
「サステナビリティへの取り組みはしているが、成果が見えない」「規制対応に追われ戦略が後回しになっている」——そう感じている経営者・担当者は少なくないのではないでしょうか。2010年代から2020年代前半にかけて、SDGsやESGという言葉が急速に普及し、多くの企業がサステナビリティへの取り組みをアピールしてきました。しかし2026年現在、その潮流は新たな局面に入っています。
聞こえの良いスローガンとしてサステナビリティを掲げていた時代は終わり、専門家の間では「フェーズが変わった」という認識が広がっています。今問われているのは、サステナビリティを「経営戦略として使いこなせるかどうか」です。
さらに、規制面でも変化が加速しています。日本では2027年から上場企業を対象に有価証券報告書等への非財務情報の記載義務化が見込まれており、EU域内に子会社を持つ日本企業の中にはCSRD(企業サステナビリティ報告指令)への対応が求められる場合があります。ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準・SSBJ(サステナビリティ基準委員会)基準といった開示基準も整備され、経営者や担当者が「対岸の話」として見過ごせる状況ではなくなっています。
この記事では、「サステナビリティ経営」の全体像から、サステナビリティ経営とSDGs・ESG・CSRの違い、導入の意義、成功のためのプロセス、先行事例まで、経営課題として実務に接続できる形で解説します。
あなたの会社はどの段階?サステナビリティ経営チェック
まずは簡単なチェックで自社の現在地を確認してみましょう。
✔︎ サステナビリティ方針が経営戦略と紐づいている
✔︎ 重要課題(マテリアリティ)を明確に定義している
✔︎ 非財務指標をKPIとして設定している
✔︎ 社内外への情報開示を定期的に行っている
✔︎ 取り組みが新規事業や競争優位性につながっている
サステナビリティの取り組みを「活動」にとどめず企業価値へとつなげるには、自社の現在地を踏まえた打ち手を見極めることが重要です。
INDEX
サステナビリティ経営とは何か
サステナビリティ経営とは、環境・社会への貢献を事業成長や競争優位の源泉として統合し、長期的な企業価値を高めていく戦略的な経営手法です。CSR活動や広報施策とは異なり、サステナビリティを新市場の開拓・ブランド価値の向上・投資家評価の改善といった事業機会へと転換する視点が特徴です。
サステナビリティ経営の3つの観点
サステナビリティ経営は、「環境・社会・経済」の3つの観点で、持続可能な状態を目指す経営の取り組みです。それぞれは相互に影響しあうため、成功のためには総合的な経営アプローチが求められます。
● 環境
再生可能エネルギーの活用、廃棄物削減、持続可能な資源利用など、環境負荷を最小化するビジネスモデルの構築が求められます。
● 社会
公正な労働条件の整備、多様性と包摂性の推進、地域コミュニティへの貢献など、多様なステークホルダーへの社会的責任を果たすことが前提となります。
● 経済
生産性向上や経済成長への貢献はもちろん、長期的なビジネスモデルの開発や貧困問題の解決など、社会全体の経済的健全性への寄与も含みます。
サステナビリティ経営が必要とされる背景
サステナビリティ経営が経営課題として浮上している背景には、複数の要因が絡み合っています。
● 規制・開示義務化
日本では、サステナビリティ基準委員会(SSBJ)の開示基準適用が段階的に進行中です。国際的には、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が策定したIFRS S1・S2が、グローバルな事実上の標準として定着しつつあります。さらに、EUの企業サステナビリティ報告指令(CSRD)はEUに子会社を持つ日本企業への影響が拡大中です。GRIスタンダード(国際的なサステナビリティ報告基準)も依然として重要ですが、2026年の日本企業が最優先で対応すべきは、SSBJとISSBの基準です。
● 開示が経営を規定する時代
「測定できない取り組みは評価されない」という認識が定着しています。CO2削減量やKPIにとどまらず、社会的インパクト評価(アウトカム・インパクト)まで踏み込んだ開示が投資家から求められています。
● サプライチェーン全体への責任拡大
Scope3(サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量)の開示、人権デューデリジェンス、強制労働リスクの管理は、2026年時点で日本企業が対応を求められる重要テーマです。
● ステークホルダーからの信頼獲得
消費者・投資家・金融機関はESGに責任ある行動をとる企業を高く評価します。グリーンウォッシュ(見せかけだけの環境配慮)への規制強化が進む中、実態の伴わない発信はリスクとなります。
サステナビリティ経営とSDGs・ESG・CSRの違い

サステナビリティ経営、SDGs、ESG、CSRはいずれも企業の環境・社会的責任に関連する概念ですが、焦点とアプローチが異なります。
| 概念 | 焦点 | アプローチ |
|---|---|---|
| サステナビリティ 経営 |
環境・社会・経済の バランス |
経営戦略全体において持続可能性を重視 |
| SDGs | 国際的な持続可能な 開発目標 |
17の目標達成に向けた活動 |
