAGE4 行動の習慣化
この4つは、それぞれ独立した取り組みではありません。
パーパスを起点に、「何のために存在するのか(Why)」を再確認し、「何を提供するのか(What)」「どのように価値を届けるのか(How)」「どう行動に落とし込むのか(Do)」までを一貫して考えるための視点です。

パーパスを成果に変えるチェックリスト
ここからは、パーパスを事業成果に変えるための実践的な進め方の例を、先述の4つのステージに整理してご紹介します。少し長くなりますが、ステップごとの視点とチェックリストをまとめました。これまで自社で取り組まれてきた事柄の進捗と照らし合わせて、改めて現状と課題の整理に活用していただけると幸いです。
STAGE1:パーパスの事業的解釈(Whyの再定義)
パーパスは理念ではなく、「目的」=事業の意思です。 そのために、パーパスを“事業の言葉”に翻訳します。その視点は以下の2つです。
● 経営層の意思を言語化する
● パーパスを事業の軸に変換する
| 視点 | 内容 | チェックリスト例 |
|---|---|---|
| 経営層の意思を 言語化する |
経営層の想いを「背景・未来像・存在意義」の3つの視点で言語化し、パーパスを理念ではなく、経営の意思決定を支える判断軸へと整理する。 | □ パーパスの背景とは(創業の原点、事業の葛藤、社会環境変化) □ 企業が向かう未来とは(10年後に実現したい世界) □ 事業の存在意義とは(企業が存在することで生まれる価値) □ 経営層自身が語れる言葉にし、意思決定の判断軸にしているか |
| パーパスを 事業の軸に 変換する |
パーパスを顧客価値・社会価値・未来価値の3つに分解して、事業の言葉に翻訳する。 | □ どんな顧客価値を生むのか(顧客の課題・感情への貢献) □ どんな社会的価値を生むのか(社会課題の解決、文化創造) □ どんな未来をつくるのか(企業が実現する未来像) □ パーパスを事業方向性の“軸”に変換できているか |
⇒このSTAGEで得られる成果:パーパスが“経営の判断軸”として機能する状態が創られる
STAGE2:事業再定義(Whatの再構築)
パーパスを軸に、事業そのものを再定義します。 ここには3つの視点があります。
● 顧客価値の再定義
● 事業領域の再設計
● 競争優位の再構築
| 視点 | 内容 | チェックリスト例 |
|---|---|---|
| 顧客価値の 再定義 |
パーパス視点で顧客価値を再評価し、 “顧客の人生に寄り添う価値” を再定義する。 | □ 顧客が本当に求めている価値を再評価しているか □ 機能価値・感情価値・未来価値まで含めて定義しているか □ 顧客がどんな未来を望んでいるのか □ 顧客がどんな不安や葛藤を抱えているのか □ 顧客がどんな体験を求めているのか □ “顧客の人生に寄り添う価値” として再定義しているか |
| 事業領域の 再設計 |
パーパスを軸に、事業の“選択と集中”を行い、事業の方向性を明確化、経営資源の最適配分を可能にする。 | □ 何をやるべきか(パーパスと強く結びつく領域) □ 何をやめるべきか(パーパスと矛盾する領域) □ どこに集中すべきか(強み×パーパスの重なる領域) □ パーパスをもとに“選択と集中”を判断できているか |
| 競争優位の 再構築 |
競争優位を “存在意義に基づく価値” へと進化させ、模倣されにくい独自の競争優位を生み出す。 | □ 「価格」や「機能」ではなく、“存在意義に基づく価値” を定義しているか □ なぜ存在するのか、なぜ選ばれるのかが明確か □ 模倣されにくい独自の競争優位として明確化しているか |
⇒このSTAGEで得られる成果:事業の“選択と集中”が可能になり、投資とリソース配分が明確になる
STAGE3:価値提供のリデザイン(Howの再設計)
事業の価値を、パーパス視点で再設計します。ここには4つの視点があります。
● 商品・サービスの価値再定義
● 顧客体験(CX)の再設計
● 統合コミュニケーションの構築
● ブランドストーリーの構築
| 視点 | 内容 | チェックリスト例 |
|---|---|---|
| 商品・サービス の価値再定義 |
“パーパスの表現体”として、商品・サービスの価値を再構築する。 | □ パーパスを体現する機能は何か(何を提供するか) □ パーパスを体現する体験は何か(どう提供するか) □ パーパスを体現するメッセージとは(どんな意味を持つか) □ 商品・サービスを“パーパスの表現体”にできているか |
