外食産業を中心に広がっているモバイルオーダー。この動きにより、外食産業を取り巻く状況はどのように変わってきたのでしょうか。本セッションでは「コロナ禍で激変する外食・小売・メーカーにおけるMobile Order / D2C /BOPISの進化」と題して、Showcase Gig代表取締役CEOの新田剛史(にった・たけふみ)氏と、電通 データ・テクノロジーセンター シニアプランナーの上原拓真(うえはら・たくま)が登壇。
モバイルオーダーの現状に加え、今後どんなD2C(Direct to Consumer)/BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)が出てくるのか、さらに海外で広がっているOFF-Premisesの実態など、近未来の進化にまつわる考察も展開されました。
以下に、Do!Solutions編集部がセッションの内容をまとめます。
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コロナ禍でモバイルオーダープラットフォームの認知率・実施率が大幅に向上
2020年4月、Showcase Gigは電通と資本提携を行いました。この提携により、外食産業にはモバイルオーダーを、メーカーには直接消費者へ商品をお届けする仕組みを、小売りへは事前に注文して店頭で商品を受け取るというソリューションを提案しています。その中でもメインとなるのが、モバイルオーダーをはじめとするOMOサービスの構築を実現するプラットフォーム「O:der(オーダー)」です。
新田:モバイルオーダーをまさに実践していくプロダクトで、3つの特徴があります。1つ目が、テイクアウト向けの『モバイルオーダー』。2つ目が店内でスマホから注文と決済を行う『テーブルオーダー』。3つ目が、大きなスマートフォンのような概念で店頭で注文・決済ができるハードウェア『セルフオーダーキオスク』です。
モバイルオーダーはアプリなどから注文し、お店で並ばなくてもすぐにピックアップできる仕組みです。ストレスフリーな買い物を実現させる便利なツールですが、2020年4月の段階ではモバイルオーダーを知らない人が60%、使ったことがない人が80%と、認知度は決して高くありませんでした。
しかし、コロナ禍により外食産業の売上が低迷する中、大手チェーン店のマクドナルドと吉野家が率先して外食テイクアウトオーダーサービスを提供開始。マクドナルドはモバイルオーダー専用アプリをリリースし、6月からはモバイルオーダー機能を公式アプリ(5000万DL)に吸収統合し、現在全国で展開しています。
また吉野家はGoogleやUber Eats、出前館、d払いなど、さまざまな外部FPを活用しています。
上原:吉野家はマクドナルドと異なり、モバイルオーダーの動線を多角的に展開されているのが特徴です。
そのような中、Showcase Gigのモバイルオーダープラットフォーム「O:der」は3500店舗に導入され、さらなる広がりを見せています。
新田:現在のパートナーは、コロナ禍前から先々を見据えて展開してきました。しかし、コロナ禍をきっかけに、事前注文決済での非接触というニーズと仕組みへの理解が急速に広がったと感じています。
上原:加えて、Google、LINE、インスタグラムなど外部プラットフォームとの連携により、さらなる間口が広がっていると思います。
客単価10%アップ!導入側からみるモバイルオーダーのメリット
導入する飲食店側のメリットの一つが、注文を取る際の工数削減。さらにもう一つが客単価の上昇です。Showcase Gigが「SelfU(セルフ)」という店内モバイル・テーブルオーダーを展開する中でも実際にスタッフの工数削減や客単価上昇、回転率アップが実証されています。ちなみに、客単価の上昇は平均して8%から10%にものぼるとのこと。
新田:店舗によっては、来店客のほぼ100%がスマホで注文するという現象が起きています。これは中国ではすでに当たり前なのですが、日本ではまだ非常に珍しいです。またコロナ禍において声を出して呼ばなくていいこともあり、ビールなどお酒の売上があがりやすいという現象もみられます。店舗としては売り損じをなくすことにつながっています。
モバイルオーダーの拡張と進化。顧客体験はどう変わる?
従来の「イートイン」「テイクアウト」「デリバリー」に加え、今後はさまざまなタッチポイントの増加やデータ連係による活用が見込まれると言います。外部連携の事例として紹介された吉野家は、GoogleマップのURLからモバイルオーダーができるという先進的な仕組みを実施しています。
新田:注文チャネルは多ければ多い方が良いという中で、一つのネイティブアプリにこだわるのではなく、WebAPIを出しやすい形で作っていたので、自然とこの形に収まりました。始めた当時、マップ上からインタラクティブにという事例自体が少なかった中、非常にわかりやすい動線が出来上がったと感じています。
また、Instagramのストーリーズから直接ボタンを押して、料理を注文し、テイクアウトで受け取れるというモバイルオーダーの出来る仕組みもあります。
今後どんなD2C/BOPISが出てくるか?「TOUCH AND GO COFFEE」事例
モバイルオーダーのメリットを体験してもらおうと、モバイルオーダーに特化した店舗として作られたのが、「THE LOCAL Coffee Stand」というコーヒーショップ。その応用形で生まれたのが、サントリー食品「TOUCH AND GO COFFEE」施策です。
LINEでオーダーができ、フレーバーやラベルだけでなく、さらに課金することでオリジナルのカスタマイゼーションができるという仕組みです。また、事前に注文しておけばロッカーで受け取れます。
新田:男性客に利用されるかなと思っていたところ、いわゆるオタ活女性にウケるという意外な結果となりました。たとえば推しのアイドル全員分の名前をラベルに入れるなど、カスタマイズしていただき客単価が上昇しました。また、ピックアップロッカーも普及していないのは日本だけと言われるほど、海外ではすでに定着しているシステムです。今後は日本でも、受け取りも人を介さずに行いたいというニーズが増えてくると思います。
世界中でモバイルオーダーが拡大している中、デジタルでは不可能だと思われている“おもてなし”を実現させないと意味がないと思い、取り組んだ事例だったと新田氏は振り返ります。
新田:カスタマイゼーションやパーソナライゼーションなど、付加価値を与えることについては、デジタルでも応用が利くと思います。もちろん飲料や食品は相性が良いのですが、それ以外のものでも応用できると考えています。
「OFF-Premises(オフプレミス)」とは?
現在、まさに外食産業にデータドリブンの世界が構築されようとしている中、さらに一歩進んだ未来も構想されています。それが「OFF-Premises」です。店内で消費すること、イートインなどを「On-Premises」とすると、家や店外での消費は「OFF-Premises」と言われています。
上原:強いプロダクトやブランドは、場所を問わずその世界を体験したいという消費者がいます。そこで、オーダーの導線をすべてデジタル化してデータベースとつなぐことができたら、OFF-Premisesの世界をつくりやすいと思います。
新田:アメリカではOFF-Premisesをテーマにしたオンラインカンファレンスが、数多く開催されています。On-Premisesでいかにロイヤルティを形成し、OFF-Premisesでデータをどう活用してアプローチするのかといった議論が盛んです。
日本でもすでにOFF-Premisesの事例が増加。たとえば、本店がミシュランを受賞したラーメン店「ソラノイロ」は、2020年6月のインタビュー(※)では、On-Premises消費6割くらい、残りをOFF-Premisesで構成したいと語っていたと上原は言います。また居酒屋の厨房を使い、違う屋号でUber Eats上で配達メインの営業している飲食店が数千店舗があるとのこと。
出典:日経クロストレンド「コロナショックで進むDX 第4回/全6回」
2012年に動き出してからなかなか日の目を見なかったモバイルオーダーも、ここ1年でようやく認知されるようになったと新田氏は振り返ります。これからの外食産業はモバイルオーダーをはじめ、カスタマイゼーションやパーソナライゼーションの領域でもDXが加速するはずです。