事業変革を目指す企業が知っておきたいブランディングの考え方について、シリーズでお伝えしているこのブログ。第1回では、企業調査の結果から見えてきた企業の事業変革の取り組みに対する認識や実態、課題感をご紹介し、事業変革におけるブランディングの重要性についてお伝えしました。
今回は、引き続き調査結果を紐解きながら、「事業変革のためのブランディング」の具体的な中身に迫っていきます。語り手は第1回に引き続き、企業のビジネス変革支援に取り組む電通ビジネス・トランスフォーメーション局(BX局)の伊神と、電通コンサルティング執行役員・パートナーの田中です。
INDEX
「事業変革のためのブランディング」の詳細に触れる前にまず、事業変革においてブランディングが重視されている背景を確認したいと思います。そこには、複数の事業環境変化があります。
・情緒的価値による差別化の必要性
商品やサービスの機能的価値だけでは、競合との差別化が難しくなっている。
・非財務価値への注目の高まり
人財採用や投資家からの評価において、企業の財務的な業績に加えて社会貢献などの非財務価値が注目されるようになっている。
・事業の意義が消費者の選択基準に
サステナビリティやDEIなど、社会に対する企業のかかわり方への注目や、商品やサービスの同質化が進んでいることなどを背景に、事業の存在意義が生活者の選択基準のひとつになってきている。
・新たな競合環境への対応
同質化を解消するためには、生活者へどのような価値を提供しているかという視点から事業を見直すことにつながるため、新しい事業定義のもとでこれまで想定していなかった競合との差別化戦略が必要になってくる。
企業の経営者や事業推進責任者には、こうした時代に即した「事業変革のためのブランディング」が求められています。とはいえ、「自社の先行きが不安」「事業を変革したい」という危機感があっても、「未来像がわからない/描けない」、あるいは「将来の3C(自社・顧客・競合)の状況が見えない」「市場全体や業界をまたいだ他業界、社会全体の動向がわからない」と、変革を躊躇してしまいがちな方が多いのではないでしょうか。
しかし、調査結果を見ると、躊躇している場合ではないようです。今回の調査では、ビジネスが成長している企業ほど、「事業変革のためのブランディング」に取り組んでいる割合が高いという結果が出ています。一方、ビジネスが減退している企業では、事業変革のためのブランディングへの取り組みが4割弱に留まっていることも明らかになりました。
今後の市場で企業の存在感を示し事業成長につなげるには、事業変革のためのブランディングを進めていくことの重要性が示唆されています。
では、事業環境変化に対応してビジネスを成長させるために、企業はどのような展望のもとで取り組みを行っているのでしょうか。今回の調査で、対象企業のみなさまに「事業を進めていく上での課題や展望」を伺ったところ、興味深い事実が見えてきました。
企業の「事業を進めていく上での課題や展望」の上位5つは、次のような項目です。
● 顧客や社員に新しい行動を習慣化させ、確かなビジネス成長につなげたい
● 自分たちならではの新たな価値が提供できる事業を創出したい
● パーパスやMVVを活かした事業改革や、新たな事業構築を目指したい
● 周年を機に、未来に向けた事業成長の機会としたい
● 既存事業や、新たな事業の構築の必要に迫られている
先に述べた事業環境の変化を裏付けるように、企業は「自分たちならではの新たな価値が提供できる事業の創出」や「パーパスやMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)を活かした事業改革や新たな事業構築」といった課題や展望を持っています。そしてそれを「周年」のような企業にとっての節目を機に進めようとしている姿もうかがえます。
その中で特に注目されるのは、「顧客や社員に新しい行動を習慣化させ、確かなビジネス成長につなげたい」という項目がトップに挙げられている点です。事業変革において、「顧客や社員の習慣を構築する」取り組みが事業成長につながる、という捉え方が浮かび上がってきたのです。
私たちはこの「習慣化」という点に着目して、ブランディングによるビジネス成果指標(「売上の維持や強化」「市場シェアの維持や向上」「購買単価の維持」「従業員満足度の向上」など)を「顧客や社員の習慣化による成果指標」という視点から捉え直し、その成果に手ごたえを感じている層を「習慣化セグメント層」と名付けて分析してみました。すると確かにこの層は、全体に対して「事業の収益」や「事業変革の達成率」が高い傾向にあることがわかったのです。
