ビジネス課題を解決する情報ポータル
[ドゥ・ソリューションズ]

    ゲノムとは「内なる好奇心の宝箱」~社会を変革するゲノムビジネスの自由な可能性

    最終更新日:2025年03月13日

    ゲノムとは「内なる好奇心の宝箱」~社会を変革するゲノムビジネスの自由な可能性

    ゲノムは技術的にも倫理的にも難しそうで、敷居が高い……。もしそんな思い込みから「自分の仕事とは関係ない」と考えているなら、ビジネスの大きなチャンスを逃しているかもしれません。
    革新的な技術の進化により、世界中で進むバイオ・ゲノム技術のビジネス応用。その最前線を軽やかに走る二人、電通SMARTCELL & DESIGNの志村とプラチナバイオ株式会社の奥原CEOが、生物学になじみのないビジネスパーソンにこそ伝えたいゲノムの可能性を語り合います。ビジネスを広げる新たなヒントをお探しの方、必読です!

    PROFILE

     
     

    INDEX

    電通発のゲノム特化組織×広島大学発スタートアップ

    志村さんは以前、「ゲノム思考」を用いた新規事業アイディエーションサービス「ゲノムシンキング powered by SMARTCELL & DESIGN」のブログにも登場していましたね。普段はクライアントの事業開発支援などに携わりながら、ゲノムやフェムテック、宇宙開発分野のプロジェクトにも意欲的に取り組まれています。今日はまず、志村さんが所属される「SMARTCELL & DESIGN」という組織について教えていただけますか。

    志村:「SMARTCELL & DESIGN」は2017年に私が中心となって立ち上げた組織で、ゲノム・スマートセル領域の第一線で活躍するメンバーが多数所属しています。その前年に国際IT財団による次世代リーダーシップ・プログラムに参加して、ボストンの最新ゲノム研究などを視察したのですが、そこでできた研究者の方々とのネットワークを絶やすのはもったいないと社内外横断型の組織をつくることにしました

    それまではずっとデジタル領域で活動してきたので、当時の自分はまだゲノム初心者。でも、どっぷり研究者じゃない自分や電通という立場だからこそ、さまざまな専門家のハブになれると考えたんですね。それ以来、国内外でゲノム分野をリードする企業や団体と協業しながら、ゲノム技術のビジネス活用やアイデア創出支援などを行っています。

    プラチナバイオの奥原さんは、SMARTCELL & DESIGNの頼れる協業仲間のお一人とうかがっています。簡単に自己紹介をお願いします。

    奥原:中学生のころから「人がものを考えるというのは、どんな仕組みなんだろう?」ということに興味があって、バイオ研究者を目指して学習記憶や本能行動など勉強してきました。でも研究者ってすごく狭き道で、大学院を出るころにはちょっとここでは生きていけないなと思い、それなら研究者を支援する側に回ろうと国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)に就職しました。その後、内閣官房で国の知的財産戦略をつくる仕事に携わっていましたが、東日本大震災をきっかけに家族のいる東広島市に戻って地方公務員になりました

    公務員として働く中で、あるとき広島大学に派遣され産学連携を担当することになったんです。しばらく研究の世界から離れているうちに、バイオ領域ではゲノム編集という革新的な技術が誕生し、そのトップランナーがちょうど広島大学にいた。これは面白いことになっているなあと、ゲノム技術の社会実装に取り組みはじめました。そうこうしているうちに3年の任期が終わってしまい、気づくと安定した公務員の職を手放し、広島大発のスタートアップとしてプラチナバイオを立ち上げ今に至る……というわけです。

    世界的なゲノム推進の背景にある、二つの技術革新

    広島大学は、ゲノム編集ツール「プラチナTALEN(※)」の開発や、メディアでも話題になった「アレルギーを引き起こさない卵」の研究でも知られていますね。お二人が関わっているプロジェクトについてもお聞きしていきたいのですが、その前にまず、昨今ゲノムやバイオ領域が注目されている背景について教えていただけますか。

    ※プラチナTALEN
    ゲノム編集技術の一種で、高効率で特定のDNA配列を切断する人工ヌクレアーゼ(DNA鎖の任意の塩基配列を認識して切断する人工制限酵素)。従来のTALENよりも高い活性を持ち、哺乳類やiPS細胞などでの遺伝子改変に利用され医科学や再生医療の分野での応用が期待されています。

    奥原:日本でも今、政府が「バイオエコノミー戦略」などを打ち出し産業への応用を後押ししていますが、そもそも食べ物は全部バイオでできているし、空気や水の清浄にもバイオフィルターが使われているなど、バイオ自体は私たちの暮らしに身近な存在です。それがなぜ今大きく注目されているかと言うと、二つのエポックメイキングな技術革新があったからです。

    一つは次世代シーケンサー。生物の働きは、すべてDNAに塩基配列として書き込まれていますよね。それを高速に、正確に、しかも安く読める技術が次世代シーケンサーです。この登場により、世界中の研究者が一斉に研究対象の生物をデータに変えるということをはじめました。

    もう一つの技術がゲノム編集。次世代シーケンサーによって明らかになったコード(塩基配列)を書き換える、という技術です。先ほどのアレルギー低減卵の例で簡単に説明すると、まず卵を生むニワトリの膨大な塩基配列の中から、アレルギーを引き起こす原因となる遺伝子を特定します。そしてゲノム編集によってその一部を書き換えると、遺伝子の機能が失われ、アレルギーを引き起こす原因物質がなくなる、つまりアレルギーの人でも食べられる卵ができるのです。こうした技術革新によって生物の可能性が広がり、産業界へのインパクトに期待が高まっている、というのが今の状況かと思います。

    実際にさまざまなプロジェクトに取り組む中で、産業への活用が進んでいるという実感はありますか?

