K-POPやアニメなど、エンターテインメントやIPの領域でよく使われる「ファンダム」。実は、企業やブランドにも同じように熱狂的なファンが存在しています。それは“企業ファンダム”と呼べる存在です。すでにこの企業ファンダムをうまく活用し、事業成長につなげている企業も少なくありません。そこには、ファンとの共創やブランドの持続的成長を目的とした、新しいマーケティングアプローチのヒントがあります。
本記事では、「ファンダムとは何か」という基本から出発し、企業におけるファンダムの実例や、ファンとの関係性の変化をひも解きながら、企業のファン戦略がどのように進化しているのかを解説します。
INDEX
「ファンダム」という言葉は、K-POPやアニメ、アイドルなどエンターテインメントやIP(知的財産)の領域で語られることが多い概念です。アーティストや作品に対する深い共感や愛着を持ち、SNSなどで自発的に発信・応援する人々の集合。単なる“ファンの集まり”ではなく、共感を軸にした参加型のコミュニティとして存在しているのが特徴です。
ファンダムの力は、個人の熱量を集め、社会的なムーブメントや経済的インパクトをもたらします。特定の対象を「応援する」ことが、やがて「支援する」「共に創る」活動へと広がる―そんな現象が世界中で見られるようになっています。
こうした熱量の高いファンは、実は企業やブランドのまわりにも存在しています。
特定の商品やサービスを強く支持し、理念や世界観に共感してくれる人たち——いわば“企業ファンダム”とも呼べる存在です。
たとえば、毎年新作を楽しみに購入する顧客、SNSで自ら製品の魅力を発信する愛用者、ブランドストーリーを語るファンなど。彼らは単なる「リピーター」ではなく、ブランドの価値を自ら広げる“共創的なファン”です。
この“企業ファンダム”に目を向け、関係を意識的に育むことが、これからのファンマーケティング戦略の第一歩となります。「自社にもファンダムがある」という発想の転換が、これからのブランド成長の起点になるのです。
近年、企業ファンダムを意識したマーケティングを展開する企業が増えています。
単なる“顧客満足”ではなく、ファンの熱量や共感を起点に、ブランドとファンが共に価値を育てる関係性を築こうとしているのです。ここでは、3つの代表的な事例を紹介します。
| 企業 | 取り組みの概要 | 主な施策・特徴(具体例) | ファンが熱狂し広がる仕組み |
|---|---|---|---|
| ヤッホーブルーイング | ファンを“仲間”と位置づけ、ファンイベントや双方向コミュニケーションを通じて熱量を高め、企業全体のファン基盤を拡張 | ●数千人規模のリアルイベント「超宴」で生活接点を創出 ●NPSの継続測定でファン熱量を可視化し戦略へ反映 |
イベント・日常接点・データ活用を通じてファンの熱量を可視化・共創・拡張するエコシステムを構築 |
| PHOEBE BEAUTY UP | メディアを起点に、フォロワーとの対話・共創を重ね、ファンを成長ドライバーへ転換 | ●InstagramのDMでの1to1対応で声を製品開発に反映 ●「DINETTE」フォロワーを初期ファン基盤にブランドを共創 |
メディア×SNS連携で共感を起点にファンが自発的に拡散・共創する構造を形成 |
| Snow Peak | ブランド哲学を軸に、リアルとオンラインを連携させたファン育成の場を長期的に運営 | ●「Snow Peak Way」を定期開催し、創業者・社員とファンが哲学と体験を共有 ●オンラインコミュニティでユーザー同士の交流を促進 |
哲学共有・リアル体験・継続的交流により、ファンがブランドと共に“生きる”構造を形成 |
これらの企業に共通するのは、「企業が主導してファンを囲い込む」のではなく、ファンの共感・参加・発信を軸にした関係設計を行っていることです。ファンを重要な“商売相手”ととらえるのではなく、“共にブランドを育てる仲間”として捉える発想こそが、これからのファンマーケティングのあり方です。
次章では、なぜ今こうした“ファン起点”の考え方が注目されているのか——その背景を解説します。
