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インフルエンサー施策で陥りがちな効果検証の落とし穴
本連載の第1回の記事では、若者がいかにインフルエンサーを頼りにしているか、そして企業がインフルエンサーと協業するときに気を付けておきたいTipsや、その活用の広がりについてご紹介しました。その中で、いいね数やコメント数など、確認すべきいくつかの指標に触れていますが、この記事ではそうした効果検証にフォーカスしてお伝えします。
Instagram上で行った施策の場合、もっとも頻繁に用いられる指標が、フォロワー数と、いいね数やコメントしたユーザー数などの投稿への反応数をフォロワー数で割ったエンゲージメント率ではないでしょうか。
※コメントしたユーザーの数の他に、保存数を加えることもあります
しかし、インフルエンサー施策の役割が多様化している現在、フォロワー数やエンゲージメント率だけに頼るのは少々危険です。
まずフォロワー数は、インフルエンサーの影響力を示す、もっとも重要な指標であることは確かです。これは、インフルエンサーの投稿がどれだけ多くの人に届け得るか、あるいは届けられたか、というリーチを示す役割で用いられます。
ただし、実際にフォロワーのすべてに投稿が見られるわけではありません。YouTuberのチャンネル登録者のすべてが動画を再生するわけではないのと同じように、フォローはしているものの、しばらくInstagramを開いていないユーザーや、たくさんのアカウントをフォローしており投稿を見切れないユーザーがいるからです。
そのため、フォロワー数だけではなく、投稿のインプレッション数やリーチ数も確認する方が望ましいといえます。
一方エンゲージメント率は、インフルエンサー施策や投稿の質を判断する際に用いられることが一般的です。
また、プランニング時には、平均エンゲージメント率として、そのインフルエンサーの最近の投稿で、どれだけ反応が得られているのかを示す指標として提示されることも多いのではないでしょうか。インフルエンサーの費用はフォロワー数に応じて決まることが多いため、同じ金額であれば、平均エンゲージメント率の高いインフルエンサーを起用する方がお得であるように見えます。
もちろん、エンゲージメント率が高いに越したことはありません。ただし、フォロワーの属性や投稿カテゴリによっても、大きく変わってくる指標でもあります。例えば、若年層ほどSNSの機能を使いこなしているためか、フォロワーの年齢層が若ければ若いほど、エンゲージメント率は高くなる傾向にあります 。そのため、エンゲージメント率だけを指標に運用していたら、30代~40代向けの商品なのに10代~20代のファンの多いインフルエンサーを起用してしまった、という失敗も起こり得ます。
このように、フォロワー数とエンゲージメント率だけでは、インフルエンサー施策の評価が万全とは言えないのではないでしょうか。
第1回の記事では、インフルエンサーとの協業はPromotionだけでなく4P全体に拡張しつつあることを紹介しました。しかし、Promotionに限っても、施策の目的は多様です。商品の認知なのか、検討時の後押しなのか、購入なのか。パーチェスファネルのどこが目的なのかによって、重視すべき指標は変わってきます。
そこで本記事では、目的に応じた指標を、主にInstagramを例にとって解説していきます。
認知を獲得したいときに見るべき指標
商品やブランド、サービスの認知が目的の場合は、インフルエンサー投稿に接触した回数や人数を指標とすることを推奨します。この場合、フォロワー数よりも、投稿のインプレッション数やリーチ数を確認する方が望ましいことは、既に述べました。
ただしInstagramにおいて、投稿のインプレッション数やリーチ数は、インフルエンサー本人しか確認することができません(インフルエンサーの許諾を経て、外部のツールにデータを提供している場合を除く)。Twitterのインプレッション数も同様です。これらのデータの提供が可能かどうかを、事前に確認しておくと良いでしょう。
なお、認知を目的としたインフルエンサー施策の場合、広告と比べるとどうしても費用対効果が悪くなります。そこで、Instagramのブランドコンテンツ広告、Twitterの第三者ツイート配信なども組み合わせて、フォロワー外にリーチを広げることもお勧めです。ターゲットが合致していれば、企業の投稿コンテンツを広告配信するよりも興味を持ってもらいやすく、エンゲージメント率が良くなる傾向にあります。
興味・関心を獲得したいときに見るべき指標
インフルエンサー投稿は、商品の認知を広げるだけではありません。
自分の好きなインフルエンサーが紹介しているからこそ、商品に興味を持つことも多いでしょう。もちろん使用感を伝えるなど、商品の特徴を理解させることもできます。そのような、興味・関心を得ることを目的とする場合は、いいね数が参考になる指標です。
ただし前述したように、いいねの付きやすさ(エンゲージメント率)は、フォロワーの属性や投稿カテゴリによって左右されます。そこで、起用したインフルエンサーの平均エンゲージメント率と、実施した投稿のエンゲージメント率を比較することで、実施した施策がうまくいったのかを確認することができます。インフルエンサーと商品の相性はとても重要です。その相性を、平均エンゲージメント率との差で測ることができます。
具体的な態度変容を目的としている場合は、コメント欄を見ることも重要です。商品に対して興味を持っているコメントを見つけるだけではなく、商品に対して「買いたい」と思わせられたかを調べたり、商品に対して「軽い」「発色が良い」「健康的」などの特別な価値付けができたかを調べたりします。
ただし、小規模な施策ではそこまで多くのコメントが得ることはできません。そのため、コメントを定量的に扱うのは困難です。そこで、Instagramのストーリーズ投稿でアンケートを取ることも選択肢の一つです。ストーリーズのスタンプは、動きのあるGIFスタンプが一般的ですが、「アンケート」や「質問」など、インタラクティブな機能のあるスタンプも使うこともできます。
