電通が主催する「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」が3日間にわたり開催されました。1日目のキーノートでは、電通ソリューション開発センター・データドリブンマーケティング推進部長の濱窪大洋と、電通第2統合ソリューション局部長・ソリューションディレクターの高橋学が登壇。電通が取り組んできた、People Driven Marketing®(ピープル ドリブン マーケティング)の現在地と、今回のウェビナーの全体像についても紹介しました。
以下に、Do!Solutions編集部がセッションの内容をまとめます。
「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」概要はこちら
電通が取り組んできた「People Driven Marketing®」とは?
濱窪:People Driven Marketing®(以下:PDM®)は、データの先にある“人基点の統合マーケティングフレーム”として弊社が提供してきたものです。我々はこの“人基点”に非常にこだわっています。顧客の意識データと行動データを目的に応じて有機的に活用することで、“最適な対象者”に“最適なコンテンツ”を“最適な場所”、“最適なタイミング”で届けていく。そうやって企業のマーケティング目標を達成することに貢献していきたいと思っています。
2017年にPDM®をリリースしてから、年々内容も進化しています。昨年は「PDM®3.0」と題してデュアルファネル®(新規顧客の獲得ファネル、既存顧客の管理ファネルの2つを組み合わせたもの)全体に対応するべく、活動を進めてきました。
PDM®3.0を簡単にご説明すると「新規顧客ファネル」、つまり認知から購買までの広告代理店が得意としてきた領域と「既存顧客の管理のためのファネル」を組み合わせるもの。要は、CRM(顧客関係管理)領域も統合させて、LTV(ライフタイムバリュー)を上げる統合ソリューションを目指します。
コロナ禍における人々の意識、行動の変化
濱窪:2020年は、すべての人にとって大きな変化がありました。日々の暮らしも大きく変わり、「自宅での時間」が非常に増え、外出が激減していますね。それに伴って仕事への取り組み方や考え方も変化し、在宅ワークが珍しいものではなくなりました。また、キャッシュレスの利用率が上がったというデータもあります。
コロナ禍以前からキャンペーンも盛んで、世間に浸透し始めてはいましたが、感染拡大防止という観点から現金を使う割合が徐々に減ってきていることも、見て取れます。また、家からあまり出なくなったことと関連して、ネットショッピングが伸長しており、化粧品や健康食品などの通信販売と親和性の高かった業種以外も、売り上げが非常に伸びています。
そして最近では「D2C(小売店などを挟まず、企業側が消費者と直接取引を行うビジネスモデル)」というキーワードが、いよいよ本格化してきたと思います。あるD2Cプラットフォームも、この3~4月で急成長を遂げており、化粧品などの業界でもD2Cが台頭し、大手メーカーの参入もニュースでも報じられています。Googleの検索トレンドなどを見ても、D2Cの検索が今年に入ってから、より一層伸びています。
人々の情報接触についても、デジタルが中心になってきています。あまり外出できないといった背景もあり、デジタル上のコミュニケーションが盛んになっているのです。LINEやビデオチャット、あるいはInstagramやTwitterなどを使う方が非常に増えてきており、実際にSNSの起動が非常に活発化していることが、我々の調べでもわかっています。
また、情報源としてもデジタルの重要度が高まっており、商品やサービスを知るためにブログや企業のHPなどが役立つと感じている方も増えています。「デジタルを手段とすることで、生き方や働き方の選択の自由が増える」と、デジタルに強い期待を持っている方が増えていますね。
消費行動の変化、「パルス型消費」の広がり
濱窪:デジタルに接する機会が増えた一方で、リアルな活動はいまだ制限されています。例えば、8月末時点のデータではありますが、エンタメやリアル店舗でのショッピング、外食、旅行といったものについては、全般的に以前のようには戻っておらず、今後もこの状況が続くのではないかと言われています。
そんな状況の中では、企業側が顧客と接点を継続することが難しく、広告活動を減少させざるをえません。また、顧客の中でも「この状況は来年以降も継続する」と思っている方が多いことがわかっています。人々の行動が大きく変わってきている中、「マーケティングは一体どうすればいいんだろう?」と悩まれている方も多いのではないでしょうか。
