オンラインとオフラインをひとつに統合していくDXの考え方「OMO(Online Merges Offline)」。これまでオフラインでの顧客体験が主流だった業界の中には、withコロナ時代を見据え、OMOを率先して取り入れながら事業変革を進める企業もあります。
こちらのセッション「OMO時代、顧客体験をどう向上させるか」では、積水ハウス 広告宣伝部デジタルマーケティング 課長の竹原賢一(たけはら・けんいち)氏と、電通 データドリブン・クリエーティブ・センター長の並河進(なみかわ・すすむ)が登壇。
重要性が高まる顧客とのオンライン接点づくりのヒントを得るべく、積水ハウスがスタートした「おうちで住まいづくり」の事例をもとに、OMOにおける「つくりだすべき顧客体験」を探りました。
以下に、Do!Solutions編集部がセッションの内容をまとめます。
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OMOでコロナ危機を乗り越えた、積水ハウスの取り組みとは
2020年2月から、電通では、データにもとづいてデュアルファネルのCX全体を描いていくクリエーティブチーム「DATA DRIVEN CREATIVE CENTER」を結成。積水ハウスのオンライン接点構築の一環である「おうちで住まいづくり」キャンペーンをお手伝いしました。このキャンペーンが立ち上がった背景について、並河が次のように説明します。
並河:2020年3月、コロナ禍で住宅展示場の来場者数が減少しました。このときに、既存顧客との折衝中断、新規顧客へのアプローチが困難になるなどの課題が発生。これらを解決するために「おうちで住まいづくり」キャンペーンを立ち上げることになりました。
プロジェクトの内容は、主に3つに絞られるとのこと。
並河:1つ目は、展示場での接客を疑似体験できるような、スタッフによるYouTube動画を作ること。2つ目は、ウェブや電話での打ち合わせができる窓口を作ること。3つ目は、展示場をリアルな感覚で体験できるVRゴーグルや、住まいづくりが学べる本などのプレゼントです。
プロジェクトは、この3つを実現するための専用サイトの構築からスタートしたと言います。
並河:YouTube動画は、住宅展示場に行ったときの目線そのままに、家の中に入っていくと積水ハウスのスタッフに案内していただける内容になっています。実際に、スタッフの方が登場して、住まいのポイントを紹介しています。展示場に行ったような気持ちが味わえることを意識して作成しました。さらに、全国各地の展示場に横展開できるように、スタッフが自分たちだけで撮影できるようなマニュアル作成のお手伝いもさせていただきました。
このサイトをローンチしてから、問い合わせが多数よせられ、5月のGW前までに急遽TVCMの制作が決定。このTVCMもリモートで撮影し、キックオフから2週間で納品したとのこと。
電通グループでは、この経験をもとに、電通/電通クリエーティブX/電通ライブの協業でオンライン接客を素早く実現するクイックDXを開発。動画制作やバーチャル空間の制作、双方向のチャットボットをクイックに作ることを可能にし、さまざまな業種に提供しています。
並河:DXは時間を掛けて進めるイメージが強いかもしれません。もちろん電通グループとして、事業全体のDXコンサルは得意とするところですが、クイックDXソリューションでは手軽かつ応急処置のDXとしての位置づけです。接客体験ムービーやVR店頭体験、オンライン受付窓口をのせた簡易ウェブサイトの構築に向けたソリューションになります。
オンラインとオフラインを割り切らず、一貫した顧客体験を提供していきたい
ここからは、セッション後半に行われた竹原氏と並河のトークセッションを、ハイライトでご紹介したいと思います。
並河:なぜ、「おうちで住まいづくり」をはじめようと思われたのでしょうか?
竹原:2月初めに、来場の予約者数が目に見えて落ちていました。このままではまずいという営業現場と上層部の危機感がありました。ですから、稟議をあげてから2週間くらいですぐ動き出したかたちです。当社の事業は、お客さまと出会ってから成約まで、半年以上を要しますので、かなり早い段階で、その先の売上の動きを考えます。こうした事業特性も加味して素早く判断しました。
並河:実際のところ、「おうちで住まいづくり」の成果はどうだったのでしょうか?
