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こんにちは。電通の「パパラボ」です。私たちはメンバー全員が「働くパパ」で、営業・ストラテジー・クリエイティブ・デジタル・メディア・コーポレートなど、さまざまな領域のプロフェッショナルが集った、いわばパパ専門のミニエージェンシーです。父親の視点で集めたノウハウを、さまざまな形で社会に提供しています。
2022年の4月と10月、そして2023年4月と、男性の育休に関する新たな法改正が施行されます。この連載「法改正元年|男性育休という、可能性の宝庫」では、男性の育休取得推進に向けて企業や人事部門のみなさまが「今すぐ取り組むべきこと」を、4つの視点から紹介しています。
前回のブログ「男性育休。組織は、取得率より先に従業員の幸福を考えよう」はコチラ
シリーズ4回目のテーマは、「従業員のデメリット(誤解)の払拭」。従業員が育休取得にあたって感じている不安に焦点を当ててお送りいたします。
これまでのブログシリーズでは、組織側の視点で、男性育休取得における「組織としてのメリット」、「組織としてのデメリットの払拭」、従業員側の視点として「個人としてのメリット」についてお伝えしてきましたが、実際に取得する従業員の声を聞くと、「なんとなく取るのが不安」「本当に男性育休を取って大丈夫かな」という不安が、取得のハードルとなっているケースが多いようです。
従業員も会社も男性育休のメリットを理解し、組織におけるデメリットが払拭できたとしても、取得する本人である従業員側に不安があると、最後の一歩が踏み出せず取得がすすまないのです。
今回は従業員の男性育休取得を阻む3つの「不安」について、その原因と対策を探っていきたいと思います。
育休取得において一番現実的な問題となるのは、「経済的な不安」です。
具体的には、育休中に給与が出ないことから生活が回らなくなってしまうのではないかという不安です。会社独自の制度で補助を支給しているケースも一部あるようですが、基本的に育休で通常のような給与支給はありませんし、共働きの場合は出産する配偶者の給与もストップしてしまいます。
「夫である自分は育休を取らず働いてお金を稼ぐべきではないか」と考えることが、育休取得のハードルとなってしまうのです。
2つめの不安が、仕事における「実務的な不安」です。これには2つの種類があります。
ひとつは自分が育休を取ってしまうと仕事が回らなくなり、会社に迷惑をかけてしまわないかということ。もうひとつは逆に、(チームの工夫と努力により)不在中も仕事がうまく回るようになったらなったで、復職した時に自分の役割が無くなっているのではないか、というものです。
3つめの不安が、漠然とした「心理的な不安」です。つまり「なんとなく取りにくい」「言い出しづらい」といった、意思を明確にできない不安です。
特に、これまで男性育休の前例の少ない会社においては、他の人が取っていないのに自分だけが取得することに心理的な不安を感じるケースが多いようです。
ここまで男性育休に対し従業員が抱える不安を3つ紹介してきましたが、この記事でお伝えしたいことは、そのような不安は正しい知識を得ることで打ち消すことができ、それにより前向きに育休を取得できる組織をつくることができる、ということです。
それでは、次に、この3つの不安を乗り越えるために必要な知識と、それを浸透させるために組織がすべきことは何かを紐解いていきましょう。
最初は「経済的な不安」についてです。まずはこちらの図をご覧ください。
こちらは2019年のグラフであり、その後に起こった日本や北欧の法改正などが反映されていないので、すこし古いものになりますが、育児休業での各国の子育て支援の充実度を比較したものです。左のグラフは育児休業が取得可能な期間を表しており、日本は子どもが1歳になるまでの52週間、取得することが可能です。右のグラフは、給付金が給料何カ月分に相当するのかを換算したものですが、日本では最初の半年に育休直前の月給の67%、次の半年に50%相当の給付金が支払われます(給付金額に上限あり)。
この表を見ると、日本の男性育休制度は世界でもトップクラスに手厚い制度であり、男性の家庭進出がめざましい北欧諸国と比べても、非常によい条件であることがわかります。
世界でも最高水準である日本の育休制度に、有給や会社や組織独自の育休支援制度などをうまく組み合わせて利用することで、収入の減少は最小限に抑えることが可能になります。
育児休業給付金が支払われるとは言え、育休期間に得られる収入は最高でも月給の67%に減ってしまうのは事実です。なので、有給休暇が残っている場合はそれを優先して使い、さらに出産休暇のような会社独自の「育児目的休暇」まで利用するとよいでしょう。
(後半で具体的な取り組みをご紹介します)
改正育児休業法では、年一回、企業に育児休業の取得の割合を公表することを義務付けています。このとき公表する数字は、「法定制度としての育児休業」と「組織の制度の育児目的休暇」の取得日数を足し合わせたもので算出することが認められています。
そのため、会社独自の「育児目的休暇」を取得することは、従業員やその家族のためになるだけでなく、会社にとっても、「高い育児休業取得率」を公表できるというメリットがあるため、個人と会社、双方にとってWin-Win-Winな制度となっているのです。
「育児目的休暇」などの制度がないなど、組織によって事情は違ってくるとは思いますが、これまでご説明をしてきた方法で「育休は取得したいけど金銭的に難しい」というハードルは下げることができます。
