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サーキュラー・エコノミーを「稼げる事業」に変える統合戦略 〜BtoCとBtoBの連携による事業性と社会貢献性の両立〜

作成者: D-sol|Sep 12, 2025 1:00:00 AM

サーキュラー・エコノミーへの社会的関心が高まる中、「取り組みがうまく前に進まない」とお悩みの企業が増えています。この記事では、サーキュラー・エコノミーにおけるBtoCとBtoBでの戦略の違いを明らかにし、「事業性」と「社会貢献性」の両立のカギとアプローチの方法を、電通グループにおけるサーキュラー・エコノミーの専門家である電通ライブ 堀田が解説します。

※この記事は、月刊JAA8月号掲載記事より編集・再構成しています。

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INDEX

サーキュラー・エコノミーへの期待と現実

高まるサーキュラー・エコノミーへの期待

日本のサーキュラー・エコノミー市場は、2030年には約80兆円、2050年には120兆円規模に拡大すると予測されています(※)。2024年8月には「第五次循環型社会形成推進基本計画」が閣議決定され、GX投資促進政策として10年間で150兆円規模の官民投資を呼び込む方針も示されました。
※出典:経済産業省HP

政府は2050年カーボンニュートラル実現に向けて、廃棄物の削減と資源循環の促進を重要な柱として位置づけており、企業には循環型ビジネスモデルの構築が強く求められています。

また、EU諸国をはじめとする国際的な循環経済政策の進展により、日本企業の海外展開においても、サーキュラー・エコノミーへの対応が競争力の重要な要素となっています。

「事業性」と「社会貢献性」の両立という根本課題

このような追い風にもかかわらず、多くの日本企業が「サーキュラー・エコノミーに積極的に取り組みたいが、なかなか前に進まない」という課題に直面しているのはなぜでしょうか。

その根本原因は、「事業性」と「社会貢献性」の両立ができないというジレンマにあります。「社会に良いことはしているが、ビジネスに寄与できていない」。つまりサーキュラー・エコノミーを重要なビジネス活動として位置づけてはいるものの、収益性や競争優位性に結びつけることができていないのです。

その背景には、「企業側」と「生活者側」それぞれの課題があります。

企業側
企業側には、循環型製品の開発や製造のコストが従来品を上回り、それを商品価格に転嫁せざるを得ないという事情があります。加えて、企業のサステナビリティ専任部門と事業部門との連携が不十分で、結果として「事業性」への貢献が難しくなるという状況が生じがちです。

生活者側
日本国内ではサーキュラー・エコノミーに関する認知や理解の低さという「土壌の問題」があります。2024年10月に実施した電通の独自調査によれば、「サーキュラー・エコノミー」という言葉を知っている人は8.5%、その内容まで理解している人はわずか2.0%という結果でした。(図表1)

サーキュラー・エコノミーの悪循環に注意

実際、生活者が価格を優先する傾向は強く、「高くても環境に良いものを買う」層はまだ少数にとどまっています。 生活者の認知・理解不足が、循環型製品やサービスの購買行動につながらずニーズ不足を生み出し、それが企業の投資実行の優先度を下げ、技術革新の停滞を招くという悪循環を生み出しているのです。

この悪循環を断ち切るには、「生活者の意識・行動の変容」と、「企業側の取り組み」を同時に進めていく必要があります。

サーキュラー・エコノミー戦略 課題解決の糸口とは

見過ごされてきた「戦略的分岐点」に着目

実は、こうした課題の背後には、これまで十分に議論されてこなかった根本的な問題が隠れています。それは、サーキュラー・エコノミーには大きく分けて2つのタイプがあり、「それぞれに異なるアプローチが必要だ」という認識が不足しているという問題です。

生活者を最終顧客とするBtoC事業では、生活者からの回収を主とする「BtoC型サーキュラー・エコノミー」が志向されます。一方、企業を顧客とするBtoB事業では、産業/企業間での連携を主とする「BtoB型サーキュラー・エコノミー」が志向されます。

