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    R&D投資を事業成長へ変換するために ~技術起点で事業価値を高める方法~

    最終更新日:2026年03月17日

    R&D投資を事業成長へ変換するために~技術起点で事業価値を高める方法~

    INDEX

    はじめに

    多くの企業がR&D(研究開発)に多額の投資を続けています。しかし、「研究成果は出ているのに事業が伸びない」「技術はあるのに市場が見つからない」といった課題は依然として多くの企業で見られます(※)
    文部科学省「科学技術・イノベーション白書」

    その背景には、
    技術と事業の接続が弱い
    技術の価値が正しく伝わらない
    応用領域の探索が不十分
    技術者と事業側のコミュニケーション不足 
    といった、様々な構造的な問題があるようです。

    こうした状況を打破するために、今注目されているのが、技術起点で事業価値を創造するアプローチです。 技術を単なる“目標達成のための手段”ではなく、価値創造の源泉であり起点として捉える考え方であり、R&D投資を事業成長へと変換するための鍵となります。このブログでは、そのアプローチについて解説します。

    <この記事でわかること>
    技術起点と市場起点の捉え方
    技術 × 市場マトリクスによる事業創造の考え方
    R&D投資を事業化へつなぐ具体的ステップ
    技術起点アプローチの要点
    成功事例のパターン
    R&D部門の落とし穴と、事業へ接続する条件
    技術・事業・経営の“接続”のつくり方

    PROFILE

     

    技術起点とは何か ~R&Dの可能性を価値に高める発想

    技術起点とは、自社技術の強み・独自性・成熟度を再評価・再定義することを出発点に、価値仮説→応用領域→事業設計へと展開し、R&D投資を成長へ転換する事業創造アプローチです。

    技術の本質的な価値を深く理解して、
    この技術はどんな課題を解決できるのか
    どんな産業で価値を発揮できるのか
    技術の強みはどこにあるのか 
    といった視点から事業を組み立てていきます。

    多くの場合、技術起点は「技術 → 応用領域探索 → 価値創造」という流れで事業をつくると理解されています。そのため、「ニーズ → 解決策 → 技術選定」と進む“市場起点”と対比する考え方として捉えられがちです。しかし、両者を対比で捉えることはR&D部門にとってあまり生産的ではありません。

    多くのR&D部門の課題は、「技術者だけでは価値に昇華しきれない」ことにある場合が多いため、技術起点で始めるにしても、「技術だけでなく、いかにして顧客の視点も持ちながら価値を作っていくか」を考えることが大切です。

    そうすることによって初めて、
    「技術の価値」を捉える組織内の共通言語を生み出し、
    技術の強みや制約を明確化して、応用の当たりを早くして
    PoC→事業化→スケール化につなぐ ことが可能になります。

    なぜ今、技術起点の価値創造が求められているのか: 5つの理由

    技術起点のアプローチが求められる背景には、企業を取り巻く環境が大きく変化していることがあります。

    技術進化のスピードが劇的に加速

    AI、ロボティクス、バイオ、量子技術など、基盤技術の進化は指数関数的に加速しています。 また、既存技術の改良・進化のスピードも加速しています。これらの技術は単なる効率化の手段ではなく、新しい市場そのものを生み出す力を持っていると期待されています。

    市場ニーズの高度化・多様化

    顧客の価値観は細分化し、ニーズは短期間で変化します。 従来の「市場調査 → 製品開発」では変化に追いつけず、技術の可能性から価値を生み出す“先回り型”のアプローチが求められています。

    グローバル競争の激化

    世界中の企業が同じ市場を狙う中で、価格競争に陥りやすくなっています。模倣されにくい技術力こそが、持続的な競争優位の源泉として期待されています。

    R&D投資の正当性が問われる時代

    研究成果が事業に結びつかないと、経営層や株主から厳しい目が向けられます。「研究成果は出ているが、事業化できていない」という状況は企業にとって大きなリスクです。

    社会課題の複雑化

    脱炭素、医療、食糧、インフラ老朽化など、社会課題は技術なしには解決できません。技術が社会価値と事業価値を同時に生み出す時代になっています。

    技術 × 市場で考える:R&D部門が技術起点で事業創造を主導する

    技術起点で事業価値を高めるアプローチを考えるには、まず、技術と市場の関係を整理しておく必要があります。その際には「技術(新規/既存) × 市場(新規/既存)」のマトリクスで整理することが有効です。

