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    【事例】「心が動く」に着目し、100年企業の新商品開発にブレークスルーを!

    最終更新日:2024年10月16日

    【事例】「心が動く」に着目し、100年企業の新商品開発にブレークスルーを!

    おかきをソースにディップする? しかもソースはトマトサルサにレモンタルタルと洋風味?? 思わず「試してみたい!」と興味がわく新感覚商品『ディップするおかき』を開発したのは、創業100周年を迎えた老舗米菓メーカー、中央軒煎餅。同社が展開する「きりのさか」ブランドから2024年6月に発売され、各種メディアに取りあげられるなど話題を呼んでいます。

    この新商品開発で活用されたのが、電通の研究開発組織「DENTSU DESIRE DESIGN(DDD)」が提供する新商品開発プログラム「心が動く新商品開発 by DENTSU DESIRE DESIGN」。一貫してお客様の「欲望(Desire)」を起点とする商品開発に、中央軒煎餅がこだわった理由とは? プログラムを通じて、商品開発への姿勢にどんな変化が起こったのか? 新発想の商品が生み出された背景を、中央軒煎餅の武井みどり常務取締役と、DDDメンバーの千葉貴志プロデューサーにお聞きしました。

    PROFILE

     
     

    INDEX

    “モノ起点”になりがちな商品開発では、限界があった

    中央軒煎餅様は1923年創業。100年を超える長い歴史をお持ちですが、これまではどのように商品開発を行っていましたか。

    武井:従来は「モノ起点」で商品開発を行うことがほとんどで、市場のトレンド商品や競合他社商品の情報分析を行い、それをヒントに自社のオリジナリティを加えて商品を考えるというやり方をしていました。お客様へのヒアリングも実施していますが、内容量や価格などの機能面に対するご要望をいただくことが多く、次の商品を決めるときもモノ起点の発想になりがちでした。味への評価もいただいておりましたが、新しさよりも従来通りの商品や“買いやすさ”を求めるお客様が多かったからかもしれません。

    そうした中、なぜ新たな方法の商品開発に挑戦されたのでしょうか。

    武井:モノ起点の商品開発をする中で、お客様のインサイトが掴みきれていないという課題をずっと感じていました。加えて10年ほど前からギフト市場そのものが大きく変化し始め、お中元・お歳暮のようなフォーマルギフトが減少し、パーソナル・カジュアルギフトが中心となってきました。そこで若い世代の人が米菓を選びたくなるような付加価値のある商品開発が必要だと考えたのですが、「じゃあその付加価値ってなんだろう?」ということのヒントや答えがなかなか見つけられず……

    それで、DDDにお声がけいただいたのですね。電通とはこれまでも広告などでの付き合いがあったのでしょうか?

    武井:いえ、それがまったく。お客様のインサイトを踏まえた商品開発の手法を探す中で、たまたまDo! Solutionsの記事を見つけ、DDDチームのことを知りました。「欲望基点」というキーワードに、まさに「これだ!」と。すぐに資料をダウンロードし、勇気を出して相談会に参加しました。

    千葉:Webをきっかけにお声がけいただいて、すごくありがたかったです。DDDではそれまで「11の欲望」をベースにしたマーケティング支援を行っていましたが、ちょうど中央軒煎餅様にご連絡をいただいたタイミングが、商品開発に特化したメソッド「心が動く新商品開発 by DENTSU DESIRE DESIGN」をローンチしようとしていたところだったんです。相談会でお話や課題感をお聞きし、その2日後にはさっそく店頭へと足を運びました。

    そこで感じたのは、良い意味で「違和感がない」ということ。武井さんは「お客様のインサイトが掴めていない」とお話しされましたが、決してそんなことはなく、ニーズをきちんと拾われていることは店舗や接客からとても伝わってきました。ただ、その中で中央軒煎餅様が目指す「新たな付加価値」を提供するなら、あえてここに違和感を生み出すことがフックになるのでは……。僕個人としては当初、そんなことを感じていました。

    DDDがご提供した“欲望基点”の商品開発プログラムとは?

