今日のマーケティングの重要課題である「需要創出」において、大きな役割を果たすと注目されているのが消費者の「欲望(Desire)」。電通の消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN」は、マーケティングリサーチ企業の電通マクロミルインサイト(DMI)との共催で「脱デモグラ時代のマーケティングを欲望の観点から考える」と題したウェビナーを開催しました。
ウェビナーでは2024年11月に実施した最新の「心が動く消費調査」や、消費の好循環メカニズムに関する詳しい分析結果を解説。さらに「欲望分析」「広告配信」「クリエイティブ制作」「効果検証」を一気通貫で行える「DESIRE Targeting」を通して、潜在層の心にターゲティングして需要を創造する「欲望観点でのマーケティング」のアプローチについて解説しました。
本ブログでは、ウェビナーの講演内容を再構成して、エッセンスをお届けします。
INDEX
私たちDENTSU DESIRE DESIGN(以下DDD)は、消費者の行動の奥に潜む心理的ドライバーである「欲望(Desire)」に着目して設立された社内横断の組織です。消費環境が複雑化・多様化し、価値観が変化する中で、顕在化した行動や意識を追いかけるだけでは、消費者の心を動かす確信を持つことが難しくなっている、という問題意識のもと、2020年に設立されました。
DDDでは、テンションが上がったり、感動したりした買い物や体験を「心が動く消費」と定義し、「心が動く消費」の背景に人々がどのような「欲望(Desire)」を持ち、それが人々の消費行動に影響を与え、次の消費にいかにつながっていくかを研究しています。
年に2回実施する「心が動く消費調査」などを通じて、ニーズの一歩手前にある消費者の本当の「ほしい/したい気持ち」=「欲望」を解き明かし、新しいマーケティング手法やソリューションメニューをご提供しています。
“欲望”基点のマーケティング支援サービス「DENTSU DESIRE DESIGN」ソリューションページ
まず最初に、DDDの活動の背骨とも言える消費のメカニズムを表すモデルをご紹介します。
「欲望行動モデル」と名付けたこのモデルは、消費者のニーズやウォンツが生まれる起点が「欲望」にあるという視点に立っています。そして、最終的に消費者が欲望を満たすための行為として「消費」を捉えています。消費の基点となる欲望は、人間の普遍的な欲求としての「根源的欲求」と、時代における「価値観基盤」の掛け算で捉えています。
DDDでは、このモデルをもとに「心が動く消費調査」を定期的に実施。そこで収集された調査データをもとに消費のドライバーとなる「11の欲望」を抽出しています。
▼2024年版の「11の欲望」については以下から
DENTSU DESIRE DESIGN、人間の消費行動に影響を与える「11の欲望」2024年版を発表 - News(ニュース) - 電通ウェブサイト
では、具体的にどのような欲望が「心が動く消費」を喚起しているか、また「心が動く消費」と商材カテゴリーがどんな関係にあるのかを、最新の調査結果からご紹介します。
11の欲望の中で、現在最も多く見られた欲望は「自由&安楽」の52%です。「遊興&解放」が約43%でこれに続いています。現代では「自分らしく自由でいたい」「たまには自分を甘やかしたい」といった欲望を満たすための消費が、消費者の心を動かしやすい傾向が現れていると言えます。他には、「健康&平穏」や「探求&創造」が3割を超えています。
また、心が動いた商材のカテゴリーを見ると、「外食」「衣料品」「映画」「旅行」「レジャー」などが上位を占めています。下図の★印は「コト(寄り)消費」であることを示していますが、Top5のうち4つまでがコト(寄り)の商材となっています。モノよりコトが、心を動かす消費の中心となっているようです。
さらに、「11の欲望」と「心が動いた消費が起きた商材カテゴリー」との関連を分析してみると、商材ごとに固有の欲望と強い結びつきがあることがわかってきました。
例えば、服飾雑貨や靴/スニーカー、化粧品/美容用品などは、「承認&優越」だけでなく「保身&安全」との結びつきも強いようです。人から認められたい、というだけでなく、周囲から浮きたくない、という欲望が潜在している様子がうかがえます。
つまり、消費者の心を動かすためには、顕在化しているニーズやウォンツを満たすだけでなく、その背景にある欲望、特に商材カテゴリーと結びつく固有の欲望を意識することも重要であると言えそうです。
「心が動く消費調査」は今回で9回目になりますが、調査を重ねる中で、ひとつの消費体験が次の新たな消費を生み出す「消費の好循環」とも呼ぶべき構造が見えてきました。
