
ブランドのファンづくりは、いまや好意形成の話だけではありません。市場の競争が激しく、価格改定も避けにくい今、ファンは売上を支えるだけでなく、ブランドを守り、育てる経営資産になっています。では、そのファンはどこで生まれるのでしょうか。答えは、単に「知っている」「満足している」ではなく、感情が揺さぶられ、記憶に残る体験にあります。
本記事では、2026年6月25日に開催されたDo! Solutions Webinar「なぜ、あのブランドには熱狂的ファンがいるのか?~インプレッシブ・ドラマからひも解く“ファンを生むシナリオ”の法則~」で紹介された、「ファンが生まれる構造を理解した上で、体験をどう設計し、どう再現していくのか」のアプローチについて採録形式でお届けします。
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ブランドがファンとの間に紡ぐべき「インプレッシブ・ドラマ」
第一章では、「ファンは接点の積み重ねではなく、印象的な体験から生まれる」という考え方を紹介。多くの場合、接点の量を増やすことに注力しがちですが、電通では、ブランドと生活者の間に「感情が揺さぶられ、記憶に残る体験(インプレッシブ・ドラマ)」があるかどうかを重視しています。ファンを単なる好意的な顧客ではなく、ブランドを支える経営資産として捉える視点から、その重要性が語られました。
ブランドとファンをつなぐ“インプレッシブ・ドラマ”
植田:まずは、ブランドがファンとの間に紡ぐべき『インプレッシブ・ドラマ』の重要性について植田からご説明します。ファンを経営的な資産として考えたときに、電通では5つの価値(社会関係資本、リスク耐性、共創力、イノベーション、持続的消費)でファンを捉えています。
ファンは、ブランドの成長を後押ししたり、継続的な購買での売上基盤を支えてくれるだけでなく、例えばリスクに直面したときにはブランドを擁護してくれる力や共創による宣伝効果、ファンがいることで、社会的信用につながるといったことにも効いてきます。
つまり、ファンは単に“ブランドに好意を持っている人”にとどまらず、事業成長の土台になる存在だと考えています。
そのうえで電通が過去の多くの「ファンマーケティング」のご支援からたどり着いたのが、ファンが生まれるかどうかは、お客様とブランドの間に“インプレッシブ・ドラマ”があるかによる、という見立てです。インプレッシブ・ドラマとは、「感情が揺さぶられ、記憶に残る印象的な体験」のことです。
たとえば、
・部活のきつい合宿を乗り越えるために仲間と分け合って飲んだ飲み物
・ひとり暮らしを始めて間もないころに風邪をひいたとき、母から送られてきた薬
・新婚期に料理が苦手でも「おいしい」と言ってもらえて自信が持てた調味料
どれも、モノそのものよりも、そのときの気持ちや場面ごと記憶に残っているはずです。
29カテゴリーの調査で見えた、インプレッシブ体験とファンの関係
電通が独自に実施した29カテゴリーのファン調査では、洗濯洗剤や食品、飲料から、通信キャリア、車、旅行関連サービス、VOD、クレジットカードまで、幅広いブランド領域を横断してファンの実態を検証しました。その結果、企業・商品のファンの約7割が、当該ブランドとの間に何らかのインプレッシブな体験を持っていることが分かっています。さらに、ライトファン、一般ファン、熱狂ファンとファンの熱狂レベルが上がるほど、インプレッシブ体験のスコアも高くなっています。ファンは、浅い接点をたくさん積み上げた結果というより、強く残る一点の体験を持っているからこそ、育っていくのです。
こうした結果を踏まえると、ファンづくりは、単に接点を増やすことではなくて、「どんな体験をどう設計するか」が大事だということが見えてきます。では、その体験をどうやって生み出していけばいいのか。第二章では、電通の知見をもとに、ファンが生まれる体験シナリオの考え方と、新たにファンを生み出すためのシナリオの具体的な描き方についてお話ししていきます。
ファンが生まれる“シナリオ”大解剖