    今回DDDがご提供した「心が動く新商品開発 by DENTSU DESIRE DESIGN」は、大きく①着目すべき欲望の選定→②心が動く商品の鍵の抽出→③心が動く商品アイデアの発想→アイデアのブラッシュアップ、といった流れのプログラムになっています。具体的にはどういったことを行ったのでしょうか。

    千葉:最初に0次分析として、菓子・贈答ギフト商品における欲望クラスターの調査を行いました。欲望クラスターとは、世の中にはどんな種類の欲望を持つ人が存在するのかをDDDが独自に分類し人物像として描いたもの。電通が保有する調査データなどをもとに購入頻度や購入場所を分析し、欲望という切り口から市場を捉え直すのが0次分析の目的です。今回の分析では、「11の欲望」の強弱が異なる欲望クラスターの違いによって、デパートで買うかスーパーで買うかコンビニで買うかといった購入経路や、目的、価格帯が全く異なることがわかったんですね。その背景にはどんな欲望があるのか、そういったことを深掘りして分析しました。

    武井:その結果を「インプット勉強会」という形でご提示いただいたのですが、私たちでもなんとなく理解していた市場状況やお客様の感情が、クラスターという人物像を使うことでよりクリアにイメージできてとても興味深かったです。

    千葉:インプット勉強会では、まさに武井さんがおっしゃったように、感覚的に「こうだよね」とっ思っていたところと分析結果が合致するかがすごく大事になります。食い違っていたとしても、この段階で認識をすり合わせておけば納得して次に進めますよね。ただ、「心が動く新商品開発」においては、「ターゲット」を絞り込むためにクラスターを出すのではなく、あくまでその人たちの抱く「欲望」を想像するヒントとしてクラスターを活用しています。だから勉強会では、クラスターの細かな説明をするというより、それに紐づく欲望がどういったものなのかを丁寧に説明させていただきました

    新商品開発ではまずターゲットを絞り込むのが鉄則だと思ってしまいますが、属性にとらわれて視野を狭める前に、「欲望」をしっかり意識できるようにするんですね。そしてここでベースとなるのが、DDDの「11の欲望」。

    千葉:「11の欲望」は、DDDが独自の研究から導き出した、現代の私たちを象徴する11の欲望因子です。どのクラスターがどの欲望因子を強く持っているかを分析したうえで、今回の新商品開発においてどの欲望に着目したいかを、皆さんと議論して絞り込みました。

    ⇒“欲望基点”の「心が動く新商品開発プログラム」について詳しくはこちらから

    モノから欲望へ、着眼点をグイっとシフトする!

    着目する欲望を絞り込んだらさっそく商品アイデアを発想……かと思いきや、その前に「宿題」がありますね。これはどういったことをしたのでしょうか?

    千葉:「その欲望が一体どんな消費行動によって満たされたのか」を示す調査データ(※)があるのですが、そのフリーアンサーを読み込んでいただき、消費行動と欲望にまつわる心の動きを具体的な事例をもって理解していくのがこの“宿題”です。ジャンルはお菓子に限定せずあらゆる消費行動が対象、そして一つの欲望に対しフリーアンサーが今では2000件くらいずつ蓄積されているのですが、その中から100~200ほどお渡ししました。それでもすごいボリュームなので、読み込むのはたぶんめっちゃ大変だったと思います(笑)。
    ※DDDが定期的に実施している「心が動く消費調査」の調査データ。消費者がどのような消費によって心が動かされたのかをフリーアンサー回答で広く収集したもの

    武井:そうですね、メンバーもヒーヒー言いながら読み込んでいました(笑)。でもそれが本当に面白くて! 消費行動の結果を見るだけでなく、その前後にどんな感情の動きがあるのか、どんなことによって心が動いたのかを考えることで、お客様の見え方がまるで違ってくるんだなあと実感しました。

    モノ起点・ニーズ起点の発想から、グイっと欲望基点へと視点をシフトさせるために、この宿題が非常に重要になるんですね。

    千葉:その通りです。同じジャンルの消費行動ではなく、同じ欲望を満たされた全く違うジャンルの消費行動も含めてじっくり読み込む、というのが非常に重要だと考えています。今回は中央軒煎餅のみなさんがフリーアンサーを深く読み込んできてくださったので、その後のアイデア発想ワークショップがすごくスムーズに進みました。

    そのアイデア発想ワークショップについても教えていただきたいのですが、どういったメンバーでどのように行われたのですか?