大事なことは、育休に対して正しい知識を持つことで、個々人に合ったベストな取得方法を選択できるということです。正しい知識が自分を守ることを覚えておいてください。
次は、育休における「実務的な不安」についてです。これには2つの面がありますが、まず、「自分がいなくて仕事が回るのか?」という不安について考えていきます。
例えば、業務をしているなかで、誰かが病気になったり、家族の問題で働けなくなったりなど、突発的に人が抜けてしまうケースはこれまでもあったのではないでしょうか。突発的な不在の場合、その人が復帰するまで既存のチームのみで対応をしなければならず、「仕事が回らない」と感じたこともあったかと思います。
一方で、育児休業による不在は言ってみれば「予告付き、期限付きの不在」である、という点に大きな違いがあります。
予告付きであれば、不在になる前にチームとして業務量を調整したり、他の人員を確保したりといった対応が可能です。また期限付きであれば、その間、他のメンバーでどう乗りきるかという計画を事前に立てることができます。
このように、育休取得の不在への対応を予め準備することができるため、「自分がいなくて仕事が回るのか」という不安を持つ必要はないのです。
「実務的な不安」のもう一つの面、「復帰後ちゃんと活躍できるのか?」、「戻ってきたときに自分の役割はなくなっているのでは?」という不安については、職業や職種によって差があるので画一的な答えはないかもしれません。しかし、育休を通じて自らの能力を高めることができ、復帰後にその能力を活かすことで組織に貢献できることは確かです。
例えば、パパママ向けの商品開発や、パパママを狙ったターゲット戦略など、育休取得時に得た気づきや発見などが、直接的に業務に活かせるといった場合もあるでしょう。また前回のブログでもご紹介したように、育休を通じて「育児をするチームをマネジメントするためのリーダーシップを身に付ける」ことができるため、より組織に貢献できる人材として復帰できる、という間接的な効果もあります。
また、「家族の絆が深まる」ことで家庭環境が充実する、それにより安心して仕事に集中することができ、満足のいくパフォーマンスを発揮することができるようになるという効果もあります。育休を取得することで夫婦の絆が深まり、仕事と家庭をバランスさせ両立しながら働くことが可能になるのです。(こちらも前回のブログ 「男性育休。組織は、取得率より先に従業員の幸福を考えよう」でご紹介しています)
このように育児休業の取得は、直接的にも間接的にも(また家庭環境の面からも)、仕事に活かせる力を育てる機会となるため、「復帰後にちゃんと活躍できるのか?」という不安も抱く必要は無いのです。
最後は、育休における「心理的な不安」、明確な理由はないのだけれど「なんとなく取りにくい」という不安について考えます。
これは特に、男性育休取得の前例がない職場において多く、「取得した後どうなるのか?」を、会社も従業員もイメージすることができないことが、漠然とした不安につながっているようです。
では、実際に育休から復帰するとどうなるのでしょうか?ここは、私自身の体験でお話ししたいと思います。
私は2015年に3か月の育休を取得したのですが、復帰後に一気に仕事が増えました。
これは考えてみると当たり前で、育休明けの従業員は業務がリセットされ白紙の状態です。なので、会社としては復帰のタイミングに合わせて「この仕事は彼に担当してもらおう」と期待をして、仕事を準備しておくのが当然です。そのため、復帰後は、会社からの期待を受けてスムーズに業務を取り戻すことができました。
また、私が取得した当時は、まだ男性育休の取得率はそれほど高くありませんでしたので、これから育休を取得するかもしれない男性の同僚や後輩に対して、前例を示す良い機会となりました。育休を取得しても復帰時には取得前と同じ水準以上の仕事にチャレンジできる、なので育休で仕事がおびやかされる心配はないよ、ということを示すことができたのです。
育休を取得すると、社内だけでなく取引先などの社外の人にどのように思われるか、ということについても気になるところだと思います。
私のケースでは、私の経験が共有されることで、取引先にとってもそれがよい「前例」となるということが起きました。取引先の企業も「うちの会社も男性育休の取得率を上げなければならない」という同じ問題意識を持っているため、「あの会社が取得促進しているなら、うちの会社もやって当然」、「実際に育休取得を促進するとどうなるのか」といったことが共有され、会社を超えて「前例」として機能した、ということではないかと思います。
従業員が金銭的・実務的な不安を乗り越えて「育休を取得しよう」と思ったとしても、最後にこの心理的な不安が払拭できないと取得を断念してしまうかもしれません。
金銭的・実務的な不安は、従業員の置かれている立場や仕事の状況によってはハードルを下げるのが困難な場合もあります。
しかし心理的な不安だけは、従業員がどのような業務をしていたとしても、正しい情報発信をすることで必ず下げることができます。
そのため、男性育休取得率の向上を目指すのであれば、この心理的障壁こそ率先して取り除くべき一番のハードルであると言えるでしょう。
これからは、これまで説明してきた3つの不安に対して、具体的に会社側が取り組むべきことを3つご紹介します。
まず1つめは、経済的な不安を取り除くための「収入変動シミュレーションツール」です。
