
2027年以降、有価証券報告書における「非財務情報」の開示が、大手上場企業から段階的に義務化される見通しです。一方で、「そもそも非財務情報とは何か」「財務情報との違いは何か」「どのような内容を開示すべきか」といった基本的な疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、非財務情報の定義や具体例、重要性といった基本から、開示義務化の動向までを整理しながら、企業に求められる情報発信のあり方を解説します。
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非財務情報とは?──3つのQ&Aで基本を押さえる
Q1. 非財務情報とは?
非財務情報とは、財務諸表には表れない企業の将来価値や成長性を示す情報のことです。
具体的には、財務諸表などの数値データでは表しきれない、企業の持続的な価値創造に関わる情報を指します。人的資本(従業員のスキル・多様性・エンゲージメント)、知的資本(技術・ブランド・ノウハウ)、社会的資本(地域や顧客との信頼関係)などが含まれます。(※)
※IIRC「International Integrated Reporting Framework(統合報告フレームワーク)」で示される“Six Capitals(6つの資本)”の概念に基づく。
Q2. 財務情報との違いは?
財務情報が売上や利益といった「過去の成果」を示すのに対し、非財務情報は「未来の可能性」を伝えるものです。企業の“見えない資産”をどのように活かして成長していくかを示す重要な要素であり、近年では企業価値評価においても重要性が高まっています。
| 項目 | 財務情報 | 非財務情報 |
|---|---|---|
| 主な内容 | 売上、利益、資産、負債など | ESG、人的資本、ブランド、技術など |
| 時間軸 | 過去の実績 | 将来の成長性・可能性 |
| 役割 | 経営成績の把握 | 企業価値の評価・将来性の説明 |
| 情報の性質 | 定量(数値中心) | 定量+定性(ストーリー含む) |
Q3. なぜ非財務情報が注目されているのか?
近年、企業の価値は財務情報だけでは測れないという認識が広がり、サステナビリティや人的資本など、非財務領域への関心が高まっています。
● ESG投資の拡大により、環境・社会・ガバナンスへの取り組みが投資判断の重要な要素となっている
● 人的資本経営への関心の高まりを背景に、人材や組織に関する情報開示が求められている
● サステナビリティ開示基準(ISSB・SSBJなど)の整備により、非財務情報の開示が制度的にも重要視されている
こうした背景のもと、企業がどのように価値を生み、持続的に成長していくのかを示す情報として、非財務情報の重要性が増しています。
非財務情報の具体例と開示内容
非財務情報にはどのような内容が含まれるのかを、開示の考え方と具体例に分けて整理します。
開示対象となる領域を把握することで、自社で取り組むべき範囲が明確になります。
非財務情報で開示すべき内容
非財務情報の開示対象は、ESGに限らず、企業の価値創造に関わる「財務データでは測れない領域」全般を含みます。具体的には、パーパスや中長期戦略、価値創造プロセスといった経営の考え方に加え、人材・ブランド・技術・組織文化・パートナーシップなどの無形資産、そして従業員エンゲージメントや顧客満足度などの非財務KPIが該当します。(※)
※IIRC「統合報告フレームワーク」、経済産業省「価値協創ガイダンス」における無形資産の整理、
および ISSB(IFRS サステナビリティ開示基準)・SSBJの開示方針に基づく。
つまり、単なるデータの開示ではなく、「企業がどのように価値を生み出すのか」という全体像を説明することが求められます。
非財務情報の具体例
非財務情報には、以下のような内容が含まれます。
(統合報告で用いられる「6つの資本」の考え方をもとに整理)
● 人的資本(従業員のスキル、多様性、エンゲージメント)
● 知的資本(技術、ブランド、ノウハウ)
● 社会・関係資本(顧客や地域との関係性)
● 環境・ガバナンス(ESG関連の取り組み)
● 非財務KPI(離職率、顧客満足度など)
これらを財務情報とあわせて説明することで、企業の成長力や持続可能性を立体的に示すことが求められています。
非財務情報はなぜ重要なのか
非財務情報がなぜ企業にとって重要なのか、その背景と役割を解説します。
企業価値やステークホルダーとの関係にどのように影響するのかを見ていきましょう。
