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    「アイデンティティ・バイタルチェック」が解き明かす、現場を動かすトリガーとは?

    最終更新日:2023年06月19日

    INDEX

    これまでのおさらい

    ビジョンをつくっても現場が動かない。だから思うように変革が進まない。

    昨今多くの企業から聞こえてくるそんなお悩みを、私たちは従業員エンゲージメントの問題と捉えていること、そして従業員エンゲージメントとは、「経営と現場が同じ志のもとに一つになること」がその本質であり、コーポレートブランディングの知見を踏まえた上で、全社視点で取り組むべきテーマであることを、前々回の記事でお伝えしました。(前々回はコチラ)

    それを受けて、現場が動かない原因を明確にし、「現場を動かすトリガーとなる施策」を開発するための、電通オリジナルの6つの視点“6 aspects”の概要について、前回の記事でお伝えしました。(前回はコチラ)

    今回はいよいよ、”6 aspects”の視点に基づいて開発された従業員調査プログラムである「アイデンティティ・バイタルチェック」の調査結果をもとに、そのアウトプットイメージと調査結果の読み取り方についてご紹介したいと思います。

    アイデンティティ・レベルを図る“6 aspects”とは

    前回ご紹介した、“6 aspects”の構成要素についてもう一度おさらいしてみましょう。

    b061_gr-2図①:ブランドスパイラルと6 aspects

    “アイデンティティ・バイタルチェック“では、上図の6つの視点をそれぞれ5つの質問項目に分解し、合計30問の定量項目を聴取することで、従業員のエンゲージメント向上に向けての課題を発見することができます。下記はその一例となります。

    図② アイデンティティ・バイタルチェックのモデル調査票

    また、“アイデンティティ・バイタルチェック”では定量項目に加えて、定性項目も聴取する設計をしております。定性項目では、従業員の生声を多角的に聴取します。

    ● 自社における重要な経営課題は何か
    ● 自社のコアコンピタンス(強み)は何か
    ● 自社のアイデンティティを一言で表現すると、どのような言葉になるか など

    これらの質問で従業員の本音を引き出すことで、定量項目だけでは見えてこない自社の強みや課題が鮮明になってくるというわけです。
    なお、上記はあくまでモデル調査票です。実際にご活用いただく際には、電通のコンサルタントが上記の質問項目を基に、各企業様の事業内容や課題意識に応じてカスタマイズを行い、調査を実施させていただきます。そのことによって、定型の調査項目のみでは自社の課題意識がうまく反映されないということを防ぎ、各企業の実態を正確に反映した調査結果を導き出すことができます。

    eNPSで従業員エンゲージメントを測る

    「アイデンティティ・バイタルチェック」では、従業員エンゲージメントの指標としてeNPSを活用しています。eNPSとは「employee Net Promoter Score」の略で、「現在の職場を親しい友人や知人にどの程度お勧めしたいと思うか」という設問によって測定します。

    6 aspects視点での定量的な課題抽出、生声による定性的なヒントに、「eNPS」という3つ目の要素を掛け合わせることで、現場を動かすために優先的に取り組むべき「変革のトリガー」を浮かび上がらせることができます。

    エンゲージメントが高い従業員が感じている自社の強み。
    逆に、エンゲージメントが低い従業員が感じている自社の課題。
    その「分水嶺」には何があるのか。
    これらが、そのための強力な材料になるのです。

    「アイデンティティ・バイタルチェック」の実際 :ITソリューション企業A社のケース

    「アイデンティティ・バイタルチェック」をより理解していただくために、ITソリューション企業A社で従業員に対して実際に調査を実施した事例をご紹介いたします。A社は10年前の創業以来順調に成長を続けてきましたが、事業規模の拡大に伴い、経営者の方が組織内の一体感の低下や成長の鈍化に問題意識を持つようになり、当社にリブランディングに向けてのご相談をいただきました。

