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      「インクルーシブ・マーケティング」がなぜ大きなビジネス成果を生むのか[前編]〜“真剣にビジネスする”CSRとは~

      電通ダイバーシティ・ラボが2017年8月に打ち出した新たなマーケティングコンセプト「インクルーシブ・マーケティング」。ダイバーシティ=多様性を前提とし、それをインクルージョン=包含することで、事業を持続的に成長させていくことを目的としています。

      ともすると、CSR(企業の社会的責任)的な文脈で語られがちなダイバーシティやインクルージョンですが、「インクルーシブ・マーケティング」は社会的貢献にとどまらずビジネスとしても大きな成果に繋げられると語る電通ダイバーシティ・ラボの林孝裕さんに、ダイバーシティが“利益”を生む仕組みを聞きました。

      PROFILE

       

      本業の部分で社会に価値をもたらす

      「インクルーシブ・マーケティング」というコンセプトの特徴を教えてください。

      林:まずは、ダイバーシティ&インクルージョンをモットーとしつつも、CSRの文脈だけにとどまらないことが挙げられます。要はビジネスと切り離さず、真剣に事業として対価を得ながらやっていくというのが、インクルーシブ・マーケティングの前提になります。

      インクルーシブな社会

      日本ではCSRというと、免罪符的な意味合いにとらえることも多いですよね。「社会貢献をするから、他のところで儲けてもOKですよね?」というような。でもCSRのR=Responsibility(責任・責務)というのは本来「あなたが持っている能力で、社会に貢献してくださいね」という意味だと私たちは解釈しています。

      では企業が持っている能力とは何かというと、一番はやっぱり本業の部分ですよね。だから本業を介して世の中に価値を提供し、それにふさわしい対価を得て、さらに価値を拡大させて継続し、より大きな価値を世の中に返していく。そうして企業自身も成長していく。要はビジネスと切り離したCSRではなく、本来の意味でのCSRを、本業を活かしてやっていこうというのがインクルーシブ・マーケティングのモットーなのです。

      従来のマーケティングとは何が違うのでしょう?

      林:大きな違いは、顧客の違いを軽視しがちな効率型のマスマーケティングや、有益な顧客だけにフォーカスする過度なターゲティングを見直し、多様性を強みとしてとらえていくところです。だからマスマーティングでは排除されやすいニッチなニーズも、インクルーシブ・マーケティングでは「そんな人もいるよね」「そんな考え方もあるよね」と排除せずに取り入れるべきニーズとし、「そんなニーズも含めて考えると、みんなにとってもっと良いものが生み出せるのではないか」とむしろ価値あるニーズとして積極的に戦略に含みいれていきます。

      もちろん100%含みいれるのは無理なので、常に“積み残し”がある状態になる。それを認識してアクションを続けることで、絶えず成長し続けていくというビジネスモデルです。

      企業のあり方そのものをマーケティングする

      林:もう一つの違いは、どう顧客を連れてくるかという狭義のマーケティングにとどまらず、企業活動の川上から川下まで全てに関わる「広義のマーケティング」である点です。ダイバーシティ&インクルージョンを前提とし、その企業が社会に対してどんな価値を作っていくのか、そしてそれをベースに人事採用や、R&D、営業といった各組織をどうしていけばいいか。いわば企業のあり方そのものを、インクルージョンを前提にマーケティングしていく形になります。

      とはいえ、ダイバーシティ&インクルージョンの考え方が、会社の中でなかなか広がらないと悩む人が多い現状もあります。ご自身の中ではダイバーシティ&インクルージョンが今後の企業戦略やビジネス戦略として非常に重要なテーマであることを実感しつつも、社内では「本業とは関係ないよね?」とか「ビジネスにどう繋がるの?」と言われてしまう。

      だからこそ私たちはこのコンセプトを、「インクルーシブ・マーケティング」という形でリリースしました。マーケティングと繋げることで、企業さまのエンジンがかかりやすくなるのではないか。単なる社会貢献の文脈ではなく、ビジネス文脈としてとらえてもらえるのではないかと。

      インクルーシブ・マーケティングフレーム

      インクルーシブ・マーケティングの考え方を満たすような実例はありますか。

      林:たくさんあると思います。たとえば、今ではすっかりおなじみとなった温水洗浄便座です。

      ユーザー・メーカー・社会全体の3者が幸せに

      林:諸説ありますがもともと温水洗浄便座は、医療用や福祉用に使われていたものでした。おしりを拭くのが困難な人の自立をサポートしたり、介護する人の負担を軽減するための製品だったのです。そのため値段は高く、機能やデザインも一般向けではなく、病院や福祉施設以外で普及させるものとしては作られていませんでした。

