
ビジネス環境の変化に合わせて、多くの企業が、事業や商品・サービスの提供領域を拡げています。領域が拡大するにつれて、顧客との接点は増え、様々な体験を顧客に提供できるようになりました。さらに、企業はそこから得られるデータを活用し、事業活動をさらに活発化させています。こうした動きは企業のCRM戦略にどのような影響を与えるのでしょうか。その答えは「顧客接点の統合マネジメント」にあります。
このブログでは、経営や事業推進を担う皆さまに、顧客との関係性をどうマネジメントすべきか、これからのCRM戦略をどのように捉えるべきかについて、シリーズでお伝えします。
第1回は、「顧客接点を全社視点でマネジメントしていく」ことの大切さと、ビジネスの変化に合わせて企業のCRMをリデザインしていく必要性について、電通の小野がご紹介します。
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「多様化する顧客体験」 が、事業成長の阻害要因に?
顧客体験を適切にマネジメントできていますか?
近年、企業と顧客との接点はかつてないほど多様化しています。例えば、広告、販売、カスタマーサポート、アフターサービスなど…。顧客は日々、さまざまな場面で企業と接触していますが、多くの企業において、それらを統合的にマネジメントできていないケースが増えています。顧客に接する部門ごとに部分最適が進む一方で、全体としての顧客体験はバラバラ。その結果として、顧客がブランドに感じる価値自体が希釈化され、顧客満足度やロイヤルティの低下につながるという問題が生じています。
例えば自動車会社各社では、新しいサービスや技術を通じて、様々な顧客接点で顧客への価値提供を強化し、競争力を高める取り組みが行われています。デジタル広告や店頭試乗、アフターサービスや関連品購入、あるいはカーシェアやマルチモーダルなど・・・。サービスを担う各部門が、顧客体験の個別最適化を図る中で部門最適を優先すると、部門間の連携が複雑化し、顧客への価値提供に向けた全体意思決定のスピード低下を招くことになります。
顧客体験全体のマネジメント不在が成長を阻む
こうした事態に陥ってしまう大きな要因は「提供するサービスの高度化に伴う部門のサイロ化」です。企業は外部のソリューションを利用しながら、取得した自社の様々なデータを活用することで、より顧客のニーズにフィットしたサービスを提供できるようになりました。しかしその分、それぞれの部門が異なる指標・システムを用いるなど、独自の最適化を進めがちになり、担当部門間の連携が難しくなる場面が生じています。
この傾向は社内だけではなくグループ会社やパートナーまで、ステークホルダーが大きくなればなるほど顕著になります。結果として顧客は、一貫性のないブランド体験にさらされます。これによりLTV(顧客生涯価値)の成長を阻み、ひいては事業成長のブレーキとなるのです。

部門最適化がさらに進んでしまう背景
「特化型AI」は、分断をさらに強める
近年導入が進むAIツールは生産性向上に寄与する一方で、部署ごとの分断をさらに強める傾向があります。営業支援AI、マーケティングAI、人事AI、財務・会計AI、セキュリティAI、研究開発AI…など。これらの「特化型AI」は部門単位の業務改善に貢献する反面、各部門に閉じた運用が進み、全体最適から遠のくリスクを孕んでいます。
AIは社内のあらゆる業務において救世主となりえる一方で、同時に「分断の深化」という副作用も生んでしまいかねません。

多様な業種で生じている、事業やマーケティング上の問題
このような「分断」は、業界を問わず、多くの企業のお悩みの声として聞こえてきます。
「事業部門と技術部門の戦略が分断し、モノ売りから抜け出せない」(自動車会社CMO)
「グループ会社間の連携が取れず、機会損失や重複投資が発生している」(通信会社幹部)
「事業部ごとに進めているDXがサイロ化し、顧客データ活用のシナジーが生まれない」(エネルギー会社CDO)
「顧客接点がバラバラで、全社で管理する仕組みが必要」(不動産会社執行役員)
いまや業界を問わず、事業・組織・システムをつなぐ「全体最適の視点」が、持続的な事業成長のカギとなっているのです。
旧来の顧客体験アプローチのアップデートが求められている
これまでのCRM(Customer Relationship Management)の考え方は、企業側ではなく顧客の立場に立って(顧客の行動、特に購買行動に注目して)長期的な視点で関係を構築していくのが主流でした。しかし企業から見える顧客像や接点も多面的・高度になり、取りうる戦術も無数に考えられる昨今、従来のCRMでは十分な顧客体験のマネジメントは難しくなってきているのではないでしょうか。これからは顧客接点を全社的に統合管理し、データを軸に一貫した体験を設計する「新しいCRM」の再定義が求められているのです。
CRMを変革のエンジンと捉える ― 新しい経営アジェンダ「Biz CRM」
「Biz CRM」=顧客接点の統合マネジメント
繰り返しになりますが、サービス領域が拡大し顧客接点が多様化する中で、LTVを高める体験を提供し続けるには、「顧客接点を統合的にマネジメントすること」が必要です。顧客接点を束ね、組織横断の意思決定と事業成長を支えること。これこそが、これからのCRMが果たすべき役割であり、CRMは経営アジェンダそのものです。私たちは今までとは異なるこのようなCRMアプローチを「Biz CRM」と名付けています。
「Biz CRM」=企業変革のエンジン
「Biz CRM」の実行には、顧客体験を設計するクリエイティビティ、接点を動かすテクノロジー、経営と現場を結びつけるコンサルティングを掛け合わせることが必要になります。
例えば、ある大手小売企業では、同じ商品であってもグループ各社のECサイトで画像や商品説明、表記ルールが異なり、顧客体験の一貫性が損なわれていました。これによりブランド認知にも差が生じ、顧客からの信頼低下を招いていたのです。そこでデータ利活用ルールの整備や商品情報の統一化を通じて、顧客接点全体を横断的にマネジメントする仕組みを構築。クリエイティブの観点から商品表現を統一し、情報管理の効率化を図った上で、運用プロセスを再設計しました。
部門や企業の枠を超えて、顧客体験を横断的にマネジメントする。それによって企業変革を実現する。この取り組みこそ「Biz CRM」のアプローチの好例と言えます。
電通のソリューション「Biz CRM For Growth」
「Biz CRM For Growth」とは
電通は、国内電通グループの3社(電通デジタル、電通コンサルティング、電通総研)とともに、電通グループならではのクリエイティビティと、先端テクノロジーの力、実行まで責任を持つ伴走型コンサルティングサービスを掛け合わせ、課題発見から実施・検証までをご一緒するBiz CRMソリューションをご提供しています。それが「Biz CRM For Growth」です。

