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従業員エンゲージメントを高めるには? 変革の鍵を発見するための6つの視点

作成者: D-sol|Mar 1, 2021 12:30:00 AM

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ビジョンをつくっても現場が動かない。だから変革が進まない。

昨今多くの企業から聞こえてくるそんなお悩みを、私たちは従業員エンゲージメントの問題と捉えていること、そして従業員エンゲージメントとは全社視点で取り組むべきテーマであることを、前回の記事でお伝えしました。(前回はコチラ)

端的に、企業のビジョンと、従業員一人ひとりのモチベーションが同じ方向を向いていれば、現場は動くはずです。

そうなっていないとしたら、原因はどこにあるのか。
今回は、その問題の在りどころを明確化し、「現場を動かすトリガーとなる施策」を検討するための、6つの視点をご紹介します。

カギはアイデンティティにある

「従業員エンゲージメントを向上させること」とは、「企業と従業員のアイデンティティの共有の度合いを問うこと」、と言い換えてみることができます。どういうことでしょうか。

アイデンティティとは、一般に”自己同一性”と訳されますが、簡単に言えば「自分は何者なのか」という自己認識のことです。

発達心理学においては、自己認識とは3つの側面から構成されています。
 ①「何者でありたい」という自己願望
 ②「何者である」という自己評価
 ③「何者とみなされているか」という他者からの評価

この3つが均衡していることが、人が社会へ適応するための基本要件とされています。また精神的健康を維持・向上するための基本要件ともなっています。

そして、人の成長の原動力、すなわち”モチベーション” は、この3つの側面の関係から生じます。つまり、人が自らの ①「新たな自己願望」に対して ②「自己評価」し、それと ③「他者からの評価」を均衡させようとする努力から、モチベーションが生まれてくるわけです。

ですので、ある人のモチベーションを、ある企業の従業員のモチベーションとして発揮してもらうためには、その企業と個人が一体感を持ち、信念や価値観を共有すること(アイデンティフィケーション)が不可欠なのです。
(この考え方に基づくメソッドが、いわゆる「コーポレート・アイデンティティ」です。)
※参考:「企業変革とCI計画」1990年 境忠弘 電通

すなわち、「ビジョンをつくっても現場が動かない」としたら、その原因は
アイデンティティが共有されていないこと、
アイデンティティがその実現に向かっていきいきと機能していないこと、
それらによって従業員のモチベーションが上がらないことにある―と考えられるわけです。

ブランドスパイラルを回せ!

前回の記事で「ブランドスパイラル」の図を示しました。これは、企業のアイデンティティが企業内部、そして市場・社会にダイナミックに展開される様子を図式化したモデルです。

ブランディングの現状確認と課題抽出のために活用してきたモデルですが、このスパイラル上に表された活動がうまく回ると、従業員のエンゲージメントが向上していくことも経験上、明らかになっています。

逆に言えば、従業員のエンゲージメントが低下しているとしたら、この活動上のどこに問題があるのかを捉えることで、次の一手を考えることができます。

このモデルは従業員エンゲージメントの重要な課題発見の起点となります。改めてもう一度、詳細に見ていきましょう。


図①:ブランドスパイラル

2つの円が交わる構図は、「ある企業(または企業グループ)」が、「市場や社会」と向きあっていることを表します。

左側にある「企業/グループ」は、その左肩にある理念やビジョンを起点に価値を生み出そうとします。経営層と従業員は、力を合わせてアイデンティティを実現する活動を行い、価値を右側の「市場・社会」に提供します。

それを市場や社会は評価し、価値が認められると、企業は収益やレピュテーションなどの新たな経営資源を獲得でき、成長することができます。そして従業員のエンゲージメントも高めることができます。このようにして、企業と社会が、価値を交換し合うわけです。

この際に、企業と市場・社会の間に、アイデンティティを象徴的に発信する「コーポレートブランド」を介在させることで、より円滑で効率的な価値交換を行うことができます。これがいわゆる「コーポレートブランディング」と呼ばれる活動です。

企業の持続的成長とは、このモデルで言えば、アイデンティティを象徴的に発信する「コーポレートブランド」を用いて、このスパイラル状となった価値交換の営みを回し続けていくことに他なりません。

課題を発見するための6つの視点 “6aspects” 

さて、懸案の「ビジョンをつくっても現場が動かない」問題に戻りましょう。
経営層と経営企画部門が心血を注いで策定したビジョンを絵に描いた餅にしないために、まずはその原因を見つけなければなりません。

