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法改正元年|男性育休という、可能性の宝庫 #1 男性育休、取得率向上には「取ろう」より「取らせよう」

作成者: D-sol|Jul 26, 2022 1:00:00 AM

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こんにちは。電通の「パパラボ」です。私たちはメンバー全員が「働くパパ」で、営業・ストラテジー・クリエーティブ・デジタル・メディア・コーポレートなど、さまざまな領域のプロフェッショナルが集った、いわばパパ専門のミニエージェンシーです。父親の視点で集めたノウハウをさまざまな形で社会に提供しています。

2022年の4月と10月、そして2023年4月と、男性の育休に関する新たな法改正が施行されます。今回から始まるこの連載「法改正元年|男性育休という、可能性の宝庫」では、男性の育休取得推進に向けて企業や人事部門のみなさまが「今すぐ取り組むべきこと」を4つの視点から紹介してまいります。

どうすれば、「男性育休」の取得が進むのか?

12.65%!取得者はまだ少数派

2022年は、男性育休普及元年。
(その理由はこちらのブログで解説! ⇒「男性の育休」に強い会社こそ、強い会社になってゆく

改正された育児・介護休業法は段階的に施行されていますが、10月には、いよいよ「産後パパ育休の創設」「育児休業の分割取得」が開始。取得者にとっては、取得や制度利用において、より自由度が高まることになります。

そのような中、企業の人事部門の方々からは「社内の制度を整備しなければならない」「従業員への啓発活動はどうする?」など、「何から手をつけて、どのように取り組めばよいのか分からない」というお悩みを耳にします。また、取得する従業員の側でも「子どもが産まれるけど、自分には(育休は)関係ない」「権利が増えるようだけど、メリットがよくわからない」「周囲の従業員も、育休のことなんか知らないし、興味がない」など、環境が整わず取得に向かって進みにくいのが現状のようです。

ここ数年で、男性の育休取得率は伸長傾向にあるものの、まだ12.65%にとどまっています(2020年厚生労働省令和2年度雇用均等基本調査)。現状は、男性の育休取得はまだ組織の中には浸透していないというのが実情なのです。

このような状況の中で、自社の従業員の「男性育休」の取得に向けて、今、人事部門の方々が取り組むべきことは何なのでしょうか?

カギとなるのは「立場」×「認識」の4つの視点

「男性育休」取得の促進は、どのように考えて、進めればよいのでしょうか?
私たちは、男性の育休取得促進のカギとなる考え方を「男性の育休に関与する『立場』」と「育休に対する『認識』」の2つの切り口で整理しています

まず「立場」の切り口。これはさらに2つの視点に分かれます。ひとつは、企業の経営層や人事部門、取得者の上司など人材のマネジメントに携わる側である「組織」の視点。もうひとつは、まさに育休を取得する本人である「従業員」の視点です。
一方の「認識」の切り口、こちらにも2つの視点があります。育休が企業や本人にもたらす「メリットの理解」という視点と、理解不足や経験がないことにより生まれる「デメリット(誤解)の払拭」という2つの視点です。

つまり、「立場」と「認識」を掛け合わせると下図のように、4つの象限から男性の育休取得推進を捉えることができるというわけです。今回のブログでは、この図の左上の象限、「組織」の立場から男性育休の「メリットの理解」を社内外に浸透させる、という視点から、取得促進のために「今すぐ取り組むべきこと」を考えていきたいと思います

男性育休が組織をもっと強くする

優秀な従業員を集め、その従業員に長きにわたり活躍をし続けてもらうことは、企業経営において必要不可欠です。会社の中で従業員の「男性育休」取得が進むと、「従業員の採用」や「従業員の活躍」にどのような影響が生まれるのでしょうか?

