時代とともに変わる、人びとの消費に対する価値観。とりわけデジタルネイティブのミレニアル世代が20代30代を迎えたいま、これまでとはまったく異なる価値観に基づいた消費スタイルが台頭し、あらゆるマーケットに大きな影響を与えています。そうした中でブランドはどのように変化すればいいのでしょうか。また、変化の過程でDXに期待できることは何なのでしょうか。
このセッションでは、さまざまな海外経験を経てビジネスデザインや事業開発の分野で起業をされたNEW STANDARD 代表取締役のの久志尚太郎(くし・しょうたろう)氏、電通のソリューションプランナーである浅井康治、電通デジタルのデジタルコマース事業部長の三橋良平が登壇。
ブランド・デジタル・トランスフォーメーションを展開することになった背景について、3社が語りました。
以下に、Do!Solutions編集部がセッションの内容をまとめます。
「People Driven Marketing® 実践ウェビナー2020」概要はこちら
ミレニアル世代の台頭により、消費者主導の“イミ消費”の時代へと変化
インターネットで買い物をするのが当たり前の時代。多くの消費財メーカーやリテールもEC上で店舗を展開するようになりました。日本の現状について、電通デジタルの三橋は次のように説明します。
三橋:日本のEC市場は売上高こそ世界4位ですが、成長率は4%と世界でも最下位に属します。また、国内のB2C市場のEC化率の推移も6.76%と低迷しています。今後これらを改善していくためには、現在起きているデジタル環境の変化やユーザーの変化をしっかりと捕まえなければいけません。
また、昨今の消費行動の変化について、次のように分析します。
三橋:ほとんどの人がスマートフォンを持ち、わからないことがあればすぐに検索するという行動が確立されています。さらに言えば、検索のかたちも変わっており、いまは自然情報主義に推移をしていると感じます。これは人々が自由に発信する、いわゆるナラティブのような情報に基づいて購買行動を起こす、消費者主導の時代へ突入していると考えられます。
さらに、ミレニアル世代以降に、消費に対する価値観に大きな変化が見られるといいます。
三橋:1970年代から80年代のモノを消費する時代から、90年代から2000年代初頭にはコトを消費する時代へと変化してきました。そして今、ミレニアル世代の登場で、「イミを消費する時代」に突入していると言えます。
“マス”から“具体的な一人”へ。マーケティングのパラダイムシフトに順応する
では、新たな価値観をもつ消費者に対して、ブランドはどのようなDXをつくりあげていけばいいのでしょうか。TABILABOというウェブメディアを運営しながら、ミレニアル世代やZ世代(2000年代序盤以降に生まれた世代)の価値観について精通する久志氏は、幅広い情報収集やインサイト分析から、次のように考察します。
久志:私たちはミレニアル世代以降のユーザーと、クリエーティブやコミュニケーションを通して事業を展開しています。その中で彼らの価値観に共通して感じるのは、「高い社会課題意識から来る、つくられすぎた広告への嫌悪感」があるということです。その一方で、パーパスやストーリーに敏感なユーザーが増えています。このことが、ブランドのDXにも大きく関わってくると思います。
この考察に対し、電通のソリューションプランナーとして、戦略、CR、メディア、プロモーションPRのあらゆる領域のプロジェクトに参画してきた浅井は、次のように続けます。
浅井:ミレニアル世代は、透明性やリアルな物語への共感を好む傾向にあります。単純にプロダクトや商品サービスの良さだけではなく、その作り手のブランドの姿勢やビジョン、パーパスに共感します。それが商品サービスを選ぶ時の重要なポイントになっています。
こうした消費者の変化を受け、マーケティングの方法も変える必要があると言います。
浅井:これまでは、マスのマーケティングで大きな網を張り、その中でターゲットに対して情報を届ける手法が一般的でした。しかし、いまは顔が見えるくらいの“具体的な一人”を想定し、その一人に買ってもらうにはどうしたらいいかを考えるスタイルに変化しつつあります。上から下にファネルを考えるアプローチだけではなく、“具体的な一人”に買ってもらう方法から逆算したマーケティングが大切になります。
浅井:“具体的な一人”を特定していくうえで大切なのは、大きなプランの絵を描き、小さく検証しながら成功体験を重ねて修正することです。つまり、プロトタイピング的なマーケティングアプローチが求められます。
D2C/DNVBという思想
では、現在EC領域に力を入れている企業は、どのようなことに取り組んでいるでしょうか。NEW STANDARD社ではECが伸びている世界の国で起きている事例を冊子「GLOBAL CREATIVE REPORT」にまとめています。その中からいくつかの事例が紹介されました。