      既存市場 新規市場
    既存技術 ① 安定改善:
    改良・コスト削減・置換
    ② 転用拡張:
    異業種展開・水平展開
    新規技術 ③ 再定義:
    既存市場のルール更新
    ④ 創造:
    高不確実・高リターン

    各領域の特徴をまとめると、以下のようになります。

    ① 既存技術 × 既存市場:最も確実性が高い領域
    既存技術を既存市場に適用する領域は、短期的な成果が期待できます。
    改良型イノベーション
    コスト削減
    既存製品のアップデート

    ② 既存技術 × 新規市場:技術の“転用”で新事業をつくる
    既存技術を異業種に展開するアプローチです。
    技術は成熟しているため開発リスクが低い
    市場探索の難易度は高い
    技術の水平展開が鍵

    ③ 新規技術 × 既存市場:既存市場を技術で再定義
    新技術で既存市場の課題を解決する領域です。
    顧客ニーズが明確
    技術開発リスクは高い
    成功すれば市場の置き換えが起こる

    ④ 新規技術 × 新規市場:最も革新的だが最も難易度が高い
    破壊的イノベーションが起こる領域です。
    技術開発の確度も市場性も不確実性が高い
    成功すれば巨大な市場を創造
    長期投資が必要

    このマトリクスは、技術起点の戦略を描くための“地図”として活用できます。

    自社の技術ポートフォリオの整理に活用できる
    象限ごとにリスクとリターンが異なるため、短期で成果を出す領域と中長期で育てる領域を可視化できる。
    広く探索する領域(②・④)、集中して深掘りする領域(①・③) を見て、機会探索と選択・集中のバランスを調整することにつながる。

    そしてなにより、マトリクスを使うことで、技術成熟度×市場成長性の視点から投資配分や投資タイミングなどを統合的に判断できるため、R&D側と事業側が同じ地平で技術ロードマップと事業ロードマップを接続するストーリーを考える契機になります。

    技術起点で事業価値を生み出すことに成功した事例

    技術起点のアプローチは、既存市場の競争構造を塗り替えたり、新市場を創造したりする強力な武器になります。ここでは、代表的な成功パターンを、「技術・価値・応用・成果」の4つの視点で紹介します。

    事例 技術 価値 応用 成果
    【A社】
    炭素繊維による
    新市場創造
    (新規技術×新規市場)
    軽量かつ高強度の炭素繊維(CFRP) 航空機や自動車向けの素材価値から、素材そのものが市場を生み出すプラットフォーム技術価値へ ・ドローン軽量化
    ・スポーツ用品
     高性能化
     (自転車他)
    ・医療機器小型化
    複数産業に展開し、同社の成長事業に
    【B社】
    AIアルゴリズム
    サービス化
    (既存技術×新規市場)
    深層学習による高精度予測アルゴリズム 研究用途としての価値から、複数産業で発揮できる価値へ ・需要予測
     (物流・小売)
    ・設備保全
     (製造業)
    ・医療画像診断
     支援
     (がん検診など)
    アルゴリズムがAPI化され、XaaS化により研究成果が持続的な収益源に
    【C社】
    イメージセンサーで
    新体験創出
    (既存技術×新規市場)
    高感度CMOSイメージセンサー 産業機器向けの価値を、生活者向け製品に応用し、新しいユーザー体験を創出 ・スマホカメラ
     高画質化
    ・ウェアラブル
     生体センシング
    ・スマート家電
    イメージセンサー事業は世界トップシェアを獲得。ブランド価値の向上にも大きく貢献
    【D社】
    製造ライン自動化
    (既存技術×既存市場)
    ロボット制御技術
    画像認識技術
    自社/顧客企業の既存製造ラインを高度化。既存市場向け製品の生産性と品質を同時に向上 ・組立工程の
     自動化
    ・外観検査のAI化
    ・工場内搬送の
     自動化
    コスト削減と品質安定化により、既存市場での競争力・シェアを強化

    このように、技術の特性を価値の視点から深く理解し、適切な市場と結びつけることは、企業の新たな価値創造と事業成長の実現につながります。

    自社R&D部門の課題を理解する: 5つのタイプ

    技術起点の事業価値創造は強力なアプローチですが、取り組む前に、自社のR&D部門自体の課題を理解しておく必要があります。組織におけるあり方によって、R&D部門の課題には5つのタイプが見られます。