「消費の好循環」とは、何らかの欲望が刺激されて消費が行われると、それがさらに次の欲望を刺激して新たな消費につながるループを指しています。良い消費体験が、次の良い消費体験を生み出す力になり、それが継続するわけです。その意味で、消費の好循環は、消費者の生活に潤いを与える、ウェルビーイングな状態を生み出す原動力にもなりえると言えるでしょう。
具体的に見てみましょう。
最新の第9回調査では、「この1カ月の間に良い気分・気持ちが得られた買い物や消費体験があった」とする「心が動く消費あり」の人の割合は83.4%となり、調査開始以来おおむね8割半ばの数字で推移しています。
一方で「心が動いた消費体験をきっかけに、新たにやりたいことや欲しいモノが出てきた」とする「消費の好循環あり」の人の割合は52.5%に上りました。「消費の好循環あり」の割合が5割を超えるのは、調査を開始してから初めてのことです。
消費の好循環とは、マーケティングやブランディングにとってどのような意味を持つのでしょうか。
消費者が良い消費体験をすると、その経験がさらに欲望を刺激し、次の消費へと繋がるというメカニズムは、消費者と企業の間に良好で持続可能な関係性を築き、ブランドロイヤルティを高める上で重要な概念です。
近年、企業の関心は、顧客との一回限りの関係ではなく、生涯にわたる関係性を構築し、ライフタイムバリューを高めることに軸足を移していますが、そのためには、継続的にブランドロイヤルティを高め、新しい需要を喚起していくことが必要になります。
消費の好循環はまさにその要請に応え、次の需要を創造するために欠かせない観点と言えるでしょう。
DDDでは、発足の当初から「消費行動においては、性別、年齢、年収などのデモグラフィック特性よりも、むしろ欲望の方が強く影響するのではないか」という仮説を持っていましたが、2021年からの調査を経て、欲望が消費行動に与える影響が、デモグラフィック要素よりも大きいことが定量的に明らかになりました。
そこからさらに、共分散構造分析によって、欲望の因子と消費意欲の変化の関係性を明らかにし、消費の好循環構造を可視化しました。
最新の調査分析から浮かび上がってきたのは「社会貢献&保守」と「収集&没頭」という欲望です。この2つが、現代において消費の好循環を促す主要な因子であることが明らかになりました。
「社会貢献&保守」というのは、「誰かの役に立ちたい、世の中の大切なものを守りたい」という欲望であり、「収集&没頭」は、好きなものを集めたい、好きなことに没頭したいという欲望です。これらの欲望が、モノ消費、コト消費、コンテンツ消費といった消費行動を生み出し、さらに消費後の生活に「熱意の広がり」や「興味関心の広がり」「実生活の広がり」といった変化をもたらすことが明らかになっています。
これらの因子は、消費行動によって生じる心理的、社会的な変化を表しており、更なる消費意欲を高める要因となっています。その結果、「新たにやりたいことや、新しいものへの意欲が湧いてきた」「同じ商品・サービス、またはブランドや企業の同じタイプの商品・サービスを購入したいと思った(購入した)」など、新たな消費への意欲を生み出しているのです。
消費者は、良い消費体験を通じて新たな興味や関心、熱意を得て、それが次の消費行動へと繋がると考えられます。また、同じ商品やサービス、ブランドを繰り返し購入したいというロイヤルティの向上も、消費の好循環を促進する要素となっています。
近年では、急速に発展したデジタルによるターゲティングによって、興味や関心をすでに持つ顕在層へのアプローチが強化されてきました。しかし、顕在化したニーズを刈り取ってしまうとアプローチの効率は低下しますし、デジタルではその先にいる潜在層を発見することが難しいという状況が生じていました。そのため、「需要創出」がマーケティングの重要課題となっており、顕在化したニーズの先を見据えた戦略が求められるようになっています。
「欲望」という切り口は、こうした課題に応えることを可能にします。デジタルマーケティングにおける欲望を切り口にしたターゲットへのアプローチを模索したのが、「DESIRE Targeting」です。これまでデモグラフィックの属性データとデジタルの行動データの二つを使ってターゲティングしていたのに対して、「心」=「欲望」という第三の軸を加えて潜在層を探り出し、需要創造につなげていくソリューションを構築しました。
「DESIRE Targeting」は、電通が保有する欲望に関する調査データとLINEヤフー社のデータを掛け合わせることで、消費者の欲望分析を行います。それに基づいて「広告配信」「クリエイティブ制作」「PDCA検証」を一気通貫で行うソリューションを提供します。欲望という第三の軸を加えることで、より精度の高いターゲティングを実現し、広告の効果を最大化することを目指しています。
