多くの日用消費財は、消費者が「すでに使っている」「商品を知っている」ことが多いため、企業にとってはリピーターの獲得が重要になります。今回の「Tポイントの大規模購買データ基点での日用消費財のデュアルファネルマーケティング」セッションでは、CCCマーケティング デジタル企画Division General Managerの小林浩輔(こばやし・こうすけ)氏と、電通 データマーケティングセンター プランナーの矢島亮(やじま・りょう)が登壇。マーケティングサービス開発に精通した2人が、CCCマーケティングがもつ膨大なデータから、どのように「わかるデータからできるデータへ」活用できるのか、実例を交えながら解説しました。
以下に、Do!Solutions編集部がセッションの内容をまとめます。
「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」概要はこちら
日用消費財のデュアルファネル実現! 「Shoppers Driven Platform」の世界
認知から購買までの新規顧客獲得のファネルと、既存顧客を育成するファネルの2つ合わせた「デュアルファネル」。新規顧客獲得のためのファネルには「認知」「興味・関心」「検討」、既存顧客育成のファネルには「リピート」「アップセル・クロスセル」「ロイヤルカスタマー化」が分類されます。
耐久消費財などでは新規顧客獲得のファネル前半が重要ですが、多くの日用消費財ブランドでは既存顧客をどうリピートさせるか、ロイヤル化させていくかというファネル後半部分が重要です。
そして、ファネル後半とはつまり顧客の購買の頻度や量などの状況になるわけですが、日用消費財はなかなかオンラインで購買を正確に把握するのは難しいというのが実情。そこで、解像度を高く購買状況をみるために欠かせないのが、Tポイントのような膨大な購買データです。
Tポイントがどれくらいの規模感を擁しているのか。その事例として紹介されたのが、「コーヒーブランドAを数ヵ月連続で買っている人をデータベース上で何UU確保できるか」という購買データです。
矢島:Tポイントのデータでは、コーヒーを12ヵ月連続で毎月1本以上飲み続けている人という条件で絞っても、5.7万UUを確保できます。Tポイントの購買データは、検証するうえで十分な規模感も持っているということが、ご理解いただけると思います。
また、TポイントはユーザーをひとつのIDで識別できるため、「いま、どのユーザーが、どのファネルにいるのか」を追うことができます。さらに、顧客をブランドやカテゴリーを超えて、顧客視点で管理できるメリットもあります。
矢島:「モノの売れ方の把握から、ヒトの状況の把握へ。」と視点を変換することで、購買データはマーケティングの実践に使えるものに変わってきています。こうした一連の「購買データ活用」の考え方と、CCCマーケティングさまと電通のデータ連携の座組をあわせて「Shoppers Driven Platform」と名付けました。
T会員7,000万人の大規模購買データを活用する「Shoppers Driven Platform」は、「ターゲットセグメントプロファイリング」、「具体的な統合コミュニケーションプラン」、「効果測定PDCA」、「顧客ID視点のクロスブランド・クロスカテゴリー」の4つで構成されています。
それぞれの領域では、従来のマーケティング手法に比べて、進化しているポイントがいくつもあります。
ターゲットセグメントプロファイリング
ターゲティングや分析の時に、デモグラや趣味嗜好というよりも、顧客のリアルな購買状況でターゲットを考えることができる。
具体的な統合コミュニケーションプラン
従来のようなテストマーケティングだけではなく、実際にデジタル上でも十分な規模の打ち手が確保できる。
効果測定PDCA
単発キャンペーンの検証だけではなく、長期間の顧客育成ができる。
顧客ID視点のクロスブランド・クロスカテゴリー
ブランド単体ではなく、クロスブランド・クロスカテゴリーの視点が加わった。
【事例1】TVCM×YDNの効果を検証。日用消費財でも活用できる外食チェーンでの活用事例
こちらは日用消費財にも活用できる、外食チェーンでの活用事例です。
実際の外食チェーン利用状況によってデュアルファネル上に振り分けたIDに対して、拡張なしでYDN(※)から配信できるのもCCCマーケティングの強みとなります。
(※)Yahoo!が実施しているディスプレイ広告(YDN)サービス。Yahoo! JAPANの各サービスサイト、および提携パートナーサイトの「コンテンツページ」に広告を掲載できるというもの。
矢島:気になるのは配信の規模感かと思いますが、ターゲットリーチがTV約7割だったのに対し、YDNでのリーチが約3割と、十分な規模が確保できています。今まで購買データからの配信は、検証用やテストマーケティング用、というイメージもあったかと思いますが、実践での効果が望める規模になってきたのです。
また、同時にテレビCMも実施し、視聴ログを取得。ひとつのIDで突き合せして、マスデジの効果検証を行いました。その結果が下記の図です。
縦軸はテレビの接触回数、横軸はYDNの接触回数、一部マスキングしてある表内のスコアは広告接触回数別の来店リフト率を示しています。「どの程度のフリークエンシーの人が、どの程度反応したのか」、リアルな購買行動を捕捉できたことにより、ROIが最大化するマス・デジタルの最適予算配分につながりました。
矢島:配信が顧客の実際の利用状況によって実施できること、しかもそれが十分な規模感で実施できたということが、この事例の進化のポイントです。また、規模があることで、テストマーケティングではなく、実際に売上貢献の効果が見込めたり、FQ別など精緻な効果検証ができたりするというメリットがあります。
【事例2】自社のポジションはどこなのか? 飲料メーカーの購買基点メディアプランニング事例
次はメディアバイイングの際に、「自社あるいは競合のユーザーがどの枠にいるのか?」「メディアのどこを狙えばだれに当たるのか?」が、購買データから「事前に」わかるという事例です。