近年、企業が熱狂的なファンの存在に注目し、マーケティングの中核に据える動きが広がっています。その背景には、テクノロジーの進化や社会の価値観の変化など、いくつかの大きな潮流があります。ここでは、その主な3つの理由を整理します。
| 背景・トレンド | 内容 |
|---|---|
| デジタル化で“ファン発信”の影響力が企業発信を上回る時代に | SNSや動画プラットフォームの普及で、生活者一人ひとりが発信者に。企業発の広告よりも、ファンによるリアルな声や体験共有のほうが信頼と拡散力を持つようになる。いま企業は情報を“管理”するのではなく、ファンが語りたくなる体験や共感の場づくりに力を入れている。 |
| 価値観・ライフスタイルの多様化により、“共感軸”がブランド選択の基準に | 性能や価格ではなく、自分の価値観に合うブランドを選ぶ時代に。環境配慮やストーリー性などへの共感がファン化を促す。企業も「発信」から「共に世界観を紡ぐ」姿勢へとシフトし、共感でつながるコミュニティづくりを重視。 |
| 熱狂的なファンを起点に、ブランドの“広がり”と“信頼”を両立 | 熱量の高いファンはブランドの理念を理解し、信頼ある発信で自然な拡散を生み出す。その共感の連鎖が“ブランド共感資産”となり、広告では得られない持続的なブランド成長を支えている。 |
こうした背景を受けて、企業とファンの関係性そのものも変化しつつあります。ファンを単なる“支持者”として扱うのではなく、共にブランドをつくり上げる存在として捉える流れが広がっています。そして、そうしたファンとの関係を一過性のつながりではなく、ブランドと共に成長していく関係として捉え、その関係性を“育む”ことが求められています。
「既にいるファンダムを活かす」だけでなく「新たなファンを育みファンダムを強くする」へ―企業のファンマーケティングがどう変わってきているのかを解説します。
これまでのマーケティングでは、ファンは企業が築いたブランド価値を支持してくれる存在―いわば“結果”として生まれるものでした。しかし今、企業とファンの関係性は大きく変わろうとしています。ファンを単に「活かす」のではなく、既にいるファンとの関係を深めながら、新たなファンを育み、ファンダムをより強固にしていくことが重要です。つまり、ファンと共に価値を“育む”関係へと進化しているのです。
従来のファンマーケティングは、企業が発信するメッセージに共感した生活者がファン化し、購入や推奨を通じてブランドを支える——そんな構造が一般的でした。つまり、企業がつくった価値にファンが参加するという、企業主導の一方向型モデルです。しかし現在は、SNSやオンラインコミュニティを通じて、ファン自身がブランドの価値を形づくる時代に変わっています。
ファンの投稿やUGC(ユーザー生成コンテンツ)がブランドストーリーの一部になり、企業側が意図しない文脈で共感が広がっていく。その結果、ブランドは「企業の資産」ではなく、ファンと共に成長し続ける“共創的な存在”へと進化しています。この変化は、ファンマーケティングの転換点と言えるでしょう。
いま注目されているのが、ファンの共感や発信力を戦略の中心に据え、企業と共に価値を育てるアプローチです。従来の「ファンを活かす」マーケティングが関係の深化を目的としていたのに対し、「ファンを育む」アプローチは、ファンとの関係を広げ、共感の輪を拡張していくことに重点を置きます。
この考え方を体系化したのが「ファンファーミング(Fan Farming)」。“ファンを獲得する”ではなく、“ファンを耕し、ファンとの関係を育み、共に広げていく”という発想です。企業とファンが双方向で価値を紡ぎ、共感を基盤にブランドを成長させていく——いま、そうした新しいファンマーケティングへのシフトが本格化しています。
次章では、この「ファンを育む」考え方をより具体的に体系化した新しいマーケティング手法、ファンファーミングの構造とその実践プロセスについて詳しく見ていきます。
これまでのファンマーケティングは、既存ファンとの関係を深めることが中心でした。