| 顧客体験(CX) の再設計 |
すべての顧客接点で、パーパスが一貫するよう顧客体験を統合し、ブランドの一貫性と信頼性を高める。 | □ 全接点でパーパスが一貫して体験できるような設計か □ 店舗・Web・営業・サポートなどを統合しているか □ 顧客の前後の体験まで含めたストーリーラインがあるか |
| 統合コミュニ ケーション の構築 |
企業のあらゆるコミュニケーションをパーパス基準で統合。発信のブレをなくし、ブランドの信頼性を強化する。 |
□ 営業・採用・広報・マーケをパーパス基準で統合しているか |
| ブランド ストーリー の構築 |
パーパスを「共感される物語」に変換し、社内外の共通言語にする。 | □ パーパスが生まれた背景は何か □ 企業が向かう未来とはどのようなものか □ 顧客と共創する価値とは何か □ 社員が体現する行動とはどんなものか □ パーパスを“共感される物語”に変換できているか |
⇒ このSTAGEで得られる成果:商品・サービス・顧客体験が“パーパスの表現体”として一貫する
STAGE4:行動の習慣化(Doの仕組み化)
パーパスは、行動に落ちて初めて成果になります。ここには5つの視点があります。
● 行動指針の策定
● 意思決定基準の統一
● KPIの再設計
● パーパス体現の可視化
● 業務プロセスへの組み込み
| 視点 | 内容 | チェックリスト例 |
|---|---|---|
| 行動指針 の策定 |
パーパスを簡潔な行動指針に落とし込み、社員が日常業務で使えるレベルにまで具体化、パーパスを“使える言葉”に変える。 | □ パーパスを行動指針に落とし込めているか □ 日常業務で使えるレベルに具体化しているか □ 判断・行動・チーム共有の基準にできているか |
| 意思決定基準 の統一 |
組織全体の意思決定を、パーパス基準で再設計し、パーパスを“組織のOS”として機能させる。 | □ 組織がパーパスを確認する習慣があるか □ 企画評価にパーパス基準を組み込んでいるか □ 人事評価にパーパス体現度を反映しているか □ 組織の意思決定が揃う“OS化”を実現しているか |
| KPIの再設計 | パーパスの体現度を測る指標を設定し、パーパスを “測れるもの”として運用可能にする。 | □ 行動指標(Behavior KPI) はあるか □ 顧客体験指標(CX KPI) はあるか □ ブランド指標(Brand KPI)はあるか □ パーパスを“測れるもの”として運用しているか |
| パーパス体現 の可視化 |
パーパスを体現する“再現可能な型”をつくることで、行動が称賛される文化を生み出し、パーパスの浸透を加速させる。 | □ 行動を可視化し、成功事例を共有しているか □ 月次・四半期で表彰するなどの制度は整っているか □ 成功行動を“再現可能な型”にしているか □ 称賛文化が浸透を加速させるよう仕組み化しているか |
| 業務プロセスへの 組み込み |
業務フローにパーパス基準を組み込むなど、行動が自然に揃う仕組みをつくり、“特別な活動”ではなく、日常業務の一部として習慣化する。 | □ 業務フローにパーパス基準を組み込んでいるか □ チェックリスト化できているか □ 新人研修・マネジメント研修に組み込んでいるか □ パーパスを日常業務の一部として習慣化できているか |
⇒ このSTAGEで得られる成果:パーパスが“社員の行動”として日常業務に根づく
まとめ:パーパスは“掲げるもの”ではなく“成果を生む仕組み”である
いかがだったでしょうか。すでに取り組まれていることも数多くあったかもしれません。大切なのは、パーパスを掲げるだけ、それをメッセージとして浸透させるだけでは、企業は変わらないと改めて理解することです。まずは、今回のチェックリストを使って、「パーパスが事業のどこまで機能しているか」を棚卸ししてみてください。 そのうえで、最もギャップが大きいステージから着手することが、成果への最短ルートです。
パーパスは、企業の未来をつくる強力な武器です。しかし、その武器を活かすかどうかは、 皆様が「事業に変換できるかどうか」にかかっています。電通では、様々な切り口から、企業がパーパスで成果をあげるための支援サービスをご用意しています。以下に代表的な3つのサービスをご紹介します。
上記のサービスにご興味のある方はぜひお問い合わせください。