    武井:普段商品開発を担当している商品部の企画、販促以外にも、製造、営業、販売すべての部署からメンバーを選定し、合計12名が参加しました。毎年社内で実施している「働きがいのある会社アンケート」で「商品開発に参加したい」という要望も多くあがっていましたし、全社で目標を共有して協業できる組織になりたいとの願いもあったので、全社プロジェクトとして取り組むことにしたのです

    千葉:「せっかくならいつもと違う環境で」とメンバー全員で電通本社にお越しくださって、そこにDDDのメンバーも加わり、4つのチームに分かれてワークショップが始まりました。まずは宿題の中から気になったフリーアンサーを出し合い、共通するキーワード(=「欲望ハッシュタグ」)を探していきます。それが見つかったら、ハッシュタグから発想を広げ、ターゲットや具体的な商品アイデアへと落とし込んでいく。最後にそれをアイデアシートにまとめて発表しあい、投票まで行う、そんな盛りだくさんの1日でした。

    武井:最初は弊社のメンバーは緊張していたと思いますが、DDDの皆さんが緊張をほぐしながら進行してくださったおかげで、終始明るく楽しい雰囲気で取り組めました。朝の10時から始まってから終了するまで、笑顔が絶えない一日でしたね。

    ⇒“欲望基点”の「心が動く新商品開発プログラム」について詳しくはこちらから

    1日で49個ものアイデアが誕生! 発想の鍵は、“根拠ある妄想”

    ワークショップでは、なんと1日で49個もの新商品アイデアが発案されたとお聞きしました。これは普段の商品開発と比べてどうでしたか?

    武井:これまでは1回の商品企画で10個ほどアイデアが出れば多いほうなので、比べ物にならないアイデア数でした。でも数以上に驚いたのは、アイデアの広がりやブレークスルーです。製造上の制約などはいったん度外視し、すべての判断軸を「できるかどうか」ではなく「心が動くかどうか」にしたからこそ、これだけ発想が広がったのだと思います。

    最終的に採用されたのは、おかきをソースにディップしていただくという新発想の「ディップするおかき」。「本当はダメだけど、だって欲望」や「無理のない自由への欲望」に着目し、“意外性のある新しい体験を一人でも気軽に楽しめる”というコンセプトの商品が誕生しました。選定理由は何だったのでしょうか。

    武井:最終的な決め手となったのは、私たちがつくる「おかきの本質的なおいしさ」を、ディップすることによって再発見していただけると考えたからです。これはDDDチームの方から「おかきそのものがとても美味しいので、プラスαの価値を加えることでそれを更に高めることができるのでは?」とアドバイスいただいて、確かにと納得しました。ディップするという体験型の商品は記憶にも残りますし、おかきとソースとの組み合わせを変えて季節ごとに発売するなどのアイデアも展開しやすく、リピーターやロイヤルカスタマーの獲得にもつながると考えました。

    でもこれ以外にも斬新なアイデアが本当にたくさんあって、嚙んだ時の音の高さを楽しむ煎餅や、作家に絵を描いてもらうアート煎餅などのアイデアが個人的には印象に残っています。全国47都道府県のお醤油を使ったおかきなど、最後まで迷ったアイデアもありましたね。

    千葉:今回出た49個のアイデアの中には、過去に検討したものと似たようなアイデアもあっただろうとは思うんです。でも、そこに至る経緯として、その商品を通じてお客様にどんな気持ちになって欲しいのかという心の動きをきちんと考えられたことがすごく大事だと思います。

    商品開発って発想と根拠の両方が必要です。ただロジックだけで作っても面白いものは生まれません。その意味で今回は、DDDが研究や調査データから導いた欲望をヒントにすることで、「根拠ある妄想」が広げられたのかなと。この「根拠ある妄想」こそ、新商品開発において本当に重要なものだと僕自身も今回改めて再確認しました。

