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    人の気持ちがわかるメカニズムとは?「感情の可視化」が拓くマーケティングの可能性/慶應義塾大学 満倉靖恵教授

    最終更新日:2025年04月17日

    人の気持ちがわかるメカニズムとは?「感情の可視化」が拓くマーケティングの可能性/慶應義塾大学 満倉靖恵教授

    脳科学や心理学といった学問分野の知見や手法を、企業の商品開発や広報・広告戦略などに活用する「ニューロマーケティング」。基礎研究や技術の発展とともにどんどん進化し、生活者の意思決定プロセスや感情を、もっと手軽に、しかも精緻に測れる、「頼れる」存在になっていることをご存じでしたか?

    例えば、脳研究や生体信号解析、脳神経科学分野の第一線で活躍する専門家の慶應義塾大学の満倉靖恵教授と電通サイエンスジャムは、医療やマーケティングの現場で使える装置「感性アナライザ®」を共同開発しています。手軽な小型脳波計で、計測した脳波を独自のアルゴリズムを使って指標に置き換え、感性値として数値化する「感性アナライザ®」は多くの医療やマーケティングの現場で活用されています。
    本ブログでは、感性アナライザ®の開発に取り組んできた満倉教授に、研究者としての原点から、感情を可視化するメカニズムとは何か、感性アナライザ®の持つ特徴、そして「感情の可視化」が拓くマーケティングの将来展望まで、お話を伺いました。

    PROFILE

     

    INDEX

    感情を可視化する感性アナライザ®開発の原点

    まず、満倉先生が脳波や感情に関する研究に取り組むようになったきっかけについてお聞かせください。

    「人の気持ちを、もっと知りたい。特に、言葉の裏に隠された感情を理解したい」――
    この思いが、私の研究の原点です。

    私は大学時代から、身近な人が本当は何を考えているのかに強い関心を抱いていました。特に日本人は、思っていることと発する言葉や表情とがかなり違うように感じていたのです。表に現れる表情や言葉とは異なる、「実際に人が思っていること」を知りたいという知的好奇心が、私を研究の道へと導く原動力になりました。

    その方法を模索し、脳波や感情に関する研究を行ってきました。そして学者として表情認識の研究などを進めていくうちに、人の「表情」と「言葉」、そして「思っていること」の3つは、想像以上に異なることがわかりました。これらを正しくリンクさせるためには、人が思っていることをより明確に把握する必要があります。これが、私が感情の可視化に取り組んできた最大の理由です。

    生体信号解析をはじめとする多種多様な活動を実践

    先生が2022年に出版された『「フキハラ」の正体 なぜ、あの人の不機嫌に振り回されるのか?』でも、脳波と感情に関する興味深い分析結果が示されていますね。

    不機嫌な人の近くにいると、自分も嫌な気持ちになりますよね。それは一般論としても言われることですが、これまで科学的な根拠はなかったんです。科学的な根拠を踏まえてフキハラ(不機嫌ハラスメント)を説明して、その回避方法を示したのが、この本です。

    気づかないうちに、人は脳波という波動を放出しています。例えば電子レンジには見えない波動があって、その波動によって入れたものを温めるわけですよね。 基本的に脳波も同じで、目には見えない波動を出しています。

    人の出す脳波の周波数は、だいたい0~40Hzです。脳波を「波」だとすると、ゆっくりした波と早い波では、早い波のほうが一気に伝わります。例えば、穏やかな気持ちや眠い時などに出るのは、ゆっくりした波。一方、怒りやストレスを感じている人は、早い波を発しています。しかもこの怒りやストレスにより発する波は、時間を経ても簡単になくならないということも計測されています。

    怒っている時やストレスを感じている時の波のほうが、周囲にも早く伝わります。 マイナスの感情のほうが、プラスな感情よりも伝播するのが早く、強い。このマイナスの感情の脳波の伝播が「フキハラ」の正体です。

    「嫌」は伝播しやすい:事前の調査で被験者Aは被験者Bにあまり良い印象はない、BはAに特に悪い印象はないと確認済み。5分間の会話中に脳波の移り変わりを計測。Aの「嫌」の感情がBに伝播し、Bの「嫌度」が徐々に類似する。

    ※データ引用 満倉靖恵教授著書 -フキハラの正体 なぜ、あの人の不機嫌に振り回されるのか? (ディスカヴァー携書)

    医療分野における取り組み

    満倉先生の研究成果の適用領域には、主に医療とビジネスの2つがありますが、この2つの領域で研究者としての視点は異なるのでしょうか。

    私の立場としては、適用領域が医療でもビジネスでも、全く同じことを行っています。
    要するにバイオマーカー(生物学的指標)を作っているんです。ビジネス領域での研究成果のアウトプットが、感性アナライザ®のような感情のバイオマーカー。医療分野でのアウトプットが、病気のバイオマーカーになるわけです。

    特に医療分野では、病気の有無や兆候を判断する指標となるバイオマーカーの研究に力を注いでいます。例えば認知症になる兆候をバイオマーカーで早期に判定できれば、 認知症治療薬の実用化までの期間、症状の進行を抑える治療を開始できます。

    今はこの2つがメインですが、将来的には適用領域が拡大し、私自身が予想もしていなかった分野でバイオマーカーが活用されるようになる可能性もあるでしょう。

    脳波から人の感情を把握するメカニズム

    脳波から人の感情を計測する基本的なメカニズムについて、ご説明していただけますか。

    気持ちが変化することによって、脳の中で発生するホルモンが変化します。その変化にともなって電子に動きが生じ、 その結果、電流が発生する。この電流を脳の頭皮上で電圧として計測したものが、脳波です。
    例えばストレスを感じると、 脳の中にカルシウムイオンが発生します。カルシウムイオンが発生すると、脳内の平衡状態を保つためにマイナス電子が動き出し、結果として電流が発生します。脳の中に発生する電流を表層、つまり頭皮上で取ったものが、脳波なんです。

