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スマートフォンの普及やAmazonを始めとしたプラットフォームのおかげで、誰でも簡単にオンラインで物を買えるようになりました。では、ECやオンライン市場はこれからどう進化していくのでしょうか? 電通デジタルの宮川大輔氏、川久保剛氏に数年内に実現するであろう「ECの未来と可能性」を聞きました。
PROFILE
デバイスが変われば買い方も変わる
オンラインで物を買うことは当たり前となりましたが、この先ECはどうなっていきますか?
川久保:すでにいろいろな方向に拡張したり、変化したりといった傾向が見えています。「ヘッドレスコマース」という形もそのひとつです。これはフロントエンドとバックエンドのシステムを切り離したECという意味で、プラットフォームに左右されず、自由なスタイルでデザインできるようになります。
また、その概念を拡張していくとShopifyのようなECプラットフォームとInstagramをつなげて、Instagram上で買い物ができるような仕組みもヘッドレスコマースと言えると思います。フロントエンドはInstagramだけれども、カートや決済機能などのバックエンド業務はShopifyに、という形です。このように、ECとその他のものがつながることで、あらゆる場所で買い物ができるようになっていくと考えています。
AR(拡張現実)が爆発的に普及する瞬間がいずれ訪れると思いますが、そうなればARグラスから買い物できるようになるんだろうなと。
いつどこにいても買い物できる環境がある、ということになっていくのですね。
川久保:ユーザーが日々触れるものの中で、すぐに物が買える状態を作ることが大事で、そこを強化していくことが、これから企業に求められていくでしょう。競争力を高めるためには、コンタクトポイントを増やして機会損失を減らすことが、より重要になってくると思います。
宮川:環境変化、そしてデバイスの進化は常に起きていくわけですが、環境変化には5G通信の普及やIoTサービス、モビリティの変化や自動運転といったことが想定されます。デバイスも今はスマートフォンやパソコンの周辺機器としてARやVRのデバイスが存在していますが、主役の座は変化していくと考えられます。今後5年ぐらいで急速にその具体的な形が見えてくると予測されます。
近未来のキーワードは「OMO」になる!?
宮川:これまでユーザーは、パソコンからスマートフォンへと使用するデバイスを移し、最初は何でもGoogleで検索していたのが、買い物であれば最初からAmazonや楽天市場、Yahoo!ショッピング、何かのhow toであればYouTubeといったサービスごとに検索するようになり……と、行動を変えてきました。今はその次のステップに移っていて、欲しい物をInstagramで検索したり行きたい場所をTwitterで調べたりという風に、目的ごとに異なる手段で検索するようになっています。
さらにその先を考えるとデバイスとしてはARやVR(仮想現実)が入ってくるでしょう。そうなったときにキーになるのが「OMO」です。
「OMO」は注目されていますが、詳しく教えてください。
宮川:OMOは「Online Merges with Offline」の略で、オンラインとオフラインの垣根がなくなるというマーケティングの概念です。これからは、このOMOの世界が一般的になっていくと言われています。
たとえば、店舗で商品のバーコードをスマートフォンで読み取ると詳細な商品情報やクーポン情報などを確認できるため、決済もタッチやQRコードを読むだけで完了できる。また、会社からの帰りの電車でスマートフォンで事前に注文しておき、家の近くのスーパーですでにピッキングされた商品を受け取るだけなど、購入体験の流れにオンラインもオフラインも当たり前の様に存在しているわけです。
こうなると、オンラインとオフラインが連携したチャネルで、欲しい商品・サービスと情報が両方において整っていなければ、消費者の関心はすぐに他のものに移ってしまいます。
OMOの実現は、ストレスのない購入体験を整えることで消費者のニーズを満たすことに他なりません。
オンとオフの隔たりをなくすためにはやはりシステム的な対応が必須となります。オンラインだけをみても、新たなデバイスやプラットフォームが生まれてくる。いろいろなデバイスやプラットフォームで購買体験をシームレスに提供することは、想像以上に大変です。そこでフロントエンドとバックエンドを切り離し、集中管理と簡易拡張を実現するためのヘッドレスコマースという考え方が大切となります。
ON/OFFの垣根がなくなるからこそ「全体を見る力」がより重要に
ヘッドレスコマースを考えると、戦略立案から運用代行まで全体を俯瞰して見ることが、より重要になってきそうですね。
宮川:実際にヘッドレスコマースで幅広く展開したいとなったとき、「具体的にどうすればいいんだろう?」となると思いますから、全体を把握できる人がいることは大切ですし、フェーズごとに専門的な知識や経験を持った人も必要になるでしょう。電通グループには、各分野を専門的に担当している者もいますし、部門をまたいで協業したり共同研究したりといったことができるので、これからの新しい環境の中で強みになるのではないかと思います。
川久保:クリエーティブチームと世界観を共有しECサイトを作ったり、ブランドのCI的な部分はクリエーティブチームに任せながら、販売の仕組みづくりや事業計画を私たちが担当したり、ということはすでに実際に行っています。
宮川:人材の点では、電通のプロパーはもちろん、私のようにECの事業会社から転職してきた者や川久保のようにWebディレクターを経験してきた者、電通グループ内で出向してさまざまな経験を積んできた者など、いろいろな知見を持った人材がいます。多様な視点や技術を持った人材がいることはとてもプラスになっていて、より幅広い企画や展開が可能となっていますね。
また電通は、GoogleやYahoo!、楽天、Facebook、Amazonといったプラットフォーム企業とも、広告を通じてお付き合いがありますから、いち早く新しいソリューションをキャッチして、戦略を考えていくことも可能です。このあたりは電通グループならではの強みだと言えるでしょう。ちなみに、ARの分野では2019年にZEPPELIN(ツェッペリン)というベンチャー企業と協業・共同研究という形で、ARプラットフォーム「ARaddin(アラジン)」を活用したマーケティングソリューションの開発をはじめました。
2年後には激変?ECの未来はすぐそこまできている
OMOを始めとした、新しい概念が生まれていることはわかりました。気になるのは、そうした未来が「いつやって来るのか?」です。
宮川:わりと近いのではないでしょうか。これまで、5年以上はかかるかなと思っていたのですが、Appleなどの動向を見ているとARグラスも今後1~2年で続々と出てきそうに思います。
また、コロナの影響で、いろいろなことがオンラインで完結する世界が一気に近づいたと思いますね。リアルが重要視されてきた営業や押印の文化も一気に変革されています。これらも数年前から技術的に可能であったものが環境の変化でパラダイムシフトが起こりました。これまでお話したOMOやARも技術的なことだけで言えばもうできるのです。でも、前述の世界観や受け入れる土壌がなければ広がりにくいもの。そうした中で、コロナ禍での強制的な行動変容が、オンライン市場に関してはポジティブに働いていると思います。
ARを始めとした新しいデバイスにOMOという新しい概念……。ECを取り巻く環境は着々と進化していて、しかもその未来はすぐそこまで来ていると言います。単にモノを売るだけでなく、そのプロセス、いわば「コト」までもデザインしていく必要がある。後編では、進化しても変わらない「普遍性」について話を聞いていきます。
※当記事は2020年7月15日時点の情報を元に記事を執筆しております。