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    乳児の4人に1人がスマホを使う「ポスト・デジタルネイティブ」とは? ~電通 子ども調査のユニークさと有用性[前編]~

    最終更新日:2023年06月19日

    INDEX

    幼児のころからタッチスクリーンを操作する光景を見て、「この子どもたちは、どんな大人になるのだろう」と思うことはありませんか?

    電通が、オーディエンス(=メディアの受け手側)の行動特性に関して、マーケティング戦略に役立つインサイト(洞察)を提供する「オーディエンスインサイト・ソリューション」。その中の1つ、子どものメディア利用に関する調査レポートは、客観性・学術性を備え、かつ希少な子ども分野のレポートということで、さまざまなビジネス領域で活用されています。

    この調査レポートの中でも特に興味深いトピックについて、同調査に携わるふたりに話を聞きました。「0歳児の4人に1人がスマホを使う世代=ポスト・デジタルネイティブ」とは、果たしてどんな世代でしょうか!?

    PROFILE

     
     

    乳幼児から小中学生対象の貴重なレポート

    子どものメディア利用に関する調査を行うことになった経緯は?

    長尾:もともとは橋元良明教授(東京大学名誉教授、東京女子大学現代教養学部教授)と共同で、2007年頃から若者のメディア利用に関する調査を行ってきました。小さな子どもの世代までは含まれていませんでしたが、3年ほど前に、これからの時代を考えるにはより若い層にも注目すべきだろうと、乳幼児・小学生・中学生に関する調査も始めました。

    森下:メディア利用に関するレポートは他社のものでいろいろありますが、乳幼児や小学生を調査対象にしたものはほとんどありません。というのも、その年代は調査手法の面から、なかなか実態をとらえづらいからです。今回私たちは、親御さんに代わりに答えていただく形で、定量と定性の両方のアプローチで丁寧に調査を行いました。

    これまで橋元良明教授とは、おとな世代も含めたメディア利用研究が行われてきたそうですが、現状でどんな研究結果が出ていますか。

    長尾:成長過程でのメディアやデジタル機器への接し方によって、各世代に特徴的な傾向が見られることがわかりました。これに関しては橋元教授と電通による共著『ネオ・デジタルネイティブの誕生』でも、研究成果を発表しています。

    各世代の特徴とは?

    長尾:ざっと挙げていくと、まずは1976年頃に生まれた「ナナロク世代」です。彼らは大学生くらいの時にウィンドウズ95が発売され、パソコンを通してインターネットの海原へ本格的に繰り出した世代です。だいたいこのくらいの世代からが、海外でも「デジタルネイティブ」と呼ばれています。

    レポートや卒論を親指で書き上げる

    長尾:76世代は就職氷河期を体験し、日本経済の低迷期にぶつかったいわゆる「ロスジェネ」ともいわれていますが、反骨心やハングリー精神も旺盛で、多数のITベンチャー起業家なども輩出しています。

    ちなみに、上司や先輩から飲みに誘われても「自分はやることがあるので」などとあっさり断れる若手社員が現れた世代であるともいわれます。

    他にはどんな世代が?

    長尾:その後のハチロク世代(1986年頃生まれ)やキューロク世代(1996年頃生まれ)以降の人たちを、私たちは「ネオ・デジタルネイティブ」と呼んでいます。99年にiモード携帯が登場し、成長過程でケータイに触れてきた世代です。そのためガラケーの親指打ちがものすごく速かったり、一方でパソコンのキーボードタッチが少し苦手だった人もいます。当時は、パソコンが立ち上がる時間をじれったく感じる人も多かったようです。親指で学校のレポートや卒論を書いたというつわものエピソードも聞かれました。

    いわゆるゆとり教育世代にも該当する層で、「仲間」「絆」といった感覚を大切にするメンタリティ傾向があると考察しています。ふたたび「飲み」の話で言うと、上司や先輩から誘われたら、本当に行きたいかどうかはさておき、空気を読んで「ぜひ行きましょう」と言ったりする人が多かったかもしれません。

    さらにひとまわり後の世代が、2006年前後に生まれたゼロロク世代です。いま中学生くらいの人たちですね。この世代は動画共有サイト浸透の影響を受け、動画でのコミュニケーションが得意なのが特徴です。この世代くらいから子どもユーチューバーも誕生し始めました。ネオ・デジタルネイティブの流れをくむ世代ということで「後期ネオ・デジタルネイティブ」と位置づけてよいでしょう。

    親の指をつかんでスマホの画面ロック解除

    長尾:以上、あくまで大括りのまとめとはなりますが、「PC世代」の76世代→「ケータイ世代」の86・96世代→「動画コミュ族」の06世代という流れになりますね。そしてその後に出てくるのが、生まれた時からスマホが水や空気のように当たり前にあったイチロク世代(2016年前後生まれ)です。これを「ポスト・デジタルネイティブ」と、橋元教授と呼んでいます。2010年代半ば頃から現在までに生まれた子どもたちですね。

    ポスト・デジタルネイティブの特徴は?

