INDEX
① インフルエンサーマーケティングにも「アドベリフィケーション」が必要な時代に
前編では、パーチェスファネルの段階ごとに、インフルエンサー施策で見るべき指標を解説しました。続く本記事ではまず、フォロワー水増しに代表される、インフルエンサーフラウド(Influencer Fraud)について触れていきます。
フォロワーの水増しは、テレビ番組で詳しく取り上げられたこともあり、気になっている方も多いのではないでしょうか。インフルエンサーの費用は、フォロワー数に比例した金額となることが一般的であるため、インフルエンサーがフォロワー数を増やしたくなるのは想像できます。
水増しされたフォロワーは、ボット(人が運用するアカウントではなく、プログラムによって機械的に作動しているアカウント)や、不正に操作されてしまったアカウントなどです。いずれにしても、インフルエンサーの投稿に興味を持っているアカウントではないため、マーケティング上の効果はありません。
似たような状況は、デジタル広告配信でも起きています。それがアドフラウドです。デジタル広告は、通常、インプレッション数やクリック数によって費用が発生します。ところが、人がバナー広告を閲覧したり、クリックしたりするのではなく、機械がそれを不正に行うことで、インプレッション数やクリック数を水増しするのです。
デジタル広告においては、この問題に対して、機械による広告配信かどうかを判断して、機械への配信を防止するなどの対策を取っています。こうした広告価値毀損への対策全般は、アドベリフィケーションと呼ばれています。
同じように、インフルエンサーフラウドに対しても、似たような取り組みが必要とされています。
② さらに厄介な「いいね」の水増しも
フォロワーの水増しに対してできることは、まずフォロワーのチェックです。
日本語圏で活躍しているインフルエンサーなのに、外国人のフォロワーばかりであれば、水増しの可能性が高いといえるでしょう。また、フォロワーの推移を計測できるツールを用いることで、不自然な増え方をしていないかを確認することもできます。
さらに、フォロワー数を重視するのではなく、エンゲージメント数(いいね数)や、コメント数などを重視してインフルエンサーのキャスティングを行うことも対策のひとつです。過去投稿のインプレッション数や、リーチ数も、判断材料にできるでしょう。
水増しが行われていないことを100%保証することは困難ですが、このように、いくつかのデータを複合的に確認していくことで、インフルエンサーフラウドのリスクを抑えることはできます。
一点気を付けておきたいのは、エンゲージメント数(いいね数)です。私たちが実施したインフルエンサーフラウドの実態調査では、フォロワー水増しの疑いのあるインフルエンサーの約3分の2は、「いいね」の水増しの疑いもあることがわかりました。したがって、エンゲージメント数だけを見て安心はできません。フォロワーと同じように、どういったユーザーが「いいね」をしているかの確認も必要です。
③ 熱量こそがインフルエンサーの真価
ここまで、インフルエンサー施策の成果を毀損しないための防止策を説明してきました。一方で、インフルエンサー施策をより効果的なものとするには、どのような方法があるのでしょうか。
第1回「インフルエンサーと協業するうえで押さえておきたい5つのTips」では、インフルエンサーと協業する際に気を付けておくべきTipsとして、5つのポイントを挙げています。この中に「商品・サービスのことをちゃんと知ったうえで意義ある発信をしたいというインフルエンサー側の熱量を踏まえ、インフルエンサー自身に商品・サービスの魅力を十分に伝えられているか」というポイントがあります。インフルエンサーは、メディアの枠のようなものではありません。ファンに有益な情報を伝えたいという熱量を持った個人です。
したがって、インフルエンサーが熱量を持ち、商品・サービスを伝えられる状況を作ることで、さらに信頼でき、共感できる内容になると考えられます。これはインフルエンサー自身も語っており、ウェブ電通報での連載「フェイスブック ジャパン×電通『インフルエンサーってそういうことだったのか会議』」でも紹介されています。
それでは、インフルエンサーの熱量を高めたり、捉えたりするには、どうすればよいのでしょうか。
④ 3つの要素で熱量とその影響を測る「熱量サイクル」
熱量は主観的なものです。そのため、インフルエンサーの熱量を客観的に評価できる数字で表すことは、簡単ではありません。そこで私たちは、熱量による影響も含めて、統合的に判断していくのが良いのではないかと考えました。そこで開発したのが、次の「熱量サイクル」というモデルです。