この「DESIRE Targeting」のエンジンともいえる分析基盤が、LINEヤフー社と電通の共同プロジェクト「HAKONIWA」です。「HAKONIWA」は、Yahoo!JAPANの約5,400万人のアクティブユーザーのデータと電通の保有するデータを突合することで構成された分析環境です。
大規模なIDデータや検索キーワード、購買データなどを活用することで、より解像度の高いペルソナを描出することが可能になりました。11の欲望データとヤフーのデータを掛け合わせて、ヤフーユーザーがどんな欲望を持っているかを再現することができるようになっています。「HAKONIWA」では、こうした分析をもとに、ヤフー広告・ディスプレイ広告に接続し、配信を行うことが可能です。
「DESIRE Targeting」では、消費者の購入意向があるカテゴリーと欲望を掛け合わせてマッピングし、「11の欲望」と商品カテゴリーとの関係性を可視化することができます。これによって、特定の商品カテゴリーにアプローチする場合に、どの欲望を持つ層に訴求すればよいかが一目で見て取ることができます。
例えば、スポーツドリンク。スポーツドリンクは「11の欲望」の中で、実は「繋がり&共感」と関連性が強いことが分かります。従来のスポーツドリンクは喉の渇きを癒すような機能性に着目されがちでしたが、実際にはスポーツを通じたチームワークや貢献といった気持ちも重要であることが示唆されます。
また、ヨーグルトの場合は健康商材と思われがちですが、「愛情」との関連性が高いことが分かります。家族の健康を願う気持ちが購入動機に繋がっていることが考えられます。
こうしたマッピング分析をおこなうことで、ターゲット層が持つ欲望に合わせたメッセージやクリエイティブを作成し、より効果的な広告配信が可能になります。
また、広告の配信に関して、「11の欲望」とLINEヤフーの多様なデータを活用して、 LINEヤフーユーザーの「欲望」を予測する機械学習モデルを構築しました。これによって、需要創出の根源となる「欲望」基点のセグメントを作成し、ヤフー広告でアプローチすることが可能になっています。
欲望分析により、該当商品と親和性がある「欲望」を特定し、その「欲望」を持つLINEヤフーユーザーを予測。該当商品/商材特有のデモグラフィックや興味・関心 データを加味しながら独自のセグメントを作成し、ヤフー広告で配信を行います。
さらに、配信だけでなく、欲望を加味したメッセージやクリエイティブ作成も行い、検証までを一気通貫で行う体制を構築しています。
広告配信に必要なクリエイティブ素材については、DDD専属のクリエイターが、欲望、デモグラ、興味・関心データに基づいて、消費者の「欲望」にアプローチするクリエイティブを制作。将来的には生成AIを導入していくことも検討しています。さらに効果検証に関しては、「HAKONIWA」分析で生成したセグメントで広告配信を行い需要創出に寄与したかを 「広告を見た後の指名検索リフト」をKPIに設定して計測することを考えています。
「DESIRE Targeting」のエンジンともいえる分析基盤「HAKONIWA」を使った消費者調査のしくみ「HAKONIWAリサーチ」は、ヤフーのデータと連携可能なマクロミルモニターに対して行う調査です。マクロミルモニターから得られるアンケートデータと、ヤフーユーザーの検索行動や購買行動などの実行動データを組み合わせた分析が可能になっています。
「HAKONIWAリサーチ」は、「HAKONIWA」の分析環境で消費者の意識と行動を統合的に分析することで、購買行動の背景にある要因や、ロイヤルティ形成のメカニズムなどを明らかにすることができます。過去の行動データに基づいてターゲットに近いユーザーを抽出し、クリエイティブテストを行うなど、様々な分析に応用することが可能になっています。
その他にも、ヤフーデータとマクロミルインサイトのアンケートデータの特徴を活かして、ユーザーやターゲットの行動と意識の相関の検証や、ユーザーのより深い理解を実現することが可能です。例えば、特定の属性の企業で働いている人のデモ特性や心理的な傾向を深掘りしたり、それを世間一般の意識と比較することで、中間的なKPIを設定したり、といったイメージです。
今回のウェビナーでは、「欲望」を基点にした「心が動く消費」の現在と、次の新たな消費体験を生み出す「消費の好循環」のメカニズムについてご紹介しました。消費者との生涯にわたる関係性を構築し、継続的にブランドロイヤルティを高めるためには、新しい需要を喚起する施策が鍵となります。DENTSU DESIRE DESIGNは「DESIRE Targeting」以外にも「心が動く消費調査」や「新商品開発プログラム」などのソリューションをご用意しております。自社の製品で「消費の好循環」を生み出すためのヒントを得たいという方はぜひ一度お問い合わせください。