国の育児休業制度と会社独自の育児支援制度をまとめ、わかりやすく冊子やサイトに掲載している企業は多いと思いますが、それを一歩進めて、実際に取得する期間に応じてどの程度収入が増減するかをシミュレーションできるツールがあるととても便利です。
私たちパパラボでは、エクセルを利用してこのツールを独自に作成しました。
「育児休業を開始する日と終了する日」、そのうち「国の制度の育児休業を使用する期間」、「有給を使用する期間」、「会社独自の育児休暇を使用する期間」を入力することで、育休を取らなかった場合と比べてどの程度収入が減るのか、休業や休暇の組み合わせかたによって収入はどう変わるのか、を誰もがシミュレーションできる仕組みです。
これを使うことで、漠然とした収入面の不安から取得をためらっていた人に対して、「この程度なら貯金で何とかなりそう」などの前向きな気持ちを引き出すことができます。
給与体系や休暇制度は会社ごとに異なりますので、このツールは個別の会社や組織ごとにカスタマイズする必要がありますが、私たちが使用しているツールを雛形とすることで比較的簡単に作成することができます。ご興味のある方はぜひご相談ください。
2つめに、実務的な不安を下げるための取り組みです。
この不安は、多くの場合、前例がないことによって生じるものなので、前例やそれに近い事例をいかに従業員に知ってもらい、共有するのかがポイントとなります。
そのため、会社側が率先して社内の男性育休取得経験者を対象に、「具体的にどれくらいの期間の育休を取って、どのような影響があったのか」をヒアリングして情報としてまとめ、共有するということが必要です。
その際に、育休取得者だけでなく、その取得者が所属していたチームのメンバーや取引先にまでヒアリングの対象を拡大するとよいでしょう。本人だけでなく、周囲の人がどう思うのかがイメージできることで、より一層効果的になります。
もし、該当する事例がないというような場合は、同業他社などの近しい事例を従業員に共有することが必要になります。
私たちパパラボでは、各社の育休取得の事例や、本人・周囲の声をヒアリングした情報を多く持っていますので、適当な事例が無いとお困りの場合は、ぜひ一度、お問い合わせください。
最後に、3つめの心理的な不安を下げるための具体的な取り組みです。
「何となく取りづらい」といった、従業員の漠然とした不安を取り除くためには、会社(経営層)側からの明確なメッセージが有効です。
これまでの記事で述べてきたように、社が男性育休取得を積極的に推進していること、そして何より育休を取得することで従業員のクオリティオブライフが上昇すること、それにより会社へのエンゲージメントが高まり、活き活きと働き活躍してもらうことを望んでいることを積極的に発信していく必要があります。
さらには、男性育休取得率を公表するにあたり、従業員が男性育休を取得し、取得率が向上することが、会社のメリットにもつながるということを理解させ、従業員の育休取得は対象者個人やその家族のためだけではなく、「会社のためになる」ことだという認識をつくっていくことが重要です。
男性育休の取得のハードルとなる「不安」を払拭するための3つの施策例をご紹介しましたが、これらは、実施して終わり・発信して終わり、ではありません。会社が「男性育休取得率向上のために本気で取り組んでいる」ことを示すためには、この施策例をベースに新しい制度を作り導入するなどの具体的なアクションを伴う発信が必要になってきます。
声掛けだけで終わらせないために、小さな一歩であっても、取り組みを制度としてカタチにしていくことが重要です。
そのために、「何を、どのように始めていけばいいのかわからない」とお悩みの際は、ぜひ私たちパパラボにご相談ください。
パパラボでは、男性の育休を組織の成長機会に結びつける「PX(パタニティ・トランスフォーメーション)」というソリューションを提供しています。
育休取得の推進には「トップダウン型の取得環境整備」と、「ボトムアップ型の取得推進」の2つのアプローチがありますが、取り組むべき課題や解決策は組織によって異なります。
これまで電通がコミュニケーションの領域で培ってきた技術を活用し、それぞれの組織が抱える課題を洞察し「課題設定」をすること、優れた表現や仕組みを「プランニング」することが可能です。実施、検証、改善から、持続可能な組織体制構築に至るまで、一気通貫で支援いたします。
2023年4月には従業員1,000名以上の企業での、取得率の公表が義務化されます。義務だから公表するという受け身の対応ではなく、これを機会として、自社のため、従業員を動かすためにどのように取り組むべきかを考え、検討してみてはいかがでしょうか。
パパたちの力を家族、企業、そして日本の力に変えていくために。私たちパパラボは、男性の育休を企業の強みに変えるお手伝いをさせていただきます。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。
今回のブログでは、「従業員」の立場で男性育休の「デメリット(誤解)の払拭」を可能にするために「今すぐ取り組むべきこと」を紹介しました。次回は、これまで4回行ってきた連載のまとめを行いたいと思います。
これまでの連載はコチラ
第1回:男性育休、取得率向上には「取ろう」より「取らせよう」
第2回:男性育休の取得率が上がっても、組織の戦力は下がらない
第3回:男性育休。組織は、取得率より先に従業員の幸福を考えよう
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