    こちらのケースをもとに、どのように課題を特定し、必要となる施策を導き出していくのかをご紹介します。

    "6 aspects“から課題を定量的にを把握する

    まずは変革に向けての課題を明確にするために、従業員に対して「アイデンティティ・バイタルチェックを実施しました。その結果がこちらになります。

    図③ A社の”アイデンティティ・バイタルチェック”の6 aspectsの結果

    図③のような結果が出てきました。この時注目すべきポイントは2つあります。

    ●「経営戦略の明快度」と「組織文化の活性度」が高いこと
    ●「市場からの評価」がマイナスを示していること

    この2つの状況が、企業経営上決して無視することができない”ある大きなリスク”を示しています。具体的に各指標を読み解いていきましょう。

    「経営戦略の明快度」は、会社が示した経営戦略が従業員にとって分かりやすいものか、経営層から現場の従業員まできちんと伝わっているか、従業員の評価は経営戦略に沿ってなされているか、などで構成されています。この企業では定期的に社長自ら従業員全員に向けて会社の中長期的な方針を発信する機会を持っていたため、「経営戦略の明快度」は高い結果になりました。

    また、「組織文化の活性度」は、部門をまたいだ連携が円滑になされているか、上下左右の関係の人との交流が活発かなどで構成されています。この企業では経営層から現場の従業員まで心理的な距離が近く、直接コミュニケーションを取る機会が多くありました。また、上下関係にとらわれない風通しのよい社風であることもあり、「組織文化の活性度」が高い結果となっていると考えられます。

    一方、「市場からの評価」はマーケットにおいて自社が認知されているか、強みや競合他社との差別性が理解されているか、などの点における従業員の自己評価で構成されています。
    この企業では数年前にM&Aによって社名が変わったこと、広告や広報におけるコミュニケーション量が同業他社より少ないことなどから、自社の競合他社に対する差別性はもとより、社名に対する認知も十分でなく、市場における存在感が低いことが課題として認識されていることが浮かび上がってきました。

    「経営戦略の明確度」と「組織文化の活性度」が高いことから、A社では経営層から現場の従業員まで会社の方針が伝わっており、実際に従業員同士も連携しながら会社の方針に沿って業務を進めていることが伺えます。

    一方、「市場からの評価」が低いということは、顧客となりうるターゲット層からの認知や評価が十分でないため、自社に対する誇りや提供する商品・サービスに対する自信が損なわれることで、従業員のモチベーションの低下、離職者の増加や人材獲得競争力の低下などの、企業経営上大きなリスクが生じる可能性が考えられます。

    「アイデンティティ・バイタルチェック」を実施することで、人事部門のスコープ外における従業員の自社に対する課題意識を、数値として視覚化することができたのです。

    6 aspects×eNPSで変革に向けたトリガーを抽出する

    前述したとおり「アイデンティティ・バイタルチェック」では、従業員エンゲージメントを測定する指標としてeNPSを採用しています。先ほどのA社の例でeNPSとアイデンティティ・レベルを掛け合わせて結果を分析してみましょう。“eNPS”の基本的な分析では、自社の推奨度が高い『推奨者』、と自社の推奨度が低い『批判者』に従業員を分けて、それぞれの傾向を分析します。

    図④ A社の6 aspects×eNPSを掛け合わせた結果

    図④は図③の結果をeNPSにおける『推奨者』と『批判者』で分けた際の結果です。
    この結果において注目すべきポイントは3つあります。

    ● 全体での結果と同様に、『推奨者』と『批判者』で共通して「経営戦略の明確度」は高い
    ● 同じく、「市場からの評価」については『推奨者』と『批判者』で共通して低い
    ● 一方、「組織文化の活性度」については『推奨者』と『批判者』で異なる傾向を示す

    引き続き上記の3つのポイントを詳細に読み解いていきます。

    「経営戦略の明確度」については、『推奨者』と『批判者』で共通して高いため、従業員全体で企業理念や経営層からの会社の方針について理解されていることが分かります。

    「市場からの評価」については『推奨者』と『批判者』で共通して低い結果となっています。現時点では従業員エンゲージメントが高い『推奨者』においても、顧客からの評価を感じられておらず自社への誇りが失われ、モチベーション低下や離職率の増加などにつながっていくリスクが潜在的に存在すると言えるでしょう。

    「組織文化の活性度」については、『推奨者』では高いが、『批判者』では低い結果となっています。『推奨者』にとっては風通しのよい組織だと認識されているが、実は『批判者』にとってはそれほど感じられていないという結果が抽出されました。推奨者と批判者では属性や意識にどのような違いがあるのか、なぜそのような従業員エンゲージメントの差異が生じてしまうのかを特定し、的確な打ち手を講じることが急務であると考えられます。

    「生声」によって、さらに実態に迫る

    「アイデンティティ・バイタルチェック」では定性項目も聴取しているため、定量項目の結果と合わせて定性的な従業員の生声も分析することで、定量項目から抽出された課題がより明確になります。