    ⇒“欲望基点”の「心が動く新商品開発プログラム」について詳しくはこちらから

    アイデア発想を楽しむことが、その後のプロセスを駆け抜ける原動力になる

    DDDの支援はここで終わらず、その後の具体的な商品化や販売方法についても伴走されていますね。

    千葉:プログラムはアイデアのブラッシュアップまでで一旦終了しましたが、その後武井さんからご依頼いただいて、引き続きマーケティングなどもご支援させていただくことになりました。僕が最初に「違和感をつくってフックを持たせたかった」という話をしましたが、店頭でどんな伝え方をすればお客様に気に留めてもらえるのか、心が動くのか、実際の店舗スタッフの方々にヒアリングしながらパッケージやキャッチコピー、販売方法を一緒に検討させていただきました

    その中でつくづく実感したのは、中央軒煎餅様は「心が動く新商品開発」をご一緒する以前から、十分お客様に寄り添い、心の動きを大切にされてきた企業だということ。実際にお客様満足度もとても高いんですよ。もともとそうした哲学をお持ちだからこそ、僕たちの「心が動く新商品開発」のメソッドがマッチしたのだと思います。

    武井:ありがとうございます。実は私たちは2020年より「ものづくりのメーカーから笑顔づくりのクリエイター・チームへ」というビジョンを掲げておりまして、企業としてビジョンの体現を目指してきたという背景があります。今回の“モノ起点ではない欲望基点の商品開発”はまさにこのビジョンと直結していますから、新商品開発によって笑顔づくりが具現化できる、そんな感覚を参加したメンバー全員が持てたと思います。


    左から DENTSU DESIRE DESIGN 立木学之、福井常晶、中央軒煎餅 北岡睦紀氏、西村洋子氏、佐藤靖子氏

    ちなみに面白いアイデアが出たものの、その後の商品化でつまずくケースも多々あるかと思います。商品化はスムーズに進みましたか?

    武井:ディップ用ソースを開発するのはまったく初めてのことでしたし、おかきとソースのマリアージュの完成度を高めること、年5回の限定発売という超スピード開発……と苦労は尽きませんでした。でも全部署のメンバーがワークショップに参加したからこそ、認識や思いを共有することができ、困難も乗り越えながら商品化が実現できたと思っています。

    千葉:完成した商品を試食させていただく機会があったのですが、なんか本当に感動しましたね。まず想像以上に美味しくて、試食なのにみんなディップしまくりで(笑)。僕はそれまで全然知らなかったんですが、おかきって1日でポンっとできるわけでなく、一度試作品を作るのに1週間から10日ほどかかるんです。しかも硬さや割れ加減、表面にひびがどれぐらい入っているかによって、表面に付ける味の入り方や、ソースとの相性も変わってくる。その開発の細かさや大変さを改めて目の当たりにして、「商品開発ってここまでやるんだよな」とわかっていたことを改めて実感するというか……。試作している皆さんを想像して、自分の心も動きまくっちゃいました(笑)。

    なるほど。「心が動く新商品開発」には、お客様の心が動くだけでなく、作り手の心が動くという意味もあるんですね。 それでは最後に、プロジェクトを振り返って一言ずつお願いします。

    武井:100年間おかきをつくり続けてきた私たちですが、おかきにまだまだ無限の可能性があると思えたことは、今回の一番大きな発見かもしれません。長く続いている企業こそ、自分たちの限界を知らず知らずのうちに自分たちで決めてしまうことがあると思います。そんな時こそ、今回の「モノ起点」から「心が動く」へのシフトのように、少し視点を変えてみることが大事なのではないでしょうか。私たちにも実現させたいアイデアがまだまだたくさんありますので、これからも人の感情に目を向けた商品開発を継続していきたいと思います。

    千葉:このプロセス全体を通して、僕らDDDチームも楽しかったですし、参加された中央軒煎餅のみなさんもすごく楽しそうで、僕は何よりそれが一番大事だったのかもと実は思っています。商品開発全体におけるモチベーションを考えたとき、アイデア発想は全体のほんの一部分なんです。だからこそ、「アイデアを考える時間がすごく楽しかったよね」という共通の思い出が、その後を駆け抜ける大きなエネルギーになる。だからそうした「楽しさ」をご提供していくことを、今後もDDDでは大事にしたいなと思いました。

    みなさんが開発を楽しんでいる様子がとても伝わってきましたし、今後もきっといろんな新商品が出てくるだろうと楽しみになりました! 本日はどうもありがとうございました。

    ディップするおかき特設ページ|中央軒煎餅公式通販

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