第二章では、「ファンは、なぜそのブランドを好きになったのか」という物語をひも解きながら、ファン化のプロセスを構造的に理解する考え方が紹介されました。ただ印象的な体験をつくればよいのではなく、「どの瞬間に」「何がきっかけで」「どんな感情が動いたのか」を分解することで、再現可能なファンづくりにつなげるアプローチです。
ファンの物語をたどる「ファンナラティブ・ジャーニー」
廣田:続いて、ファンが生まれる“シナリオ”について、ファンの物語を読み解きながら、廣田からご説明します。私たちは、ファンになる前からファンになるまでの流れを、「ファンナラティブ・ジャーニー」として捉えることを重視しています。
いわゆるカスタマージャーニーのように単に接点や行動を時系列で並べるだけではなくて、体験者ご自身の言葉で語られた物語(ナラティブ)として読み込んでいく。そうすることで、どの場面で気持ちが動いたのか、何が記憶に残っているのか、そうした感情の機微や体験の行間が見えやすくなります。
ファンナラティブ・ジャーニーでは、ブランドとの思い出を一つひとつ丁寧にたどりながら、原体験や、ファン化の引き金になった瞬間を聴取していきます。その中で、まざまざと思い返されるエピソードこそが、まさにインプレッシブ体験だと捉えています。
だからこそ、浅い体験を数多く連打するよりも、ファンナラティブとして思い起こされるような、一点の強く、深い体験を残せるかどうかが大切なんです。その体験が、その人の記憶の中に、どれだけ長く、どれだけ鮮やかに残り続けるか。そこが、熱狂度の高いファンを生むうえでの分かれ目になります。
そして、我々はこの物語をさらに分解していく中で、5つのシナリオ構成要素で捉えるアプローチにたどり着きました。今回のウェビナーでは、とりわけ重要な3つの構成要素として、
・愛を駆動させるファン化エンジン
・ファン化のトリガーエクスペリエンス、そして
・ファン感情を揺らすスウィング・エモーション
を中心に解剖していきます。
愛を駆動させるファン化エンジン
廣田:皆さんも、ご自身が何に“惚れやすい”かを少し思い浮かべてみてください。
たとえば、ブランドの歴史に強く惹かれる方もいれば、職人魂やものづくりへのこだわりにグッとくる方もいると思います。あるいは、経営者のカリスマ性やリーダーシップに惹かれる方もいれば、生活者のことを本当に丁寧に見てくれているなと感じる消費者理解の深さに感激する方もいるはずです。私たちは、こうした“惚れポイント”こそが、まさにファン化のエンジンだと考えています。
東田:ここからは、ファンが生まれるシナリオの構造を、調査データをもとに解き明かしてきたリサーチャーの東田からご説明します。今回の分析では、ファンがそのブランドに惚れるきっかけとなるファンエンジンとして、人・組織力/歴史・ストーリー/消費者理解力/ソーシャル/ものづくり/思想・哲学/クリエイティビティ/カルチャー/イノベーション/経営姿勢という10の要素が見えてきました。しかも、どのエンジンが強く働くかは、カテゴリーによってかなり違いがあります。
特に、人材、住宅、医療のように、選択を誤ると暮らしや人生の質に大きく影響する領域では、ファンエンジンが強く働きやすい傾向がありました。
たとえば人材サービスなら、フロントに立つ営業担当の信頼感が大きいですし、住宅なら営業との掛け合いや相談のしやすさが効いてきます。医療であれば、自分の症状や悩みを理解して、提供製品を進化させ続けているかどうか、という消費者理解とイノベーションがとても大きい。
つまり、同じ“ファンでも、何に惚れられている”のかはブランドごとに違うんです。そこを見誤らないことが、最初のポイントになります。
ファン化のトリガーエクスペリエンス
東田:次に、ファンが最も多弁に語る“感情の山場”を見ていきましょう。
ここには、ペイン救済型/救済・再生型/成長・支援型/世界拡張型/驚き・憧れ型/幸福・喜び型/幸せウェーブ型/愛さんさん型
など、40の型があります。つまり、ファンになる決定打となる引き金体験は、いくつかのパターンがあるということが、長年のファン研究から見えてきました。
同じレモンサワーのカテゴリーでも、ブランドによって現れやすい体験はまったく違いますし、トリガーエクスペリエンスが多いほど「インプレッシブ体験あり」が高まる傾向も見えてきました。なので、自ブランドの現ファンを生み出しているトリガー体験が何なのかを知ることが、次の設計にすごく効いてきます。
