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子どもの情報行動の実態が信頼性高いファクトで見えてくる ~電通 子ども調査のユニークさと有用性[後編]~

作成者: D-sol|Jul 17, 2020 1:10:28 PM

INDEX

電通が、オーディエンス(=メディアの受け手側)の行動特性に関して、マーケティング戦略に役立つインサイト(洞察)を提供する「オーディエンスインサイト・ソリューション」 。その中の1つ、子どものメディア利用に関する調査レポートは、客観性・学術性を備え、かつ希少な子ども分野のレポートということで、さまざまなビジネス領域で活用されています 。

後編では、子どもたちのリアルなメディア接触行動を浮かび上がらせるこうした調査レポートがどのように生み出されるのか、その手法と考え方に迫ります。

前編はこちら

PROFILE

 
 

子どもの調査には、大きなニーズがある

子どもの調査を手掛けるオーディエンスインサイト・ソリューションとは、どんなプロジェクトですか。

長尾:電通内のシンクタンク組織の1つである電通メディアイノベーションラボの基幹プロジェクトの1つです。オーディエンス、つまりメディアの受け手の行動や心理を深く理解することを目的に、調査・研究・レポート等を行っています。調査内容がメディア行動・情報行動に特化しているところが、同プロジェクトの大きな特徴です。

子ども以外にもシニア層、SNS世代など、さまざまな層を対象に調査研究を行っています。それらのレポートは、クライアント企業・メディア企業へのプレゼンやプランニングに活用されています。また、私たちもセミナーの運営やウェブへの寄稿を通じ、社内外に発信しています。

その中でも子どもの調査レポートは、このような分野での希少性もあってでしょうか、高いニーズをいただいております。調査はこれまでに、2017年の「小学生のデジタル機器利用に関する調査」、2018年の「0歳児から12歳のスマホ利用に関する調査」、2019年の「中学生のスマホ利用とテレビ視聴の調査」の3回に渡り行いました。2018および2019年調査は橋元良明教授(東京大学名誉教授、東京女子大学現代教養学部教授)と産学共同で実施した調査です。この度、それらを1本のレポートにまとめ発表させていただく運びとなりました。

研究内容を「メディア利用行動」に特化することには、どんな利点がありますか。

長尾:まず挙げられるのは、メディア利用や情報行動に絞った調査・レポートが意外と少ないという点です。そして、弊社のクライアント企業が特定のターゲットを想定したマーケティングで有効なメディア戦略を検討する際に、こうした調査結果がプラン策定の指針となることです。

調べ物を動画共有サイトで検索する世代

森下:子ども調査の大きな特徴は、電通メディアイノベーションラボの他のセクションで得られたメディアに関する知見や問題意識を調査項目に反映している点です。

たとえば他のセクションで、こんな調査結果とそれに伴う疑問が得られたとします。テレビ受像機といえばテレビ番組を見るためのものと思われていたけど、最近はインターネットに接続したテレビで動画共有サイトや有料動画コンテンツを見る人が増えている。テレビの将来はどうなっていくのだろう?と。そこで、子ども調査の方に、「テレビではテレビ番組以外に何を見るか」という項目を入れました。

そのように、メディア利用スタイルの変化の兆しと捉えられるような事象に関連する質問を乳幼児や小学生にたずねることで、10年、20年先の未来を考えるヒントが得られます。当ラボの最先端のデータや知見を反映してさらに前に進めているところに、子ども調査の大きなオリジナリティがあると思います。

そうして行われてきた子どもの調査の中で、興味深かったトピックをいくつか教えてください。

長尾:そうですね、まず思い浮かぶこととして、子どもたちが何かを調べる際に、検索サイトで検索するのではなく動画共有サイトに打ち込んで調べていたことです。それで調べられるの?とも思うのですが、色々なことに関し動画で丁寧に説明してくれるコンテンツがたくさんあり、そちらの方がむしろ分かりやすくていいと感じているようです。

男女の性差がスマホの使い方に表れる

長尾:ニュースやトレンド情報は、テレビや新聞からではなく、ツイッターのトレンドでまず知るという子どもが多かったのも印象的でした。さらに面白かったのは、昔は友だちと遊ぶ時は公園や校庭など野外で待ち合わせましたが、今の子どもたちはゲームの画面内で待ち合わせをしています 。また、前編で乳幼児がスマホでスワイプなどのタッチスクリーン操作を行う話をしましたが、テレビのみならず、雑誌の表紙を間違ってスワイプしようとする乳幼児の動画を見たこともあります。