この2つのサーキュラー・エコノミーでは、直面する課題はもちろん、考えるべき視点や成功のための要因なども異なります(図表2)。

この、言われてみれば当たり前だけれど「見過ごされてきた戦略の分岐点」に目を向けることこそが、課題解決の糸口となります。

「BtoC」と「BtoB」のサーキュラー・エコノミーの違いを理解することがカギ

両者の違いを正しく認識し、互いの論理や志向を理解した戦略を立てることが、サーキュラー・エコノミーを現場で実践していくうえでの重要なポイントです。なぜなら、異なるアプローチを取るBtoC型とBtoB型の両者が組むことで初めて、生活者と企業が結びついた、より包括的な資源循環システムの構築が可能になるからです。

この視点を踏まえて、次章からはまず、BtoC型とBtoB型それぞれについて、戦略の文脈と解決の糸口をみていきましょう。

「BtoC型」サーキュラー・エコノミー 戦略の文脈と成功の「鍵」

BtoC型の戦略の文脈 ~「生活者=パートナー」~

これまで企業活動といえば「作って売る」ことが主でしたが、今では「作って売って、回収して再利用する」ことまでが求められるようになってきました。これにより、製品の販売が終わった時点で企業と顧客の関係も終わるという従来の関係から、製品のライフサイクル全体を通じて、企業と顧客が継続的な関係を築くことが求められています。

そのためBtoCにおいては、購入後に回収やリサイクルといった「循環の輪」に継続して参加してくれる生活者が、重要な存在となります。これは単なる一度きりの取引関係から、長期的な共創関係へと転換することを意味し、生活者が単なる「購入者」ではなく、サーキュラー・エコノミーにおける重要な「パートナー」としての役割を担うということを意味します。

BtoC型が直面する課題 ~回収活動~

しかし、生活者から使用後の製品を回収するには、さまざまな課題があります。
まず企業側の経済的課題として、回収やリサイクルにかかるコストが非常に大きく、企業にとっての負担が大きいという現実があります。たとえば、回収拠点の設置や運営にかかる費用、物流コスト、選別や処理にかかる費用などが、回収された素材の再生価値を上回ってしまうケースが少なくありません。特に立ち上げ段階ではスケールメリットが働きにくく、コスト構造が厳しくなりがちです。

さらに事業性の面でも課題があります。たとえば、回収が次の購買につながらず、収益化できていないという問題です。どれだけ多くのコストをかけて回収活動をしても、それが新たな売上や顧客ロイヤルティの向上に結びつかないのであれば、事業としては成立しません。

生活者側にも不満があります。現在の回収活動に対して、「本当に環境貢献になっているのかわからない」「回収されたものがその後どうなっているのか見えない」といった、成果やプロセスの不透明さが大きな課題として指摘されています。

こうした不透明さは、生活者の継続的な参加意欲を低下させる原因となります。せっかく時間と労力をかけて協力しても、その成果が見えなければ「やってよかった」とは思えないからです。

BtoC型の成功の「鍵」~生活者の意識行動変容と継続動機の維持~

BtoC型サーキュラー・エコノミーを成功させるための鍵は、生活者の「心を動かすこと」にあります。参加しやすく、便利で魅力的な回収システム、よく練られたインセンティブ設計、そして環境貢献と個人のメリットが両立するような仕組みが必要です。

たとえば、「私にとって良いこと」という個人的メリット、「友人に話したくなるような体験」という共有のしやすさ、「参加すること自体の特別感」などが、参加の動機となります。基本的に生活者は環境に対する意識を持ちながらも、「面倒くさい」という気持ちも持ち合わせているため、便利で楽しく、さらに自己表現にもつながるような体験設計が求められます。

また、回収から再生までの全プロセスを「見える化」し、参加者個人がどのような成果を生み出したかを具体的に伝えることも重要です。さらに、継続的な参加を促すために、ランク制度を導入することも有効です。上位ランクの参加者には、新商品の先行体験や製造現場の見学ツアーなど、お金では買えない価値を提供することで、顧客を単なる購入者ではなく、共に価値を生み出す「共創パートナー」として関係性を深めていくことができます。

「BtoB型」サーキュラー・エコノミー 戦略の文脈と成功の「鍵」

BtoB型の戦略の文脈 ~基盤づくりと信頼関係~

一方、BtoB型サーキュラー・エコノミーにおいても、同様に取り組みが進まないという課題があります。ただし、その課題の性質はBtoC型とは異なり、資源循環システムを構築するためのパートナーを見つけ、どのように協業体制を築いていくかが大きなテーマとなっています。