      ところが、「実はこの機能、一般の人にも喜ばれるのでは?」と考えて新たに作り直したところ、みごと世の中に受け入れられます。そして次第に各社が参入するようになり、マーケティングもどんどん進んでいった。その結果、安価なものや高機能なもの、デザイン性に優れたものなど、さまざまな製品が出揃うようになり、日本中どこでも、誰もが当たり前のように使えるものになりました。

      医療福祉目的でのみ使われる前提での温水洗浄便座には多くの助成金や補助金が投入される必要がありますが、プロダクトが大きく進化したことで、そうした公費の支出も大きく抑えられるようになったと考えられます。さらには今や温水洗浄便座は、日本の一大輸出産業にもなっている。ユーザーにも、メーカーにも、社会全体にもハッピーという、まさに「Win-Win-Win」な事例ですよね。

      特定の人を対象にすることで、マスマーケティングの発想では生まれなかった機能が生まれた。そして、そこに「もっと広範な人に有用なのでは?」というビジネス発想が加わったことで、さらなるイノベーションが生まれ、広く普及する結果になった。そんな事例だと思います。他にも、みなさんの多くが毎日使っている製品に、インクルーシブ・マーケティングの先駆けといえるものがあります。

      ボタンがない方が使いやすいという逆説

      毎日使っているもの?

      林:スマートフォンです。実はスマートフォンのアクセシビリティ機能(視覚や聴覚などに障害を持つ人でもスマートに使えるよう設けられた機能)は、日々すごい勢いで更新されています。たまに見てみると、こんな機能があるのか!?と驚かされます。今では視覚障害者の多くがスマホを使っていて、彼らが使えば使うほど、そのフィードバックが反映されていく仕組みです。

      一見、ボタンがなくて視覚障害者はどう使えばいいの?と思ってしまいがちですが、スマートフォンは音声認識ができますし、加速度センサーがついていて動きも感知できる。だから、個々のユーザーに即したアクセシビリティがどんどん育っていくのです。ボタンで操作する以上にタンジブル(実体的)ですよね。そもそも説明書がなくて感覚的に操作できる=字が読めなくてもマイナスにならないところが、すごくインクルーシブだと思います。

      そうして今では文化を超え、障害を超え、世界中のありとあらゆるタイプの人が、この不思議な板を使っています。おそらく電話からボタンをなくしたのには、「ボタンをなくせば、むしろ多くの人に使ってもらえるようになるだろう」というビジョンが初めからあったのでしょう。

      なぜインクルーシブな設計にすることが、大きなビジネス成果に繋がるのでしょう?

      林:インクルーシブ・マーケティングでは、何人かの対象者をリードユーザーとし、彼らの声を聞きながらそれを充分に満たすものを作っていきます。その人たちを満足させつつも、さらに既存のお客さんも、そして自分の会社としての理想も満足させられるものを考えます。それこそが武器になるのです。

      インクルーシブには「副産物」が大きい

      林:既存のお客さんには、これまでにない機能が加えられていて、デザインもきちんと考えられているということで、より満足してもらえるかもしれない。もちろん、対象としたこれまではユーザーになりにくかった人たちをしっかりインクルージョンしているので、彼らにも買ってもらえる。さらには開発するにあたり、いろいろな知見を貯めて試行錯誤することになるので、これまでとは作り方や概念そのものが異なるものとなり、新しい事業が生まれる可能性もある。

      インクルーシブな設計を生み出すことには、そういった副産物がもたらすメリットがとても大きいのです。

      ただ、そのぶん設計のハードルも上がりそうです。

      林:全てが障害者や高齢者といった人たちをインクルージョンしなくてはいけないという話ではありません。実は、知らぬ間に対象外とみなしてしまっている人たちは、他にもたくさんいるのです。たとえば「お店まで来ることができない人」とか「このメディアに接点がない人」「金額的に買えない人」などですね。

      そうした自分たちが作った価値を届けられていない相手にも目を向けると、やるべきことが見えてきます。実行するにはさまざまなコストがかかるかもしれないけれど、新しい顧客を作ることになるわけなので、リターンも決して小さくない。

      そうやって自分たちが今まで市場と思っていなかったところにも市場を創造していくことこそがインクルーシブであり、それがビジネス成果を生む。そしてビジネスとして成果を出せるからこそ、サスティナブルなものとなる。それがインクルーシブ・マーケティングの本質だと考えています。

      後編では、インクルーシブな設計を生み出すにはどうすればいいかを紹介します。何より大切なのは、「1人の人に徹底的にフォーカスすること」だといいます。

      ※当記事は6月1日時点の情報を元に記事を執筆しております。

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