まず最も外側の円がリーチです。リーチした方の中で、興味・関心を持った方が、いいねなどのエンゲージメントを行います。この2つは一般的な効果指標ですが、エンゲージメントだけでは望ましい態度変容が得られたかはわかりません。そこで、さらに深い効果として、インフルエンサーの熱量とその伝達の影響がある、という図になっています。
この中心の部分は、「インフルエンサーの熱量(ES=Evangelist Score)」の他に、「インフルエンサーと商品・サービスとの相性(Affinity)」「投稿を見たファンのブランドリフト(Brand Lift)」という3つの要素から構成されています。
仮にインフルエンサー個人が高い熱量を持っていたとしても、それがファンに伝わるかどうかは、投稿のスタイルやファンの傾向と、サービス・商品との相性に依存します。相性が良ければ、ファンの意識変化や行動喚起につながります。そしてファンの反応が良ければ、それがインフルエンサー自身にもフィードバックされ、さらに熱量が高まっていくでしょう。「熱量サイクル」は、このような好循環をモデル化したものです。
この3要素を総合的に評価していくことは、特に継続的にインフルエンサーを起用し続ける場合に有効です。複数起用したインフルエンサーの中から、熱量の高いインフルエンサーを見出し、継続起用していくことで、ブランドを自ら推奨してくれる「エバンジェリスト」に育成していくことが可能になります。
⑤ 「熱量サイクル」で見るべき指標
それでは、この3要素は具体的に何を計測すればよいのでしょうか。Instagramでの施策を対象とした計測項目を、次の表に整理しました。
ここでは、施策実施前と実施後に分けて整理しています。
施策実施前においては、膨大に存在するインフルエンサーの中から、商品・サービスと相性の良いインフルエンサーを絞り込む必要があります。その方法として、「商品・サービスとの相性」を評価することは有効です。例えば、スキンケア商品であれば、普段からスキンケア関連の投稿をしていたり、その投稿のエンゲージメント率が高かったりするようであれば、そのインフルエンサーのファンはスキンケアに興味があるでしょうから、相性が良いとみなすことができます。
さらに、ある程度インフルエンサーを絞り込んだ状態であれば、候補インフルエンサーに直接アンケートを回答してもらい、商品・サービスについての関与度や共感を確認してしまうのも有効です。
アンケートは、施策実施後にも有効です。既に投稿を行っているため、推奨度など、さらに深い関与を聞くのが良いでしょう。また、発注者に対しては、過剰に良い回答をしがちなものです。そこで、実際に推奨したか、実際に購買したかなど、行動を確認することで、信頼度の高い回答を得ることができます。
また、通常のエンゲージメント率と比較して、施策対象の投稿の反応が良かったかどうかを調べることで、商品・サービスとの相性を測ることができます。実際にファンに影響を与えられたかどうかは、前編でも紹介しているように、コメント分析やストーリーズアンケートから確認できます。
ここではInstagramで測れる指標を解説しました。プラットフォームのアップデートにより、新たに有効な指標が出てきたり、逆に計測できなくなる指標が出てきたりするかもしれません。さらに、新たなSNSが活躍の場になるかもしれません。その場合はもちろん、違った指標を考える必要があります。しかし、インフルエンサーの熱量の重要性は変わりません。インフルエンサーを継続して運用していくにあたっては、そのプラットフォームがどこであろうと、「熱量サイクル」は有効なモデルとなるでしょう。
⑥ インフルエンサー運用適正診断のご紹介
最後に、前編・後編でご紹介したノウハウの一部を用いた、「インフルエンサー運用適正診断」を紹介します。これは、過去に実施したインフルエンサー施策に対して、次の点を診断、報告します。
● インフルエンサーが適正に起用されていたか
● 商品・サービスに対してポジティブな影響を与えたか
● 継続起用に向けての示唆
一度はインフルエンサー施策に取り組まれた企業やブランドは多いと思います。しかし、フォロワー数やエンゲージメント率といった指標だけでは、効果が出ているのかよくわからないことが多いのではないでしょうか。そのようなインフルエンサー運用の悩みや課題を感じていましたら、ぜひお問い合わせください。
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