マーケティングキーワードの一つに、Googleが提唱している「パルス型消費」があります。従来であれば「商品を認知→興味を持つ→検索して類似する他商品と比較→購入」というプロセスが多かったのですが、パルス型消費では「瞬間的に買いたい気持ちになり商品を購入する」といった流れになります。これまでも、日用品などはパルス型消費に近いものがありましたが、この場合は商品を購買するまでの消費者行動が把握できず、マーケティングの効果検証ができない状態に陥ってしまいます。
また、スマートフォン(以下:スマホ)が登場したことにより、ほとんどの商品が時間や場所に関係なく購入できるようになり、日用品以外の洋服や家電についてもパルス型消費行動が広まっています。実際に「買う瞬間までまったく知らなかったブランドの商品を買うことに躊躇がない」「暇つぶしにスマホを使って偶然知った商品をその場で買うことに躊躇がない」と答えた消費者が多かったというデータ(※)もあります。
※参考:Think with Google「パルス型消費行動」調査結果より
これは私個人としても驚いたのですが、よく考えてみれば自分にも心当たりがあるなと。個人的な例で恐縮ですが、実は先日、私もTwitterユーザーの投稿を見たことをきっかけにホットサンドメーカーを購入したのです。私以外にも同様の方がいらっしゃったようで、商品が品薄になったという記事も目にしました。
購入プロセスは「Twitterの投稿をみる→購入する」ですが、過去を振り返ってよく考えてみると、伏線があったように感じています。緊急事態宣言が出されて自粛生活が続いている間、自宅生活が長いので多少なりとも料理をするようになり、レシピサイトを見る機会が増えていました。加えて偶然ではありますが、この数ヶ月の間にアウトドアグッズのLEDランタンを購入する経験もしていたのです。
私自身はアウトドアが趣味ではありませんが、「ソロキャンプの動画がおもしろい」という話題を目にして、芸人さんがソロキャンプをするYouTube動画を見て触発されていたのですね。そんな流れがあった中でホットサンドメーカーのTwitterを見て、購入するに至りました。過去の一連の流れとTwitterを見るまでというのは何の紐付きもありませんが、さまざまなことが積み重なった結果「Twitterを見てホットサンドメーカーを購入する」という体験を私自身がしていたということです。
出典:Twitter(@ly_rone)、エキサイトニュースより引用
これをマーケター目線で考えると、Twitterを見るまでの伏線上にある行動はすべてデータとして残っており、それがヒント、あるいは予兆だったんじゃないかなと思います。
ホットサンドメーカーのターゲットが40代の男性だとは思えないのですが、ターゲットではないであろう私自身が購入した事実が一つの象徴的な例なのかなと。つまり、購買に関してはD2Cやキャッシュレスといったものが普及してきて購買データを取得できる環境が出てきている一方で、認知から購買に至るまでは広告だけでなく認知する前にある“情報環境との接触”も含めて、データとして捉えられる時代になってきているのではないでしょうか。
リピートからロイヤルカスタマー化するCRMのファネルの方でも、ロイヤル顧客はLTVが高いだけの存在ではなく、この人たちの行動や評判が認知前の人に対して情報を与える一つのトリガーになっている。これは我々としても無視できない存在になっているかと思います。
そして、リアルな行動が制限されている今の環境の中で、デジタル上の評判や意見へのアクセスがますます加速しているといえます。今後データから顧客の動きを予測するということが、非常に重要になってきますし、また、さまざまなデータに着目する必要が出てきているのが今なのだと思います。
世界的に進む個人情報保護の強化、それに伴う今後の変化
高橋:個人データのデジタル蓄積は増えており、コロナ禍でさらなる加速を見せています。そんな中、企業側目線では「個人情報保護の強化」が忍び寄ってきているのも、紛れもない事実です。
Appleは昔からITP(Safariに実装されているトラッキング防止機能)の進展を進めていますし、Googleが2022年にCookieを排除すると発表したことも記憶に新しいですね。さらには、EUやカリフォルニア州でも個人情報保護を強化する動きが広がっており、日本でも公正取引委員会主導で同様の動きが進んでいるといったニュースを目にします。