ここで大事なのは、ファンになるきっかけが、いつも今の利用シーンと一致するわけではないということです。後から振り返ったときに思い出される原点が、想像以上に早い時期の体験であることもあります。ですから、目の前の接点だけを見るのではなくて、その体験がどんな物語の節目になっているのか、そこまで含めて見る視点が必要になります。
ファン感情を揺らすスウィング・エモーション
廣田:さらに、熱狂度の高いファンほど、ファン心が芽生えるときに揺れた感情の数が多いということも見えてきました。ライトファンより熱狂ファンのほうが、感情の幅が広くて、彩度も高いのです。こうしたファン感情を揺らすスウィング・エモーションを意識することが、ファンづくりではとても重要だと考えています。
カテゴリーによって、ファン化と結びつきの強い感情も異なります。自己受容、刺激・チャレンジ、成長・有能感、癒しなど、どの感情を揺らすのかを見ていくことで、単なる好意ではなく、記憶に残る愛着をつくりやすくなります。ファンづくりというのは、結局のところ、機能だけではなく感情の設計でもあるということです。どんな体験で、どんな感情が動き、その感情がどんな記憶として残るのか。そのつながりを見ていくことが、ファンの熱量を高めるうえで欠かせないと考えています。
ここまで見てきたように、ファンが生まれるシナリオには、何に惚れるのかというファン化エンジンがあり、どんな出来事が決定打になるのかというトリガー体験があり、さらにどんな感情が揺れたのかというスウィング・エモーションがあります。こうした要素を丁寧にたどることで、ファンは偶然ではなく、構造として理解できるようになります。熱狂度の高いファンをつくるには、どんな感情を揺らすかという“カラーパレット”の幅を広げながら、その彩度を上げていくことが鍵になります。では、その構造を読み解きながら、ファン理解をどうすればより速く、より実務的に進められるのか。次の第三章では、そのための手段として、AIを活用した最新手法“ファンAIリサーチ ブランド”についてご紹介します。
シナリオを描く土台は「徹底的なファン理解」〜AIを活用した最新手法〜
第三章では、ここまで紹介してきたファン理解を、実務でどう実践するかがテーマです。ファンの物語を分析することは重要ですが、丁寧にやろうとすると時間や工数が課題になります。そこで紹介されたのが、電通の知見をもとに、AIを活用してファン理解を効率化する“ファンAIリサーチ ブランド”です。
シナリオを分解して、再現可能な体験へつなげる
廣田:電通では、ファンを育むシナリオライティングのコツとして、インプレッシブ体験の構成要素を知ること、そこからインプレッシブ体験を再現するシナリオを紡いでいくこと、そしてそのシナリオを実現するためのアクションを検討すること、という3つのステップで思考するフレームワークを推奨しています。
STEP2では、インプレッシブ体験を再現するシナリオを組み立てます。その際に用いるのが、現在のファンが生まれた背景にある物語を構造的に捉えるための「シナリオ分解シート」です。このフォーマットに沿って、体験を構造化していきます。
たとえば先ほどのレモンサワーブランドの例で見ても、どんな主人公が、どんな場面でブランドと出会い、そこで何に惹かれ、どんな気持ちが揺れたのかをたどっていくと、ファン化の引き金や感情の動きが見えてきます。そうやってシナリオ構造を分解していくと、次にどんな体験を設計すればいいのか、どんなアクティベーションが必要なのかまでつながっていくのです。
まずはこの一歩目として、自ブランドのファンがどう育まれたのか、その裏側にあるインプレッシブ体験の構成要素を知ることが重要で、その理解をより速く進めるための手段として、今回開発したのが「ファンAIリサーチ ブランド」です。
『ファンAIリサーチ ブランド』とは
武田:ここからは、AI開発を担当した武田から、ファン理解をより速く進めるための最新手法をご説明します。私たちのチームでは、電通グループで積み上げてきたファンマーケティングの知見を土台にしながら、自社や自ブランドのファンを、AIの力でクイックに理解できるようにした独自ツール「ファンAIリサーチ ブランド」を開発しました。このAIツールでは、SNSやコミュニティの発話データ、調査の自由回答データを組み合わせて見ていくことで、ファンがどんなところに反応しているのか、どんな価値を感じているのかを、かなり早い段階で立ち上げられるようにしています。