「あるべき未来を描き」「顧客を動かす」マーケティングをデザインしてきた電通ならではのクリエイティビティと、電通グループ各社やパートナー企業が有する先端テクノロジーの力を掛け合わせ、企業経営に中長期的な収益をもたらすCRM戦略をリデザインします。そして課題発見から解決策の実施・検証まで伴走し、真のトータル・コンサルティングをご提供します。
電通グループの総合力を活かしたワンストップ提供体制
Biz CRM For Growthチームは、マーケティング、クリエイティブ、テクノロジー、コンサルティングのスペシャリストによって組成されています。企業の抱える課題に応じてスペシャリストと企業の各部門をつなぐ統合ディレクターを配置し、チームを編成することで、外部パートナーや既存ベンダーとの協業など柔軟な体制を築ける点が強みとなっています。
変革を牽引するプロジェクトマネジメント
「Biz CRM」のプロセスを推進するには、様々なステークホルダーとの調整を図り遂行するプロジェクトマネジメントが重要です。
従来のプロジェクトマネジメントは、効率的な完遂を目的とし、進捗やリスクを管理する“守り”のアプローチが中心でした。しかし事業環境が複雑化する今、求められているのは変革を推進するための“攻め”のマネジメントです。
電通の「Biz CRM For Growth」では、事業・組織横断の変革をゴールに据え、データを活用した意思決定や経営層と現場の橋渡しを支援。プロジェクトを単なる管理対象ではなく、変革を生み出す推進装置として捉え、主体的かつプロアクティブに進める新しいプロジェクトマネジメントを実現します。

先に述べた「AIによる分断の深化」も解決のポイントはテクノロジーではなくマネジメントの高度化にあります。どの領域でAIを活かすか、その優先順位や適用範囲を経営レベルで明確にし、組織横断で推進することが不可欠です。電通の「Biz CRM For Growth」の強みはここにあります。
課題に合わせて、多岐にわたるサービスをご提供
「Biz CRM For Growth」は、企業の課題や変革フェーズに応じて多様なサービスを提供します。
✓ 顧客管理基盤の再設計(全社横断のCRM基盤構築)
✓ マーケティングオートメーション導入・運用(メール・Web・SNS・アプリの一元管理)
✓ 顧客分析・セグメント設計(購買履歴や行動データを活用した精緻なターゲティング)
✓ 営業・販売プロセス支援(提案精度向上・効率化)
✓ LTV最大化のためのカスタマージャーニー設計(長期的な顧客関係の構築)
✓ AIによる業務効率化(AI活用をゴールにしない全体設計)
これらを統合的に組み合わせ、顧客体験の質向上と事業成果を両立させます。
CRMをエンジンにした変革の事例 (電通グループのご支援事例)
ある大手通信事業会社では、モバイルペイメントサービス市場で競合が乱立する中、ユーザー数の減少に直面。ポイント事業とのシナジーも縦割り組織の影響で発揮できず、改善の必要性は社内でも感じていましたが、リソース不足/スキル不足/組織権限などの要因により、対応を行えていませんでした。
そこで数百万ユーザーのビッグデータを分析し、事業構造を可視化。ポイント事業と連動する顧客管理モデルを開発し、組織を横断した連携を推進。さらに自走可能なPDCAフレームを導入し、データドリブンな文化を浸透させました。
1年でユーザー数を数百万規模で増加させ、ペイメントユーザーから得たナレッジを加盟店支援にも拡張させることで収益拡大に大きく寄与。Biz CRM型アプローチの実践により組織の壁を越え事業を成長させることができました。

顧客接点の多様化が進む今、企業成長のカギは「分断を超えた統合マネジメント」にあります。CRMを単なるツールではなく、事業変革を支えるメソッドとして再定義し、全社で顧客体験を設計・運用することが求められています。
電通の「Biz CRM For Growth」は、その実現をクリエイティブ・テクノロジー・コンサルティングの力で支援。複雑化する顧客体験を整理し、企業が持続的に成長するための“変革の推進力”となります。ご興味のある方は、ぜひ無料ダウンロード資料をご覧ください。
次回はBiz CRM For Growth参画会社である電通総研の岡部より、設計・開発・運用の3つの観点から、顧客体験価値の再構築の重要性を事例とともにお伝えします。ぜひ引き続き、第2回ブログをご覧ください。