その特徴は以下の通りです。
● 企業規模が大きい
● ブランディングに関与する部門が横断型である
● 事業変革の達成率が高い
● 事業収益が大幅に増加、あるいは増加した企業の割合が高い
事業成長に向けて「顧客や社員の習慣を構築する」取り組み=習慣構築とは何を意味しているのでしょうか。 私たちは「習慣構築」とは「事業インパクトを生み出す行動を継続させること」と捉えています。
習慣構築ができていないと、事業変革やブランディングの取り組みが一時的・短期的なものに留まってしまい、事業へ与えるインパクトは限定的になってしまいます。逆に、何らかの仕組みによって習慣構築が実現されると、その取り組みは継続的・中長期的なものになり、大きな事業インパクトにつながっていきます。
多くの企業が「顧客や社員に新しい行動を習慣化させ、確かなビジネス成長につなげたい」という展望をトップに挙げたのは、これまでのブランディングの取り組みの中で、こうした課題に直面し、これを乗り越える必要があると考えているからではないでしょうか。
成長性が高い「習慣化セグメント層」は、事業変革に向けてブランディングに取り組む際に必要なこととして、次のような点を挙げています。
● 環境分析は事実情報をまとめるだけではなく、事業成長に必要となる視点を抽出する
● 経営層や事業最高責任者などキーパーソンによる積極的なコミットを促進する
● 事業に関連する複数部署が連携した協力体制のもとでブランディングを推進する
● 論理や理性だけではなく、人間らしい感性や感情といった心理的アプローチも大切にして、経営層の想いを織り込んだブランドの魅力的な未来像を創造する
こうした結果を、私たちはどのようにとらえるべきでしょうか。
「事業変革のためのブランディング」について、これまで私たちがお会いした経営層の方々から伺ったご意見と、ここまでの調査結果を合わせて考えてみると、新たな事業戦略の策定におけるポイントは3つあると考えられます。
成長企業は、経営層のコミットを引き出して、創造的な姿勢で事業成長に必要な視点を抽出し、事業に関連した複数部署が協力して、夢のあるブランドの未来像に結びつけています。つまり、企業のDNAを踏まえつつ、未来にどのような“自社のなりわい”を築くかという観点からスタートすること、そして、顧客や組織の意識や行動を変えるような、未来の事業像と事業コンセプトを創造することの大切さが示唆されています。
成長企業は、事業コンセプトをどのように具現化していくかという際に、事業の論理だけでなくブランドの心理的なアプローチを用いて内容を定義しています。「事業変革のためのブランディング」では、事業のあり方やビジネスの進め方がどう変わるのか、さらには組織の動かし方がどう変わるかについてまで夢を持って語り、顧客や組織の意識や行動を変えるストーリーとして可視化することの大切さが示唆されています。
成長企業は、組織や顧客に向けた「事業変革のストーリー」を、気持ちが高まるブランディングの力で浸透・定着させるだけでなく、それを確かなビジネス成果にまで結びつけています。単にブランドのシンボリックなアクションのみに留まらず、事業/ブランドに対する人や組織の意識・行動を動かし、習慣化にまで至るしくみをつくり、実装する大切さが示唆されています。
つまり、「事業変革のためのブランディング」とは、事業のやり方やビジネスの進め方が変わること、さらには組織の動かし方が変わり、確かな事業成長につながっていくことまでをストーリーで可視化し、「習慣化させるしくみ」で実現する取り組みだといえます。
では、具体的に私たちは何をどう考えていけばよいのでしょうか。引き続き調査結果から探ってみましょう。
まず、ビジネス成長をしている企業とそうではない企業との間では、具体的に「ブランディング」の捉え方や取り組みの範囲が異なっています。
一般の企業が定義する“ブランディングの施策”として上位に上がるのは、「市場セグメントの設定」「ポジショニング検討」「ターゲット設定・分析」が中心です。すなわちブランディングとは、事業を行う領域やカテゴリの検討・規定を行うこと(広義のマーケティングの「STP」)だという認識が基本であり、しかも経営層にその認識が強いようです。