設計の4つのポイント
● ロジック
やみくもにAIに投げるのではなく、ファンエンジンやトリガー体験、スウィング・エモーションといった、電通のファン理解の考え方をきちんとロジックとして持たせています。何を見ればファンらしさが見えるのか、どこを解釈の起点にするのかをあらかじめ整理しておくことで、AIの出力がぶれにくくなります。
● データ
大量のデータをそのままAIに投入するのではなく、AIが処理しやすいサイズに分けて扱えるようにしています。分割したデータを並列で処理することで、精度を保ちながら処理速度を落としにくくし、効率よく分析を進められます。
● 文脈
単語を拾うだけだと誤解が起きるので、前後の流れを含めて読むことを重視しています。たとえば、「これしかない」といった同じ言葉でも、称賛なのか不満なのかは文脈で変わります。そこを見ながら、何が本当にファンの熱量につながっているのかを見極めていきます。
● 役割
AIに任せるのは、あくまでデータ処理や言語処理の部分です。最後の解釈や判断、どの示唆を採用するかは人が担うことで、スピードだけでなく納得感も両立しやすくなります。
AI活用で得られる3つのメリット
● プランニングの高速化
従来は、調査設計から実査、データ整理、分析、示唆抽出までで数週間から数か月かかっていたところを、数日から数週間で方向性まで見出しやすくなります。なので、スピーディーに見立てを立てながら、ご提案の質を高めやすいのが大きな特徴です。
● 仮説検証の反復化
データを変えて何度でも試せることです。たとえば、まずSNS分析をしてみる、次に自社データで見てみる、さらにそれらを組み合わせるとどうなるかを見てみる、というように、結果を見ながら何度でも反復できます。ファンを知るための視点を変えながら、仮説検証を重ねることができます。
● データのブレンド化
複数データをブレンドして使えることです。従来は、調査データと自社データはIDが紐づかないので、一緒に使いにくいという課題がありましたが、このツールでは、電通が独自に持っている判定ロジックを使いながら、AIに統合的に解釈させることで、SNSの声と自由回答データを並列で見て、示唆までつなげやすくなります。ここが、単に汎用のAIを使うのとは違うポイントです。
大事なのは、完璧に分析してから動くことではなくて、まず自分たちのファンを知る一歩を踏み出すことです。今回のツールは、そのための入口であると同時に、ファンがどう育まれているのか、その裏側にある構成要素を素早く見にいくためのものです。まずはそこを押さえたうえで、次にどう体験を設計するか、どうシナリオを描くかまでつなげていく。その一連の流れをご支援させていただきたいと思っております。
まとめ
ウェビナー全体を通じて示されたのは、ファンは偶然に生まれるのではなく、体験の設計によって育つということでした。「インプレッシブ・ドラマ」を起点に、ファンの物語をたどりながら、ファンエンジン、トリガー体験、感情の揺れを分解し、再現可能なシナリオへ落とし込む見方が提示されました。
そのうえで、電通としては次の流れでご支援します。
◯ まずは「ファンAIリサーチ ブランド」で、自ブランドのファンを知る。
◯ そこから、ファンを育む体験シナリオの設計を一緒に考える。
◯ さらに、ファンの求心力を高めるブランド価値の再規定まで伴走する。
自社ブランドのファン理解のアプローチとして、他にも様々なソリューションをご用意しています。まずは“ファンを知る”という一歩目が何より重要ですが、その理解をもとに、ワークショップなどを通じてファンの心を動かす体験を設計し、さらにブランド価値の再定義へとつなげていきます。リサーチで終わらせるのではなく、「ファンが生まれる体験」を実装し続けるための羅針盤戦略を、お客様とともに構築していきます。
詳しい相談や導入の検討をしたい場合は、ぜひご相談くださいませ。


















