明治安田生命では「Jリーグとの連携」「デジタル施策による見込み客の育成、契約者の離反防止」「デジタルデータを活用した営業支援」とさまざまな場面でデジタルを基点とした営業マーケティングを実施し、成果を上げています。
今回は、明治安田生命 Project Member営業企画部 主任スタッフの戸田典宏(とだ・のりひろ)氏を中心に、電通 トランスフォーメーション・プロデュース局 マーケティング・プロデューサーの渡邉典文(わたなべ・のりふみ)と電通デジタル デジタルストラテジー事業部長の坂本浩士(さかもと・こうじ)が、それぞれの視点から明治安田生命の取り組みを紹介しました。
以下に、Do!Solutions編集部がセッションの内容をまとめます。
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明治安田生命が取り組んだ5つの施策
最初に、明治安田生命がデジタルマーケティングに取り組むに至った背景について、戸田氏が次のように話します。
戸田:明治安田生命では、以前よりいわゆる広告出稿を中心としたデジタルマーケティング活動でビジネスを進めており、それなりの成果を出していました。具体的には、他社と競合しながら資料請求をKPIに設定して広告を出稿し、数値を追いながら営業へ送客していました。しかし、実際にはそれ以降の営業活動については、各営業職員任せとなっている状況でした。結果として獲得した見込み顧客に対して、「デジタルでの接点」と「リアルでの接点」で、バラバラにPDCAを回してしまっていました。よく言われる、マーケティング活動と営業現場の分断が起きている状況でした。
この課題を踏まえ、より一層の量・質の拡充を目指すために、デジタルマーケティングの側面から営業活動の改革に着手しました。実際に、明治安田生命が取り組んだ施策は5つありました。
【1】Jリーグ公式アプリ「Club J.LEAGUE」をはじめとしたJリーグとの連携
【2】マルチチャネルでのデジタルコミュニケーション
【3】デジタルデータを活用した営業支援
【4】コロナ禍で急速に需要が増える非対面営業プロセスの推進
【5】オンオフ統合したPDCA
この結果、得られた成果は大きく2つあると戸田氏は説明します。
戸田:ひとつは、当社がタイトルパートナーを務めるJリーグの協力により、「ファン、Jリーグ、パートナー」の三方よしを実現しながら、新たなデータ活用のかたちを生み出せたこと。もうひとつは、ファーストパーティデータをはじめとするさまざまなデータを活用し、デジタル施策で営業活動の高度化を叶えたことです。
このプロジェクトでは、明治安田生命の営業企画部を中心に、情報システム部、ブランド戦略部とも連携しながら推進。また、電通グループからは営業、PMチームを中心に、Club J.LEAGUEチーム、PDCAチーム、コンテンツチーム、制作チーム、Techチーム、LINEチームなど各領域の専門家を結集してチームを結成したとのこと。
5つの施策の具体的な中身について、次の章から3名の解説を紹介します。
1.Jリーグのファンに向けたオンラインチャネル「Club J.LEAGUE」をはじめとした連携
戸田:明治安田生命では2015年より、Jリーグのタイトルパートナーを務めています。Jリーグのような大きなコンテンツへの協賛は、当社独自のお客さまに対して有効なアプローチツールになりうると考えていました。しかし今回はそうしたブランディングのみならず、デジタル視点でも有効活用できるようJリーグや電通と協議しながら取り組みを進めました。
渡邉:明治安田生命さまは、Jリーグのファンに向けてオンラインチャネルでも継続的に接点を持っていくために、Jリーグとともにデジタルサービスを開発していきたいと考えていました。一方、JリーグにおいてもJリーグIDというOne-IDを中心に据え、デジタルチャネルを整備していきたいという思いがありました。そういった両者の意図を電通が解釈し、ファン・Jリーグ・パートナーの三方よしとなるデジタルサービスとして、Jリーグ公式アプリ『Club J.LEAGUEチーム』を3社で協力しながら企画・開発していきました。
Jリーグ公式アプリ『Club J.LEAGUEチーム』では、公式ニュースやチケットの購入、試合結果の閲覧といった一般的な機能に加えて、ユニークな機能が多数実装されています。
渡邉:このClub J.LEAGUEの開発にあたり、明治安田生命さまには3つの観点で協力をいただきました。1つ目が「ロイヤルティプログラム」です。これは、試合に足を運んでくれるファンの行動を見える化し、リピーターに対して特別な体験を提供するというプログラムになります。2つ目が「アンバサダープログラム」です。これはスタジアム観戦のリピーターをアンバサダーとして、トライアルファンや潜在ファンをスタジアムに誘い出す仕組みになります。そして3つ目が「タイトルパートナーとしての貢献とデータ活用」です。明治安田生命さまがお持ちの観戦チケットを提供いただきながら、Jリーグの新規観戦者を増やす取り組みを実現しています。
