DXを実践している企業は年々増えていますが、「目的が曖昧」「手段が目的化している」といった悩みを抱えているケースが少なくありません。では、既存の仕組みから脱却し、DXを事業成果に結びつけてビジネスの変革を成し遂げるためには、どのようなアプローチが必要なのでしょうか。
このセッションでは、これまで電通デジタルで数多くの企業のDXを支援してきた、ビジネストランスフォーメーション部門・部門長の安田裕美子が、「DX実践企業が次に目指す『ビジネストランスフォーメーション』とは?」と題し、DX先進企業に共通してみられるポイントを解説。DXを単なるデジタル化で終わらせないためにも、理解しておきたいDXの本質や目的を深掘りしました。
以下に、Do!Solutions編集部がセッションの内容をまとめます。
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DXをビジネス変革につなげるために乗り越えるべき3つの課題
まず言及するのは、DXの実態について。電通デジタルの調査では、約7割の日本企業がDXに着手していますが、明確に成果が出ているのは、そのうちの約2割に留まることが分かっています。安田は、このギャップの要因を次のように分析します。
安田:DXで成果が出ている企業の特徴は、全社視点でデジタルとデータ活用の戦略を実行し、改善活動で削減できた費用を投資に回しながらビジネスモデルそのものの変革も狙っている点です。それに対して、あまり効果が出ていない企業の特徴は、効率化や改善活動に留まっているところです。このことから、DXで確かな成果を実感するためには、新たな価値創出を目指し、DXでビジネスモデルを作り変えていくことが必要だと考えます。
また、顧客接点をデジタル化するところまでは着手していても、本当に顧客体験やビジネスモデルを変えられている日本企業は少なく、現在はDXの黎明期に当たると指摘します。そのうえで、DXを実現させるためには、しかるべきステップを踏むことが必要だと言います。
安田:DXのステップ1をデジタルによる業務の効率化や自動化など、インナー業務への着手だとすると、多くの企業はクリアされていると思います。ただ、DXの本質はその先の新たな価値や収益の創出につなげていくところにあります。そこで、次に顧客起点を追求し自らのアセットを活かしながらサービスや事業モデルの変化に挑戦します。このステップ2に到達しなければ、新しいビジネスドメインに結びつけるのは難しいと考えています。
では、DXによる新たな価値や収益創出のステップに到達するうえで、ボトルネックになるものは何なのでしょうか。安田は、各部門におけるデジタル化は推進されているものの、全社的な視点や部門をつなぐところに課題があると語ります。その課題は大きく3つに分けられるとのこと。
課題1
何のためのDXかという本質的な目標やビジョンがない、あるいは社員に共有・浸透されてないことによりDXが進展しない、「構想」にまつわる課題が挙げられます。たとえば、DX部門の方が各事業部に声掛けをしても、非協力的であったり共感を得られなかったりして、DXが滞るという話も非常によく耳にします。これは、DXの構想に関するビジョンが共有されていないがゆえの課題だと思われます。
課題2
課題1にも関連しますが、既存事業の改善あるいは新規事業の取り組みはあるが、それぞれが点の取り組みになっていて事業の全体戦略や設計図がない、「戦略課題」も課題に挙げられます。
課題3
構想や戦略が固まったとして、それを実行に導く司令塔がいない、「実行課題」があります。ビジョンをどう実現していくかを考えたときに、司令塔のような存在がいないことで、各PJが目的通り進捗しない、あるいは個別最適に陥ってしまうことがあります。
事業変革のシナリオとパーパスの重要性
これら3つの課題を解決するための具体策について、次のように解説します。
安田:課題1と2については、「何のためのDXか」「点のプロジェクトをどう線にするのか」を踏まえて、事業変革のシナリオを持つこと、特に従来型企業にとっては既存サービス・既存市場の領域が起点となります。従来型企業の強みは強力な顧客基盤です。しかし、コロナ禍で顧客が大幅に減少したとき、オンラインによる顧客接点を持たなかった企業から、どのようなコミュニケーションやアプローチが顧客に取れるのかとたくさんのご相談をいただきました。
しっかりと既存の領域や事業で、デジタルを活用しカスタマーサクセスを推進し、顧客とつながり、信頼を築いておくことは大事になります。ここを起点に顧客理解を深め、購買前後のサービスバリューチェーンを変革していくことがポイントです。