| ESG | 投資判断基準 | 環境・社会・ガバナンスの観点から企業を評価 |
| CSR | 企業の社会的責任 | 地域社会・ステークホルダーへの貢献活動 |
4概念に共通するもの
いずれも、企業が環境や社会に責任を持ち、持続可能な成長を促進するという方向性は共通しています。また、短期間で成果が出るものではなく、長期的な取り組みを前提とする点も同様です。
SDGs・ESG・CSRと比較した、サステナビリティ経営の特徴
サステナビリティ経営が「経営戦略全体での持続可能性の実現」と「事業としての利益創出」を両立させることを目標とするのに対し、SDGsは特定の国際目標に、ESGは投資家向けの評価基準に、CSRは社会的責任の具体的な行動に重点を置いています。
また、主体という観点では、サステナビリティ経営の主体が企業であるのに対し、SDGsでは企業を含む社会や国全体が主体となります。
サステナビリティ経営に取り組む意義

サステナビリティ経営に取り組む意義は、環境・社会への責任ある行動を事業成長や企業価値向上に直接接続できるかどうかにあります。環境・社会への貢献を『コスト』として扱うのではなく、競争優位性・新規事業・投資家評価の向上につながる戦略的資産として位置づけること——その転換を果たした企業が、企業の信頼性を高め、顧客やステークホルダーとの強固な関係を築くことに貢献します。
サステナビリティ経営によって期待される効果
サステナビリティ経営の導入によって期待できる効果は多岐にわたります。
● ブランドイメージの向上
環境や社会への貢献活動を行うことで、企業への信頼感などのイメージが向上します。持続可能な素材を使用した製品や、環境保護に関する活動は、消費者に好印象を与え、ブランドの評価を高めます。
● 長期的なコスト削減
エネルギー効率の改善や廃棄物削減などにより、事業コストが削減できます。再生可能エネルギーの利用や廃棄物リサイクルは、長期的に運営コストを下げる効果があります。
● 市場競争力の強化
環境に配慮した製品やサービスを提供することで、新しい顧客層を獲得し、競争優位を築きます。エコラベル商品やサステナブルなサービスは、エコ意識の高い顧客に選ばれやすくなります。
● 新市場の開拓
社会的課題を解決するイノベーションは、新たなビジネスチャンスを生み出します。エネルギーソリューション、バイオベースの素材開発を進めることで、まだ開拓されていない市場にアクセスできます。
● 優秀な人材の獲得
環境的・社会的責任を重視する企業文化は、同じ価値観をもった優秀な人材の獲得につながります。近年は、サステナビリティに関心の高い学生も多く、新卒採用においても効果が期待できます。
サステナビリティ経営の留意点
サステナビリティ経営は長期的な取り組みであるため、健全で効果的な経営を追求していくために、計画の段階で下記のような留意点を認識しておくことが大切です。
● 戦略策定の作業負荷
国内外の法規制、業界・技術動向、生活者意識など多様な情報を収集・分析し、経営戦略に落とし込む作業は、経営層や推進担当者にとって相応の負荷となります。
● 柔軟な視点の必要性
「調達のあり方を大きく変えた結果、価格戦略・ブランド戦略を根本から変えることになった」といったように既存事業の「常識・定石」を問い直す場面も生じます。過去の既成概念に縛られず、未来を見据えた柔軟な視点が求められます。
● 短期的なコスト増加の可能性
エコフレンドリーな材料の採用や再生可能エネルギーへの切り替えなど、環境・社会への取り組みは初期コストがかかる場合があります。
● 成果がすぐに見えにくい
自然環境の改善などは継続的な活動を必要とし、短期間での成果測定が困難です。ただし、長期にわたって取り組みを継続することは、確実に企業のブランド力と信頼性の向上につながります。
● グリーンウォッシュのリスク
実態の伴わない発信は投資家・消費者・規制当局から厳しく追及されるリスクがあります。2026年現在、欧州を中心にグリーンウォッシュ規制強化が進んでおり、日本でも対応が求められる場面が増えています。
サステナビリティ経営を成功させるプロセス

ここからは、サステナビリティ経営を成功させるための具体的なプロセスを3つのステップで解説します。それぞれのステップで、「上手く進めるポイント」と「注意点」をリストアップしています。サステナビリティ経営を検討・導入する際にお役立てください。
ステップ1:マテリアリティ特定(重要課題の洗い出し)
最初に、サステナブル関連の法規制や業界・技術・生活者意識の動向を把握し、自社の業務と社会・環境へのインパクトを分析した上で、重要課題(マテリアリティ)を特定します。
「マテリアリティ特定」とは、自社にとって優先的に対処すべきサステナビリティ課題を絞り込むプロセスです。国際的な開示基準(SSBJ・GRI等)においても、このプロセスの透明性と合理性が求められています。
● 上手く進めるポイント
・国内外の法規制や業界動向など多角的な情報を収集し、俯瞰できる形にまとめる
・収集した情報を分析し、優先すべき課題を絞り込む
・社内外のステークホルダーを課題選定プロセスに巻き込む
● 注意点
社会や市場のトレンドは常に変化するため、定期的に情報を更新し課題を再評価することが重要です。また、多くの従業員がプロセスに関与することで、課題選定の偏りを回避できます。
ステップ2:ビジョンの策定