    長尾:2018年に行った調査では、なんと0歳児の24%が何らかの形でスマホを使っていました。そのうちの約5割は動画共有サイトを利用していました。さらに0~3歳まで幅を広げて見てみると、50.2%がスワイプやピンチインなど「タッチスクリーン操作」を行い、49.8%がタップなどで自ら別の動画に移動する操作を体得していました。さらには、テレビ画面にタッチスクリーン操作をしようとする子どもさえ12.7%も見られました*。

    ※出典:電通報「0歳児からスマホ」の時代 ~東大共同調査からの報告

    2010年頃にスマホが普及し始め、生まれた時からかたわらにスマホがあり続けたこの世代ならではの数字ですよね。まさに“タッチスクリーン族”とも呼べましょう。親の指をつかんでスマホの画面ロックを解除しようとする乳幼児もいるそうです。

    ネットの普及で逆に従来メディアに注目が

    こうした流れをふまえると、今後テレビや新聞など従来メディアの影響力は、より小さくなっていきそうですか。

    長尾:実は、そうとは言い切れない面もあるのです。たとえば小学生を対象にした調査では、7割近い子どもがテレビを「なくてはならないもの」ととらえていました。これに関しては、スマホなど他のデバイスを大きく引き離しています*。

    ※出典:電通メディアイノベーションラボ「小学生のデジタル機器利用に関する調査」(2017年11月)
    回答者:小学1~6年生(各機器利用者)*全国の小学校の学年構成比率等をベースにウェイトバック集計

    森下:やはりテレビの高い世帯普及率がポイントになります。しかも、多くの家庭でテレビは居間に置かれ、家族みんなで見られるようになっています。また小さな子どもを育てるお母さんにうかがうと、スマホを積極的に使いつつも、テレビの子ども向け番組を録りだめておいて、家事で忙しい時などに子どもに見せるという使い方をよくされています。このように、未だにテレビは家の中で大きな存在感を持っています。

    小学生たちも、はやりの番組に関してはきちんと時間を合わせてテレビの前に行って見ることが多く、それが友達との共通の話題にもなっているのです。その点においてもテレビの役割は大きいと言えます。

    長尾:テレビを観ながらSNSで感想を言い合う「ソーシャル視聴」も多くなっています。これは特に中学生の間でスコアが高かったのですが、お笑いやバラエティ番組などを観ながら、友達とSNSで「超やばい!」「ありえない!」などとやりとりしています。番組を見ないとそこに参加できないわけで、テレビはその“参加権”をもたらす存在です。

    他のメディアの台頭で、テレビの特性や強みがかえって浮き彫りになっていると。

    長尾:そう思います。同じように、新聞も今後注目を集めるのではないかと感じています。これだけネット上に情報があふれる中、新聞は幅広いジャンルの情報がダイジェストになっていて一覧性も高く、さらには既に“ダウンロード”され出力されている。見出しの大小含め、いま世の中で何が重要になっているのかという空気感がつかめる。これらは他のメディアにはない利便性であり強みです。このように、ネットメディアが賑わうことでかえって従来メディアが注目されるという現象も、今後いろいろ起こってくるのではないでしょうか。

    “自分主導”でメディアを利用する傾向が加速する

    さまざまなメディアが入り乱れる中、メディアは今後どんな基準で選ばれていくのでしょう?

    森下:子どもの調査から見えたのは、今後、自分の興味関心やニーズに合ったメディアやコンテンツを選択する傾向が一層加速するだろうということです。編成に従って放送されるテレビ番組をリアルタイム視聴するだけではなく、自分にとって都合の良いタイミングで興味に合うコンテンツを見つけて自在に楽しむ。そんな「自分主導メディア主義」といえるようなスタイルの広がりです。

    感覚的に操作を行えるスマホやタブレットが普及し、インターネットに入れば多種多様なコンテンツに容易にアクセスできることがそれを可能にしています。指1本で次々と動画を移っていくというのは、まさに象徴的な行動ではないでしょうか。

    長尾:マーケティングの観点で見れば、そこに1つ課題が出てくると考えます。パッと見で気に入らなければ、すぐスワイプやタップで別のコンテンツに飛んでいってしまう。そういう意味では、かなり“わがまま”ですよね。だからこそ、それを引き止めるため、直感に訴える仕組みの研究や、ひと目惚れをさせるようなキービジュアル、さらには興味を喚起する音の開発など、そういった観点での試行錯誤が今後重要になるのではないでしょうか。

    子どもたちのリアルなメディア接触行動を鮮やかに浮かび上がらせる、オーディエンスインサイト・ソリューションの子ども調査。後編では、こうしたユニークな調査レポートがどのように生み出されるのか、その手法と考え方に迫ります。(*本プロジェクトでは「子ども」「子供」「こども」を全て「子ども」にて表記統一しています)

    ※当記事は6月12日時点の情報を元に記事を執筆しております。

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