    奥原:確かに取り組み自体はたくさんありますが……具体的な応用という点ではまだまだですね。というより「もっとできるんじゃないか」と感じていますので、私たちや電通さんでもっと多様な支援をしていきたいなと思っています。

    サウジアラビアを芝生で緑化!? きっかけは一人のサッカー愛

    現在お二人は、「サウジアラビア王国における持続可能な緑化開発調査事業」に取り組まれているとお聞きしました。これは政府の「グローバルサウス未来志向型共創等事業費補助金」にも採択されたプロジェクトですが、詳しく教えてください。

    奥原:2024年12月に始まったばかりなのですが、日本の芝生をサウジアラビアの都市開発に導入することで砂漠の緑化を目指そう、という壮大なプロジェクトです。先ほど「産業化はまだまだ」と話しましたが、例えばこのプロジェクトも、まずは日本の芝生を知っていくところから始めているんです。

    芝生はこれまで品種改良がたくさんなされていて、他の農作物と同様に何百と品種があります。でも、それらの遺伝子はほとんど解析されておらず、データとして存在していません。だから我々は芝生ごとの性質——この品種は寒冷地に強いとか、この品種は乾燥地でも育つとか——をどんどん解析してデータベース化を進めています。データベースができれば、この特徴とこの特徴を掛け合わせればサウジアラビアの高温・乾燥地域でも育つ芝生ができるよね、ということが分かるようになりますから。

    b181_gr-4

    なるほど、バイオ情報をデータ化することで、産業応用の可能性を見つけやすくするんですね!

    奥原:日本でトップシェアを誇る大手の芝生メーカーさんでさえ、生物資源をデータ化して解析する「バイオDX」のアプローチはまだ全然やってきていないんです。でもそれができれば、海外で芝生を導入するといった新しいビジネス展開の発想がぐっと広がりますよね

    志村:その技術的なサポートを奥原さんのプラチナバイオが担って、じゃあ具体的にどこにどう展開すると社会に役立つのか、どんなメッセージとともに伝えていけば世の中の共感を得られるのか、そうしたマーケティングやコミュニケーション部分を僕ら電通がサポートしています

    ちなみに……「日本の芝生をサウジアラビアに持っていく」という発想自体はどこから出てきたのですか?

    志村:あ、これには面白い背景があるんですよ。僕が昨年Do! Solutionsでウェビナーを開いたときの参加者の一人が、たまたまサッカー関連の仕事に携わっていたんです。サッカーの競技場には芝生が使われていますよね。でも人工芝と天然芝ではケガのリスクが全然違ったり、地域によって芝のコンディションがあまりに違ったりして、競技環境に差があるらしいんです。だから競技力向上のために、ゲノムの力で良い芝をさまざまな地域に提供できないか、というアイデアをその人が出してくれて。ちょうど2034年のサッカーW杯開催地候補にサウジアラビアが入っていたことなどから、今回の緑化プロジェクトへとアイデアが結びついていきました

    それじゃあ、もともとはサッカーの競技環境を良くしたいという思いから始まったんですね!?

    志村:これまで研究者やテック系の方々に反応いただくことはありましたが、そのアイデアを思いついた人はまったくゲノムとは関わりのないスポーツ分野の方だったので、僕もびっくりしちゃって。特にスポーツは世の中に大きなインパクトを与える分野でもあるから、地道にゲノムを啓発してきてよかったなあって思いました。

    そうそう、そもそも僕と奥原さんがつながったのも、社内で僕がゲノムゲノムと言い過ぎて「志村、いきなりどうしちゃったの!?」と思われていた時に「おもしろそう」と声をかけてくれた営業職の人がたまたま広島大学のバイオDXのトップランナー(坊農秀雅教授)と知り合いで、その縁で奥原さんを紹介してもらったんですよね。

    関係人口を増やしていけば、ゲノムはもっとスパークする!