企業価値の評価に影響するため
非財務情報は、企業の将来の成長性やリスクを評価するうえで重要な指標となります。
投資家にとっては、収益の源泉や持続的成長の可能性を判断する材料となり、企業価値評価に大きく影響します。
ステークホルダーへの説明責任
非財務情報を開示することで、従業員や顧客、社会に対して企業の姿勢や取り組みが可視化されます。これにより、企業文化や価値観への理解が深まり、信頼関係の構築につながります。
ブランド価値の向上につながる
企業の強みや価値創造プロセスを明確に伝えることで、ブランド価値の向上や「選ばれる理由」の強化につながります。非財務情報は、企業が“未来の価値”を発信するための重要な手段といえます。
非財務情報開示の動向(義務化の流れ)
国際的な開示基準の動き
ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)による国際基準の策定や、CSRD(企業サステナビリティ報告指令)によるEUでの開示義務付けなど、国際的にも非財務情報の開示基準整備が進んでいます。
企業はこれらの基準を踏まえながら、グローバルに通用する情報開示が求められるようになっています。
2027年の開示義務化とは
2027年以降、日本では大手上場企業から順次、「非財務情報」の開示が有価証券報告書で義務化される見通しです。これは、日本版サステナビリティ開示基準(SSBJ)による制度整備の一環であり、国際的なサステナビリティ報告基準との整合を図る動きの中で位置づけられています。
※出所:金融庁「サステナビリティ情報開示に係る動向」(2025年6月19日)/SSBJ基準適用スケジュールより
開示対象となる主な領域
開示対象は、環境(E)、社会(S)、ガバナンス(G)に加え、人的資本・知的資本・サプライチェーン・人権対応など多岐にわたります。
| 分類 | 主な内容 |
|---|---|
| 環境(E) | 気候変動対応、温室効果ガス排出量、資源利用など |
| 社会(S) | 労働環境、多様性、人権対応、地域社会との関係など |
| ガバナンス(G) | 取締役会構成、コンプライアンス、リスク管理など |
| 人的資本 | 人材育成、エンゲージメント、働き方など |
| 知的資本 | 技術、ブランド、ノウハウなど |
| サプライチェーン | 調達方針、サプライヤー管理、責任ある調達など |
従来の財務情報中心の開示から、「企業がどのように価値を創出していくか」を示す情報へと、開示の内容が大きく広がっています。
このように非財務情報開示の重要性が高まる一方で、実務の現場では「何から着手すべきか分からない」「情報が整理できない」といった課題に直面する企業も少なくありません。
非財務情報開示の「つまずきポイント」
非財務情報開示は、制度対応や情報収集の重要性が理解されていても、実務の現場ではさまざまな“壁”に直面します。特に次のようなつまずきが、多くの企業で共通して見られます。
| つまずきポイント | 内容・具体例 |
|---|---|
| ①どこから手をつければいいかわからない | 非財務情報の範囲が広く、開示対象の優先順位や基準選定に迷う。環境・人的資本・ガバナンスなどテーマが多岐にわたり、整理段階でプロジェクトが停滞しがち。 |
| ②データはあるが、語れる形になっていない | 調査報告書・CSR資料・社内アンケートなど情報源は存在するが、“ストーリーとして再構成”できていない。結果、「何を大切にしている企業か」が伝わらない。 |
| ③KPIとナラティブがつながらない | 数値指標(離職率、温室効果ガスの排出量、女性管理職比率など)は整備しても、経営戦略やブランド価値との関係を説明できない。報告が“データの羅列”で終わってしまう。 |
| ④ステークホルダー視点が抜け落ちている | 開示目的が「制度対応」に偏り、投資家・社員・顧客など受け手の関心を踏まえたメッセージ設計になっていない。伝わらない・響かない開示に。 |
| ⑤経営層の“言葉”が弱い | 経営メッセージが抽象的で、“自社の未来を自分の言葉で語る”表現になっていない。統合報告書などでも、経営の想いとデータの整合が取れていない。 |
このように、非財務情報開示の課題は、単なる制度対応ではなく、「情報の設計」と「表現のデザイン」をいかに両立させるかにあります。
次章では、これらの課題を踏まえ、企業がより戦略的・魅力的に非財務情報を発信していくためのアプローチをご紹介します。
非財務情報開示を進めるための3つのアプローチ