また、もう1つ新鮮だったのが、動画共有サイトと一緒に勉強する子どもです。1人だと挫折してしまうということで、画面越しにいるユーチューバーと一緒に勉強しているとのことでした。ひと昔前では想像できなかった勉強スタイルですね。

森下:私が感じたのは、子どもの行動は意外と男女差が大きいという点です。たとえば小学生高学年の男の子がスマホを使う場合は、シンプルに家族同士の連絡のためであったり、ゲームや動画を見ることが多い印象です。対して女の子は、友だちとのコミュニケーションにスマホを上手く使う傾向がよく見られました。たとえば家に帰った後も友だちとLINEで連絡を取り合い、「明日こんなコーディネートで双子コーデしようよ」と相談をするそうです。

そんなふうに、スマホの使い方を通して性差が見える点が興味深いと感じました。

大学機関と共同で研究・調査を行う理由

オーディエンスインサイト・ソリューションでは、東京大学、千葉大学、宇都宮大学などの大学機関との共同研究も行ってきたとのことですが、そこにはどんな狙いがありますか。

長尾:所属する電通メディアイノベーションラボが電通内のシンクタンクの立ち位置であることもあって、私たちはメディア動向を一歩引いた視点から客観的に分析することをミッションとしています。そのような中、学術界の方たちの知恵は客観性や情報の正しさを担保するうえで大きな力となります。

たとえば、調査で得られたローデータの分析1つをとっても、学者さんならではの専門的な手法を提示していただけます。また調査というものは質問手法がとても重要ですが、そこでも私たちビジネス界の人間には至らない知見や考え方を示唆していただけます。そうやって調査のオリジナリティや設計そのものの質を高めていただいている形です。

また学術界の方には、研究内容の信頼度・危険率といったものも示していただけるので、その部分でも大きいですね。

シンクタンクの 立ち位置とはどんなものですか。

森下:ポジショントークになることなく、ニュートラルな立場で調査・提案・発信などを行うスタンスのことです。特定の企業やメディアに限定されない活動を行っているところが、私たちの存在の一番ユニークな点だと思います。社内外から信頼をいただいているのは、そうしたニュートラル性やファクトに基づいたアウトプットを心がけているためではないでしょうか。

その部分がぶれることなくいられるのは、オーディエンスの行動を重視しているところが大きいと思います。技術革新や関連サービスの動向にはもちろん注意を払いますが、人々のメディア利用行動がどうなっているかという部分に注視する。その軸があるからこそ、フェアな視点で取り組めるのだと思います。

今の子どもは特別な世代かもしれない

今後、オーディエンスの調査・分析を通し、どんなことをしていきたいですか。

森下:今後さらに新しい技術やサービスが普及した時、人の行動はどう変わるのか。そして特に若い人においてその新しい行動は世代固有の行動として定着するのか。そういった部分に大きな関心があります。

たとえば生まれてすぐにタッチスクリーンを操作するような今の子どもたちは、20代、30代、さらには60代になった時、今の現役世代と比べてどのような行動をとっているでしょうか。年齢を経ることで就職したり子どもを持ったりとライフステージも変わりますから、そうした要因も含めてその世代が将来どのような行動をとることになるのか、そこにとても興味があります。

そういう意味では、今回の子ども調査の対象となったポスト・デジタルネイティブは、もしかすると特別な世代になるのではという気がしますし、この先どうなるかが非常に気になるところです。そうした興味・関心を発展させていければと思います。

長尾:人間は必ずしも自分の行動を論理的に決めていくわけではないということで、最近は直感や気分といった領域にも目を向けています。

たとえば、取り組み始めたのが千葉大学との共同開発となる「直感マーケティング」というものです。そこでは「今の気分」の数値化や、気分に沿った商品の提案方法、あるいは「ひと目惚れ」など直感的にいいと思うものの究明をテーマとしています。今後、そうした未知の分野にも、いろいろ取り組んでいきたいですね。

※本プロジェクトでは「子ども」「子供」「こども」を全て「子ども」にて表記統一しています。

※当記事は6月12日時点の情報を元に記事を執筆しております。