アプリは2017年8月のローンチ以来、現在まで成長を続けており、コアファンからライトファンまで毎月数十万人に使われているといいます。
2.マルチチャネルでのデジタルコミュニケーションで開封率40%のEメールマガジンを配信
戸田:次に当社が取り組んでいるデジタル施策についてご説明します。当社ではMAツールとLINEを活用して、見込み顧客へのナーチャリングシナリオを複数走らせています。その中で、ホット度が高いと判定したお客さまについては担当する営業職員に連携し、効率的・効果的な営業活動のサポートを行っています。
坂本:デジタル施策の一つであるメールシナリオの構築については、MAツールの開発運用が情報システム部さまの担当となっており、企画するシナリオについても要件定義段階から連携。役割分担を明確にしたうえで、詳細化を進めていきました。
シナリオ構築の中で留意したポイントは2つあるといいます。
坂本:1つ目はツールの機能やフィージビリティを考慮したプランニングです。当時施策を検討する際には、導入済みのツールを前提に要件定義をする必要がありました。MAツールに熟知した電通のメンバーが明治安田生命さまの実装状況をしっかりと理解し、実現したいシナリオを詳細化していきました。2つ目は、開発運用部署が異なることを踏まえた共通理解の姿勢です。営業企画部さまで描いたシナリオを実装から運用改善につなげられるように、情報システム部と定例会議を実施。認識の齟齬が発生しないように丁寧なドキュメント化を行い、認識を揃えていくことで円滑にプロジェクトを進めていくことができました。
また、LINEについては電通側で全面的に開発運用を担当。公式アカウントやAPIに精通した専門チームで、デジタルおよびその先の営業活動支援を含めた戦略から個々の施策設計、基盤への実装、配信運用までワンストップで対応しています。LINEはコミュニケーションプラットフォームとして幅広く浸透しているため、まだまだビジネス活用の可能性は大きいというのが共通認識とのこと。
メールやLINEで配信するコンテンツの企画制作では、2つの点に注意してプランニングを進めたと坂本は言います。
坂本:メールやLINEは、一度つまらないと思われると見てもらいにくくなってしまいます。そこで1つ目に注意したのは、チャネル特性に留意し、幅広い興味カテゴリを持つユーザーに面白いと感じてもらえるコンテンツを提供することです。それを踏まえ、2つ目は幅広い興味カテゴリに対応したコンテンツを、効率よく継続的に制作運用するための体制構築です。そこで、マガジンハウスとのタイアップを選択。マガジンハウスの高品質なコンテンツ制作ノウハウと体制を活用することで、2つの注意点を解決することに成功しました。
ただし、コンテンツには当たり外れがあり試行錯誤の連続とのこと。「チーム全員が間違いないと思っていたコンテンツがイマイチだったり、これは難しいかなと思っていたコンテンツの反応が予想以上だったりなど、なかなか苦労が絶えない」と坂本は話します。
短期的な成功と失敗に一喜一憂せず、きちんと結果分析を知見として蓄積しながらPDCAを回し、成功パターンを導き出すことが重要だと言います。このように試行錯誤を重ねていった結果、プロジェクト開始から3年が経ち配信規模が大きくなった現在もメール開封率が40%を超えるときがあるなど、高い成果を出し続けることができているといいます。
3.デジタルデータを活用した営業支援と、リスク回避の取り組み
戸田:当社では、さまざまなデジタル施策で接点ができたお客さまの中から特にホットであると判定できた方を、営業スタッフに直接連携する取り組みを進めています。連携した営業スタッフは優先的にそのお客さまにアプローチを行い、見積もりの作成から面談、成約へとアクションを進めていきます。しかしながら、デジタルデータを連携することは多少なりともレピュテーションリスクを伴うため、私たちはそのリスクを最小限にすべく管理・対策を行っています。
デジタル施策で考えられるリスクに対して取り組んだことは、具体的に以下の3つになります。
(1)手順書の作成
デジタルデータの営業連携がどのような施策であるかを平易に解説し、どのような手順でお客さまアプローチを行うべきか、まとめた手順書やパンフレットを作成しています。
(2)営業連携する情報のコントロール
トークスクリプトを用意しても対面の営業会話では100%コントロールできることは難しいという前提のもと、会話の中でNG表現が発生しないよう営業連携の情報をコントロールしています。
(3)モニタリング