久志:米国では新興ブランドが上場し、既存のブランドをしのぐ勢いで台頭しています。その新興ブランドの一つに、「COTOPAXI(コトパクシー)」というアウトドアブランドがあります。「店舗より冒険」というメッセージを打ち出しているのですが、これがまさにブランドパーパスに当たります。ユーザーはもちろん製品を求めていますが、なぜ欲しいのかといえば、キャンプやアウトドアに行くためです。COTOPAXIは、そういったユーザーの冒険心を後押ししながら、顧客体験を提供することで若者の支持を集めて躍進しています。
いまやインタ―ネットは検索や買い物のツールだけに留まらず、ユーザーの共感や熱狂、社会課題への取り組みを行う場になっていると久志氏。それを前提にしたブランドの存在意義を模索するべきだと話します。
久志:これからのブランドはインターネットを利用したインタラクティブやテーラーメイドのコミュニケーションで、ファンをつくり、ブランド価値を広げていくことが大前提です。それがミレニアル世代の価値観や彼らが好きなものと相まって、一緒に成長していく時代になっていると感じています。
また、米国では「COTOPAXI(コトパクシー)」のような単なる直販ではない、D2C/DNVB(デジタル・ネイティブ・バーチカル・ブランド)」が注目を集めているとのこと。これは、体験を通じて共感を獲得し、ファンを増やしながら商品販売をするビジネスモデルを意味します。
久志:D2C/DNVBというのは、パーパス・ドリブンや一見PRに見えるようなことでも、その背景にある考え方や目的が違っており、消費者と一緒にブランドを作っていくということに重きが置かれています。さらには、消費者のエンパワーメントやコミュニティ形成など、どんどんオープンにして透明性を高めることによって、信頼関係を構築します。D2Cという言葉だけでは、ネット直販と捉えられがちですが、「D2C/DNVB」とすることで、意味が大きく変わってきます。
NEW STANDARD社でも2020年4月に「TUNE」というサプリメントを販売。事業として取り組んでいます。
久志:米国で100社近いD2C/DNVBブランドをリサーチしていく中で、当社でも新しい基準や価値観を捉えたプロダクトへの変換することにチャレンジしていました。そこで、いわゆる製造起点の開発手法ではなく、デザインシンキングというフレームワークを使いながら、ユーザー起点で商品開発を進めました。その結果生まれた「TUNE」は、サプリメントを通して、多様なタッチポイントやコミュニケーション、サポートといった顧客体験を共有し、商品価値を高めていくというアプローチを取っています。
新しいアプローチで生まれたプロダクト「TUNE」は、販売の結果にもつながっているとのこと。
久志:「TUNE」はサブスクリプションのビジネスモデルで、具体的な数字として66日間は飲み続けてほしいというメッセージを発信しています。ローンチ直後は66日までの解約率が40%でしたが、3ヵ月後には20%まで下がりました。これは、ユーザーが抱えている課題をデジタルコミュニケーションで直接ヒアリングすることで、インサイト分析をしていった結果だと考えています。
こうしたD2C/DNVBのビジネスモデルは、今後日本でますます躍進するだろうと久志氏は語ります。
久志:D2C/DNVBのメリットは理解できても、「やり方がわからない」とか「デジタルとオフラインを活用するのが難しい」「インタラクティブにユーザーとコミュニケーションするのが難しい」などの課題があると、よく聞きます。しかし、構造を理解する企業が増えれば、日本でも一気にD2C/DNVBは進んでいくのではないでしょうか。
ECの概念を刷新!ブランドのDXを3社で支援するBDXプロジェクト
こういった既存の概念について、電通、電通デジタル、NEW STANDARD社と一緒に刷新していくサポートをするのが、「ブランド・デジタル・トランスフォーメーション(以下、BDX)」というプロジェクトになります。
三橋:D2C/DNVBブランドに対するアジャストは、簡単にいうと「商品の作り方、見せ方、売り方をデジタル化していく」に尽きます。そこで、まず私たちはECの概念そのものを刷新して、「テクノロジーを使った新しいブランド体験・購買体験」と定義し直しました。
三橋:BDXには4つの特徴があります。まず、1つ目は「ブランドの創造」です。これは既存ブランドを再定義、再創造するケースと、新しく創造する2つのケースがあると考えます。続いて2つ目は、「コミュニティの構築」です。ここにはコンテンツマーケティングやソーシャルメディアでユーザーと関わりをもつ手法が含まれます。そして3つ目が「事業成長の支援」です。電通デジタルが培ったデジタルマーケティングの知見を使い、BDXでの事業成長を支援していきます。そして最後の4つ目が、「イノベーションの創造の型化」になります。社内で新規事業を作っていくときのようなフォーマットを私たちの方で準備して、自走に結びつけるお手伝いをします。
さらにBDXでは、フェーズに応じた7つのサービスも準備。企画設計から構築、グロースなど、事業のあらゆるフェーズにコミットし、適切なサービスを提供することができます。
三橋:このサービスを、NEW STANDARD社の自社事業も含めたノウハウ、コミュニケーション全体のプロとしての電通 、デジタルマーケティングに精通した電通デジタルの3社で、推進していきたいと考えています。