そこで、先ほどご説明したブランドスパイラルの観点から課題を抽出してみましょう。
そうすると下図にあるように、従業員エンゲージメントの課題に関して、6つの視点が現れてきます。私たちはこれを“6aspects” と呼んでいます。少し長くなりますが順にご説明します。

aspect-1
企業理念の浸透度:掲げる理念はワークしているか

1つ目は、企業と従業員のアイデンティティは共有されているかどうかの確認です。確認はまず、企業の最高規範である「理念」の状況を把握するところから始まります。

理念とは、企業の信念や、永続的な存在意義、そして継承し共有すべき価値観などを簡潔に述べた、アイデンティティの根源を成す文言です。
その呼称は「企業理念」「経営理念」「社是/社訓」「ミッション/バリュー」など、様々ですが、ほとんどの企業が「自社の理念」を掲げています。

ここで問題なのは、理念が理念としてワークしているか、その役割を果たしているかということです。

経営学者の林廣茂氏は、企業理念とは「人間が働く意味と意欲を駆動させる人間哲学」(※)である、としています。この言葉を借りるなら、現場の従業員が働く意味と意欲を駆動させることこそが、理念の機能です。

その機能が十分働いているか。
現経営陣は、社内外で、自らの信念として理念を語っているか。
そもそもその理念文言は、社内外から共感を得られるような表現で表明されているか。

そういったポイントを設定して、現状を採点してみるとよいでしょう。
「理念」と銘打たれた文言は存在していても、神棚に上げられて埃をかぶっている場合も多いものです。だとしたら、その理念はワークしているとは言えないので注意が必要です。
※出典:「日本経営哲学史―特殊性と普遍性の統合」2019年 林廣茂 筑摩書房

aspect-2
経営戦略の明快度:「会社の目標」は「一人ひとりの目標」になっているか 

理念は時代を超えて継承されるものですから、多くの場合、その内容は抽象的です。そこで、今日的な環境における、より具体的な目標像が必要になります。それが中・長期の経営計画です。さらにそれを文章化したものが「ビジョン」や「ありたい姿」と呼ばれています。

しかし、全社目標としての「ビジョン」「ありたい姿」も、それそのままでは、現場の従業員にとって「具体的」とは言えません。
例えば、「我が社は2050年CO2排出実質ゼロを目指す」という目標は、明確で具体的です。が、この目標が示された途端に「よし!」と動き出せる従業員は、ほとんど存在しません。

全社目標は、部署の目標にブレイクダウンされているか。
その目標に向かっていくためには、どのような行動が求められるのか。

といった観点から点検し、「会社の目標」そのものが明快かどうか、それが従業員一人ひとりにとっての明快な目標となっているかどうかを、確認する必要があります。

aspect-3
組織文化の活性度:理念やビジョンを実現しやすい文化はあるか

3つ目の視点は、
これまでの慣習にとらわれない、新しい挑戦を促す仕組みや社風はあるか。
目標に向かって、あるべき行動が奨励され評価されているか。

といった、「組織文化の活性度」の視点です。現在の企業文化が、掲げる理念やビジョンの実現に適合しているか否かが、「組織文化の活性度」を決定づけます。

例えば、”お客様第一主義”を理念として標榜しながら、現場では中間管理職がお客様ではなく上司の顔色ばかり見ているような状態であるとしたら、その現場の組織文化は、理念やビジョンの実現に適合しているとは言い難いでしょう。

当然、このような組織では従業員のモチベーションも上がっては来ません。

aspect-4
CIの有効性:コーポレートブランドはアイデンティティを的確に表現しているか

ここでの「CI」は、コーポレートブランドと同義です。
具体的には、社名(ブランド名)やロゴ、色、企業スローガンなど、言語や視覚におけるシンボルとその体系を指します。
言わば、企業の最も短い自己紹介、自己表現です。

その自己表現は的確か。
自社のアイデンティティを端的に表現して、顧客や従業員にも共感されているか。
多様なステークホルダーとの間で、有効なコミュニケーションツールとなっているか。

それが4つ目の視点です。

aspect-5
市場からの評価:顧客から的確な評価を受けているか

5つ目と6つ目の視点は、他者評価です。
他者からの評価が、人の成長の原動力となることは、冒頭にも述べました。
例えば「お客様の笑顔が私たちの喜びです」という言葉は、単純なようですが決してあなどることのできない、現場を動かす本質を表現しています。