    感性アナライザ®の場合も、直接計測しているのは脳波ですが、それは今ホルモンの分泌量がこういう風に変化しているということを、結果的には脳波を通じてホルモンの変化をモニタリングしているということです。
    感情が変化することによって脳の中に発生するホルモンの種類や量が変化します。そのホルモンの変化を脳波で捉えるのが、感性アナライザ®の基本的な仕組みです。計測した脳波を分析することで、さまざまな用途に利用できるアウトプットを得ることができるわけです。

    感性アナライザ®開発経緯と課題

    感性アナライザ®の開発に着手した経緯と、開発時に課題となった事柄について教えてください。

    私は1999年以来ずっと脳波と感情の研究に取り組んできました。研究成果についても、論文だけでなく、講演やインタビューを受けるといった形で発表していました。
    初めて電通の方々とお話をしたのは、2011年のこと。第一印象で仕事に対するスピード感が私とフィットすると感じ、2013年に電通サイエンスジャムを設立しました。
    2013年から現在まで、感性アナライザ®の方向性は全く変わっていません。開発から世に出して浸透させる過程で課題となったのは、技術面の問題ではなく、「脳波計測についての誤解や偏見を解消すること」でした。

    脳波のことを知らない人の中には「頭に装置をつけるだけで、人の気持ちがわかるわけがない」と最初から決めつける人も、もちろんいます。 ですが、私は基本的には何でも貫くタイプなので、他人から言われたことはあまり気にしないんですね。偏見に基づいた意見に反論するのではなく、学術的な根拠やエビデンスを取ること、サービスの活用実績を積み重ねることが重要だと考えてきました。

    そのうち、私たちと同じように、生体信号を測定して人の感情を可視化するビジネスを始める人たちも出てきて、ようやく世間で認知されるようになってきたと感じています。

    脳波から人の感情を計測する感性アナライザ®の主な特徴としては、まずどのような点が挙げられるでしょうか。

    感性アナライザ®は、人の感情をリアルタイムで可視化できる世界初の装置です。
    感性アナライザ®の実用化に至るまでの研究成果については、論文などで発表しています。科学的な根拠、エビデンスという点にも自信を持っています。

    感性アナライザ®は、対象者の脳波を脳波計で簡易に計測するとともに、簡単には理解しづらい数値を、感性値(興味、好き、ストレス、集中、沈静などの値)として1秒ごとにリアルタイムで取得。商品・サービスを体験した瞬間の感性をキャッチすることが可能です。小型の脳波計とタブレットのみで場所に捉われず、いつでもどこでも簡単に計測が可能です。

    感性アナライザ®の今後の展望

    より簡易なセンサーの開発に向けて

    脳波の計測に用いるセンサーに関しては、どのような改善を試みているのでしょうか。

    現状の感性アナライザ®では脳波計を使用していますが、確かに脳波計をつけたままでどこでも歩けるわけではなく、例えば電車に乗ると少し恥ずかしさを感じるかもしれません。そこで、軽量でスタイリッシュに仕上げることに気を配り開発しましたが、さらに進化させて、もっと自然にそれをつけてどこへでも歩けるようなデバイスを目指していきたいと考えています。
    今後はセンサーを誰もが抵抗なくどこでも使えるようなデバイスにする予定です。より手軽に使用できる新しいセンサーの開発については、ちょうど今取り掛かっている段階です。

    プラスの感情に関する指標の拡大

    感性指標の追加や変更についてはいかがでしょう?

    現在の日本では、どちらかというと負の感情を計測しようというニーズが多い傾向が見られます。海外では、プラスの感情を計測したいという依頼が多いんです。この違いはやはり国民性と関係しているのだろうと思っています。
    感性アナライザ®では、プラスの感情に関する指標を増やしており、ハピネスとウェルビーイングといった指標も利用可能です。今後さらにその領域を充実させ、より多様なポジティブな感情の指標を拡大させていく予定です。

    個人利用への展開

    感性アナライザ®の開発過程で得た知見は、企業や団体だけでなく、将来的に個人での利用にも活用できるものでしょうか。

    長年にわたる脳波による感情の計測に関する活動で得た知見をもとに、社会で活動する人々が自身の感情をプラスにコントロールするサービスの実用化を目指し取り組んでいます。
    脳波で感情をコントロールすることに対する日本での認識は、この10年で大きく変化してきました。これからの10年でもっと変わっていくでしょう。フキハラのようなマイナスの言葉の中にも、今後の研究のヒントが数多くあると考えています。

    感情を可視化するニューロマーケティングの将来像

    今後のニューロマーケティングや感性アナライザ®についてのお考えを聞かせてください。

    リアルタイムで人の感情を可視化する感性アナライザ®は現在、数多くの企業や団体の商品開発やマーケティング施策の立案などに活用されています。研究・開発フェーズから利用・連携フェーズへと移行したと実感しています。

    今後、人々の思いや感覚をさらに精緻に理解したいと願う企業や組織の方々に、ニューロマーケティングを活用したアプローチがどんどん広がっていくと思います。様々なビジネスニーズにフィットする多種多様な取り組みが進んで、今回ご紹介した感性アナライザ®のような身近になったツールが大いにマーケティングの現場で利用されることになるでしょう。
    私たちとしても、より広く実社会で活用されるソリューションにするために、技術面の改善はもちろん、倫理的な課題なども十分に検討していきたいと考えています。

    本日は貴重なお話をありがとうございました。

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