一方で、ビジネス成長している企業では、上記の点を踏まえつつ、「社員教育、社内研修」「既存・新規事業の強化」や「未来予測と未来トレンドを起点とした戦略検討」「DX」などをブランディングの取り組みとして捉え、コンセプトの認知・理解・共感に留まらない、組織として事業活動に直結する社内推進体制を整備しながら進めていることがわかりました。
ビジネスが成長している企業は、ブランディングを、マーケティング全般を超えた、事業の構造設計や組織施策にも及ぶものと捉えています。確かなビジネス成長につなげるには、経営層を含む組織全体で、まずブランディングが指し示す意味や領域を広く捉え直す必要があるようです。
調査を通じて、「事業変革のためのブランディング」における「ブランディング」とは、マーケティング・コミュニケーション領域に限った活動ではないこと、事業の構造設計や組織施策にも及ぶものであることが見えてきました。
とはいえ、往々にして、事業推進とブランディング活動は、担当部署が異なることもあり、戦略検討の段階でも実行の段階でも、別々なものになりがちです。取り組みが別々に進むと、「新たな方針のもとでまじめに仕事に向き合いましょう」という掛け声が組織内にいくつも飛び交い、いわゆる「浸透疲れ」が生じて、取り組みが一過性のものになりかねません。
事業戦略とブランド戦略を一貫・継続するものにしていくにはどう考えればよいでしょうか。調査結果が示唆しているのは、このブログの冒頭に示したように、「習慣化」という成果を獲得するために共に取り組む、という視点です。
事業変革とは、どのように仕事の内容が変わり、仕事のやり方が変わり、事業の在り方が変わるかを皆に示し、実現を目指す計画です。そしてブランディングは、その過程の中でファクトを発信しながらやり続ける/選び続けてもらうことを浸透・定着化させる活動です。
この計画や活動を「習慣化」という成果目標を念頭に一体として考え、事業戦略とブランド戦略の間を行ったり来たりする取り組みを通じて、事業やマーケティングの戦略の変革を一貫・持続させるモチベーションを創造することが、確かなビジネス成果につながる要諦になってくると考えられます。
しかし、企業が実際に推進する上では様々な課題もあるようです。調査において、ブランディングを推進する上で起こっている問題や課題について聞いてみると、以下の項目が上位に挙がってきました。
● 人的リソースの不足
● 成果の見えづらさ
● 必要なスキルの不足
● ブランディング/事業変革の方向性の不明瞭さ
● 進捗管理の難しさ
特に経営層においては、「ブランディング/事業変革の方向性の不明瞭さ」「進捗管理の難しさ」が課題として認識されています。事業変革のためのブランディングを、スピードを持って進めていく上で、方向性の立案や推進管理のための専門的なリソースやノウハウが、自社内に不足する可能性があることが見て取れます。この点については、必要に応じて外部の専門ノウハウを活用したり、パートナーを活用して計画や進捗に伴走させるなどの柔軟な対応が有効に働く場面もありそうです。
第1〜2回にわたって調査結果を紐解きながら、事業変革とそこにおけるブランディングの重要性ややり方を深掘りしてきました。
わかってきたことは、「事業戦略とブランド戦略の両輪を回して、事業変革を進めていく」ことの意味合いです。これは、事業戦略にブランド戦略をアジャストしていくことでも、ブランド戦略に事業戦略を合わせていくことでもないのです。事業変革を起点に両者が一体となって未来を描き、新たな“なりわい”を築く事業のコンセプトと変革のストーリーをつくり、組織や顧客に定着させて、変革の一貫性や持続性を生み出していく。それが「両輪で回す」ことの意味と言えます。
そしてその際に、「習慣化」という成果指標を念頭に、事業戦略とブランド戦略両者を一体として考え、その間を行ったり来たりしながら、変革を実行するマーケティング、組織/人財、営業戦略の立案・実行へとつなげていくことが、確かなビジネス成果獲得の要諦になります。
以下に「事業変革のためのブランディング」に取り組みポイントをまとめました。ぜひご参考にしてください。
次回の第3回ブログでは、「事業変革のためのブランディング」を何からどう進めればよいか、さらに具体的な取り組み方について、電通が提供する「Branding For Growth」プログラムを例にしながらご紹介していきます。(近日リリース予定)
また、ご興味のある方は、ぜひ下記より無料のeBookもご参照ください。
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● 調査結果の詳細を知りたい方も、お気軽にお問い合わせください。