    今のエピソードは、思いがけないつながりや発想がゲノムビジネスのきっかけになることをまさに証明していますね。

    志村:僕はずっと「ゲノムの関係人口を増やすこと」を目指しているんです。意外な分野とつながったり、社会的に大きな話題になったりしたとき、関係人口の構造がバチっと変わる瞬間が来る。それまで新しい技術に無関心だった人や中立的な立場を取っていた人が、賛同側に一気に切り替わって、技術が大衆化します。これってまさにデジタル分野で起こってきたことなんですね。ゲノム技術にもそれが起これば、可能性がもっとスパークするはず。だから、僕は「変わったことに関わってるね」と言われても否定されても全然問題ない(笑)。

    「ゲノムの関係人口を増やす」、とてもわくわくする言葉です。SMARTCELL & DESIGNのもとにも、多様な企業の方からご相談に来てほしいですね。

    志村:本当に! 製薬会社などの医療系はもちろん、商社や家電メーカー、ハウスメーカー、それこそ芝生メーカーなど、バイオやゲノムはどんな分野にも関連しますからね。

    バイオ分野ってどこか敷居が高くて、ちゃんと論文を読んで知識をつけないと話さえしちゃいけない、みたいな雰囲気があると思います。でも、僕と奥原さんをつないだのも、サウジアラビアのプロジェクトの発端になったのも、なんならかつての僕だって、ゲノム知識が全然ない素人。だから遠慮は取り払って、本当にちょっとの興味で僕らに声をかけてもらえたらと切に思います。絶対に可能性が拓けるので。

    こども家庭課での経験により強まった、誰かを助ける技術への思い

    ゲノム技術をビジネスや産業に活用していくことにどんなやりがいを感じているか、最後にお聞かせいただけますか。

    奥原:私にとってはやはり、社会課題を解決できることがやりがいですね。アレルギー低減卵の例ばかりで恐縮ですが、ゲノム編集食品ってなかなか共感を得にくいものが多い中、この卵は卵アレルギーで困っている方々がダイレクトに助かるものなんです。(ゲノム技術先進国の)アメリカでさえ「そんな卵、聞いたことがない」と驚かれるほど、世界を変えるポテンシャルがあるものを生み出すことができる。そこに大きな意義を感じます。

    社会貢献や誰かの役に立つものを生み出したいという思いは、奥原さんが昔からお持ちだったのですか?

    奥原:これにはたぶん、地方公務員になってからの経験が大きく影響しています。実は広島に戻ってから最初の4年間は、福祉部こども家庭課で子育て支援の担当をしていたんです。

    志村:えっ、それは僕も初めて聞いた!

    奥原:行政のこども家庭課は、困っている方々の最後の終着駅。応えられるソリューションがなかったとしても、最後までしっかりとお話を聞いて、受け止め、何かしら役に立つことを提供して、心を軽くして帰っていただく。それをずっと4年間していたわけです。これってまさに今やっていること、つまりクライアントや社会のニーズを聞いて、その解決に少しでも近づける技術活用を考えるのと同じことですよね。子育て支援の経験が、私のコミュニケーションスタイルや、社会の困りごとを解決するというスタンスにつながっていると思います。

    人生一度きりだからこそ、“やり直し”の効く挑戦を

    では、志村さんもゲノムビジネスのやりがいや面白さについてお聞かせください。

    志村:僕は「一度きりの人生のなかで付加価値の高いことをやっていきたい」といつも思っていて、その点でゲノムは、付加価値を積み増す瞬間にたくさん出会える領域。それがまずシンプルに面白いです。

    それから、人生が一度きりだからこそ、僕は“やり直し”という考え方にものすごく思い入れがあります。デジタルの世界がしょっちゅうプログラムを書き換えてやり直しをしているように、ゲノムの世界も編集履歴をきちんとトラッキングしたうえで、ミスをしたらちゃんとやり直せるようにしていく。そうやって“やり直すための技術”が進化していくと、ゲノムの可能性はもっと炸裂するって思うんです。

    やり直しが許される世の中になれば、もっとチャレンジできるようになるじゃないですか。そうした世界に、ゲノムを通じてもっとコミットしていきたいですね。

    ゲノムを取り巻く技術や実際のプロジェクト、そして取り組む醍醐味まで、今日は本当に興味深いお話をありがとうございました。

    解決したい課題がある方や、漠然とゲノムに興味がある方など、ちょっとでもピンときたことがある方は、ぜひSMARTCELL & DESIGNまでお気軽にご相談ください。

    「SMARTCELL&DESIGN」がご提供する具体的なソリューションについて、無料のeBookで詳しくご紹介しています。

    電通グループがご提供する
    関連ソリューション

    ゲノム思考で、世界と企業のビジネスを進化させる「ゲノムシンキング」

    新規事業開発やR&Dに新しいアイデアを!成功する新規ビジネスの創出に向けて、まったく新しい発想をもたらす「ゲノム思考」に基づいたアイディエーションサービスをご紹介します。

    詳しくはこちらをチェック!

    関連ソリューション

    関連ダウンロード資料

    「ゲノム思考」で、新規事業開発を次のステージへ!​ 「ゲノムシンキング」​   powered by SMARTCELL & DESIGN
    「ゲノム思考」で常識にとらわれないビジネス創出を「SMARTCELL&DESIGN」サービスメニュー
    このページをシェア Facebookでシェア Twitterでシェア LINEでシェア リンクでシェア URLをコピーしました

    関連ブログ記事

    登録無料

    mail magazine

    ビジネス課題を解決する
    ソリューション情報を
    メールでお届けします!