竹原:3月からは、ほとんど外出ができない状態になったと思いますが、そこでまず圧倒的に増えたのが資料請求数やサイトの閲覧数でした。資料請求数は、前年比約200%です。また、折衝途中のお客さまとのコミュニケーションをどうするかも課題でしたが、8月の受注額は前年比116%でした。おそらく「おうちで住まいづくり」で、ウェブや電話の窓口をサイト上に作ったことが功を奏し、遠隔での折衝もスムーズに行えたのではないかと考えています。
並河:オンライン会議が一般的ではなかったときから進めてきたプロジェクトですが、社内の反応はどうでしたか?
竹原:営業現場を担うメンバーは日々数字を追わないといけないので、工夫が必要だったと思います。ただ、当社の代表も、危機的環境下を乗り切るためにやるべきだと判断し、このプロジェクトを成し遂げようというベクトルを会社の売上や事業目標の達成のために合わせてもらえました。それにより、社内の理解も得られたと思います。
並河:最初から「おうちで住まいづくり」を継続的な取り組みにしていこうと考えられていたそうですが、接客ポイントとしてオンラインとオフラインの顧客体験を、それぞれどう位置づけているのでしょうか?
竹原:オンラインとオフラインを割り切って考えるのではなく、OMOの概念にも通じる「いかにお客さまの検討状況に合わせて、当社と接触し、情報を収集いただいけるか」が重要だと考えています。なので、リアルでもバーチャルでも、住まいづくりの検討に入ってからの体験に関して、どのチャネルでもきっちりとコミットして、当社の魅力を伝えていけるようにしたいです。
並河:実際のところ、オンラインとオフラインの違いはどれくらいあるものでしょうか?
竹原:意外かもしれませんが、コロナ禍以降、実はオフラインでの折衝を予約される方が増えました。それは意識の変化だと思いますが、じっくりと検討して、ホット度が上がったタイミングでリアルの場で営業と折衝したいと考える方が増えたのではないかと見ています。ただ、リアルの住宅展示場やショールームは、その場所に着くまでに時間が掛かるので、その時間をオンラインの活用で省略したいという方も少なくないと思います。そのときに、オンラインで当社を深く知っていただけるような仕組みづくりが、これからも大事になると思います。
並河:コロナ禍でオンラインならではの体験が増えたことで、オンラインへの抵抗感が薄れた人も多いと思いますが、ご実感としていかがですか?
竹原:当社で住宅購入を検討される方は、お子さんがいらっしゃる40歳代の方が多いのですが、お子さんたちがYouTubeを非常によく見るということで、動画への抵抗感がなくなったのかなと感じます。特にコロナ禍以降は、情報収集の仕方として、動画を確認する方が増えたように思います。
並河:従来は、住宅展示場に足を運ばれたときが勝負だったと思いますが、これからはオンラインで情報を集め出す段階が勝負になりそうですね。今後、積水ハウスの顧客体験はどう進化していくのでしょうか?
竹原:まず、お客さまが当社と接触する場が住宅展示場に偏っていましたが、リアルとバーチャルでも、コンタクトポイントをたくさん作っていきたいと思います。事業的には、オフィスビルやマンション、賃貸住宅、さらには海外事業など幅広いので、実はここにも積水ハウスがあるんだという発見も含めて、上質な体験をお届けしたいと思います。それはデジタルでも一緒で、バナー広告などで過度なフリークエンシーを出さないようにして、逆にオンラインの体験をどう設計していくかを突き詰めて考えたいです。
並河:顧客接点、イコール営業の場と捉えている方も多いかもしれませんね。でも、実はその企業が提供している場所やモノ、すべてが顧客接点であると発想を変えると、可能性がすごく広がりますよね。
竹原:その意味では、当社の人材力も強みになるかもしれません。というのも、社員も非常にいい人が多いのです。そこをリアルに感じていただくことが大事かなと思います。また、建物も非常にこだわりを持っていて、実際にご覧いただければ上質さが伝わると思います。こうしたことをデジタルで疑似体験いただいて、さらにリアルでも体験していただく。当社のイメージを一気通貫でいかに伝えられるかが、クリエーティブの役割になってくるのだろうと思います。
並河:クリエーティブとして、イメージの世界とリアリティの世界、両方とも組み立てて、一貫したものを作っていく。そこが、いろいろな企業に応用できるOMOとして、重要なポイントになっていくのではないかと思いました。