① 育休を制する会社は、採用を制する

今、「男性の新卒社員の79.5%が育休取得を希望(※1)」しており、新卒採用の対象となる若者達の約8割が入社後の育休の取得を想定しています。そのような傾向は若者だけの特徴ではなく「35歳以上のミドル男性の86%が『もしこれから子どもが生まれるとしたら、育休取得したい』と回答(※2)」しています。
出典:
※1:2017年度 新入社員 秋の意識調査 | 調査研究・提言活動 | 公益財団法人日本生産性本部
※2:ミドル2500人に聞く「男性育休」実態調査―『ミドルの転職』ユーザーアンケート― | エン・ジャパン

新卒採用だけでなく中途採用においても、男性育休を取得しやすい会社かどうかは、採用を進める上で求職者から選ばれる企業となるかどうかのポイントになっています。

② 育休取得は、間接的に労働生産性を高めている

つぎに、従業員のエンゲージメントについて考えてみましょう。少子高齢化が進み、労働力人口が減少する中、従業員ひとりひとりの労働生産性を高めることは全ての企業にとっての共通の課題となっています。リンクアンドモチベーション社が発表した研究(※3)では「従業員のエンゲージメント(ES)と労働生産性には相関があり」、加えて「エンゲージメントと企業の営業利益率にも相関があり『ES1ポイントの上昇につき、当期の営業利益率が0.35%上昇する』」という結果が報告されています。
出典:
※3:「エンゲージメントと企業業績」に関する研究結果を公開  株式会社リンクアンドモチベーション

①の項で書いたことを思い出してください。男性育休を取得したいと考えているミドル社員が86%にのぼることを考えると、男性育休の取得は対象となる男性従業員の8割のエンゲージメントを高める機会になると捉えることができます。男性の育休取得の促進は、企業の生産性を高める上での、重要な要因のひとつなのです。

③ 「男性の家庭進出」こそが「女性の社会進出」を加速させる

男女平等についても、男性の育休はカギとなります。2021年の共働き世帯数は1,247万世帯と、専業主婦世帯566万世帯の2.2倍(※4)になっており、共働き世帯の割合は7割に迫る状況です。それにも関わらず、世界のジェンダーギャップ指数で日本は116位/146ヶ国(※5)と下位にいるのは何故なのでしょうか?
出典:
※4:専業主婦世帯と共働き世帯1981年~2021年|独立行政法人 労働政策研究・研修機構
※5:男女共同参画に関する国際的な指数|内閣府 男女共同参画局

1985年の男女雇用機会均等法制定から30年以上たった今、やっと男性の育休取得が社会的なトピックスとなっているように、長い間「男性の家庭進出」が進んでいなかったことが「女性の社会進出」を阻んできた大きな要因のひとつになっていたのではないか、と私たちは考えています。女性がキャリアを形成するためには「家庭と仕事の二者択一」を迫られないことが必須であり、家庭の負担を女性が背負う状況を変えなければなりません。企業で働く女性が活躍をし続ける環境をつくるためには、男性が子育てに参画することが当たり前であり、それができる環境を実現することが必要なのです。

従業員がその力を存分に発揮できることは、企業がその活動を続けていくための前提条件です。企業が成長を続けるためには、従業員が「育休を取得できるようにする」ことを特別なものでなく、人事戦略の基本として考える必要があるのではないでしょうか。

男性育休の取らせ方~「宣言」・「仕組み化」・「見える化」~

私たちが考える、男性の育休取得推進のために組織がとるべきアクションは3つあります。ここでは、それぞれのアクションを、そこで押さえるべきポイントとともに紹介していきます。

取らせ方1 経営陣は宣言しよう、あえて大声で

1つ目は「姿勢」を示すことです。それも、全従業員に対して明確に、ときには社外のステークホルダーに対しても。

昨今、企業経営では「パーパス(存在意義)をきちんと示すこと」が大切と言われていますが、男性の育休に関しても同様です。経営層が育休取得に対する「姿勢や志」をきちんと宣言する。それが正確に伝わることで、様々な人事制度や仕組みも、ただの守らなければならないルールから、その志を体現したアクションとして従業員に浸透するようになります。

そのためには、まず「社内で経営が語る」「イントラネットなどで共有する」ことが大切です。さらに、それに加えて「社外に向けて発信する」ことも非常に効果的です。
例えば、新卒採用のホームページの自社の仕事紹介や従業員のインタビューは学生向けのコンテンツですが、従業員が学生の訪問などを受ける際に、この採用向けのコンテンツの内容について質問を受けることで、従業員自身も自分の会社の取組みを知る、というようなことがあります。このように、従業員の家族・取引先のお客様・学生の目に触れる社外発信や報道を行うことは、従業員自身の意識を強める機会にもつながるのです。