    ① 研究所アイランド型「事業から孤立した聖域」

    研究所が独自の論理で動き、事業部門のリアリティから切り離されている。
    症状: 特許や論文数は多いが、既存事業とのシナジーが希薄。
    症状: 「現場が何を求めているか」を研究員が知らない。
    リスク: ROIの不透明化による投資縮小のスパイラル

    ② テーマ過多・迷走型 「選択と集中の欠如」

    優先順位が付けられず、リソースが過度に分散している。
    症状: 「1人1テーマ」状態で、どの案件もリソース不足。
    症状: 撤退基準が曖昧で、「止めるべき」プロジェクトが継続。
    リスク: 競合に対する圧倒的優位性の喪失。

    ③ 完璧主義・市場後追い型 「市場機会の逸失」

    市場のスピードよりも技術的な完成度を優先してしまう。
    症状: 「100点」のスペックを目指して開発に時間をかけすぎる。
    症状: 出荷時にはニーズが変化、または競合が市場を席巻。
    リスク: 莫大な機会損失と先行投資の無効化。

    ④ 意思決定ブラックボックス型 「不透明な承認プロセス」

    承認プロセスが複雑、かつ政治的で判断が遅い。
    症状: データよりも「声の大きい人」の意見で決まる。
    症状: 会議での差し戻しが多く、判断が数か月単位で遅延。
    リスク: 変化の激しい市場への追従不能

    ⑤ 事業責任不在型 「オーナーシップの真空地帯」

    研究と事業の「バトンタッチ」が機能していない。
    症状: 「研究は終わった、あとは事業部で」という押し付け合い。
    症状: 最終的な収益責任を負うリーダーが不明確。
    リスク: 投資回収不能な「頓挫案件」の量産。

    自社がどのタイプでどのようなリスクを抱えているのかを知ることは、正しいアプローチを採るための第一歩です。とはいえ、当事者はわかっているようでいて意外とわかっていないもの。簡易な診断ツールを活用したり、外部からの評価を受けるなどして、客観的に評価するところからスタートするとよいでしょう。

    技術起点で事業価値を生み出すための一般的アプローチ

    技術起点で事業価値を生み出すには、技術の価値を見極め、応用領域を探索し、事業として成立させるまでのプロセスを組織的に設計する必要があります。

    ここでは、参考として、技術起点の取り組みを成功に導くための一般的なアプローチを3つの視点から整理します。いずれもR&D部門の方が自らの課題解決のために取り組まれることが多い項目です。

    A 組織協働の仕組みづくり (多様な役割を調和させ、技術起点の事業化を支える)
    B 技術価値のリ・フレーミング (技術の意味づけを変え、顧客価値に翻訳し直す)
    C 探索・検証プロセスの最適化 (ステップを構造化し、再現性を高める)

    アプローチ ステップ アクション例 効果
    A:
    組織協働の
    仕組みづくり
    A-①
    共創チームの構築

    A-②
    経営層の
    支援体制づくり
    ・技術者×事業×
     デザイナーの
     三位一体チーム
    ・週次共創ミーティング
    ・技術者の顧客同行
    ・経営層が技術投資の
     意義を示す
    ・技術ロードマップを
     戦略に統合する

    ・技術部門と事業部門の
     期待値が揃う
    ・意思決定の速度と
     質が向上する
    ・技術起点の取り組み
     が継続性を持つ

    B:
    技術価値の
    リ・フレーミング
    B-①
    技術価値の
    再定義

    B-②
    未充足ニーズの
    発見
    ・自社技術の
     コアコンピタンスを定義
    ・強みを「性能」でなく
     「価値」で表現
    ・顧客メリットへの翻訳
    ・制約条件の明確化
    ・未充足ニーズ探索のため
     の非顧客ヒアリング、
     現場観察
    ・顧客の“本当は
     こうしたい”を深掘り
    ・技術の価値が
     事業部門側に伝わる
    ・顧客課題と技術価値
     の重なる領域が
     明確化する
    ・事業化の方向性が
     見える
    C:
    探索・検証
    プロセスの
    最適化
    C-①
    応用領域探索