というのも、ひとつの企業だけで循環を完結させることは稀であり、異業種や異産業との共生的な連携が不可欠だからです。BtoB型サーキュラー・エコノミーの成功の鍵は、産業全体のスケールで安定した量と質の資源循環を実現する基盤づくりと、長期的な信頼関係にあります。

BtoB型が直面する課題 ~制度的・文化的障壁~

日本は、世界でも類を見ないほどの産業集積と高い技術力を持っており、産業共生による大規模な資源循環システムを構築できる可能性を大いに秘めています。

しかし、これまで日本において資源循環の基盤づくりや長期的な信頼関係を実現しにくい面がありました。その背景には、従来の業界ごとの縦割り構造や、異業種間の連携を妨げる制度的・文化的な障壁の存在があります。

BtoB型の成功の「鍵」 ~産業共生~

この課題に対する解決策のひとつが、「産業共生(Industrial Symbiosis)」です。これは、地理的に近接した異業種の企業や産業が、互いに資源やサービスを共有・再利用し合い、経済的にも環境的にもWin-Winの関係を築くという考え方です。

たとえば、廃棄物や副産物、エネルギー、水などを異なる業種間で相互に融通し合うことで、CO2削減や環境負荷の低減を実現しつつ、経済的な利益も生み出すことができます。

この考え方の根本には、「廃棄物=資源」という発想があります。ある企業にとっては不要な副産物が、別の企業にとっては価値ある原材料となる可能性があるのです。また、輸送コストや環境負荷を最小限に抑えるために、地理的に近い企業同士の連携が基本となります。

「統合型」サーキュラー・エコノミーへ進化する ~BtoBからBtoCへ展開~

サーキュラー・エコノミーの実践において、「事業性」と「社会貢献性」の両立を実現し、真に「稼げる事業」へと変えていくためには、BtoC型とBtoB型それぞれの特性を活かしながら、2つのモデルを連携させて、両者を統合的に活用するアプローチが重要です。

どうすれば連携が進み、統合的な循環システムが構築できるでしょうか。

「取り組む順序」がカギ

統合的循環システムを構築するうえで特に重要なのは、「取り組む順序」です
まずは、BtoB型として産業共生の仕組みを整え、大規模で高品質かつ継続可能な「産業基盤」としての資源循環を確立します。そのうえで、次のステップとしてBtoC型の回収活動を組み込んで生活者も参加する「社会基盤」としての資源循環へ拡大するという段階的な実施が、最も効果的なアプローチといえます(図表3)。

この順序がカギとなる理由は、BtoB型サーキュラー・エコノミーである産業共生システムが、BtoC型の回収活動を支える収益基盤や技術的信頼性を提供するからです。もし生活者の参加意欲に依存するBtoC型から先に始めてしまうと、回収量や素材の品質が不安定であったり、コストの負担が大きくなったりすることで、事業性が成り立ちにくくなってしまいます。

持続的なWin-Winの関係に

完成形の統合型サーキュラー・エコノミーでは、デジタル技術を活用したトレーサビリティシステムによって、「循環の完全な見える化」が実現されます。これにより、BtoB型とBtoC型の両方から回収された再生素材が、BtoC製品として生活者に届けられ、生活者は自分の参加が生み出した循環の成果を具体的に体感することができます。

自社の特性を見極めて、独自のアプローチを

サーキュラー・エコノミーを「稼げる事業」へと変えていくためには、まず「BtoC型とBtoB型では根本的に戦略が異なる」という事実を理解することが出発点となります。そのうえで、両者の特性に応じた適切なアプローチを選択し、段階的にBtoBからBtoCへと展開する「統合型サーキュラー・エコノミー」の形を採ることが、成功への近道です

この統合的なモデルは、「事業性」と「社会貢献性」の両立という大きなテーマを実現可能にするだけでなく、異業種との産業共生を通じて、新たな成長戦略を描くことも可能にします。

まずは、自社がBtoC型とBtoB型のいずれの特性により適しているのかを見極めることが大切です。そのうえで、自社に合ったアプローチを選択することで、サーキュラー・エコノミーを持続可能で収益性の高いビジネスモデルへと確実に変革していくことができ、ひいてはサーキュラー・エコノミーを「稼げる事業」に変えていくことができるのではないでしょうか。

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