こちらは飲料メーカーの活用事例です。
ABEMAの番組ジャンル別の視聴データと、CCCマーケティングが把握する購買データを組み合わせ、番組ジャンル別に自社商品購買ユーザー(飲料A)と競合商品購買ユーザー(飲料B)がどれくらい出現するかを調査しました。
結果として、相性のよい番組ジャンルと、そうでないジャンルがあることがわかってきました。
矢島:購買データに基づくメディアプランニングは、テレビ視聴ログやラジオ聴取ログ、位置情報ログなどのデータともクロスできます。今後さらに活用していきたいポイントだと思っています。
また、この事例では、購買データとメディアのコンテンツ別の接触データを組み合わせることで「自社ユーザーがメディアのどこに多くいるのか?」「何時の、どんな番組ジャンルと関連性が高いのか?」が事前にわかることが、進化しているポイントと言えます。
矢島:これにより、デモグラフィックや趣味嗜好などの中間指標を介すことなく、「購買者」を効率的に狙ったメディアプランニングが可能になります。また、購買データの規模を活かせば、今後は曜日時間やSKU単位など、精緻なプランニングが可能になることもポイントです。
【事例3】キャンペーン後の購買行動にどのような変化があったのか? 飲料メーカー購買者の1st Party Data活用による育成支援
ここからは、これまでの2事例から一歩進化したクロスブランドや顧客育成寄りとなります。たとえば、キャンペーン単体では検証できているものの、キャンペーン後のアクションやキャンペーン間の比較はなかなか実現が難しいもの。そこで、キャンペーン参加者のデータを横串で評価し、顧客管理を実現するという事例です。
CCCマーケティングでは、セーフティなトレジャーデータの環境下でメーカーのキャンペーン参加者のデータと組み合わせ、参加者属性やその後の購買変化などを可視化しています。
小林:これまでキャンペーンの参加者は自社ブランドユーザーか、既存ユーザーかなどが見えにくかったと思いますが、購買ベースで把握することで新規か既存か判断できます。またブランド間やキャンペーン間を横串で可視化することで、間口に効いた施策、奥行きに効く施策などがこれまで以上にナレッジとして蓄積できるほか、活用フェーズにおいては、購買行動の変化に合わせてT会員に対して追加施策を行うことも可能です。
【事例4】購買者基点のオリジナルAIセグメントへのアプローチ 〜日用消費財領域での進化〜
自社商品の優良顧客になりそうな人を特定し、効率的にアプローチする実例が増えています。次の事例は、CCCマーケティングが開発したオリジナルAIを活用して、最適なセグメントにアプローチする手法の紹介です。
T会員7,000万人の統合データベースの中で、CCCマーケティングでは顧客DNAという志向性のフラグを300項目以上保有しています。これはアンケートデータを元に、「こういう志向性がある」と答えた人は、購買行動で「こういう傾向がある」と推測し、逆にアンケートに答えていない人の購買行動からは、志向性を推計するというものです。
これまでは「年代×○○購買者」といったように対象者をセグメントしていましたが、優良顧客になり得る人がセグメント外にいる可能性は十分あります。そこで、AIを活用して似ている人をあぶりだし、順番にアプローチするという方法で優良顧客になり得る人を絞り込めるようになりました。これによりセグメントすることで規模感が出ないという課題を解決しつつ、ROIも担保できます。
小林:このようなAIセグメントを活用して、元々施策による高い来店率がさらに大幅に向上したという、小売流通の事例があります。こういったモデルを活用することで、ブランド購買者の優良顧客に対してアプローチしていく、ということに応用できると考えております。
【事例5】購買者基点でクロスブランド・クロスカテゴリーのメーカーLTV最大化
今後、国内人口の減少などもあり、カテゴリーによっては国内総需要が減少すると考えられている中、お客さま一人ひとりの中でのLTVをどう上げていくか、という視点が強くなってきています。
小林:メーカー各社も、オウンドメディアなどを通じてさまざまな取り組みを行っているものの、マスブランドを支える規模になりづらいという課題もよくお伺いします。
最後の事例は、そういった悩み対応したクロスブランド、クロスカテゴリーというテーマになります。
小林:たとえば、T会員が7,000万人を超えるなかで、飲料を購入されていらっしゃる方は約5,000万人。飲料を購入しているのに、ほとんどのカテゴリーに商品を展開している大手メーカーさんの商品をひとつも購入していない方が、1,600万人以上も出現します。偶然Tポイント商圏で1回だけ購入ということもありますが、回数などを細かく見ていくことで実態把握に近づけます。
このデータを深掘りして検証することでいろいろなことが見えてきました。
小林:ひとつは、自社のロイヤルユーザーが、どのようなキャンペーンを使い、どのような変遷を経て現状にいたっているのかということ。これにより育成の仮説を立て、ストーリーを発見できます。もうひとつは、未購入層などに対して施策を展開することによって、自社のロイヤルユーザーになり得るのか、育成の可能性を模索できるということです。
リアルの施策では規模感を出すことが難しかったり、再現性を保つことが難しかったりしますが、昨今のデジタルマーケティングの世界においては、接点が強化されていくことによって、デジタル上でもLTVを最大化する取り組みが可能になったとのこと。
これまでご紹介したように、デジタル上の連携が実現することによって日用消費財領域でも、顧客基点でPDCAを回すことがビジネスレベルで展開できるようになってきました。
小林:CCCMKと電通のアセットを組み合わせることによって、デュアルファネルマーケティングが、より精度の高いものになってくると考えています。「わかるデータからできるデータへ」をテーマにしながら、今後も進化を続け、みなさまのマーケティングをサポートしてまいります。