    C-②
    スモールPoC

    C-③
    段階的事業化
    ・用途を広く列挙し
     異業種も調査
    ・市場規模・参入障壁・
     技術適合性で評価
    ・1〜3か月の
     スモールPoC
    ・Go/Kill/Redirect
     基準の設定
    ・技術成熟度に応じた
     段階的事業化
    ・探索が属人的に
     ならず再現性が高まる
    ・低コストで高速に
     学習できる
    ・無理のない事業化が
     可能になる

    価値を生み出すための成功のコツ

    上記のアプローチについて、ステップの項目にあるA-①~C-③は一般的な手順をガイドしていますが、こうしたアクションは多岐にわたるため、どこから始めるべきか悩みがちになります。うまく進めるためには、何から始めてどうすればよいでしょうか。

    R&Dの課題は置かれた企業環境によって百社百様です。そのため自社の課題が何なのかをゼロスクラッチで見つけていくことが最も重要です。その意味で、組織協働の仕組みづくり「A-① 共創チームの構築」からスタートし、議論の中から課題を特定していくことがまず大切です。

    そして、R&D部門と事業部門が並走できる体制をつくり、できれば課題を一緒に見つけていく伴走者を外部から入れて「B-① 技術価値の再定義」に進むことが成功の可能性を高めます。

    技術起点の事業価値創造 統合アプローチ支援の例

    ここからは、事業価値を創造する具体的なサービスの例として、電通の支援サービス「R&D For Growth」が提供している統合的なアプローチをご紹介します。企業のR&D部門が主導する活動から、事業部門との協働が主になる活動まで伴走するサービスです。

    「R&D For Growth」では、まずR&D部門の課題を独自ツールを用いて大まかに診断したのち、協働チームを形成して、型にはめない自由闊達な議論を支援することからスタートしています。解決すべき独自課題を特定して、課題を掘り下げ、その解決まで伴走することが特徴です。

    具体的な支援は、3つのコンポーネントで行っています。

    【技術価値リ・フレーミング】
    技術の本質的価値をコアコンピタンスとして再発見・再定義し、共有可能なマテリアルに可視化。

    【事業コンセプト・モデリング】
    社会・企業・生活者の多視点で機会を抽出し、ビジネスモデルに翻訳して実現性を検証。

    【マーケティング・デザイン】
    ゲート基準、RASIC、会議体リズム、決裁ログといった運用を設計しながら、上市~育成のマーケティングの実装を早期から準備。

    価値規定/機会発見/実装という取り組みを、技術価値リ・フレーミング/事業コンセプト・モデリング/マーケティング・デザインという3つのコンポーネントで捉え、それぞれを一体的に運用。技術価値の最大化を図っています。
    それとともに、部門間の分断を超え、探索から実装までの“速度アップ”と、プロジェクトの“手戻りで生じるコストの最小化”を両立させていることが特徴です。

    支援チームは、プロデューサーがハブとなって専門メンバーを編成し、企業のサイロや摩擦を超えてプロジェクト全体が前進するようアクセラレート(促進)する役割を果たします。研究・事業・経営を束ねる意思決定回路を設計し、議論の単位をマイルストーンに沿ってつくりながら、技術の可視化⇒価値化⇒活性化を進めています。

    埋もれていた技術を事業化へ接続するスキームを手に入れ、研究開発投資をリターンに結びつける機会を発見する。自社の技術資産を全社のコアコンピタンスとして再定義し、社会・顧客視点を導入することで、新市場への戦略的ローンチを図る。そして、その共創プロセスを通じて新しい仕事の型を定着させて、次世代幹部の育成につなげる。

    このような支援を通じて、電通の「R&D For Growth」は、企業のR&Dを活性化し、事業機会を拡張し、さらには組織育成/文化変革に貢献しています。

    まとめ:技術と市場 両輪による事業づくりが未来の成長をつくる

    技術起点の価値創造において大事な「3つの視点」は、以下です。
    1. 技術と市場の双方をしっかり捉え、価値を“再定義”することが出発点
    2. 技術探索と市場探索を並行して戦略地図を描くことが必須
    3. 部門を超えた組織的な一体運用のもと、ゼロスクラッチの議論がカギ

    技術は手段ではなく、価値創造の源泉です。技術起点での事業づくりは、R&D投資を未来の成長へ変換する組織戦略として、今後ますます重要性を増していきます。この取り組みを組織全体で育ててみてはいかがでしょうか。ご興味のある方は下記の資料をダウンロードしてみてください。

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