AppleではiOSが新しくなることに先駆けて、ネット広告に関してもすべてオプトイン(自らが許可すること)で確認を必要とするといったような記事が出て、広告業界を震撼させました。実際には、一週間足らずで「この話は来年に延期する」という結果になりましたが、2021年の早い段階での実施は避けられない状況だと考えています。
Facebookではすでに取り組みを始めていて、Cookieに頼らない動きが見えてきていますし、欧州の企業でもCookieの利用方法を細かく顧客が選べるような動きが始まっています。今後もこういった動きは、日本でもiPhoneを中心に身近な場面で出てくると思います。要は、自分の個人情報をどこに開示するかを顧客が選べる時代になっていく。企業側からマーケティング施策を打つ上では、非常に悩ましい課題になってくるとわれわれは捉えています。
New Normal時代のマーケティングに必須な3つのキーワード
高橋:企業がどのようなことを実現できたら顧客に「データを開示したい」と思ってもらえるのか、そうなるために何をしていくべきなのかといった部分を、われわれとしては「PDM®4.0」という形でアプローチしていければと思っています。
顧客が自発的に企業にとって望ましい行動してくれるために、企業からは3つのアプローチがあると考えています。ひとつ目は、顧客がすでに情報を預けていて「ここに情報を開示しないと生活が成り立たない」といった外部プラットフォームと組んでいくこと。そして、そういったプラットフォームと組みながらも、自社と顧客がつながり続ける基盤をどう作っていくか、ここが2つ目のポイントだと考えています。そして3つ目は、顧客に「自分の個人データを預けても構わない」と思ってもらえるような関係性を結んでいくこと。
こういった3つのアプローチに対応するキーワードを3つ挙げたいと思います。ひとつ目のアプローチに対しては「Data Clean Room」。耳慣れない言葉かとは思いますが、これは自社のファーストパーティーデータ、すでに個人情報が貯まっているプラットフォーマーのデータ、そして電通グループが持っている独自のマーケティングデータという部分を、プライバシーが一切漏れない“無菌室”という意味でのClean Roomというところで、データを統合して個人情報という形で整理し直し、マーケティングに活用していく。このようなアプローチで、個人情報保護のルールをきっちり守って、マーケティング活動にデータを利用していくことが、重要になってくると思います。
2つ目のキーワードは「寄り添い型DX(デジタルトランスフォーメーション)」。これは顧客がもっとも望むことをどう提供していくのかといった部分を、いかに顧客に寄り添いながらアプローチしつつ、継続的なお付き合いを通じてLTVを最大化していく事を目的としてDXを進めていく、という事です。DXというと、手段と目的が混同しがちですが、われわれとしては“顧客との接点の中で何を大切にしていくのか”を捉えた上で、そこに必要なデジタル及びセキュリティを用意していくことが重要と考えています。
そして3つ目は「Data×CR(クリエーティブ)」です。実際にオンオフを合わせた顧客接点において、いかにその利便性が実現できたとしても、その体験価値をどう感じてもらうのか、さらに事前に個人情報を提供することで、顧客側がどのような価値を得られるのかがわからないままでは、個人情報を渡そうとは思わないしょう。
そこで、データを使うことによって、どのような顧客体験が作れるかを顧客に提示して、実際に実現させていく。そこにはクリエーティビティが重要になります。企業の思いと顧客をつなぐ体験価値をどう具現化するか、ここがないとただの数字データの蓄積になってしまい「このデータをどう使えばいいの?」と本末転倒なことが起こってしまう。体験価値の具現化こそが、データを使ってマーケティング活動を行っていく最大のポイントだと考えています。
それぞれは独立したキーワードに思われるかもしれませんが、「Data Clean Room」ではともするとパルスのように見えがちな顧客行動の背後にある文脈を洗い出し、「寄り添い型DX」で顧客が望むサービスに合わせたデジタル基盤を作る。そして、それらを踏まえて「Data×CR」で最適な体験を提供するといった、ひとつのフローとして成立するものです。そして、それぞれのアプローチにおいて、電通グループは独自の強みを活かしてその実現をサポートします。
昨年、誕生したデュアルファネルといったソリューションをベースに、New Normalな環境に即した進化。以上に説明した3つのフローを踏まえたソリューション全体が、これからのマーケティングに求められるPDM®4.0であると理解いただければ幸いです。