次に、社会や環境への貢献を通じて「自社がどうありたいか」を描く長期ビジョンを策定します。10年後・20年後を見据えた視点が求められ、企業理念との整合性を確保することも重要です。
● 上手く進めるポイント
・将来の社会・環境の状況を踏まえ、長期的なビジョンを設定する
・未来の当事者であるZ世代(サステナビリティ・ネイティブ)の視点を取り入れることも有効
・達成したい社会的・環境的成果を明確にし、企業理念との整合を図る
● 注意点
社内リソースの状況を踏まえ、現実的に達成可能なビジョンを設定することが前提です。また、企業状況や業界の変化に合わせて、定期的にビジョンの見直しと調整を行うことが求められます。
ステップ3:目標設定・実行・情報開示
ビジョンを実現するために、短期・中期・長期の具体的な目標を設定し、アクションプランを立案・実行します。その上で、進捗をステークホルダーに定期的に開示することが求められます。
● 上手く進めるポイント
・短期・中期・長期に応じた具体的な数値目標と期限を設定する
・実行可能なアクションプランを目標に紐づける
・進捗を定期的にモニタリングし、必要に応じて計画を調整する
● 注意点
設定した目標を無理に達成しようとして、経営に支障が及ばないようにする必要があります。また、目標値とともに成果をステークホルダーへ逐次開示することが、信頼獲得の観点からも重要です。
サステナビリティ経営の事例
サステナビリティ経営はすでに多くの企業で導入されています。サステナビリティ経営の実例とその効果について詳しく見ていきましょう。
LUSH
ナチュラルコスメブランドのLUSHは、自社の基金「SLush Fund(現在はRe:Fund)」を立ち上げ、LUSHの原材料購入費の2%を積み立てて、世界各地でのパーマカルチャーの浸透やコミュニティプロジェクトの運営を支援しています。また、容器回収プログラム「BRING IT BACK」やパッケージフリーの「ネイキッド」商品の導入を通じて、数千トンのプラスチック廃棄物を削減することに成功しました。
これらの活動は、持続可能な市場の形成や、環境に配慮したビジネスモデルの構築といった事業成長につながっています。
BOSCH
エンジニアリング・テクノロジー企業のBOSCHは、資源効率化の取り組みとして、MEMS(※1)センサー資材の50%削減、製品カーボンフットプリント資材の使用量を33%削減。また、冷蔵庫に低CO2スチールを使用して製品カーボンフットプリントの33%削減を実現しました。これらは環境改善と事業成長の両立につながっています。
さらに、STEAM教育支援や渋谷区とのS-SAP協定締結(※2)を含む社会貢献活動も実施し、社会的責任をもって、自社の技術革新を推進しています。
※1:MEMS(Micro-Electro-Mechanical Systems)センサー:微細な機械的要素、センサー、アクチュエーター、そしてそれらを制御する電子回路を一つのチップ上に統合したデバイス。
※2:S-SAP(Shibuya Social Action Partner)協定は、企業や大学と地方自治体が協力し合って地域社会の課題解決に取り組むための公民連携制度です。
まとめ——経営戦略としてのサステナビリティ経営へ
サステナビリティ経営は、環境・社会・経済の3つの観点からトータルに自社の事業を捉え、企業の社会的責任と事業成長を両立させる戦略的な経営手法です。
サステナビリティ経営が「やっておくとよいもの」から「経営として必須のもの」へとフェーズが移行している今、問われているのはサステナビリティをいかに事業価値の向上に接続できるかです。ブランド力・人材獲得力・コスト競争力・新市場開拓など、導入による効果は多面的であり、長期的な企業価値の向上に変化をもたらすでしょう。
一方で、マテリアリティの特定からビジョン策定、目標設定・情報開示に至るまでのプロセスは、経営層や推進担当者にとって相応の専門知識と実行力が求められます。外部の専門的な支援を活用しながら、着実に推進していくことが現実的です。
サステナビリティ経営の検討・推進を支援するソリューション
Do! Solutionsでは、サステナビリティ経営の検討や意思決定を支援する複数のソリューションを提供しています。
サステナビリティを“事業成長・企業価値向上に接続したい”企業向け・・・「サステナビリティ経営/事業コンサルティング」
社会課題への対応を開示義務やコスト管理で終わらせず、競争優位・新規事業・投資家評価の向上といった企業価値の向上に転換する“攻めのサステナビリティ”として、戦略策定から実行まで伴走支援します。
サステナビリティの取り組みが“伝わらない”と感じている企業向け・・・「サステナビリティ企業ブランディング」
企業の社会的価値や存在意義を、自社らしいブランドストーリーとして再編集し、社員・生活者・投資家から共感される企業ブランドづくりを支援します。
上記はいずれも検討・意思決定フェーズを支援するソリューションです。サステナビリティ経営の検討を始めたばかりの段階から、具体的な戦略立案から施策実行・ステークホルダーコミュニケーションまで、電通グループが培ってきたプランニングと「人と組織を動かすコミュニケーション」のノウハウを活かした推進支援の実績も多数ございます。まずはお気軽にご相談ください。
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