この「アンケート」スタンプを用いて、2択のアンケートを実施することができます。例えばフィード投稿(Instagramの通常の投稿)の翌日に、ストーリーズ投稿で昨日のフィード投稿を紹介してもらい、それとともに「商品が使いたくなった?」「買いたくなった?」といった質問を投げかけます。
こうした質問により、利用意向や購買意向等を測ることができます。「アンケート」スタンプは2択のみですが、「質問」スタンプを使って自由回答をしてもらうこともできます。これらの機能により、どの投稿が目的に対して有効であったかを比較することができます。
検討時の検索行動を捉えたいときに見るべき指標
SNSでの情報の出会い方の特徴は、「タグる」というキーワードでも表されるように(参考記事:ウェブ電通報|SNSで情報を探す時代へ:「ググる」から「タグる」へのシフト)、ハッシュタグを起点として、新たな情報に出会ったり、コミュニティと繋がったり、ムーブメントが起きたりします。そのように、インターネットで何かを調べる際、GoogleだけではなくInstagramやTwitterで調べることも一般的になっています。
そのため、特にInstagramにおいては、多くの人に検索されそうなハッシュタグを付けることが重要です。それにより、フォロワー以外の方にも投稿を見てもらえる機会が増えます。では、そのハッシュタグが有効に機能したのかはどのように検証すればよいのでしょうか。
一つの方法は、インプレッション数やリーチ数を調べることです。
ハッシュタグ検索経由で投稿が表示された場合、その分インプレッション数やリーチ数は増加しますが、その内訳が重要です。インプレッション数であれば、ハッシュタグ検索画面のインプレッションがどれだけあったのか、リーチ数であれば、フォロワー以外のリーチがどれだけあったのかを調べることで、ハッシュタグが有効に機能したのかを推察できます。
実際に検索してみるという方法もあります。ハッシュタグ検索を行うと、まず現在の人気投稿が表示されます。この人気投稿に選ばれることで、ハッシュタグからの流入が格段に増加します。そのため、人気投稿(トップ投稿の上位)に表示されたかどうかを定期的に確認することで、ハッシュタグからの流入の多寡や、どのハッシュタグが有効に機能したのかを推察できます。
※Instagramのスマートフォンアプリからハッシュタグを検索した場合は、「TOP」と「最近」という2つのタブが表示されます。対象の投稿がTOPタブの上位に表示されていれば、このハッシュタグからの流入が多いことが推察されます。
検討候補になったのかを知りたいときに見るべき指標
近年、「SNS映え」「インスタ映え」はもう古い、という話が聞かれるようになりました。単なる映えだけではなく、「有用性」や「有益性」が求められているようです。例えば、美容テクニックのHowtoコンテンツや商品レビュー、料理のレシピなどが有用な投稿の代表といえます。
そうした投稿は、商品への関心を高めるだけではなく、購買検討時の判断材料としても使われます。検討時の情報収集として有効なのが、Instagramの保存機能です。投稿を保存することで、後から読み返すことができます。
そのため、いいね数やコメント数だけではなく、保存数もきちんと確認することで、インフルエンサーのファンやユーザーにとって価値のある情報を伝えられているのか、そして商品が検討候補に挙がっているのかを把握できます。
購買を目的としたときに見るべき指標
ライブコマースなど、インフルエンサー施策から購買につなげる取り組みは大きな注目を集めています。
しかし、インフルエンサー投稿から購買への寄与を測る方法は、かなり限定されています。特にInstagramの場合、フィード投稿から外部サイトへのリンクを貼ることができません。そのため、ストーリーズ投稿を用いたり、プロフィールを経由したりするなど、少し特殊な方法を取ることになります。結果として、成果が見えづらくなりがちです。
一方で、Instagramにはショップ機能(ShopNow)が存在します。
現在、インフルエンサー投稿でこの機能を用いることはできませんが、今後対応が行われれば、購買に誘導でき、その成果を測ることができる重要な接点となることは間違いありません。
間接的に効果を確認する方法として、インフルエンサー投稿に合わせて、売上がどう変化したのかを追うのがよいでしょう。購買場所がオンライン中心で、インフルエンサー施策の比重が大きい場合は、成果も見えやすく有効です。
SNS上の行動を活性化させたいときに見るべき指標
インフルエンサー投稿をきっかけに、商品やブランドに関するSNS上の投稿(UserGeneratedContents)を増やしたいという目的を設定することも多いのではないでしょうか。
この場合、インフルエンサー投稿による直接の効果を測ることは難しいのですが、インフルエンサー施策に合わせてハッシュタグ投稿数(Twitterであれば言及数)がどう変化したかをチェックすることで、間接的に影響があったかを把握できます。
例えば、自社ブランドの投稿が競合ブランドと比べて少ないことが課題であれば、競合ブランドを含めたカテゴリ全体の投稿のうち、対象のブランド投稿の割合(ShareofVoice)の変化を追うことが有効です。同様に、ポジティブな投稿や、特定の文脈の投稿を増やしたいのであれば、コメント内容と同様に言及内容を調べて、その変化を追うことが有効です。
まとめ
以上をまとめたのが下の表です。インフルエンサー施策の効果検証と一言で言っても、その内実は、目的ごとに大きく異なることがわかります。
また、本稿ではInstagramを中心に解説をしましたが、他のSNSプラットフォームでは、取得できる指標や有効な指標が異なります。Instagramに限っても、機能の変更が行われると、新たな指標が出現したり、重要度が変化したりします。
そのため、膨大な指標の中で迷子になるのではなく、目的に合わせて重要な指標に焦点を絞っていくことが大切だといえるでしょう。
次回は、インフルエンサー施策において機会損失をしないための、そして効果を更に高めるための一歩踏み込んだ方法をご紹介します。
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