    まず、「市場からの評価」という側面においては

    「クライアントから自社の強みが理解されていないことが多い」
    「パートナー候補として自社が想起されず、他社に流れて行ってしまうことが多い」
    「もっと積極的に新規開拓を行いたいが、マンパワーが足りていない」

    という声が多く寄せられました。

    営業部門の従業員の声から、見込み顧客の自社に対する基本的な認知や競合に対する差別性の理解が足りないため、事業成果の向上においては現場の営業努力に依存していること、そのことによって従業員が大きなストレスを抱えている実態が浮かび上がってきました。

    また、「組織文化の活性度」という側面においては、

    「誰にでも相談しやすい、垣根のない文化である」
    「人の悪口を言ったり、他人の足を引っ張ったりする人は少ない」

    というポジティブな回答も多数寄せられた一方で、

    「新しくプロジェクトが立ち上がっても、皆本業が忙しく、円滑に推進されないことが多い」
    「マネジメントが私の仕事を把握できていない」
    「強みが属人化しており、形式知になっていない」

    といった不満の声も上がってきました。それらの声をさらに入社歴や部門ごとに分析していくと、部門間連携が活発な部門と、限られた領域に業務内容が限定されている部門で大きく差が生じることが見えてきました。特に、数年前のM&A以降に入社した中途入社の従業員層については、専門性が評価されて入社し、自社の事業成長にも高い問題意識を持っているにも関わらず、自分の能力を発揮する機会が限定されていることに対するストレスも存在していることがわかってきました。

    このように、定性的な指標を定量指標と合わせて聴取することで、定量項目においては、それまでなんとなく感じていた会社の課題を数値として客観的に認識することができ、定性項目においてはその数値の背後にある実態を把握することができるのです。

    「アイデンティティ・バイタルチェック」から導き出される変革のトリガー

    このような結果をもとに、現場を動かし、事業成果と従業員エンゲージメントの向上を両立させる「変革のトリガー」となる施策を考えていきます。

    まず、A社の全体的な課題は、自社が市場からの評価が低いという認識にあることから、待遇や評価制度の改善といった人事領域の施策よりも、潜在顧客層、あるいは社会全般における自社認知の向上や競合差別性の理解獲得といったコミュニケーション施策の強化が急務であると言えます。

    そのためには例えば、広報活動の改善における好意的なメディア露出の拡大や、現在展開している広告コミュニケーションの見直しが有力な打ち手として考えられます。そして施策の立案においては、コミュニケーション部門だけで考えるのではなく、営業現場からのヒアリングを通して、実態や要望をより詳細に把握するプロセスが不可欠になるでしょう。

    そして、組織文化の更なる活性化に向けては、さまざまな属性の従業員に対して、部門間連携プロジェクトへの参画のハードルを下げる施策を考える必要があります。

    そのため、ナレッジシェアによって各部門の業務内容に対する相互理解を深めることはもちろんですが、従業員による新規事業の提案制度や、ビジョンに基づいたアクションを評価する表彰制度などを開発し、部門間連携プロジェクトが自律的に生まれるような仕組みづくりを経営が支援する必要があるでしょう。そして中長期的には、そのような制度を通して生まれた新たな取り組みによって、市場からの価値が高まり、従業員エンゲージメントも向上するといった好循環も期待できます。

    プロジェクトの成功に向けて重要なポイントは、それらの施策を「点」としてではなく、有機的に統合させて、「全社的なムーブメント」にしていくことです。

    例えばA社においては、自主的なプロジェクト提案制度の立ち上げと、それを支援する表彰制度や人事評価の視点の見直しに始まり、さらにその取り組みによって生まれた新事業を積極的に広報していくことで、企業への認知や理解を高め、事業成長を加速させる、といった具合です。そのことによって、個々のアクションが部門間の縦割りに陥ることを防ぎ、経営と従業員が一体となって改革にまい進することができるのです。

    このように、「アイデンティティ・バイタルチェック」を実施することで、従業員エンゲージメントの向上に向けてのボトルネックを全社的な視点から抽出することができ、事業成長との連携も勘案した上で、ネクストアクションの優先順位をつけることができます。

    電通グループでは、現状分析や課題抽出に留まらず、コーポレートブランディングのコンサルタントを始めとする専門性の高いスタッフが、個別施策の立案・実施から全社的なプロジェクトロードマップの作成、それらのPDCAに至るまで並走していきます。

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