迅速な営業連携を行っていますが、連携後の営業活動がきちんと成果につながっているか、課題点はないかといった視点で、活動状況のモニタリングも細かく行っています。
戸田:デジタルデータの営業連携は、保険を検討しているユーザーといち早く接点を持つための施策であるものの、一歩間違えるとユーザーに不信感を与えるリスクもあります。そこで、UXを考慮したコミュニケーションとなるよう、手順書の記載内容や実際に営業連携するときの文言は、一言一句担当者が作っており、電通にも監修をしてもらうことで品質を担保しています。
4.コロナ禍で急速に需要が急増。シームレスなデジタル活用でスムーズな非対面営業を実現
次に挙げられたのが非対面営業プロセスの推進です。コロナ禍を契機に非接触・非対面のサービスを進める企業が増える中、明治安田生命でも2020年7月から非対面営業の営業プロセスを導入しているとのこと。
戸田:当社の非対面営業は、オンライン面談システムを活用するショップ担当者と、それを支えるアウトバウンドコールチームが連携して展開しています。ショップ担当者に対してはSFAを通じた分析、AIによる提案内容のレコメンドといった営業支援を、コールチームにはSFAを通じたショップ担当者の空き時間などの稼働状況や、お客さまの情報を確認した上で最適な顧客対応を行っています。その後、面談の結果は再びSFAに連携され、AI解析を行った上でその後のデジタル施策の改善に活用していくという、シームレスなデジタル活用を実現する取り組みも進めています。
5.オンオフ統合によるPDCAサイクルの回し方
最後はオンオフ統合のPDCAについての取り組みです。
戸田:プロジェクトのKGIを成約数の最大化と定義したうえで、その過程を収集・維持・発見・資料請求・営業の5つの段階でKPIを設定し、きめ細やかなPDCAを回しています。たとえば、収集の段階ではデジタル上でどれだけお客さまにアプローチできるかがカギとなりますので、メールアドレスの収集をKPIに組み入れています。ポイントはオンライン、オフライン両方の指標を分断せずに一つの枠の中で統合してKPIを設定しているところです。
渡邉:設計したKPIに基づいて、本プロジェクトが営業企画部さまの組織目標に対してどの程度貢献できるのか、またそれに必要な予算化についてシミュレーションを作成しています。シナリオ上のKPIを整理し細かく変数化しているので、実行パターンごとに成果シミュレーションを算出できます。
また、PDCAの回し方にも特徴が見られます。
渡邉:オンラインについては配信から数日で速報分析を行い、次の配信までにクリエーティブを修正する高速PDCAを進めています。一方、オフラインについては週次・月次単位で結果を分析しながら、営業スタッフのみなさまへより有効な情報提供となるようにフィードバックをします。そのうえでクリエーティブやセグメントの条件に合わせてブラッシュアップするとともに、数ヵ月間にわたってオフラインのデータを補足し、中長期視点でのPDCAを回しています。
成功の当事者が考える「デジタルマーケティング変革に必要な3つのポイント」
最後のまとめとして、プロジェクトを通じて得られたナレッジについて、戸田氏から共有がありました。
戸田:我々のプロジェクト進行において、大きく3つのポイントがあると感じました。1つ目は、パートナー選定です。デジタルマーケティングプロジェクトを短期的なKPI以外で設定する場合、社内リソースだけでは解決できない可能性が高いです。そこで、社内事情に寄り添いながら、必要に応じて足りない部分を補強し、さらにアイデア・対応力・実行力に幅があるパートナーの選定が肝になると思います。
2つ目は、細やかなPDCAの実施。デジタルマーケティングの施策は効果を数字としてダイレクトに把握できるため、効果の証明を求められることが多いです。そのため、施策の実施とともに、きめ細やかな分析と実績の積み上げが、社内コンセンサスを得るためにとても重要です。一旦、社内コンセンサスが得られるとプロジェクト全体への信頼感が高まるので、さらなる高度化に向けた取り組みへの理解も進みます。
3つ目はスケールです。スモールスタートも大切ですが、細かい施策の積み上げだけでは、インパクトのあるプロジェクトにはなりません。仮説をもとにPDCAを細かく実施していく。同時に、「将来的に大きくスケールさせるストーリーづくり」とそのうえで、「芽がありそうなら、さらに大きくやる」また、「シンプルに規模を取れる施策を実施する」という流れで、社内での評判を取れるようなインパクトのある施策になるように心がける必要があります。
戸田:デジタル化を進める中、同じようなお悩みを抱えている方、今まさに取り組みを進められている方も多くいらっしゃると思います。当社のプロジェクトの事例が、少しでもみなさまのビジネスのお役に立てれば幸いです。