ブランドイベントや会員限定施策などを通じてロイヤルティを高める一方で、「新しいファンをどう増やすか」「共感の輪をどう広げるか」という課題が残っていました。そこで登場したのが、“ファンを育む”という新しい考え方―ファンファーミング(Fan Farming)です。
ファンファーミングとは、ファン基盤を“耕し、育み、広げていく”アプローチ。既存ファンとの関係を大切にしながら、共感軸を起点に潜在ファンを惹きつけ、熱量を高めていくことを重視します。つまり、企業がファンを「囲い込む」のではなく、ファンと共に育ち、ブランドの輪を拡張していく発想です。
| 従来のファンマーケティング | “育む”ファンファーミング | |
|---|---|---|
| 基本姿勢 | 既存ファンとの関係を深める | 既存+潜在ファンとの関係性“育み”、仲間を広げる |
| 対象 | 既存ファン中心 | 潜在ファン(種)+既存ファン(育成) |
| 目的 | 関係維持・価値共創 | ファン基盤拡張とブランド成長の共創 |
| アプローチ | 関係の深化 | 発見→関係育成→ブランド成長という戦略プロセス |
ファンファーミングの本質は、ファンを“顧客”ではなく“仲間”として捉えることにあります。ファンを増やし、共に価値を育み、共感を広げていくことが、これからのブランド成長の鍵です。
次章では、この“ファンを育てる”考え方を実践に落とす仕組みのひとつとして、電通が提供する「Fan Farming CX」の基本的な考え方を紹介します。
企業とファンの関係性は、いま大きく変化しています。これまでのように「ファンを活かす」だけでなく、ファンと共に価値を“育む”ことが求められる時代になりました。
この新しいファンマーケティングの考え方を体系化したのが、「ファンファーミング(Fan Farming)」です。ファンファーミングとは、ファン基盤を“耕し、育み、広げ、共に成長する”というアプローチ。企業とファンが双方向で関わりながら、ブランド価値を共創していくマーケティングの新しい形です。
具体的には、次のような考え方に基づいています。
● 潜在ファンと既存ファンを両輪で捉え、共感軸を起点に関係性を育む戦略
● “囲い込む”のではなく、“共創・拡張する”発想
● ファンダム的な熱量を戦略的に育み、ブランドを共に成長させるアプローチ
ファンファーミングは、単なる施策の集積ではなく、“ファンと企業が共に育つ関係”を中長期的に設計するための思想です。
ファンファーミングを実践するには、一過性の施策にとどまらず、潜在ファンを耕し、強力なファンとへ育み、広げるための戦略と環境づくりが欠かせません。その実践を支援する仕組みの一つが、電通が提供する「Fan Farming CX」です。
Fan Farming CXは、ファンファーミングの考え方を具体的なマーケティング活動に落とし込むフレームとして、次の3つのステップで支援します。
● ファン(ポテンシャルファン+既存ファン)の徹底理解を行う
● ポテンシャルファンを、パワーファンへと育む基本戦略(”ファン育”羅針盤)を策定する
● 獲得から顧客育成フェーズまで、マーケティング全体を視野に入れたファン育成アクションを設計・最適化する
このように、ファンを“見つけて、育てて、広げる”プロセスを一貫して支援することで、企業とファンが共にブランド価値を高めていく構造を実現します。
「ファンダム」は、ショービジネスやアニメなどエンターテインメントやIPの領域だけでなく、企業のマーケティングにおいても重要な視点になりつつあります。
自社のまわりにいる“企業ファンダム”に目を向け、既にいるファンを“囲い込む”のではなく“育む”戦略へと転換」すること。それが、これからのブランド成長に欠かせないアプローチです。そして、その実践を支える考え方の一つが「ファンファーミング(Fan Farming)」。
ファンの共感と参加の力を軸に、ブランドを共に育てる——。その第一歩として、「ファンダム」という視点から、自社のマーケティング戦略を見直してみてはいかがでしょうか。