非財務情報開示を実効性のあるものにするには、単なる制度対応ではなく、「経営のストーリーをどう設計し、どう伝えるか」を軸に据えることが大切です。
そのための基本的なアプローチは、次の3つに整理できます。
| アプローチ | 取り組み内容・ポイント |
|---|---|
| ①戦略の言語化 | 自社のパーパスや中長期戦略と、サステナビリティ・人的資本など非財務領域をどう結びつけるかを明確にする。単なる“施策の列挙”ではなく、「どんな未来を描き、どう実現するのか」を語る構造を設計する。 |
| ②データの集約とナラティブに基づく可視 | 部署ごとに分散している情報を集約し、財務・非財務の両面から一貫したストーリーを作る。KPI(定量)とナラティブ(定性)を連動させ、経営判断と開示内容を結びつける。 |
| ③発信のデザイン | 投資家・社員・顧客など受け手に合わせて、「伝える内容・トーン・チャネル(媒体)」を最適化。報告書、ウェブサイト、動画、PRなどを組み合わせ、共感と信頼を生む“語り方”を設計する。 |
この3つのアプローチを循環的に回すことで、非財務情報は“制度対応としての報告”から、“企業価値を高める発信”へと進化します。
次章では、この考え方をベースに電通が支援した例として、「非財務情報開示」への実践アプローチについて紹介します。

電通が支援する「非財務情報開示」への実践アプローチ
非財務情報開示を「制度対応」ではなく「企業価値を高めるコミュニケーション」として位置づけるために、電通では、戦略設計からデータ分析、メッセージ開発、発信までを一気通貫で支援しています。ここでは、先に挙げた3つのアプローチに対応する形で、電通の具体的な支援例を紹介します。
| アプローチ | 電通の実践例・支援内容 |
|---|---|
| ① 戦略の言語化を支援する:非財務情報発信コンサルティング | サステナビリティ経営や人的資本経営に精通した専門チームが、現状分析と開示方針の策定を支援。経営戦略と社会的価値創出の関係を可視化し、「何を・誰に・どう伝えるか」を設計。サステナビリティ、PR、DXなど複数領域のプロフェッショナルが横断的に伴走。 |
| ② データを“語れる情報”へ転換する:非財務価値サーベイ | 財務・非財務データを統合分析し、企業価値に寄与する要素(イメージ因子・活動・資産)を抽出。経営層・関係部署とのセッションを通じて、どの活動を強調・強化すべきかを明確化。データに裏づけられた開示ストーリーを構築。 |
| ③ 発信のデザインを支援する:統合レポートリニューアル/メッセージ開発 | 有価証券報告書とのすみ分けを意識し、読まれる・理解される「新しい統合レポート」への刷新を支援。経営層の想いを“自身の言葉”で発信するメッセージ開発を行い、統合報告書やスピーチ原稿への落とし込みまで伴走。発信チャネル(サイト・動画・PR)も最適化。 |
これらの取り組みは、単に「報告書を作る」ことではなく、企業の未来をどう描き、それを社会にどう伝えるかという経営課題そのものへのアプローチです。
非財務情報の信頼性と共感性を両立させるために、電通は「データ×ナラティブ×デザイン」の統合支援で企業の変革を支えています。
まとめ──「制度対応」から「価値共創」へ
2027年の有価証券報告書への非財務情報開示義務化は、企業にとって単に対応制度が一つ増えたということではなく、自社の存在意義や未来の価値を社会と共有する転換点です。
今、求められているのは「何を報告するか」ではなく、「どのように伝え、共感を生むか」。財務と非財務の両面から、自社らしいストーリーで“価値を語る”姿勢が、ステークホルダーとの信頼を深め、企業ブランドを育てていきます。
もっとも、ここまで述べてきた非財務情報の開示そのものは、企業活動の“目的”ではありません。重要なのは――その取り組みを通じて企業価値をどう高めていくか。
財務情報が示す「成果」と、非財務情報が示す「未来の可能性」。両者を統合し、自社の成長シナリオとして伝えていくことこそが、企業の情報発信戦略の本質です。
電通は、サステナビリティや人的資本経営の専門知見と、コミュニケーション領域で培った「人の心を動かすデザイン力」を掛け合わせ、企業の非財務情報を“伝わる価値”へと変換する総合支援を行っています。
制度対応の枠を超え、財務 × 非財務を統合した企業価値向上のための情報発信戦略を構築すること──そのパートナーとして企業の挑戦に寄り添っていきます。
企業価値を持続的に高めるための打ち手のひとつとして、非財務情報開示をどう位置づけ、どう活かすか。これこそが、これからの企業の情報発信戦略に求められる視点です。