男性育休を取得した人の話を採用コンテンツとして発信し、それを社内でも再度紹介することは、社外へのレピュテーション形成にも社内の浸透にも役に立つ手段かもしれません。

引用:電通 新卒採用サイト2023

取らせ方2  むしろ、マネージャーをこそサポートしよう

2つ目は、「実行」を支援する仕組みづくりです。

2022年4月から、育休の仕組みの周知と従業員の意向確認が義務となっていますが、この義務を現場のマネージャー任せにしていないでしょうか?会社はそれらを現場任せにするのではなく、着実に推進し、「実行」するための仕組みを社内につくる必要があります。

従業員からマネージャーに、出産予定があり育休取得の意思があることを早めに報告し共有するためには、面談などの機会が必要です。その際に、マネージャー世代の男性は自身が育休を取得した経験が無い人が大半なので、部下への説明が適切にできない、さらには不適切な対応をしてしまうというリスクがあります。

そのような場面では、マネージャーから従業員にはどのような面談をすればよいのか、面談で伝えるべきことや行うべきことを手順化し、周知することが有効です。人事部門が主導して、マネージャーがやるべきことを分かりやすくマニュアル化したガイド等を作成することで、マネージャーが部下の育休取得を的確にナビゲートできるようサポートすることができます。

仕組みがきちんと整うことで、従業員とマネージャーの間で育休を取得すること、その期間を早期に決めることができます。取得者本人はもちろん、マネージャーや同僚にとっても、対応する準備の時間を十分に確保できるというメリットも生まれます

取らせ方3  体験の見える化で、モチベーションを伝播させよう

3つ目は「可視化」です。

ここでいう可視化が目指すことは、ただ単に自社全体の育休取得率を社内外に公表するということではありません。部署単位での取得率・取得者の生声・比較対象としてのライバル企業の取得率などを従業員にも共有することで、「身近にも取得者がいるんだ」「こんなに取得者がいるなら自分もとらなきゃ」「ライバル企業はこんなに取得しているのか」という気づきを与え、従業員を動かす原動力にしていくことです
育休取得従業員の座談会を実施し社内報やイントラネットに公開する、採用やCSRの取組みとして自社のサイトで外部発信する、外部メディアのインタビューに自社の取得者を積極的に登壇させるなど、自社の内側・外側両面からモチベーションを拡げる可視化に取り組むことが有効です。

自社ならではの課題に、ならではの解決策を見つけるために

パパラボでは、男性の育休を組織の成長機会に結びつける「PX(パタニティ・トランスフォーメーション)」というソリューションを提供しています。

育休取得の推進には「トップダウン型の取得環境整備」と「ボトムアップ型の取得推進」の二つのアプローチがありますが、それぞれの企業で取り組むべき課題や解決策は異なります。
これまで電通がコミュニケーションの領域で培ってきた、それぞれの企業が抱える課題を洞察し「課題設定」をする力、優れた表現や仕組みを「プランニング」する力、実施・検証・改善を重ね持続可能な組織体制構築までを「実行」する力を活かして、一気通貫で支援いたします。

2023年4月には従業員1,000名以上の企業での、取得率の公表が義務化されます。義務だから公表するという受け身の対応ではなく、これを機会として、“自社のため” “従業員を動かすため” にどのように取り組むべきかを考えてみてはいかがでしょうか。

パパたちの力を家族、企業、そして日本の力に変えていくために。私たちパパラボは、男性の育休を企業の強みに変えるお手伝いをさせていただきます。ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

今回のブログでは、「組織」の立場で男性育休の「メリットの理解」を浸透させるために「今すぐ取り組むべきこと」を紹介しました。次回のブログ「男性育休の取得率が上がっても、組織の戦力は下がらない」は、4つの視点の図の左下、男性の育休に対する認識不足や経験がないために生まれる「デメリット(誤解)の払拭」について、組織が「今すぐ取り組むべきこと」を紹介します。

男性の育児休業取得のもつ“ポテンシャル”を紹介!下記ブログもぜひお読みください。
「男性の育休」に強い会社こそ、強い会社になってゆく

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