しかし、既存事業のやり方にとらわれていては、新規顧客の獲得につながる事業モデルを構築するのが難しくなるといいます。
安田:既存事業を発展させ、サブスクリションやD2Cのような「サービス型ビジネス」を取り入れ、新たな価値を提案して事業拡大していくというのが、望ましいステップかと思います。ただ、そのアプローチを順当に進めようとすると、相当な時間を要してしまいます。かつ、新たなモデルは必要な人材もスキルもまったく異なるものです。そこで、新たな事業モデルで「特区」的トライをしてから既存事業に応用していくことがスピーディなビジネス変革には肝要と考えます。ただこの点は、正解を見つけるのは非常に難しく、これまで携わった各企業が悩まれ試行錯誤されている点ではあります。
全社視点での新たな挑戦のために非常に重要になるのが、パーパス(目的)だと安田はいいます。組織はなぜ存在するのかを定義し、目指す方向がバラバラにならないためにも不可欠なパーパスですが、これを決めることはDXの実現において4つの効能があるとのこと。
安田:1つ目は、社員の能動性や誇りの向上です。2つ目は、他社の共鳴の獲得です。ビジネス変革において、自社のポートフォリオにないことは、他社とアライアンスを組む必要も出てくるでしょう。そのときに、単なる受発注という関係を超えた提携でなければ成果創出につながらないことも多い。そこで、パーパスベースの共鳴が効いてくると考えます。3つ目は、顧客や将来の従業員であるデジタルネイティブの人材からの共感獲得です。そして4つ目は、DXによるビジネス変革の過程で迷いが出たときに、進むべき方向の判断軸を得られることです。いきなり全社のパーパスを考えるのが難しい場合は、PJベース、チームベースでも考えてみることをお勧めしています。
グランドジャーニーを描き、「ビジネス×IT」のハイブリッドなサービス設計で顧客への新たな価値を追求
また、顧客育成のシナリオを描くうえでは、顧客体験の設計図「グランドジャーニー」が大事だと語ります。
安田:既存顧客からサービス顧客に育成するまでには、顧客接点や施策を駆使して、一連の顧客体験を設計することが重要です。たとえば、通常は既存顧客に対してオフラインで事業を展開しているとします。そこからアプリを通してオンライン会員へとつなげていくことは常道ですが、そのアプリを基盤にして、次に如何に顧客が望むあらたなデジタルサービスを走らせられるか。新規サービスを点の開発に終わらせず、一連の顧客体験として具現化すること。それが最終的にはオフラインとオンラインの垣根を越えたマーケティングの実現「OMO(Online Merges with Offline)」につながります。
こうした事業変革を支えるためには、DX組織やミドル層のリーダーなどのメンバーが必要だと安田は提言します。
安田:パーパスの設計、事業変革シナリオ、グランドジャーニーを描くといった戦略を実行するには、経営層から単に一方的に指示を送るのではなく、DX組織に所属する一人ひとりの方が目論見を持つことが大事です。そして、DXによる事業変革の推進を理解する方々が各部門に散らばり、DX組織と連携を取りながら、経営層に実践の成果をあげていくことが望ましいです。
そして、この連携においては、ミドル層リーダーの牽引が非常に重要になると話します。
安田:事業変革を起こすとき、既存事業からフォアキャストにアプローチをしても、非連続な成長は望めません。そこで、どのように事業変革のビジョンと現在の事業領域をつないでいくのかというバックキャスト思考を持った方が必要です。その役割に適しているのが、事業領域を熟知したミドル層リーダーであり、事業変革の起爆剤になる方々だと思っています。
電通デジタルのビジネストランスフォーメーション部門は、数多くのDX事例と知見を蓄積しています。各社の課題に応じて最適なメンバーをアサインし、広範囲にわたり企業の事業変革を後押ししています。最後に、DXを事業成果につなげたいと考える方々へ、次のようにメッセージを送りました。
安田:事業変革を具現化していく中で、自社のメンバーだけで顧客体験を設計したり、データや業務、システムに落としこんでいくのは難しいというお声をよくいただきます。電通デジタルではビジネスとITをつなげ、戦略を設計できる垂直思考のトランスフォーメーションディレクターが24名在籍しております。このメンバーとともに、DXによる事業支援を伴走させていただきたいと考えていますので、ぜひご相談ください。