事業を通じて、お客様の信頼を得ているか。
自社の強みや独自性は、お客様に伝わっているか。
まずはその認識を確認します。

顧客満足度調査はマーケティグの基本ですが、ここで確認するのは、お客様からの「実際の評価」ではなく、従業員の立場から「お客様に評価されていると感じているかどうかの認識」であることがポイントです。

企業として、お客様から相応に高い評価を得ている場合でも、現場の従業員がそのように感じることができないとしたら、そのギャップと理由の中に、大きな課題が潜んでいるはずです。

aspect-6
社会への対応力:社会に役立つ、誇れる企業か

ここ数年「パーパス(企業の社会的意義・使命)」が企業戦略のテーマとしてブームになっている観がありますが、日本企業はそのはるか以前からそのテーマを捉えています。

例えば「三方よし」に象徴される商人道や、「企業は社会の公器である」という松下幸之助の言葉が象徴するような社会貢献意識を、そもそも日本企業はアイデンティティの根幹に持っています。

社会の持続可能性と企業の持続的成長は表裏一体であるという認識は浸透しました。しかし、「誇れる企業、社会のために役立つ企業(と社会から評価されてい企業)で働きたい」という人の思いはその理屈以前のところにあります。だからこそ社会からの評価は、従業員のエンゲージメントに大きな影響を与えるのです。

大企業であれば、「地球」や「世界」規模の社会。小さな企業なら、「地域」や「街」という単位の社会。
それらの社会に寄与貢献していくための、具体的な方針は定められているか。
その方針に則った活動は行われているか。
その活動を伝えるための広報の体制はあるか。
その結果、社会からの評価は得られているか。

それが6つ目の視点です。

“アイデンティティ・バイタルチェック” のすすめ

ここまでご説明したように、6つの視点“6aspects”にもとづいて、従業員の意識を見ていくと、変革に向けた従業員エンゲージメントの課題が現れてきます。

私たちはこの取り組みを「アイデンティティ・バイタルチェック」と名付けています。
ビジョンをつくっても現場が動かないという悩みや、従業員のエンゲージメントをどう上げていくかという課題に対して、その起点となるソリューションです。

「薄々そう思っていた」ことが、明らかになることに意味がある

さて、そんなことなら、調査をするまでもなく、おおよそ見当がつく。
ここまで読んで、そう思われた方もいることと思います。

それも当然のことで、“6aspects”は、自社について、従業員の意識や企業文化について、ある程度注意深く見ている人であれば、おおよその見当がついてしかるべき内容です。

実はもともと“6aspects”は、トップインタビューの質問項目を作成する際の虎の巻として作っておいたものでした。トップマネジメントであれば、理念やビジョンの浸透状況、組織文化や他者評価の現状と問題点を的確に把握しているはずですし、だからこそのトップマネジメントだとも言えます。

ただそれを、現場の一員同士で、
「ウチの会社は、〇〇〇が××な点が問題なんだよね」
「△△△△が改まらない限り、我が社に未来はない」
と言ったところで、それを課題と設定した施策につなげることは簡単ではなく、仲間との飲み会での愚痴で終わってしまいがちです(この例えすら、コロナ禍の中で実現が困難になっていますが…)。

アイデンティティ・バイタルチェックで得られる結果は、「思いもよらない結果」ではなく、「薄々そうだろうと思っていた結果」です。ですが、「薄々思っていた」以上にはっきりとした結果が出ることも、少なくありません。

その結果とその構造が、定量的に、あからさまに示されること。
「ウチの会社の問題は、やはりここにある!」という課題認識が、客観的な形で、共有可能になること。
それがアイデンティティ・バイタルチェックをおすすめする最大の理由です。

初動において、
・問題を客観的に明示する、それを解決するプロジェクトが必要であることを提示する
・具体的な課題を設定する
・ひいては改善の指標となるKPI/KGIを設定する
ことができ、具体的な解決策に取り組む起点となっていきます。

「ビジョンを作っても現場が動かない」とき。
この問題を、従業員エンゲージメントの問題として捉え、コーポレートブランディングの手法を用いながら解決に取り組んでみるのも一つの手である、というのが今回の話でした。

そして、それら寄与する変革推進の取り組みが、アイデンティティ・バイタルチェックです。
私たちは「アイデンティティ・バイタルチェック」を、実務で使いやすいようツールとプログラムにまとめています。
具体的には、6つの視点それぞれに基づく5つの質問項目・計30問の定量項目を中心に設計し、調査結果の分析から、アイデンティティの共有状況と課題を総合的に診断していきます。

その内容や分析について、次回、より具体的にご紹介したいと思います。

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